頭の中では分かっているが
「まったく…君の事探してたらまた汗かいちゃったじゃないか…」
部屋へと戻ってきた風とマーモン。
マーモンはフードを脱いで額に軽くかいた汗を拭いながら小さく息を吐いた。
「お風呂上がりにパーカー着て、なおかつフードを被っていたらそれは熱が籠もりますよ」
「…あとでまた入ろ
どうせ、パジャマは別で用意してあるし」
「おや、そうなんですか?」
「さすがにパジャマでホテル内歩くわけにはいかないから、今のは普段着だよ」
自分のキャリーケースの元へと歩いていき、事前に上に乗せておいたパジャマを手にしてソファーの上へと置いた。
「…マーモン」
「…なに?」
「…そのパジャマって…」
マーモンが手にしていたパジャマに見覚えがあるのか、風は近付きながらそのパジャマをジッと見つめている。
「以前、水族館に行った時に私が用意したパジャマでは?」
「…」
「あの時、貴方が"洗濯する"と言っていましたが…その後の行方が分からなかったので捨ててしまったのかと」
「流石に君が用意したものを勝手に捨てるわけないだろう?
あの時は、僕が使用したパジャマを君に渡すのはちょっと気が引けたというか、怖いというか…なにに使おうとしてたのか分からなかったから僕が洗濯したかったんだよ」
「別に何もしませんよ、ただ少し…確認をしたかったと言いますか」
「顔を逸らすな、顔を」
ジトリとした目つきでマーモンが言うとススーッと風は顔をそらしながら答え、あまりのあからさまな態度にマーモンは今日何度目かわからないため息をつく。
「…というか、君…気付いてないの?」
「…?なにがです?」
「これ」
「…ッあ」
着ているパーカーの袖を少し揺らしながら、マーモンは風の正面へと立ちジッと見上げると、風は不思議そうにしていたがいきなりカッと目を見開いて驚いたようにマーモンを見つめ出した。
「…これも…君が買ってくれたやつなんだけど」
「…」
「あ、でも流石にショートパンツ履く勇気はなかったからズボンは自前
一応持ってきてはいるから、履けと言われれば考えなくもな」
そこまで言いかけるも風の手がこちらに伸ばされたと思ったらいつの間にか腕の中に収められてしまい、マーモンの言葉が止まってしまう。
「…ねぇ、離してよ」
「…マーモン、貴方という方は…それを着る、ということはどういう意味か分からないわけではありませんよね?」
自分を抱きしめる力が微かに強まり、マーモンの首筋へと顔を埋めながらぽつりと呟かれる。
「…さぁね、何のことか分からないかな」
「誤魔化さないでください、私は散々伝えていたのですから」
顔をゆっくりと上げ、熱のこもった吐息を漏らしながら風はマーモンの横髪へと手を伸ばしてすくい上げるとチュッとリップ音を立てながらキスを落とした。
「着せたいと思った服は、脱がせたいと思った服だと」
「…そしたら、僕がこの服を着る度に君は脱がせたいと悶々としてしまうわけだ
それじゃ、服を買ってきてくれた意味がないね
僕は君の前でこの服を着るわけにはいかなくなるから」
風の言葉を聞き終えたマーモンは悪戯げな笑みを浮かべながら顔を覗き込むと、風は"うッ"と言葉を詰まらせた。
「そ、その言い回しは意地悪ですよマーモン」
「意地悪じゃないさ、だって本当のことだろう?
公共の場で僕のことを襲われたら溜まったもんじゃないから」
「し…ッませんよ?!私もTPOはちゃんと弁えて」
「そう言いつつ、水族館行った時にショートパンツの中に手を入れていたのはどこの誰だい?」
「…身に覚えがありません」
「都合のいい奴だね…まったく」
誤魔化す度に視線をそらす風の癖に、マーモンは小さく微笑むとスッと風の腕の中から離れていく。
「お腹すいた、ご飯食べに行こ」
「…今このタイミングでですか?」
「当たり前さ、お腹が空いたんだもん
それに夕飯まだだろう?君もお腹すいたんじゃない?」
「それはまぁ、そうですが…」
なにか言いたげな風の表情にマーモンは再度近づいて風の唇へと指を伸ばしてソッと押し当てた。
「…夜はまだ、長いんだ
そう急ぐことはないだろう?」
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