純粋な気持ちで


「…」

「まったく、先週言ったばかりなのに君は僕の事を好きとか言いながらすぐに忘れるんだね
そんなんでよくもまぁ…」

クルリと風へと背中を向けて次の水槽へと歩き出そうとする。
しかし、風は微動だにすることもなく手を繋がれたままの為にマーモンの歩みが止まってしまった。

「ムム、人混んでるから次に」

「…すいません」

「え、なにが…ッちょ…!」

動く気配のない風の様子に疑問を抱いて近寄り顔を近付けるとポツリと小さく呟かれ、きょとんとしているといきなり腕を引かれて風は足早にその場を去りだした。
グンッと勢いよく腕を引っ張られ驚きの声を上げながら風に必死についていく。 
人通りが少なく、照明が暗いエリアに辿り着くと、風はピタリと歩みを止めた。

「ッはぁ…君ね、一応僕まだ怪我人」

自分の片腕を膝において呼吸を整えていると、風に壁へと追いやられそのまま抱きしめられてしまう。

「…おい、風」  

「…すいません、我慢、出来なくて
ここなら人通り少ないですから」

「我慢ってなに言ってるのさ、ほら、早く行くよ」

そう言って振り解こうにも風はびくともせず、逆に抱きしめる力が強くなる。

「風」

「マーモン」

「…なに」

「…ありがとうございます」  

「…何に対してのお礼なのか、サッパリわからないんだけど」

マーモンは小さく息を吐くと風の背中へと手を回してあやすようにポンポンと優しく叩いた。

「…貴方が少しでも、私のそばからいなくなってしまうと不安になってしまうんです
また、行方をくらませてしまうんではないかと
先ほど見ていたクラゲのように、何処かに行ってしまうのではないか、と」

「…」

「先週言われた時"それが聞けて満足"と言いましたが…どうも満足していなかったらしいです
ですが今日、再度同じことを言ってもらえて…もう大丈夫そうです」

風は顔を上げ、マーモンの顔を見るといつもの優しげな表情へと変わっていた。

「…そう、ならもうしつこく言うのはやめてよね」

「えぇ、そこはもう安心してください
…しかし…ふふっ」

風はなにやら嬉しそうに笑いながらマーモンを見つめ、抱きしめる力を強めた。
マーモンは微かに走る体の痛みに表情を歪める。

「なに笑ってるのさ」

「いえ…貴方がまさか、私のことをそんなにも想ってくれているとは思わなかったので…嬉しいな、と」

「別にそういうわけじゃないよ、勘違いしないで
ただ、僕のせいでそうなるっていうのが嫌なだけさ」

「そうだとしてもいいのですよ、私のことを考えてくれているだけで
…そこまで想ってくれているのならば、もう少し、私も攻めてみてもいいかもしれませんね」

ハァと深いため息をついて言うマーモンを見ながら風はポツリと小さく呟く。

「今度はなにを」

風の言葉が聞き取れずマーモンが再度聞こうとした瞬間、不意に頬に柔らかな感触があり目を見開く。
ゆっくりと視線だけを横へ向けると、風の顔が近くにあるのがわかり、自分の頬に当てられているのが風の唇であることを理解する。

な…ぇ…。

状況を理解しピシッと固まっていると、風の唇が離されて爽やかな笑みを浮かべながらマーモンの顔を覗き込む。











「さぁ、デートの続きと行きましょうか」

「…ッ…お前…本当に何処でそんなこと覚えたんだよ…!」

「イタリアでは普通なのでしょう?」

「そうだけど…そうじゃない…ッ!」










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