小遣い稼ぎの仕方
「終了だ」
「...ム」
椅子に腰かけ、頭になにやら装置を付けられて数時間。
唐突に終わりを知らせる言葉を聞き、声の主へと顔を向ける。
その主はマーモンの目の前へとやってくると、頭に付けられた機械をそっと外し出した。
「今回はなんの実験だったのさ、ヴェルデ」
マーモンの問いかけに彼、ヴェルデは装置をデスクに置いてPCとにらめっこをし始めた。
「幻術発動時の脳の周波数を計っていた
この周波数のパターンをし、脳にマイクロチップを埋め込めば幻術が使えない者でも可能になるかと思ったのだが...まだそこまでには至らなそうだ」
「そんなことされたら僕達術士がお役御免になってしまうよ
人の食いぶち潰そうとするのはやめてほしいね」
PCから目を離し、眼鏡を外すヴェルデの様子を見ながらマーモンは彼の背中へと寄りかかった。
微かに煙草と珈琲の匂いが鼻につく。
「...赤ん坊の頃にはしなかったのに」
「おい、邪魔だ退け」
「...加齢臭?君そういう年だろうから仕方がな...ムギャッ」
くんくんと白衣の匂いを嗅いでいると頭を平らなもので叩かれ思わず声をあげてしまう。
手で頭を押さえながら顔を向けるとバインダーを手にしていることからそれで叩かれたのがわかった。
「痛いじゃないか」
「お前が失礼極まりないからだ
そんな態度の奴にはなにもやらん」
「ムム」
ヴェルデの手に持たれた紙を見てマーモンはそっと手を伸ばす。
しかし、もう少しというところでその紙はマーモンから離れてしまう。
「おい、それは僕の物のはずだ
話と違うじゃないか」
「失礼な奴にやるものはない」
「...君って案外加齢臭とかそういうの気にし」
「そういうわけではない
お前は少し、私の事を下に見ている傾向がある
それを改善しろと言いたいだけだ」
「そんな事はないさ
ただまぁ、君との付き合いは長いからね
少しばかり気が緩んでしまうだけ」
「"親しき仲にも礼儀あり"と言うだろう
その位分からん年でもな...」
「あ、このお菓子美味しそう」
腕を組みながら説教紛いのような言葉を続けるヴェルデを遮るように、デスクの上に置かれた焼き菓子へと手を伸ばす。
その様子を見て諦めたのか、ヴェルデは"勝手にしろ"とだけ言いマーモンへと紙を手渡した。
渡された紙を受け取り、内容を見て思わず口角をあげてしまう。
「君は金払いだけはいいからね
その点は褒めてあげる」
「モルモットにそれ相応の報酬を与えてやらねばな
実験に対する出費は惜しまない、それだけだ」
「金が欲しい僕と、自分の利益の為には金を惜しまない君
まさにwin-winな関係というやつだね」
手渡されていたのは小切手で、マーモンとしては申し分のない金額で満足だ。
先ほど手にした焼き菓子を口に頬張ると、甘さが疲れた脳へと染み渡る感じがした。
「ンムム、このマフィン美味しい」
「先日来客が来て、その時に置いていったものだ
甘いものはあまり好まないから食べるなり持って帰るなりしていい」
「来客?君のところに客なんて珍しいね」
「私への依頼で来たんだ
とある物を作ってほしいと」
「とある物?」
「まぁ、この先は個人情報なので言うつもりもない」
「君にそういう概念あったんだ」
カッ...カッ...。
最後の一口を口の中へと放り入れると不意に部屋の外から階段を歩く音が響いてきてマーモンは扉へと顔を向ける。
特段、その人物からの気配は殺意やら悪意などは感じられない。
しかし...。
「...ねぇ、一般人じゃない人間来てるよ
それも、結構な手練れ」
「あぁ、そうだな」
扉からヴェルデへと視線を移しながら言うと、ヴェルデはPCをちらりと一瞥した後に眼鏡をかけ直した。
「邪魔しちゃ悪いだろうから僕は帰るとするよ
貰うものは貰えたし、また治験とかあったら連絡を」
「帰る必要はない」
椅子から立ち上がり帰り支度をしていると、引き留められてしまい動きを止めた。
「...?いや、だって他の人間が来るなら僕いても仕方ないだろう?
それに同業者だったらあまり姿見せたくないし」
「安心しろ、そういう奴ではない
それに、今出ていったところですぐに捕まるのが落ちだろう
ならばここで待ち構えていた方が楽だと思うが?」
「フンッ、誰が来るか分からないけど僕がそう簡単に捕まるわけないじゃないか
逆に僕が捕まえてやるさ」
ヴェルデの言い回しに少し疑問が浮かぶがもうこの場所に用はないしいいや。
そんな事を考えながらマーモンは部屋の扉へと向かい、手を伸ばして開けようとした...が、部屋の外にいるであろう人物に先に扉を開けられた。
「あぁ、やはりこちらに居ましたかマーモン」
「...」
ヴェルデが言ってた意味、わかったよちくしょう。
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