鈍感注意報


「はい、よろしく」

「...」

どうしてこうなったのでしょうか。

風は上半身裸で自分に背中を向けているマーモンをジッと見つめながら現状に疑問を抱く。

おそらく爆弾の影響で頭に少し衝撃があったんでしょう、でないとこのような美味しい出来事が起こるはずありませんし。
いつもと距離感近いからなおさらそう思わざるおえません。
あとお顔、来たときに隠れていなくて驚きましたが初めて見ました。
以前から思っていましたが唇ぷるぷる+ぱっちりおめめってなんですか、可愛すぎます。
女性かと思っていた時期もありましたがこう身体を見てみるとやはり男性らしき骨格が...多少、有り。
いつもローブを身に纏っているので肌が白くて雪のよう、少し触れただけでも溶けてしまいそう。
髪の毛の艶もあってサラサラとしていて...なにかお手入れでもしてるんですかね?

「すまないね、僕肌弱いから汗とか流さないと荒れちゃうから
包帯は...まぁ、医者に見てもらうときに変えるからいいや
僕の部屋に予備無いし」

「...」

「ムム、聞いてるのかい?」

マーモンの裸体に見とれていると体を向けて自分を見ていることに気付いて風はハッとし邪な考えを振り払うかのように頭を軽く振った。

「えぇ、聞いていますよ」

「そう、なら優しくしてね」

怪訝そうにマーモンは見た後、フイッと再び前を向く。

"優しくしてね"

...もう少し言い方があったのでは...いえ、マーモンはなにも変な意味で言ってるわけではないです。
私が邪な考えをしてしまっているだけであって。

これは、看病。
身体がうまく動かせないマーモンに看病をするだけ。

「では、失礼しますね」

息を吐いて蒸らしたタオルをそっとマーモンの背中へと当ててゆっくり下へと滑らせる。
小さな背中は微かに震え、くすぐったそうにも見えた。  

「大丈夫ですか?」

肌が弱い、との先ほどの台詞を思い出して力加減の具合を問いかける。

「ん、大丈夫」

コクンと小さく頷く様を見て風は拭く手を動かすのを再開した。
背中をある程度終え、首筋を拭こうとしてマーモンの藍色の髪にソッと触れる。 
マーモンは警戒する素振りも見せずに、風にされるがまま。 

「…髪」

「ム?」

サラサラとし、艶のある髪を少し持ち上げながら風はポツリと呟き、マーモンは不思議そうに声を漏らした。

「綺麗ですね、結構長めなのに」

「ムム、綺麗なのかは知らないけど…髪切るのが面倒なんだよね
自分で切るにも手先器用じゃないし、だからと言って美容院に行くのもお金がかかるし」

「切っては勿体無い程ですね、このまま伸ばしてみては?」

「それはそれで暑苦しいだろう? 
そのうち、もう少し伸びたらベルにでも頼んで切ってもらう」

「…ベルフェゴールに、ですか?」

ベルフェゴールの名前が出てきて風はピクッと反応を見せ名前を復唱した。

「彼、そのような事ができるんですか?」

「いや、ナイフ持ってるからそれで切ってもらおうかなって」

「…」

サラリと返答するマーモンに風は思わず動きを止め、苦笑をした。

たまにこういう変な事を言い出すんですよね、マーモンは。
そういうところもまた可愛らしいですが…。

「ナイフだと毛先が大変なことになるので私が切りますよ」

「ふぅん、君が物の扱いに長けているとは思えないんだけど」  

「長けている、というほどではありませんが大丈夫ですよ 
現に私の髪は自分で整えていますし」

「へぇ、意外
なら今度頼もうか、もちろん」

「心配ありません、お代は頂きませんから」

マーモンの言葉を遮りながらにこりと笑みを向けると、マーモンは"そう、ならいいや"と返事をする。

「…」

しかし…。
私と二人でいる、というのに他の男の名前を出すのは許せませんねぇ…。










…。










風はマーモンの髪を軽く持ち上げて項を露わにする。
普段見えることのない箇所。
顔を静かに項へと近付けると、軽く唇を落とした。










「…はい、終わりましたよ」

首周りを拭き終えると風は立ち上がってマーモンへとタオルを手渡した。
 
「あぁ、ありがとう
手間かけたね」

「手間だなんてそんな気にしないでください
なんなら、全身くまなく拭いて差し上げたいくらいなんですから」

「…」

爽やかな笑みで言う風をマーモンは冷ややかな眼差しを向けた。

「そんな目で見ないでくださいよ、恥ずかしいです」

「君の羞恥心がおかし過ぎる
さっき僕に向かって"私の前で裸になるな"云々言ってたくせによくそんな簡単に切り替えができるね」

「貴方の裸体を見るのは滅多にありませんからいいかな、と思いまして」

「なにがいいのか理解できないんだけど」










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