純粋な気持ちで
「…」
調子にのらせてしまった。
マーモンは椅子へと座りテーブルに突っ伏しながら己の言動を後悔した。
僕のせいであいつがあんな顔するの嫌だから言っただけだったのに、なにを履き違えたのかあいつスキンシップが増やしやがって…。
『マーモン、次はどこ見ますか?』
『腰を抱くな、腰を』
『鮫、すごい大きいですねぇ』
『後ろから抱きつくな、暑苦しい』
…魚、見るどころじゃなかったんだけど。
先程までの風とのやり取りを思い出し、"ハァァァァ"と深いため息が口から盛大に吐き出される。
いやでも、今日だけだ許すのは。
今日は前に色々と世話させたからそれでついてきたわけだし。
今度からはこういうのはやめさせてやる。
マーモンはチラッと近くの売店で食べ物を購入している風を見る。
店員と仲よさげな様子で話す風。
そしてそんな風を遠巻きに女性達がヒソヒソと話しながら見つめている。
…あいつ、やっぱ目立つよな。
顔は爽やかで整っていて身体は武闘家なだけあって鍛えられてる。
服の上からでも分かるってすごいな…アルコバレーノ戦で見たことあるけど腹筋割れてたし。
…そんなあいつが、なんで…。
「僕なんかに惚れてるんだか」
バチッ。
風が視線に気付いたのか振り向くと二人の視線がぶつかり合う。
マーモンからの視線に風はニコッと柔らかな笑みを向ける。
その笑みにマーモンは"うッ"と唸ると視線をそらしながらフードを深く被り直した。
…目立つような事はやめてほしいんだけど。
なんか心做しか、ハートが周りに浮かんでいる気がするし。
「お待たせしました」
トレーに食べ物と飲み物を乗せながら風はマーモンの元へと戻ってきて目の前へと腰掛ける。
「別に待ってないから大丈夫」
「マーモンはクレープで良かったんですよね?
お腹あまり空いてませんか?」
「いや、来る時に君が持ってきたクッキーシュー食べたじゃないか
それがまだお腹に残ってるの」
「…もう少し動くべきでしたかね」
「嫌だよ、そこまで動きたくはない」
風から頼んでいたクレープ受け取りパクッと一口頬張る。
歩いて疲れた体にじんわりと甘さが行き渡るような感覚に頬を思わす緩ませる。
「…満足そうでなによりです」
そんなマーモンを風は微笑ましそうに見つめた後に、自分用にと買っておいたホットドッグをかじった。
…それにしても。
マーモンはトレーに乗った数々の食べ物をジッと見た。
パッと見ただけでも3品はある。
「…君、よく食べるよね」
「ん…まぁ、貴方よりは食べますね」
「いやいや、僕よりは、というか一般の人より食べない?」
アルコバレーノになる以前の事を思い出すと、その時も結構な量を食べていたと思う。(おそらくアルコバレーノ1)
「まぁ、身体を動かしますからね
その分エネルギーが必要ですし」
少し考えるような素振りをした後に軽く首を傾げながら風は言う。
「…まぁ、そうか
君武闘家だもんね…」
「逆にマーモンは食べなさすぎですよ
その中倒れてしまいそうで不安になるのですが…一口食べますか?」
「いや、遠慮しとくよ
君が食べている姿見るだけでお腹いっぱい…」
「そこまでですか」
スッと片手を出して遠慮をすると風は苦笑を浮かべながら食べ続ける。
マーモンは風の食べっぷりから目をそらして自分のクレープを再び食べ始めた。
「…あ、マーモン」
「ム、なんだい?」
早々にホットドッグを食べ終えたのか風は次の物へと手を伸ばそうとするも、ふとマーモンの顔を見ると名前を呼びながら手を伸ばす。
マーモンがクレープから口を離すと風は頬に付いていたホイップクリームを指で拭った。
「ついてましたよ」
「ムム、あぁ…ありがとう」
…食べるのに夢中で気付かなかった…。
「あ、そうだマーモン
最後にイルカショー見ませんか?」
「イルカショー?」
「はい、おそらく食べ終わる頃には並ぶ時間にちょうどいいでしょうし
貴方ももう体力の限界でしょうから、それを見て帰りましょう?」
「人を体力がないみたいに…いや、実際そうなんだけも
まぁ、君がそう言うなら別にいいよ
今日は君に付き合うって決めてるし」
クレープの最後の一口をポイッと口の中に放り込み、風の言葉に同意をすればマーモンは席から立ち上がる。
「僕もう食べ終わったし、君はゆっくり食べてなよ
先に並んでおくから」
「あ、その必要はありませんよ
もう食べ終わりましたので」
「え?」
風の言葉に驚きながらトレーの上を見るといつの間にやら残りの物を全て食べ終えており、手を合わせて"ご馳走様でした"と言っている。
「…早くない?」
「この位普通ですよ、普通」
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