純粋な気持ちで


「ッ、勘違いするなよ」

マーモンはハッとして風から顔をそらし、手を振りほどこうとする。が、手は風に握られているため思うように動かせない。

「今回君の提案に乗ったのは、この前体拭いて貰ったりしたからでこれで貸し借り無しにしようとしただけだから」

「…」

「別に、君に好意があるとかそういうんじゃ」

「わかっていますよ、マーモン」

「ッ?」

ブツブツと言い訳を述べるように呟いていると風の声が聞こえてマーモンは視線のみを風へ向けた。
その表情は先程と同じく幸せに満ち溢れている。

「貴方にそのような気持ちがないことは重々承知
ですが、私は嬉しいんですよ
このように貴方の手に触れて、お出かけ出来ることが
ただ、貴方と同じ時を、同じ空間で過ごせる今が…とても幸せなのです」

ふと瞳を閉じながら語りだす風。
その表情を瞳を丸くしながらマーモンは見つめる。

こいつは…本当に…。

「…理解に苦しむよ、本当
意味がわからない」

「ふふ、そうかもしれませんね
ですが安心してくださいマーモン」

風は瞳を開けるといつもの優しげな笑みを浮かべながらマーモンの両手を包み込む。

「貴方もいずれ、私と同じような想いをする日が来ますから
そうなるよう私も努力も致しますし」

「は…いや、別に僕は君に対してそんな気持ちになる予定は」

「おや?私は別に"私に対して"とは言っていませんが?」

「ムム…」

今の流れからして、そういう意味だと思うじゃないか。

風は"してやったり"というように意地悪気に微笑むと、包んでいたマーモンの片手を手に取りそっと手の甲にキスを落とす。

「ッ…どこでそんなの覚えたんだよ」

「そんなの、とは?」

「ムム…あーもう、調子が狂うな!」

いつもの優しげな雰囲気とは違い何処となく意地悪な風に調子が狂わされ、マーモンは声を上げながらガバッと立ち上がる。

「おや、どちらへ?」

「トイレだよ、トイレ!」

「ならお供します」

「来るな、馬鹿!
来たら帰るからな!」

立ち上がろうとする風にビシッと指さしながら告げると風は"仕方ありませんね"と再びベンチに腰を下ろした。
それを見たマーモンは近くにある男子トイレへと入っていく。

「くそ、なんであんな事を…」

手洗い場で手を洗いながら先程の風の様子が脳裏に浮かぶ。

ただいつもとは違う場所で、違う服装、違う様子なだけじゃないか。
それなのに雰囲気に流されるなんて僕らしくもない。
場の雰囲気を掴み、その場を物とする術士として不甲斐ない…。

手を洗い終え、ふと風にキスされた手の甲が視界に入る。










…あぁ、くそ…。










「…熱い」










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