後ろ姿に惹かれて
…むむむ…やはり、そう来たか…。
マーモンは瞳を閉じ、風からの視線を受けながら考え込む。
いやまぁ、もうご飯食べたしお風呂入ったし、あとは寝るだけってわかってた。
わかってたんだけどさ…こうなることは…。
しかし、どうしたものか。
僕も結構、風のこと挑発するような言動しちゃったから責任は取らないといけない…でも…。
…やっぱり、恥ずかしいと言うか…心の準備がまだ出来きっていない…。
こういう経験がないから仕方ないとはいえ、童貞丸出しすぎやしないか僕?
もしかして、こんな悶々と考え込んでいるのは僕だけ?
そりゃ、風は顔良くて性格良くて、女の子に困ったこととかなさそうだし…。
圧倒的に、2人の経験値の差が激しすぎる。
「…」
…いや、こうしていても仕方がない…腹を括らないとな…。
瞳を閉じたまま、風の方へと身体を向ける。
しかし、いつまで経っても風からのアクションがない。
「…?」
…なんだ?なにもされない…?
なにもアクションが無いことに疑問を抱き、マーモンは恐る恐る瞳をゆっくりと開けてみる。
すると、風の顔が至近距離にあり驚きのあまり"むぎゃっ!"と大きな声を上げて後ずさった。
「な、なんだよ…驚かせないでくれる…?!」
「いえ…キス待ちの顔があまりにも愛らしかったので眺めていました」
「キ…ッ?!ち、違うから!変な勘違いしないでよ!
僕はただ…」
「…そんなに怖がらないでください、マーモン」
「むむッ」
頭に手を乗せて軽く撫でながら風はマーモンの頭へとチュッと軽くキスを落とす。
その行動に思わずマーモンはギュッと瞳を閉じてしまい、その様子に風は小さく笑みを浮かべた。
「ほら、もう寝ましょう?
貴方も任務と歩き回ったせいでお疲れのようですし」
ソッとマーモンの手に自分の手を伸ばして寝室へと向かう風に連れられ、マーモンはあとをついていく。
寝室に入ると、キングサイズのベッドが置かれており風はベッドへ腰掛けて隣をポンッと軽くたたいた。
「マーモン、こちらに」
「…むむ」
優しく微笑みながら声をかけられ、マーモンは少し考えた後に身体を微かに硬直させぎこちない足取りで風の横へと座った。
「…あの、風」
しばらくの沈黙の後、風の名前を呼びながら顔を向けようとすると脇の下に手を入れられてそのままひょいっと抱えられて風の太ももの上へと座らせられる。
「?!」
「あぁ、やはりこちらの方が落ち着きますね
貴方を間近で感じられますし」
「ちょ、ちょっと」
腰に手を回しグッと引き寄せ抱きしめられると顔に熱が集まり、マーモンは風の肩へと手を置いて押し返そうとする。
しかし、いつものごとくびくとも動かない。
変に意識しちゃったから、この体勢は…ッ…心臓の音、聞かれそうで…。
「は、離してくれるかい?」
「おや、なぜです?」
「それは…だって…この体勢は…」
「何度もこうやって貴方のことを抱きしめてきたじゃないですか」
「そうだけど、今の関係と、今の状況でこれは…」
顔がスッと近付いてきて更に距離が近くなる。
「慣れていない、ということでしたら慣れてください
私とのこの距離に、そして…」
「私自身に」
「ッ!」
艶めかしい表情で言われ、ボンッと更に顔に熱が集まり赤くなる。
風はそんなマーモンの様子を見てか"ふふッ"と吹き出した。
「あぁ、もう本当に可愛いですねマーモン」
「き、君はまたそうやって僕のことをからかって…!
こっちは真剣に考えてるんだからな?!」
「おや、別にからかっていませんよ?
貴方の行動一つ一つが本当に可愛らしくて、とても愛らしいのです
今、私と貴方しかいないこの部屋の中で一喜一憂しているその姿も」
「やめて、言わないで恥ずかしいから」
淡々と答える風にマーモンは自分の考えが見透かされていたことに恥ずかしさを覚えて顔を手で覆い隠した。
「くそ…なんか僕だけずっと余裕がないみたいで嫌だ
君、こういうの嫌と言うほど慣れてるだろう」
「おや、なぜそう思うのです?」
「だってそうだろう?
君は僕と違って顔はいいし、性格もいいし、体格もいい
これ以上ないほどすべてが整ってるんだ
そんな君を、女の子が放っておかないわけないだろう?」
「自身の外見はともかくとして、そんなに私、遊んでるように見えますか?」
「そういうつもりで言ったわけじゃないさ
ただ、経験はあるだろう?
女性、というか…なんというか…好きな人?に対する扱いも慣れているし」
「…それはまぁ、自分の好きな人には喜んでいただきたいですし、いろいろと考えますよ?
しかしながらマーモン、貴方は大きな勘違いをしています」
「…勘違い?」
風の言葉に不思議そうに風を見上げると、風は口元に小さく笑みを浮かべながらマーモンの耳元へと唇を寄せて呟いた。
「…私も、貴方と同じで…初めてなのですよ」
「…え?」
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