鈍感注意報


「…ったく、お前が無事に目が覚めてよかったぜぇ」

ソファーに腰掛けるマーモンの隣で同様に座っているスクアーロが安堵の息を漏らしながら言う。
風が出ていって数十分後、様子を見に来たスクアーロは起きていたマーモンに驚きながらも医者の手配をし、怪我以外は特に異常が無いことを告げられた。

「心配かけてすまなかったね」

「お前、あん時爆弾もろに喰らってたからなぁ
あと少し近かったらやばかったぜ?」

「ムム、それは不幸中の幸い、というべきなのか…
それよりも、君が思った以上に怪我がないことに驚いてるんだけど
僕の近くに来てたから何処かしらやられてるのかと思ってたんだけど」

そう言いながらジッとスクアーロを見てみると、目立った怪我はなく右腕の服の裾から包帯が一箇所巻かれているだけ。

「あ"ぁ?お前覚えてねぇのかぁ?」

マーモンの言葉にスクアーロは驚いたように瞳を丸くした。

「お前、俺に向かって超能力で物で壁作って爆発に巻き込まねぇようにしてたんだよ
んなこたしねぇで自分の身守りゃ、そんな大怪我しなくて済んだんだがな」

「…」

「その様子じゃ、本当に覚えてねぇらしいなぁ」

スクアーロの言う通り、本当に覚えてない。
無意識、でやってしまったと言うべきか…いや無意識だな。

「君の言う通り、覚えてないけどたぶんそうなんだろうね
君が負傷なんかしたらヴァリアー自体回らなくなるし、なによりボスのストッパーがいなくなるから」

「う"ぉぉい、後者が主だろぉ」

「我ながら良い判断だと思ってる」

「俺としちゃ、お前がいなくなんのも困るんだがなぁ」

「書類係がいなくなるからだろう?」

「わかってんじゃねぇか」

「「…」」

お互いがお互いをジッと見たあとに大きなため息が漏れ出る。

「早く優秀な人材探して」

「それが出来りゃ苦労しねぇぞぉ
…あと、お前に言いてぇことがあるんだが」

「…」

あ、来たな。

マーモンがチラリとスクアーロに視線を向けると何やらお怒り気味の様子。

「話戻してわりぃが、お前爆弾の位置把握漏れしてたな?」

「…その件に関しては大変申し訳ゴザイマセン」

「今回はお前だけの被害だったが、下手すりゃ全員巻き込まれてんだからなぁ
まさかてめぇ、手抜いてたわけじゃねぇだろうな?」

ギロリと鋭い視線が向けられて思わず背筋に悪寒が走る。

「手を抜く、なんてことはしてないよ
僕だって報酬を貰ってるんだ、それだけの仕事はするさ」

「他の奴等からの話だと、今回は随分手こずってたって聞いたが?」

「それは…まぁ…少し調子が悪くてね
言い訳になってしまうけど、任務も多く入れちゃってて幻術使ってたから頭が休まってなかったのさ」   

本当は休日の治験のせいでもあるけれど。

「う"ぉぉい、本当に言い訳だなぁ」

「ムギュッ」

ドスの効いた声色でスクアーロは言うと、マーモンの頬を片手で掴み再び鋭い視線を注ぐ。

「ただでさえ術士がすくねぇんだ、お前がいなくなっとこっちも困んだから任務の量多けりゃ言いやがれ」

「ムググ…プハ、よく言うよ
自分が言うのもなんだけど僕がいないと困る任務が大半じゃないか?
その穴を埋めるのは誰?情報収集をするのに僕より長けてる奴はいないだろう?」

「確かにお前より長けてる奴はいねぇが、他の幹部だってそれなりにゃ出来る
馬鹿にすんじゃねぇぞ
お前はお前で考えてんだろうがなぁ、あんまり背負い込むことじゃねぇ
逆に今回みたいな件でお前が居なくなったほうがこちとら痛手なんだぁ」

「ムギャッ」

スクアーロはパッと頬を掴んでいた手を離すと、今度は頭へと移動させてフードの上から乱暴にマーモンの頭をわしゃわしゃと撫でる。

「ムムムッ、怪我人に乱暴はよしてよ」

「今回はどちらかというとテメェの自業自得だぁ」

それだけ言い残すとマーモンの頭から手を離し、スクアーロは立ち上がる。

「俺は部屋に戻るがなんかあったら連絡しろぉ
誰かしら向かわせる」

「別にそこまでしなくても痛み止め飲んでるから大丈夫だよ」

「うるせぇ、自分で着替えやらなにやら出来たようだがあんまり動くんじゃねぇ
しばらくてめぇは安静だ、分かったなぁ」

そう言うと、スクアーロは"お大事に"と言って部屋から出ていった。

「…まったく」

マーモンはスクアーロが出ていったのを見送るとフードを脱いで少し乱れた髪を簡単に整える。

「別に怪我人だからってそんなに甘やかさないでほしいよ、まったく
スクアーロもスクアーロで少し心配性なところがあるんだから…」

髪を整えながらマーモンはブツブツと呟き、自分の髪の毛先を摘んでくるくると指に巻きつける。










…髪…そう言えば…。    










「…初めて人に褒められたな」










.
9/9ページ
スキ