後ろ姿に惹かれて


「…先程、否定をする前に貴方が浴室から出ていってしまったので今させていただきますが…」

「む?」

「別にやましいことをしようとして後から出る、と言ったわけではありませんからね?」

ソファーに座り、風にドライヤーで髪の毛を乾かしてもらっているマーモンは、風の言葉を大人しく聞いていた。

「なんだ、違うのかい?」

「違いますよ、貴方と密着をしていて危なかったですがなんとか耐えましたので」

結局、いつも通り危ないところだったってことじゃないか。

「…あっそ」

突っ込む気力もなくマーモンは適当に返事をし、髪を乾かし終えたのか風はドライヤーの電源をカチッと切った。

「終わりましたよ、マーモン」

「ム、ありが…」

終わったことを告げられて、今度は自分が風の髪を乾かそうと腰を浮かせると背後からふわりと抱きしめられて、腰を浮かしたまま動きを止めてしまう。

「…ちょっと、なにさ」

「いえ…貴方の後ろ姿を見たら…少し懐かしさが出てしまいまして」

「懐かしさ?僕、君にそんなに背中を見せた覚えないんだけど
何されるか分からなかったから」

「そうではなくて、先程話していた赤ん坊の時の話です
いつも窓から見ていたのは、ほとんど貴方の後ろ姿でしたので…」

どことなく懐かしそうな声色で言う風にマーモンは"ふぅん…"と声を漏らす。

「前から見る貴方も素敵ですが、後ろから見る貴方も素敵でした」

「それって褒めてるの?」

「そりゃ、褒めていますよ?
貴方は全方向から見ても愛らしいですからね、見ていて飽きません」

「その発言はちょっと気持ち悪いと思う」

「えっ?」

「ほら、くだらないこと言ってないでさっさと離れて
髪の毛乾かすの交代するからさ」

「乾かすも何も…私の髪は結っていたので濡れていませんよ?」

「毛先、ちょっと濡れてるから
いいから早く交代」

自分を抱きしめている風の手を軽く叩くと、風は力を緩めてマーモンはその腕の中から離れると、立ち上がり風のもとへと歩いた。

「ドライヤー貸して」

「もう、強引なんですから
そういうところも素敵ですが」

"ん"と手を差し出すと風はマーモンへと持っていたドライヤーを手渡して、マーモンが先ほどまで腰掛けていたソファーへと着席をし、それを確認するとマーモンはドライヤーの電源を入れて微かに濡れている毛先へと温風を当て始める。

髪の毛結っていたし、あまり濡れていないのは当たり前か…。
しかし、本当に長いなこいつの髪の毛。
僕の倍近くありそう。

毛先のみだったためか、そんなに時間はかからずにすぐに乾いてしまった。
マーモンは乾ききった髪からドライヤーの温風を離すと、ジッと風の後ろ姿を見つめ出す。

後ろ姿、ねぇ…。
いつも隣りにいるからまじまじと見たことがなかったけど…。

しばらく眺めた後に、マーモンはドライヤーの電源を切りソファーへと置いた。

「あ、終わりましたかマーモ…」

隣に置かれたドライヤーで終わったことを察した風が顔を向けようとした時、マーモンは風の首へと手を回してそのままギュッと抱きついた。

「…むむ、確かに君の言う通り悪くないかも」

「…あ、あの…マーモン?」

「あー、でも君体格がいいからやっぱり少し抱きしめづらいかも
前からだと絶対手回らなそう」

スリッと首筋に擦り寄りながら風の抱きしめ心地を確かめていると、ふと風の手が抱きしめている手に触れる。

「…?なに?どうしたの?」

「…それだと貴方の顔が見えないので…せめて、前に回ってくれませんか?」

「えぇ…君だってさっき後ろから抱きついてたじゃないか
これでおあいこだろう?」

「それはそうですが」

「はい、もう髪の毛乾かすの終わったよ」

なにか言いたげに口ごもる風から手をパッと離し、マーモンはソファーに置いていたドライヤーを手に持ってテーブルへと移動させた。

「さぁ、今日はもう寝ようか
明日デートするんだろう?夜更かししたら、また以前のように君ずっと寝てしまうだろうしさ」

「マーモン」

背後に風の気配を感じ、自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。

「なんだい?もしかして今から外に出るつもり?
何の用事があるのか知らないけど、僕は」

なんとなく、後ろを振り向けない。
後ろを振り向いては、いけない気がした。

「マーモン」

「ッ」

自分の腹部に手を回し、そっと抱き寄せながら耳元で名前を呼ばれ、マーモンはピクッと身体を跳ねさせた。
自分のことを見る視線が、とてもじゃないけど耐えきれない。











「…ベッド、行きましょうか」










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