不明瞭な気持ちで


「…」

「気持ちいいですねぇ」

マーモンはお湯の貼った浴槽に浸かり隅の方で体育座りをし、目の前で気持ち良さそうにしている風をジトリとした目つきで見た。 

押し切られてしまった…。
いや、半分は自分のせいなんだけど。

結局、あの後断ろうにもそのまま浴室まで連れてかれてしまい服は自分で脱ぐことを死守は出来た。  が、僕が先に入っていたら本当に風の奴入ってきやがった…。

浴槽が大きくてよかった。
これが家庭サイズのものとなっていたら…おぞまし過ぎる。
いや、というかこの状況自体がおぞましいか。

「マーモン」

「ッ!な、なにさ」

不意に声をかけられビクッと体を跳ねさせながら無意識に体を隠すような動作をしてしまい、それを見た風が苦笑を浮かべた。

「そんなに警戒をしなくても、ここで襲ったりしませんよ」

「…」

「なんですか、その疑いの眼差しは」

「いや…今日の君は少し強引だから…何しでかすかわからないというかなんというか…」

ゴニョゴニョと呟き、だんだんと声量が小さくなり最終的には水面に口をつけてブクブクと泡を立てた。

「…ちょっと…」

「…ちょっと、なんですか?」

チラリと風へと視線を向けるとスッと自分の方へと近寄ってきており、風の上半身に目がいってしまい顔をバッとそらした。

「む…ち、近い!離れろ、馬鹿!」

「おや、照れているのですか?
可愛いですね」

「茶化すな!も、本当に今日の君は意地悪…ッむぎゃ!」

「ッ!」

風から離れようと少し立ち上がり移動をしようとすると足が滑ってしまい、ドボンッと水中の中へと落ちてしまう。
その寸前で風が反応をし、パシッとマーモンの片腕を掴んだ。

「ぷはッ!…は…」

「大丈夫ですか、マーモン」

「あ…あぁ…ごめ…ん…」

何度か俯いて咳込み、だんだんと落ち着いてきたマーモンは顔を上げた。
すると、至近距離に風の顔があり、ピタリと動きを止める。
仄かに赤く染まった風の表情にゾクリと背筋が震え、目が離せなくなる。

「…マーモン」

「ッ…」

風の瞳がマーモンの瞳を捉え、頬に手を添えながら更に顔が近付いてくる。
マーモンは反射的にギュッと瞳を閉じた。
数秒待つも、なにもアクションがないことに気付きマーモンは恐る恐ると瞳を開けた。
すると、瞳を開けたことを確認した風はにこりと爽やかな笑みを向ける。

「…ドキドキしちゃいました?
目まで瞑ってしまって…なにを想像したのです?」

「ッ!」

風の発言にボンッと顔に一気に熱が集まり、マーモンはバッと風を押し退けて距離を取った。

「逆上せそうだから、もう僕出る!」

「それならば危ないでしょうし介助を」

「いらない!」

ピシャリ!と勢いのままマーモンは浴室の扉を閉めて出ていった。
マーモンが出ていくまで平静を装っていた風だが、マーモンの姿が完全に見えなくなると"ハァ"と小さく息を漏らして紅くなった顔を隠すように口元を手で覆い隠した。










「…あの反応は無しでしょう…堪らえられてよかった…」




 





「ッくそ、あいつ本当に…!」

脱衣所に置いてあるバスタオルで頭を拭きながらマーモンは先程の風の言動に怒りを募らせる。

あいつ調子に乗って僕のことからかいやがって…本当に、あいつの事きら…。

そこでふと、マーモンは洗面台の鏡に映った自分の顔を見る。
湯に浸かったせいなのか、はたまた先程の事が原因かはわからないが顔が真っ赤になっていた。










…くそ…。










「…嫌いだ、あいつなんか」










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