不明瞭な気持ちで


「お待たせいたしました」

ソファーの上に体育座りをし、バスローブを身に着けたマーモンは浴室から下にズボンを履き上半身裸で出てきた風をジトリとした目つきで見た。

「別に待ってない」

「おや、ずいぶんとご機嫌斜めで」

「誰のせいだ、誰の」

浴室での一件をなかったことにしたような反応にマーモンはフイッと顔を逸らした。
風は困ったような笑みを浮かべながらマーモンの隣へと腰掛けた。

「マーモンはバスローブ派なんですか?」

「バスローブ派云々じゃなくて、これしか置いてなかったからだよ
君、僕の服持ってきたんじゃなかったのかい?」

「あぁ、すいません
出すのを忘れてました…」

「…あと、僕の下着もなかったんだけどそれは…」

「大丈夫です、ちゃんと鞄の中に入っています 
あ、ただ1つ勘違いをしてほしくにいので予め言いますが、貴方のクローゼットを漁ったわけではないですよ?
ちゃんと新しく購入したものですので安心してください」

「なにをどう安心すればいいのか分からないんだけど
僕のサイズもわからないのによくもまぁ買ってこれたね」

「貴方の姿を見れば大体のサイズはわかりますので」

「…」

サーッと離れていきそうなマーモンの腕を風はガシッと掴んだ。

「こらこら、どこに行くのですか?」

「変態野郎から離れるためさ」

「変態とは失礼な、純粋に貴方を愛しているからこそ出来る技です」

「ドヤるな、腹立つ」

「それに、まだ髪の毛が乾いていないようですし拭かせてください」

「…」

さっきのがさっきのだけに、信用ならないんだけど。

「拭かせてくださいってなんだよ、懇願するな」

「いいではありませんか、あの時みたいに体を拭くわけではありませんし」

「いやまぁ、そうだけど」

「ほら、早く乾かさないと傷んでしまいますよ?」

「…はぁ」

バスタオルを手に取り、"さぁさぁ"と一歩も引く気を見せない風に小さく息を漏らし背中を向ける。

「ならまぁ…お願い」

「はい、任せてください」

マーモンから許可を貰えた風はバスタオルで優しく水気を拭き取っていく。

「貴方の髪はやはり綺麗でいいですね…」

「君、なんか前もそんな感じの事言ってたよね
髪なんて皆同じだと思うけど」

「そんな事ありませんよ
マーモンのこの藍色の髪、私は大好きです」

「…あっそ」

こいつ、よくもまぁ恥ずかしげもなく歯が浮く台詞を言えるな。

丁寧に水滴を拭き取りながら言う風にマーモンは少し恥ずかしくなってしまい黙り込んだ。
ある程度拭き終えたのか、風は一度立ち上がるとドライヤーを取りに洗面台へと向かっていく。
そこでふと風の後ろ姿を見た。

そういや、あいつも髪長いよなぁ…いつも編んでいるからあまり気にならなかったけど。
あんなに長いと乾かすの大変そう。

「そんなに見てどうしたのですか?」

洗面台から戻ってきた風がマーモンの視線に気づき問いかけながら再び隣へと腰掛けた。 

「いや、君ってそんなに髪長かったんだね」

「髪…えぇ、まぁ…そうですね
気付いたら結構長くなってしまいました
前髪は切ったりするのですが、後ろはどうせ結ってしまえば気になりませんから」

マーモンは風へと向き直り、膝立ちをすると風の後ろ髪を手で掬い上げる。
微かに水分が残っているが、艶があり綺麗な状態であるのが目に見えて分かった。

「ふぅん、君も案外綺麗だよね髪」

「そうですか?初めて言われましたが…少し恥ずかしいですね」

「僕の乾かした後、僕もやってあげる」

「え?いいのですか?」

「やってもらってばかりは性に合わないし」

「な、なら他のことも」

「興奮しながら話すのやめてくれる?
なに企んでるのさ、君」

「企むだなんてとんでもない
私はただ、貴方と触れ合いたいだけです」

「はいはい、ほら早く」

サラッと風の話を適当に流し、風に背中を向けて座ると"つれないですねぇ"と呟きが聞こえる。
風は諦めたのかドライヤーでマーモンの髪の毛を乾かし始める。
温かな風温で少し眠気がやってきてしまい、"ふぁ"と小さい欠伸が漏れ出た。

「今日たくさん歩きましたからねぇ、疲れましたか?」

「ム…そうだね
君の相手をしながらだから任務よりも疲れたかも」

「おや、それは私とのデートが楽し過ぎたということですね?
それは頑張って考えた甲斐がありました」

「君、本当にメンタル強すぎじゃない?」










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