過剰供給
「...ここどこ?」
ヴェルデの研究室から出て担がれたままマーモンは見知らぬマンションへと連れていかれ、部屋に入るとそっと優しく床に下ろされ回りを見渡す。
生活に必要最低限のものしか置いておらず、マーモンは風へと顔を向けた。
「私がイタリアにいるときに住んでいるマンションです」
「...あぁ...なるほど、毎回中国に帰っているのかと思っていたよ」
「...出来ないことはないですが」
出来なくはないのか。
というか、風の部屋なんて初めて入るな...いつもヴァリアーのアジトでしか会わなかったし。
...あれ?ということは今の僕に逃げ場ないんじゃ...。
「マーモン」
不意に名前を呼ばれてハッとしながら風へと体を向けると風はソファーへと腰かけてポンポンッと自分の隣を叩き出した。
「少し、お話ししませんか?」
「...ム」
「大丈夫ですよ、この前のような事は決してしません」
「...うん」
ソファーへと近付いて空いている風の隣へと腰かけて体を向ける。
すると、風は勢いよく頭を下げた。
「以前はすいません、貴方の許可を得ずにあのような事をしてしまい」
「いや、僕はそんなに気にはしていないよ
そもそも、あんなことになったのは僕がキスをしてしまったからで
突然キスなんて軽率な行動をしてしまった僕に責任がある」
「いえ、ですが私の鍛練不足で下手すれば貴方を襲ってしまっていたかもしれないのです
そんなことをしかけてしまったのです、今度お詫びを」
「だからいいって、とりあえず顔をあげてよ」
「...ですが」
「...それに」
マーモンに説得されて渋々風が顔をあげると、マーモンは小さく息を吐いて風の顔をジッと見つめた後に、風の手に自分を重ねて俯いた。
「...僕も君のこと…好き、だし…その…えっと…別にそこまで謝る必要、ないと思うんだけど」
「…マーモン」
「それに、あの時はあぁ言ったけど…」
少しの間ごにょごにょと言葉を詰まらせた後に、マーモンは空いている片手でフードの裾をギュッと掴んで深く被り直した。
「…き…」
「…君に…き…きす…したく…なっちゃ…っ…て…」
…キュン。
ぷしゅーっと頭から湯気が出ているマーモンを風は呆然と見つめた後に、自分の手に重ねられたマーモンの手を優しく包み込みながらスッと顔を近づけた。
「…それは、貴方も私のことを…求めてくださっていると、判断していいのでしょうか?」
「求め…ッ…そ、そういうんじゃなくて!
ただ、キスしたくなっただけで…別に深い意味はないよ!
まだ次の行動とか、そういうのは…」
「次の行動、というのは?」
「ッ…えっと…そりゃ…ほら…!」
ジィィと穴が空いてしまうのではないかと思うほど、風に見つめられてマーモンはグッと言葉を飲み込んでバッと風の手を振り払った。
「ッと、とにかく!君のこと求めてるとかそういうのはないから!」
「ふふ、照れ屋さんですねぇ…
まぁ、いいです…これで私とマーモンは、晴れて恋人同士に」
「…恋人同士…?」
すりすりと頭に頬摺りをしながら言う風の言葉に、マーモンはピクリと反応を示す。
「ねぇ、君…なにか勘違いしてない?」
「勘違い?とは?」
「僕、君と付き合うつもりはないよ」
「…はい?」
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