小遣い稼ぎの仕方


「だから言っただろう
"すぐに捕まるのが落ちだろう"と」

珈琲カップを手にし、まだ湯気が立つ珈琲を一口飲みながらヴェルデは椅子に座るマーモンと、その隣に立つ風を見た。

「君、風が来るってわかってたのかい?」

「監視カメラでな」

「それなら教えろよ、僕はなるべくこいつとは関わりたくないんだ」

「マーモン、ちょうどクッキー持っているのですが食べますか?」

風を指差しながら眉間に皺を寄せて言うと、風の言葉からちらりと手元を見る。
そこには個包装されたチョコチップのクッキー。

「...」

ヒョイッ。パクッ。

「...ぼふはなふへふほいつほふぁふぁわひふぁふふぁひんらふぁら」

「食べながら喋るな」

お菓子の誘惑に耐えられず食べ出す様子に呆れながら言われてしまう。

「ん...そもそも、君はなんでここにいるのさ
ヴェルデになにか用なの?」

クッキーを食べ終え、本題のなぜ風がここにいるのかを問いかける。
風はにこっといつもの優しげな笑みを浮かべた。

「貴方が非番のはずなのに部屋にいないので探しに来たのですよ」

「僕が非番の日になにしようが勝手じゃないか
君と約束していた訳でもあるまいし...ムム?」

そこまで言いかけて1つの疑問が浮かぶ。

「ねぇ、僕はここに来る事君に言ってなかったよね?
痕跡も残していない
なのになんでここまでたどり着けたの?」

「それは...」

マーモンの質問に風は一瞬スーッと視線を僕からそらして間を開けた。

「愛の力です」

「おい、今なんで目そらした」

「そんなマーモンはなぜこちらに?
非番の時は必ず引きこもっているのに」

「人を引きこもりみたいに言うなよ
最近は非番の時ここに来てたし」

「なるほど...」

僕の話を聞いて風の視線がヴェルデへと向けられる。

「変な勘繰りをするな、こいつは私の研究のモルモットなだけだ」

「モルモット...?それはあれですか、実験と称してマーモンにあんなことやこんなことなどそれは口には言えないような事を...」

「その豊かすぎる想像力は他の事に使うものだ...おい、なんだその笑顔は」

「まぁまぁまぁ」

「近付くな、おいマーモン
こいつを止めろ」 

にこやかな笑顔の裏になにやら黒い感情が含まれていそうな風に距離を詰められてヴェルデから助けを求められる。

「君もそんな風に狼狽えるんだね」

「そんな事を言っていると貴様にもう振らないぞ!」

「...仕方ないな」

切羽詰まったように声が上がり、少し満足したマーモンは立ち上がって風の隣へと立つ。

「風、やめたげなよ」

「...貴方が言うのであれば仕方ありませんね」

ジッと眼差しを向けると小さく息を吐きながら詰め寄るのをやめた。
ヴェルデの口から安堵の息が漏れるのが微かに聞こえる。

「まったく...おい、マーモン
風とそういう関係なのであれば事前に伝えておけ
面倒ごとに巻き込むな」

「ヴェルデ、悪い冗談はよして
僕とこいつは君が思うような関係じゃない」

ヴェルデの言葉に不快感を覚えて思わず睨み付けながら言ってしまう。

「...?なんだ、違うのか
赤ん坊にされる前からしつこくされていたからてっきり折れたのかと思ったのだが」

「残念ながらまだそういう関係ではないですよ
まぁ、強いていうのならば押し掛け夫的な感じてアピールをしています」

「不法侵入及びストーカーの間違いだろうが、美化すんな」

笑顔で語る風とは正反対にマーモンの表情はげっそりとする。
それを見てか哀れみの眼差しを向けられているような気がした。

「...というか、本当に君やめてよ
ヴェルデに変な誤解させるような発言と行動」

「そもそも、貴方が私に隠れて行動するのが悪いんですよ
今日だって、駅前のプリンタルトを買ってきたというのに不在なんですから
用事があるときは事前に行ってください、来るの控えるように考えはしますから」

「え...あ...ごめん...ってなんで僕が謝らないといけないんだよ」

少し眉を下げて心配そうな表情で言われ、思わず謝ってしまうがハッとした。

「いちゃつくならさっさとそいつを連れて帰れ、風
今日の用事は済んでいる」

空気と化していたヴェルデが深いため息をつきマーモンらから視線を外してPCを見始める。

「おい、誰がいちゃつ...はぁ、もういいや
どうせ今日はおしまいだし
風、プリンタルトはどこにあるの?」

「貴方の部屋の冷蔵庫に入れてあります」

「そう、なら帰ろ
頭使いすぎて甘いもの食べたいし」

"ンーッ"と軽く伸びをして扉に向かって歩き出す。

「マーモン、少し外で待ってていただいていいですか?」

扉に手をかけるとふと風から声をかけられ顔を向けた。
するとニコッといつもの軽やかな笑み。

「ヴェルデに私も用がありましたのでついでに済ませてしまいます」

「ム、それなら早く言えばいいものの...
じゃ、僕は先に帰ってるから」

そう言い残し、僕は扉を開けて部屋から出ていった。



 





パタン。










「...それではヴェルデ、少しお話ししましょうか」

「...」










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