僕を好きな君と君が嫌いな僕


「マーモンマーモン」

スクアーロの部屋から共に出て自室へと向かっていると隣を歩いているベルがひょこっとマーモンの前に顔を出して名前を呼ぶ。

「なにさ」

「王子任務で目冴えちゃったからこのまま遊びいかね?」

「...」

にんまりと笑いながら発する言葉に思わず歩みを止めてしまう。

「...あのさ、僕任務終わったばかり」

「王子も一緒なんだけど?」

「それはそうだけど、流石に無理だよ
僕眠いし
ほら見て、ものすごい目しょぼしょぼ」

「いや、お前フード被ってるから見えねぇわ
捲っていいなら捲って...」

じっと見上げながら自分の目を指差すと、ベルは首を傾げた後にフードに手を伸ばし始めた。
それに気づいたマーモンはフードの裾を捲られまいとギュッと掴む。

「だめ」

「お前が見ろって言ったんじゃん」

「ムム...それはまぁ...ごめん」

「うっしし、素直に謝るほど疲れてんの?」

あぁ、だめだ...眠くて頭が回らない。
自分の発言が矛盾していることに気付いて謝罪の言葉を口にするとベルは吹き出した。

「ほんじゃ、今日は許してやんよ
マーモン、元の姿に戻ったから子ども扱いすんなーって言うわりにまだまだベイビーだな」

「ムムムッ、君ね...」

「ししッ、おねむなマーモンが怒る前に王子は消えるぜ
んじゃな、おちびー」

「...」

未だにされる赤ん坊扱いにむっとした表情をすると、ベルは笑いながら自分の部屋へと戻っていきヒラヒラと手を振った。

逃げられたな...まぁ、ベルがいない方が静かだしいいか。

ベルの背中を見送った後に小さく息を漏らして自室の扉に手をかけて中へと入る。
部屋の中は任務前と変わらない。必要最低限のものしか置いていないので殺風景という言葉がよく似合う。
上に着ていたローブを脱ぐと、一気に視界が広がって思わず目を細める。

元の姿に戻ったのはいいけど、まだ視界の高さに違和感が...いや、ベルに抱っこされたり肩に乗ったり頭に乗ったりしてたからそうでもないかな?
でも、自分の足で立ってるし...って、だめだ。眠気でどうでもいいことまで考え始めてる。

ふるふると顔を横に振り、余計な考えを振り払う。

とりあえずシャワー浴びて寝よう。
全財産無くしたし、元に戻ったからその分を取り戻すのに任務詰め込んでるんだ。
早くこの疲れをとらないとへまをしかねない。

そう思いながらシャワーを浴びる用意をしようと着替えを出すためクローゼットの前に立つ。










コンコンッ。










「...ム?」

扉の方からノックをする音。マーモンはクローゼットへと伸びていた手をピタリと止めて顔を向けた。

誰だ、こんな朝早くに...ベル?ベルはさっき僕に相手してもらうの諦めてたし、ノックなんて普段しないからあり得ない。
ルッスーリアも違うな。美容がどーこーでこんな時間から起きないし。
レヴィ...いやないな。絶対。
ボスは論外。
となると残ってるのはスクアーロなわけだけど...なんだろ、報告漏れとかあったっけ?

コンコンッ。

訪問者を考えていると再び聞こえるノックの音。

「ちょっと待って」

マーモンははっとして先程脱いだローブを再び身に纏い、フードを被る。
そして、マーモンの声が聞こえたのか扉の前で待っている人物をこれ以上待たせまいと扉に近付いてそっと開いた。
すると、目の前に見えたのは鮮やかなオレンジ色の中華服。


 






あれ、こんな服のやつうちにいない...。
てかこいつでかいな。

よく見ると相手の胸辺りが自分の視線に気付き、ゆっくりと顔を上に向けていく。

黒髪...みつあみ...。

視線を上げるにつれてだんだんと人物像が露になっていく。
そして、相手の顔が見えてバチッと視線が混じり合う。










「お久しぶりですね、バイパー」

「...お前...」










そいつは...風は、僕を見下ろしながらにこりと笑みを向けた。










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