鈍感注意報
「君ね、また勝手に入ってきて...
いや、今回は助かったけれど」
いつも通りと言うべきか、何度言っても不法侵入をする風に呆れたような口ぶりで言うも今回は助けられてしまったのでマーモンは強く言えず。
「とりあえず、離してくれる?
僕今からシャワー浴びに」
そう言うも離す気配はなく、返答もしてこない。
なんだ?珍しくなにも話さないな。
いつもなら大型犬みたいに尻尾振りながら...。
いつもとは違う様子に疑問を抱きながら顔を見てみる。
すると、いつもの風らしからぬ眉間に皺を寄せなにやら悲しそうな、切なそうな表情をしていた。
は...。
そんな表情に驚いて目を見開くと、マーモンの視線に気付いたのかフイッと顔をそらし"すいません"と一言。
そして、そのままマーモンを強く抱き締めた。
「ッムム、なにし」
「...よかったです...目が覚めて」
「!」
突然抱き締められ、驚きながら離れさせようと肩を押していると風の口から安堵したような声が聞こえ動きを止める。
そのまま後頭部に手を回され優しく撫でられ、その手つきに安心感を覚えた。
だんだんと先程肩を押していた手から力が抜けていく。
「貴方、任務中に爆弾に巻き込まれて3日間程意識がなかったんですよ?」
「3日...え、そんなに...?」
自分の中では1日程だと思っており、想像以上に意識がなかったのに驚いてしまう。
「驚きましたよ、何となく嫌な予感がして行く日ではなかったのですが訪れた時は
貴方が体を包帯に巻かれ、青白い顔で眠っているのですから
胸の鼓動を触れて感じるまで気が気ではなかった」
「い...ッ」
抱き締められる力が僅かに強まり、痛みに表情が歪む。
「また貴方が...」
「私の前からいなくなってしまうのかと、不安で仕方がなかった」
「...」
これは驚いたな。
マーモンはチラリと風に視線を移した。
いつも能天気なこいつが、珍しくマイナスな事を言うなんて。
そう言えば、僕のもとへと最初に訪れた時も似たような事言ってたっけ。
"今度は貴方を見失うようなへまはしない"
...。
...くだらない。
僕にはそれほどまでの価値はないというのに。
「...ねぇ、痛い」
「...!あ、す、すいません
まだ傷が痛みますよ...ね...」
マーモンがポツリと呟くように言うと風はハッとし慌てて手を離そうとした。
しかし、マーモンが逆に風の両脇の服を掴み驚いて言葉がだんだんと小さくなっていく。
「あ、あの...」
「見ないで」
戸惑いを隠せない風がマーモンの顔を覗きこもうとするので、マーモンは見られないようにと肩に顔を押し付けた。
「...僕は君にそんなに心配されるような男じゃない」
「なにを言いますか、愛する人を心配しない男なんていません」
「それに、この世界に足を踏み入れた時から死と隣合わせなのは承知の上なんだ
この程度でめそめそなんてしないでよ」
「ですが」
「...それに」
マーモンは風の服を握り締める力を微かに強め、風を見上げた。
すると、眉を八の字にし心配そうな眼差しを向けられているのに気付いて"ふふ"と吹き出してしまう。
「なぜ笑うのですか、私は真剣なんですよ?」
「いやごめん...君らしからぬ表情だったから」
「もう、あまりからかわないでください」
「ごめんって...えっと、なんだっけ...あぁ、そうだ」
困ったような笑みを浮かべる風に対し、マーモンは先程の代わりと言うように少し背伸びをして風の頭へと触れた。
風はピクッと微かに体を跳ねさせ、瞳を丸くする。
「少しこうなっただけで君がそんな顔をするんだ
僕の意思で勝手に消える、なんて事はないから安心しなよ」
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