僕を好きな君と君が嫌いな僕
とあるファミリーのアジト内---
「マーモン様」
目の前に体中から血を流している大柄の男に近寄りジッと見下ろしていると、背後から自分の名前を呼ばれて僕は振り向いた。
そこには、自分と同じヴァリアーの紋章を肩に身に付けている男が立っている。
「他の階にも生存者はおらず、情報通りの人数分の死体の数を確認しました」
「...そう、ならこれで任務はおしまいだね」
ビシッと自分に対して背筋を伸ばしながら報告された言葉に対しそう答えると小さく口から息を漏らす。
「今回もマーモン様の幻術、お見事でした」
「まぁね...ベルの部隊はどこに?」
「ベルフェゴール様の部隊はすでに外で待機しております
あと建物内に残っているのは私達だけです」
「あぁ、そうなの」
通りで静かなわけだ。ベルが建物の中にいるとすれば声が聞こえてくるはずだし。
ふと外の窓へと視線を向けて耳を澄ますと微かに聞こえる話し声。
マーモンは先程見ていた死体に視線を戻ししゃがみこむと、死体の着ているスーツへと手を伸ばしてポケットを軽く漁った。
胸ポケットにお目当てのものはなく、腹部にあるポケットに目を移すと微かに膨らみがあるのを確認し、そこへ手を入れる。
コツッとなにやら固いものへと触れ、それを手に取りポケットから手を出す。
「それは?」
「今回の僕のお目当て」
一部始終を見ていた隊員の問いかけに手にした物を自分のポケットに入れながら答える。
隊員は"はぁ..."と不思議そうに首をかしげていた。
「それじゃ、僕は一足先にベルと戻るよ
他の奴らはここの後始末してから戻ってきて」
「はっ、承知しました!」
再び彼の口から聞こえる威勢のいい返事を背中で聞きながら外で待っているであろうベルの元へと向かう。
階段を下りながら回りを見渡すと死体がそこらかしこに転がっていた。
...こういう光景にもずいぶんと慣れてしまったな。
まぁ、それもそうか。このヴァリアーに入隊してからもう10年近く経つ。
赤ん坊の姿の時からだもんなぁ。
マーモンは考え込みながら歩いているといつの間にか外に出ていたのか風の冷たさを頬に感じ、ふと空を見上げる。
時間は深夜を回っているせいか、綺麗な星が夜空を飾っていた。
はっきり言って、僕はずっと赤ん坊の姿のまま死んでしまうと思っていたからこうやって再び自身の姿に戻れるとは夢にも思っていなかった。
いや別に、解く努力を途中で諦めていた訳ではないけど。
僕が数十年間かけても解けなかったのを、ボンゴレ十代目である沢田綱吉は誰も考えもしなかった発想でその僕の努力を無駄にした。
「...それに関しては、僕は感謝をしなければいけない立場だけれども複雑だ」
なんせ、僕は...。
現在無一文に等しい。
なぜ僕が無一文なのか。
それは、元の姿へと戻ったきっかけである虹の代理戦まで話は遡る。
代理戦で唯一残った者の呪いを解く。この話を聞いた僕はなにがなんでも元の姿に戻りたかった。(まぁ、真相はそんな美味しい話ではなかったんだけど)
ボスにお願いをして僕の代理としてヴァリアー幹部に参加をしてもらうことに。それで、勝率をあげるためにタルボじいさんに新しいリング...ニューヴァリアーリングを作ってもらうことにした。
問題がこのニューヴァリアーリング。生半可な物を作られても困るので僕の全財産を使用。結果として、いいものを作ってもらえたがその代償として僕の全財産がなくなった。
これには流石の僕でも数日間寝込んだ。いや本当に、精神的にきた。
「お、マーモンみーっけ...え、なに泣いてんのお前」
全財産を無くした時の心境を思い出してしまい沈みこんでいると、外で待機てしていたベルが声をかけながら歩いてくる。
「泣いてない...ただ、懐が寂しいだけ」
「懐...あー、お前今貧乏人だもんなー
うししッ、やだねー庶民は貧乏で」
袖で無意識に出ていた涙を拭いながら答えると、言葉の意味が一瞬わからなかったベルは首を傾げた。しかし、すぐに理解したのかいつものようなにんまり顔で笑いながら馬鹿にするような口ぶりで言う。
「うるさい、そんな風に言うならそのリング返してくれる?」
ジトリとした目付きでベルに視線を向け、指に嵌められているリングへと手を伸ばす。ベルは"だぁめ"と言いながら一歩後ろへ下がってリングが嵌められている手を上げた。
「うししッ、元の姿に戻ってもマーモンってばちびすぎ
これじゃ、戻っても意味ねーよな」
ツカツカと勢いよく近付いて手を伸ばすも身長差に勝てず届かない。背伸びをしてぷるぷると体を奮わせながら伸ばすも無駄。
あまりのマーモンの姿が滑稽なのか、ベルはげらげらと面白そうに笑いながら嫌味を言う。
「...フンッ、そういう君は図体ばかりでかいだけで知性の欠片もない発言ばかりが目立つじゃないか
それでよく自分のことを王子だなんだと」
「マーモンマーモン」
「なんだよ、謝罪の一つでも言える位はでき」
「まっけおっしみぃ」
ブチッ。
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