純粋な気持ちで
「マーモン、前空いていますよ
しかも中央の席」
すぐに後ろから追いかけてきた風はマーモンの隣を歩きながら会場ヘと入り、スッと中央の列にある最前席を指差した。
「ムム、前で見て大丈夫なの?
なんか会場の注意書きに"濡れる可能性があります"って書いてあったけど」
二人はその席の前へと移動をするもふとマーモンが会場の入り口付近に書かれていた注意書きを思い出した。
「まぁ、確かにそうですね
では別の席にいたしますか?」
そう言いながら周りを見渡してみるも話している間に良さそうな席が埋まってしまい、目の前にある席しかなくなっていた。
「おや…」
「…まぁ、いいんじゃない?ここで」
マーモンはポフッとその席へと腰掛け、座れと言うように隣の席を指さした。
「いいんですか?濡れる可能性ありますが」
「まぁ、濡れるって言っても大したことないんじゃないかな?
少し濡れる程度なだけで」
「それもそうですね」
風は少し気がかりになりながらもマーモンの隣へと腰掛け、始まるのを待った。
…さっきの、なんだったんだろうか。
マーモンはチラリと風に視線を向けた。
さっきの風の様子、いつもと違ってたよな…どうしたんだろう。
というか、コロネロの奴め…風に変なこと教えやがって。
なにが"相手に着せたい服=脱がしたい服"だ、馬鹿馬鹿しい。
それは恋人同士が行うことであって僕らはそういうのじゃ…。
"あぁ…早く貴方の事を…"
「…」
「どうしましたか?」
マーモンからの視線に気付いたのか風が首を傾げながら問いかけてくる。
「…いや、なにも」
「あ、もしかしてお腹すきましか?
あとでまたなにか」
「さっき食べたばかりだろう?まったく…なに?君は腹ペコキャラなのかい?」
「腹ペコキャラとは?」
『皆さん、お待たせいたしました!』
そんな会話をしていると、会場内にショーの開始を合図する司会の声が響き渡る。
それと同時に、目の前の水槽の下から生物が泳いでくる影が見えた。
その影は一気に降下を行うと、グンッと勢いよく上昇をし水槽から天井へと向けてジャンプをした。
その時に生物がイルカであることを察することが出来、その姿にマーモンは目を奪われる。
そして、あることに気付く。
あれ、これだけ高い所までジャンプしてるってことは着水する時の勢いが…。
バシァァァァァンッ!!
「ッ!」
「ムギャッ!」
マーモンが察した時にはもう手遅れでイルカが着水したと同時に水しぶきが勢いよく舞い、最前列で見ていた二人は頭から大量の水を被ることになった。
「…これは、すごいですね
マーモン、大丈夫ですか?」
風は困ったように笑いながらふるふると顔を横に振り水滴を飛ばす。
マーモンはポタポタとフードから垂れる水滴の隙間から見えるイルカショーを呆然と見つめた。
イルカショーは二人の様子など気にすることなく続けられていく。
「…ふは」
ゆっくりと自分の服が濡れている事に気づいたマーモンの口から笑い声が漏れ出る。
「マーモン?」
「ふふッ、見て風
びしょ濡れ…ここまですごいとは思わなかった」
声をかけられたマーモンは風へと身体を向けて笑いながら自分の濡れた服の袖を見せた。
そんなマーモンの様子に驚いた顔をする風だったが、すぐに同じように笑った。
「ふふふ、確かにすごいですね
これどうしましょうか」
「ムムム、まぁ考えるのは後にして続き見よう
任務でこんなことになったことないのに」
クスクスと笑い続けながらマーモンは水分で重たくなったフードを脱ごうとして動きを止めた。
あ、困ったな…これじゃ、顔が…。
「マーモン」
「ム、なに」
名前を呼ばれて顔を向けようとするとパサッと自分の頭に何かがかけられた。
なにかと思って見てみると、風が上着を脱いで渡してくれたらしい。
「貴方のパーカーよりは濡れていないのでよろしければ」
「ムム、なら遠慮なく使わせてもらおうか」
風の上着を頭に被せた状態でフードを脱いだ。
そして上着でかろうじて顔が隠れることに安堵の息を漏れる。
「ん、大丈夫そ…落ち着く」
「ショーが終わるまではこれで我慢してください
あとは帰るだけですから」
「そうだね、どうせもう濡れることはな」
バシァァァァァンッ!!
「…マーモン」
「…もう隠すのは諦めることにするよ」
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