吐き出されるこの言葉


「…はぁぁぁ…気持ちいい…」

マーモンは部屋の中にある露天風呂の中に入ると、気持ちよさそうに声を漏らして縁に寄りかかった。

舐めてたな、温泉。
こんなに気持ちがいいものだとは思わなかった…。
家のお風呂もいいけど、たまにはこういうのもいいな。
部屋に戻ったらちょうどご飯の時間でご飯も食べてみたけど美味しかったし、また暇な時に来てもいいかもしれない。

「ふふ、満足していただけているのならばよかったです」

背後から聞こえる風の声。
それに反応を示したマーモンはめんどくさそうな表情を浮かべながら振り返る。
先程までいなかったであろう風がマーモンとは対角線上の所に座って同様に露天風呂の中へと入っていた。

「…なんで当たり前のように入ってるんだよ
君、大浴場に行ったんじゃなかったの?」

「マーモン一人残していけませんよ
私がいない間に、何者かが部屋に侵入するかもしれませんし」

「するわけないだろう?まったく…」

念の為にタオル巻いててよかった。

風に背中を向けてぽけーっと夜空を見上げると綺麗な星空で、マーモンは思わず見惚れてしまい、思わず片腕を伸ばした。

「なにかいましたか?」

「いや…星が綺麗だから取れるかなと思って手伸ばしただけ」

「ロマンチストですね」 

「そういうんじゃないよ」

「でも、確かに手を伸ばせば届きそうです」

背後からちゃぷんと水音が立ったと思うと、自分の背後から手が回されてそのまま風に抱きしめられてしまった。

「あ、届きました」

「届きました、じゃないから
早く離れてよ、熱い」

じんわりと背中から伝わる風の体温。
それと温泉の温度が混じり合って熱さを感じる。

「いいではありませんか、せっかくの2人きりですし」  

「それは君だけだろう?
ほら、君が勃起する前に早く離れて」

「しませんよ、我慢してますので」

「我慢してるのかよ」

「え、我慢しなくていいということですか?」

「…」

相手するのもめんどうだからいいや。

マーモンは疲れたように息を漏らし、諦めたように風に寄りかかって再び星空を見上げる。

「無視しないでくださいよ」

「ねぇ、風」

「なんです?」

「君は、なんでそんなに僕が好きなの?」

ふと風に問いかけるその言葉。

別に深い意味はない。
なんとなく、気になった。ただそれだけ。

「…珍しく唐突ですね」

風の困ったような声色が聞こえ、マーモンはスッと顔を少し後ろへと向ける。
しかし、風の顔は見えなかった。

「一緒にお風呂入ってあげてるんだ
そのくらい、答えてくれてもいいだろう?」

「なんでそんなに好きなのか…
改めて聞かれると少し困りますね」

「なんで困るのさ」

「困りますよ、そりゃ
だって今までそんなに深く考えず、己の欲望のままに貴方に好意を伝えていたのですから」

「なにそれ、怖いんだけど
…なら質問を変えよう
僕のどこを好きになったの?」

「…今日は随分と積極的な事を言いますね
私の口からそんなに貴方への熱い思いを」

「風」

マーモンは風の言葉を遮るように名前を呼ぶと、風に向き直るように身体を動かした。

「茶化さないで、言ってほしい」

「…マーモ」

真剣な眼差しで伝えると風は瞳を細め、マーモンをジッと見つめた後になにやらハッとした表情を浮かべてスッと視線をそらし出す。
その行動の意図が分からず、マーモンはムッとした表情を浮かべて風へと詰め寄った。

「なんで逸らすの」

「いや、それは…」

「なに?もしかして本当は僕のこと好きじゃないとか?」

「そういうわけではありません!
そういうわけではないのですが…ちょっと、今は目のやり場に困ると言いますか…」

「困るってなにが」

「ッ…〜…あ、貴方の身体全てが見えているのですよ?!
可愛らしいお顔もそうですが、胸や腰、太ももなど全て!」

「君、何度もお風呂に入ったり身体洗ったりしてくれてたよね?なにを今さら」

「今だからこそです!」

「ッ?!」

風はグッとマーモンの手首を掴み、切羽詰まったような表情で唇を噛み締める。

「…ここは、いつものヴァリアーのアジトではなく、ヴェルデの研究所でもない
本当に私達2人しかいない空間なんです…
お願いですから…」










「あまり、無防備でいないでください…
抑えが…効かなくなりそうです」










「…ご…ごめん…」

あまりの風の気迫にマーモンはポソッと小さな声で謝り、風は小さく息を吐くとマーモンの手首を離した。

「こちらこそ怖がらせてしまいましたね…
ですが、本当に今はやめましょう?
貴方に乱暴な事はしたくありません」

「君がそういう事するとは思えな」

「しますよ、私は…
それこそまさに、獣のように」

マーモンの頬に手を伸ばすと風はクイッと顎を持ち上げて至近距離でマーモンの瞳を見つめ出す。


濡れた髪。

赤みがある頬。

いつにもなく、真剣で、妖艶さのある眼差し。


思わず、そんな風に見惚れてしまった。

「…とりあえず、出ましょうか
これ以上はお互いに逆上せてしまいそうですし」

「あ…う…うん…」

しばらく見つめ合った後に風は手を離し、先に露天風呂を出る様子を見てマーモンは間の抜けた返事を返す。

パタン、と扉が閉められ、マーモンは露天風呂に口元まで浸かりぶくぶくと口から空気を吐き出した。











…たまに、そういうのを出すのやめろよ…心臓に悪い。










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