小遣い稼ぎの仕方
「ただいま戻りました」
ヴェルデの研究所からヴァリアーのアジトへと戻った風はいつもの様にマーモンの自室の窓を開けて中へと入った。
そこには、ソファーに腰かけて満足そうに通帳を眺めているマーモンの姿。
「ずいぶんと嬉しそうですねぇ」
「ム...そりゃ、まぁね」
近付きながら声をかけると、風の存在に気付いたのか緩めていた表情が引き締まり通帳を閉じる。
「先ほど、ヴェルデから聞きましたよ」
冷蔵庫へと向かい、自分が入れていた箱を手に取ると蓋を開く。
そこには2つのプリンタルトが入っており1つは皿に乗せ、もう1つは箱に入れたまま冷蔵庫へと戻す。
皿とフォークを手に取ると、マーモンの目の前にあるテーブルの上へと静かに置いた。
「ヴェルデの研究のお手伝いをしているそうで」
「手伝い...というか、バイトかな
金がほしい僕と手伝いがほしいヴェルデで成り立っているのさ」
"いただきます"と小さく声に出した後、タルトにフォークを入れて一口口へと運んだ。
すると、パァッと表情が明るくなりその様に思わず風の頬が緩む。
「美味しいですか」
「んふふ、美味しいねこれ」
「それならばよかったです」
フォークを進めていくマーモンを横目に、私はふとヴェルデとの会話を思い出した。
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数時間前。
『マーモンは私の研究の手伝いをしているだけだ』
マーモンが部屋を出て風が質問をする前に、ヴェルデは自らそう言った。
その表情から特に嘘をついている様子はない。
『そもそも、私は奴にそういう感情は持ち合わせていない』
『...そうですか』
その言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろすと同時に、少しの疑問が残った。
『その割には、マーモンは貴方に少しなついている様ですが』
『なつく...なぜそう思う?』
『マーモンの発言の節々や態度からして、リボーンやコロネロ達とは態度が違うと思いまして』
『それはあいつ達がめんどうな絡み方をするからだ』
そう言われてみれば、ヴェルデは基本用があるとき以外は話しかけていませんでしたね。
反対にリボーンやコロネロ、スカルは絡み方が少々雑と言いますか。
『奴はあまり、他人と関わるのが好まない
貴様もそれは嫌というほど理解しているだろう?』
『...ですが、呪いが解かれたマーモンは前とは違うと感じませんか?』
『違う?』
『表情が豊かになりましたし、私の事を邪険にしなくなった感じがします
以前のマーモンならば私の姿を見た瞬間逃げていましたし
それに比べ、今はお話ししてくれるまでになりました』
『...ふむ...私としてはあまり感じないが...それはおそらく』
ヴェルデは風を一瞥した後にPCを眺め、頬杖をついた。
『貴様には言っても効かないから諦めてるだけだろう』
『...それは、私の日頃の行いが報われたということですね?』
『そうだな、悪い意味で報われてるのかもしれん』
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これもすべて、私の努力が報われているおかげ。
今後もマーモンとの距離を縮めるために頑張らねば...。
「なにニヤニヤしてるのさ、気持ち悪い」
表情がいつの間にか緩んでしまっていたのかマーモンから怪訝そうな表情を向けられる。
「いえ、日々の積み重ねは大事だなと身に染みていまして」
「ふぅん...まぁ、いいや」
コホンと小さく咳払いをしながら言うと、マーモンは特に気にした様子はなく食べ進めた。
「おや、マーモン」
顔を見ると口端にカスがついており、スッと手を伸ばす。
「ム、なにさ」
マーモンは私の方をジッと見つめている。
「ついてますよ」
指で拭いながら告げると、"あぁ、ありがとう"と礼を言われる。
その様子に私は少し違和感を覚えた。
「マーモン、貴方...少し感覚鈍ってません?」
「ム、感覚?」
「感覚と言っても触覚ではなく、気配を察する方ですが
いつもなら私の手など避けるでしょう?」
「...あぁ、たぶんそれは幻術使いすぎて頭疲れてるからだと思う
確かに言われてみれば、君がヴェルデの所に来たときに君の気配察知できなかったな」
「そんなに使用していたのですか?」
「まぁ、ね
君のプリンタルトのおかげで少しは回復したかも、ありがとう」
「...!」
マーモンが私にお礼を言うなんて...。
「...マーモン」
「今度はなにさ」
マーモンからの礼の言葉に少し感激をし、風はそっと近寄って顔を覗きこんだ。
そんな私をマーモンは不思議そうに見ている。
「...あと1つ食べますか?」
「え、いいの?いつもは1つだけなのに」
「いいですよ、少々嬉しいことがあったので」
「ふぅん...まぁ、遠慮なく頂くよ」
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