鈍感注意報


「まったく、だから以前からあれほど言っているでしょう?
幻術に頼りすぎるのではなく、己の基礎体力も鍛えねばいけませんと」

「...」

グチグチと説教を行う風の隣でマーモンはソファーに座らされながら話を聞かされている。

...あぁ、またこれだ。
こいつのこういうところが本当に嫌なんだ。

チラリと風を見てみると、こちらの視線には気付いていないのか持参してきたりんごの皮を器用に剥きながら説教を続けている。

「そもそも、働く者としてきちんと休息をとっていないのもどうかと
社会人(?)なのですから最高のパフォーマンスに備えて休息を取るのも仕事の一環です
貴方はお金の為、と言うでしょうがそのお金を稼ぐために自分の体を使うのでしょう?
ならば、一番の優先事項である自分の体を労ることを忘れてはいけません」

こいつ、よくもまぁペラペラと話ながらりんごを器用に...しかもうさぎの形だし。

一つ、また一つと出来ていくうさきのりんごを見ながらむしろ感心してしまう。

「貴方は昔から...話聞いてますか?」

ジッとりんごを見つめていると風が気付いたのか問いかけてくる。

「え、あぁ...うん、うさぎだね」

「...聞いていないじゃないですか、もう」

マーモンはハッとして返答するもわけの分からないことを言ってしまい、風が呆れたように息を吐く。
一つのりんごにフォークを刺し、マーモンの口許へと運んだ。

「甘いものを、と思ったのですがいつ目覚めるのか分からなかったのでりんごだけ
食べれそうですか?」

「ん、食べれる」

口許にきたりんごを食べようとフォークを持っている風の手を両手で握り締めるとサクッと音を立てながら咀嚼をする。

「ムム、このりんご甘くて美味しい」

「...」

優しい甘さが身体に染み渡りもう一口噛ろうとすると、風が自分の事をジッと見ているのに気付き動きを止める。

「なに、どうしたの?」

「...いえ...無防備なのも考えものだな、と」

「...?馬鹿なこと言ってないで、もっと」

片手で頭を軽く抑えながらため息をする風の思考がわからず、マーモンは再びかじりつくと次を催促をする。
風は"はい"と返事をし、もう1つフォークに刺してマーモンへと差し出すと再び両手で手を握りしめた。

「...あの」

「ム?」

シャクシャクとりんごを食べていると風が少し言いづらそうに声をかけてくる。

「この食べ方は...あ、いえ
私がフォークを差し出してはいるのですがこの手は」

「ムム...あぁ、ごめん
利き手使うのには怪我で少し握力が足りなくてね
悪いけど、このまま食べさせて」

「いえ、それは大丈夫ですが...」

まだなにか言い足りなさそうな風だったが、"これはこれで可愛いからいいですかね"と少し頬を緩ませる。

「なんだよ、気持ち悪いな」

「ふふ、いえなにも
もう少し食べます?」

「んん、いいや
あまりお腹に入れるのも悪いから
ありがと」

「おや、ならば残りは冷蔵庫にでも入れておきますね」

そう言いながら風が立ち上がり冷蔵庫へと歩いていく。

「あぁ、そうだ
レモネードはいかがいたします...か...」

ついでに水分補給をさせようとマーモンへと身体を向けると、マーモンが"いてて"と痛みを漏らしながら着ている服を脱ごうとしているのが視界に入りピタッと動きを止めた。

「ム...レモネードがなに...?」

上の服を脱ぎ終えたマーモンが風に問いかけると、風は無言でツカツカと詰め寄っていきマーモンが先程着ていた服を奪い取り再びバッと着せる。

「ムム、ちょっとなに」

「...む」

「?」










「無防備過ぎにも程があるかと...!!」

「なに言ってるの、お前」










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