純粋な気持ちで
「マーモンは水族館、来たことあるんですか?」
水族館の中へと入り、まわりの水槽を眺めだす。
色とりどりの多くの魚達に目を奪われているとふと風に声をかけられる。
「いや、ないよ
こういう人が多いところとか行きたくないし」
「確かに人は多いですよね、人混みが好きではない貴方のことですからそうかもとは思っていましたが」
「合ってるけど、それはそれで失礼だね
…まぁ、はっきり言ってこういうものに興味を抱けなかったから」
「なぜです?」
「金の無駄だから」
「…貴方らしいと言えば貴方らしいですね」
ピシャリと言い放つと風は困ったように眉を下げながら笑みを浮かべた。
「そういう君は?」
「私ですか?私は何度か
アルコバレーノになって旅をしている最中、このようなところに立ち寄りましたから
見てみると心が落ち着きませんか?
優雅に泳ぐ魚の姿を見ていると
普段ではこのような光景、目に見えませんから」
そう言いながら風はマーモンの隣へと立って魚の群れが泳ぐ姿を眺めている。
「…まぁ、そうだね
確かに、たまにはこういうのもいいかもしれない」
風の様子をチラリと見たあとに、マーモンはふと視線をそらして次の水槽へと歩いていく。
その様に気付いた風は自分も水槽から離れてマーモンの隣へと再び並んだ。
「マーモン」
「なに」
「今日はなぜ、私の提案にのってくれたんですか?
自分で言うのもなんですが、結構突拍子もなかったですし」
「僕の休みを把握して声をかけてきたんだろう?」
「それもそうですが」
「ちょっと疲れた、休憩」
ふと休憩スペースが目に入り、マーモンはふらっとそこに立ち寄ると二人掛けのベンチに腰を下ろした。
「まだ歩いて数分ですよ?」
「もう数分、の間違いだろう?
最近はこの前の怪我のせいでSランク程度の任務しか回されてなかったからあまり動かなくてね」
んーッ、と伸びをした後にピョンッと立ち上がると目の前にある自販機で水を2本購入し、"ん"と風へと手渡して再びベンチへと座った。
「ありがとうございます
しかし、確か目覚めてから1週間ほどしか経っていませんよね?
それで、2日後には任務に復帰…きちんと身体は癒せたのですか?」
「ム、まぁね
足の方はまだ少し痛む位だけど腕があと少しかな
まだ握力が戻らなくて…んッ…」
ペットボトルの蓋を開けようと力を入れるも、プルプルと小刻みに震え開けられない。
「開けますよ」
「ム、お願い」
そんなマーモンを見兼ねてか風はペットボトルを受け取り蓋を捻るといとも簡単に開けられ、マーモンへと返した。
「ご覧の通り、貧弱のままなのさ」
「それは少々困りますね」
「まぁ、あと少しで回復しそうだからそこまで気にすることではないかな」
「やはりこれを気に己の身体を見直すのは良いのでは?
体力も相当落ちているようですし、今日は軽くお散歩デートと行きましょう」
「まだ病み上がりだからゆっくりしたいんだけど」
「任務には行っているのに?」
「それはそれ、これはこれさ」
コクコクとペットボトルに口をつけて水を飲んでいると、風からの視線が気になり"プハ"と口を離した。
「何さ、また説教でもするつもりかい?」
「そうではなく、私の話をうまくはぐらかされているので」
「話…」
「今日、なぜ私の提案にのったのか、です」
「あぁ、確かにそんな話をしていたね」
「ほんの数分前の出来事ですよ
…正直、断られると思っていたので」
「…」
風はマーモンのペットボトルを持っている手に自分の片手をそっと重ねる。
その手にマーモンはチラリと視線を向けた。
「…その割には、僕の服を用意していたり事前にチケットの購入していたりと準備万端だったじゃないか」
「え、それはまぁ…断られたら断られたで強制的に連れて行く予定でしたので
ちゃんと拘束用の縄も準備していました」
「君、サラッとやばい事言うのやめてくれる?」
恐ろしい発言にゾッと背筋に悪寒が走り、風の顔を見上げると嬉しそうに頬を緩ませてマーモンを見つめていた。
バチッと互いの視線が混じり合うと、なおさら風の頬が緩む。
は…なんて顔してんの、こいつ。
なんでこんなにも…
幸せそうなんだ?
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