純粋な気持ちで


「うわ、結構混んでる」

「やはり、人気なんですね」  

イルカショー会場付近へと行くとすでに列が出来ており、風とマーモンは話しながら列へと並んだ。

「まぁ、この程度ならば次の時間のショーは入れそうですね」

「…ねぇ」

「はい?」

並び終えた後に風はマーモンを背後から抱き締めており、その事を指摘しようとしたがマーモンは諦めたように息を漏らした。

「寒いの?」

「いえ、寒くないですが…あ、マーモン寒いんですか?
もう春なので大丈夫かと思いましたが」

「いや、そうじゃなくて
君がさっきから抱きついてきたりするからもしかして、と思っただけ」

「あぁ、単なるスキンシップですのでお気になさらず」

「恥ずかしいからやめろよ」

「やめません
貴方の可愛らしい姿を他の方に極力見せないようにガードをしているのです」

「…いや、水族館に来た意味…
それに、こんな恥ずかしい服装させたのは君じゃないか」

風を見上げながらマーモンは襟付近を摘みながら言う。

「恥ずかしいだなんてそんな…似合っていますよ?
マーモンは顔を出すのが嫌でしょうからフードは必須だと思いまして」

「それはいいんだよ、フードはね
何回も言うけど、問題はショートパンツだよ
なんでそこは普通にズボンにしてくれなかったのさ」

「いえ、この前貴方の上半身は見れましたので下半身も見てみたいな、と」

「お前の性癖に僕を巻き込むな」

「それに"恋人のショートパンツ姿はいいぞ"とコロネロが言っていましたので」

「え、なに?コロネロと買い物に行ったの?」

「えぇ、まぁ…何ぶん私はあまり服装に興味がありませんのでご享受頂こうかと」

「確かに君、いつもチャイナ服だもんね」

「動きやすいですからねぇ、如何なる時でも貴方を守れるようにと準備万端にしていますから」

「…てことは、コロネロはラルに着せる前提で言っていたのか」

マーモンはふとコロネロとラル·ミルチを頭に思い浮かべ、ラルの私服姿を思い出す。

「…確かに彼女はショートパンツが似合うね 
スタイルがいいから」

「まぁ、ラル·ミルチは自分の意思で服装を決めているとは思いますが」

「こういうのって合う合わないがあるからさ、やっぱり僕には似合わないよ 
彼女みたいにスタイルがいいわけでもない
ただのチビだからね」

「そんな事ありませんよ」

自虐気味にマーモンが言うと、風はそれを否定しながら腹部に回していた手を下腹部へと移動させて優しく撫でた。

「スタイル云々で決めたわけではなく、貴方に着てほしくて選んだのですから」

「ッ…おい、お前」

耳元で囁くように言われ、撫でる手つきが普段と違いゾクリと背筋が震える。

「コロネロが言っていたんですよねぇ…
"自分が着せたい"と選んだ服=自分が相手に着せて"脱がせたい"服、だと」

「むッ…」

熱のこもった吐息混じりに言いながらスッと片手がショートパンツの裾から中へと入ってきて直に肌に触れられる。
くすぐったさから身を捩り、風の手の動きをやめさせようと手を伸ばして風の手の上に自分の手を重ねた。

「お、おい、風…」

普段の風とは違う様子に戸惑いながら顔を見上げ声を掛けると、"ん?"と微笑みかけられるも瞳が獣のようにギラついている。

「あぁ…早く貴方の事を…」  

顔が近づけながら風がポツリと呟く。 
 
「え、ちょ、待っ」

マーモンが慌てて風を制止しようと声を掛ける。
その時に、ショーの会場が開いて係員が誘導をする声が聞こえ風はパッとマーモンから手を離した。

「それでは、行きましょうかマーモ…」

「…」

いつもの爽やかな表情を浮かべ、風はマーモンの手を握りながら声をかけた。
しかし、マーモンは呆然と立っており動こうとしない。

「マーモン?」

「ッ…あ、あぁ…うん?」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫、うん…大丈夫」

「…少し、刺激が強かったですかね?」

「ッ、うるさい…!」

フードを深く被り直しながら曖昧な返事をするマーモンを見、風は意地悪気な笑みを浮かべながら耳打ちをする。
マーモンは図星なのか、風の手をバシッと振りほどくと先へと歩みを進めていく。
風はその背中を愛おしそうに見つめた。

「ふふ…」










「本当に、可愛いですねぇ…」










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