不明瞭な気持ちで


「…遅いですね」

風はソファーに座りながら洗面所からマーモンが出てくるのをジッと待っていた。

もう行ってから20分近く経ちますが、出てくる気配がない。
もしや…。

「私に気を遣って、ですかね」

"うーん"となにやら複雑そうな表情を浮かべながら呟いた。

まさかのマーモンの行動に反応してしまうとは我ながら情けない…いえ、生理現象なので仕方がないといえば仕方がないのですが。
マーモンが同じ男性だったから理解はありましたが…しかし…。

「…マーモンの体、柔らかかった…」

細身ながらもふわふわとした柔らかさ、筋肉がないことが容易に伺える。
筋肉がないからですかね?でもその柔らかさがなんとも可愛らしい。
ですが、その可愛さに反して妖艶さも兼ね備えている。
先ほどの姿はあまりにも刺激が強…。

「…考えるのはやめましょう、マーモンが入ってくるかもしれませんし」

己の考えを消し去るようにふるふると顔を横に振った。

精神統一で抑え込んだことが無意味になってしまう。
さて、少し声だけでもかけてみましょうか。
何をしているのかはわかりませんが…。










…なにを…?










「…いやいや、マーモンに限ってその様な事は…」

と、言いながらも考えてしまう。
もしや、私と同様気持ちが高ぶって…あられもない姿を…。










『ッん…は…ふ、ぉん…ッ…』










「それは…早急に確認をしなければ!」

「むぎゃッ!」

脳内に思い浮かべるビジョンと好奇心を胸にバッと風は洗面所の扉へと向かうと勢いよく扉を開けた。
すると、そこにはパジャマに着替えたマーモンがタオルで髪を拭いており、突然の大きな声と扉の開く音でびっくりした表情を浮かべていた。

「ッび…くりした…もうそっち行っていいの?」

「…」

「え、なんだよ…なに黙ってるのさ」

風は扉を開けた状態でマーモンを見つめ、黙り込んでいる風に違和感を覚えながらマーモンは顔を覗き込んだ。

「…まぁ、そんなに美味い話なんてありませんよね」

「え、なんの話?」

「いえ、こちらの話です…って、お風呂入ってたのですか?」

「あぁ、汗かいちゃったからね」

「汗…」    

「…」

水滴が首元を伝っているのを見て、バスローブ姿のマーモンを脳内に思い出す。
マーモンからの視線が刺さりハッとした風はふるふると邪念を払うかのように頭を横に振った。

「マーモ」

「…えっち」

名前を呼びながら近付こうとすると、タオルを頭にのせ、口元をタオルの端で隠しながらポツリとマーモンが呟いた。

「え」

突然の言動に風はピタリと動きを止め、その横をすり抜ける様にマーモンはタタッと小走りで洗面所から出ていった。










…その言い方はずるくないですか?










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