根本的な話だけれど
「それじゃ、気をつけてホテル帰れよ」
ツナの部屋から出て、玄関に向かうとリボーンからそう声をかけられてマーモンは振り返る。
「気を付けてって…暗殺部隊をなんだと思ってるのさ」
「ばーか、念の為だよ
つーか、風はそういや何処行ったんだ?」
「あいつは雲雀恭弥の所に行ったよ
戦い好きだからね、お互いに」
「なんだ、雲雀に風を取られたってわけか」
「別にそう思ってないよ」
「わかってるって」
「あ、マーモン帰るの?」
リビングからひょこっと顔を出してきたツナはタタッとマーモンへと駆け寄った。
「リボーンとの話は終わったからね
長居して悪かったね」
「いや、俺が引き止めたし…
母さんが晩御飯食べてって言ってるけど、よかったら食べてく?」
「さすがに遠慮するよ
というか、僕としては君達とそこまで馴れ合うつもりはないからね…立場的に」
「立場とか別に気にしなくていいと思うけど…」
「そういうわけにもいかないさ…沢田綱吉」
「え、なに…っわわ!」
マーモンはふと口元に笑みを浮かべながらツナの頭へと手を伸ばして、くしゃりと優しく頭を撫でた。
ツナは驚いたように声を上げた後にマーモンを不思議そうに見つめ、マーモンはそっと手を離した。
「それじゃあね」
「え…あ…ま、またね!」
「リボーンも、また集会がある時に」
「おぅ、そろそろ着信拒否解除しとけよ」
「…検討しておく」
…さて。
玄関から外へと出て、ゆっくりと扉を閉めるとマーモンは疲れたように息を漏らして歩き出す。
空を見上げると、いつの間にか夜になっていたのか暗くなっており、マーモンは小さく息を吐きだした。
…もう夜になってたのか…けっこう、沢田綱吉の家にいたんだな…。
空を見上げたまま数歩歩いた後、視線を正面へと向ける。
誰も自分が歩く先にはおらず、電灯だけの明かりのみ。
久々だな、こうして一人で居るのは。
いつもはアジトにいたり、任務に行ったりで誰かしらそばにはいたし、一人の時間とかそうそうなかった。
「…なんか…」
マーモンはぴたりと歩みを止めて俯いてジッと地面を見つめる。
…一人って、こんなに…。
「マーモン!」
「!!」
背後から聞き覚えのある声が、マーモンの名前を呼ぶ。
その声に驚きながらもマーモンが振り返ると、そこには息を乱しながら自分を見ている風の姿があった。
「風、どうしたんだい?そんなに慌てて」
マーモンの姿に安堵の息を漏らす風はタタッとマーモンへと駆け寄り、その様子にマーモンはきょとんとしながら問いかける。
「どうしたって…貴方がホテルに戻っていなかったので、心配になって探しに来たんですよ
電話したのに出ませんでしたし…」
「え…」
そういえば、スマホなにも音鳴らなかったな。
ズボンのポケットに入れていたスマホを取り出してみると画面が真っ暗になっており、電源が切れているようだった。
「あーごめん、電池切れしてたみたいで」
「…まぁ、無事に見つけられたのでよかった」
「むむッ」
マーモンの顔へと自分の顔を近づけ、頬に軽くキスを落とす風。
マーモンはピクッと反応を示し、その様子に風は満足そうに微笑んだ後、手を握りしめて歩き出した。
「…雲雀恭弥はいいのかい?」
「えぇ、もう済みましたのでね
短い時間でしたが、なかなかいいひと時でした
今度は時間に余裕を持って彼と戦いたいですねぇ…鍛えがいもありますし」
「別にもう少し戦ってきてもよかったけど?」
「貴方と約束しましたからね
しかも、貴方とデートに行くのですから早めに休まないと」
…あぁ、まただ。
幸せそうに頬を緩ませる風の表情を見て、マーモンは瞳を細めながら眺めた。
本当に、なんでこう幸せそうな顔をするのだろうか。
僕がただ、隣にいるだけなのに。
…でも…。
「…ふふ」
「マーモン?」
不意にこぼれてしまった笑み。
それに反応した風はきょとんとしながらマーモンの顔をのぞき込む。
「いや、ごめん…君見てたら、おかしくなって」
「そんなに私、変な事言いましたか?」
「そうじゃないよ、ただ…」
マーモンはチラリと風に顔を向けて言葉を続けようとするも、キュッと口を固く閉じて風より一歩先を歩く。
「…やっぱり、秘密」
「え、教えてくださいよマーモン」
「やだよ、君に言ったら調子乗りそうだからね」
「もう…意地悪なんですから…」
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