吐き出されるこの言葉
「…これでよし、と…」
風はマーモンの腹部に巻いた帯を巻き終えるとポンッと優しく叩いてスッと立ち上がり、マーモンの容姿を見る。
マーモンは自分に着付けられた浴衣姿を鏡で見ながら袖をぱたぱたとはばたかせた。
藍色を基調とし、所々花が散りばめられているその浴衣。
「なるほど、浴衣ね…
これなら脱ぎ着しやすいし、寒かったら羽織ればいいから機能的だね」
「初めて着付けてみたのですがどうでしょう?」
「大丈夫じゃない?帯も取れなさそうだし
まさか、部屋着用の浴衣とは別に普通の浴衣も貸し出してるとはね…」
先程風にされたお願い。
それは、フロントで貸し出している浴衣を身に着けて外を歩くことだった。
「予約をする時にその情報も手に入れてましたので、せっかくならばと
フード付きの羽織もありますので、貴方にはぴったりですね」
「なんて好都合な…有り難いけどね」
「帽子とどちらにしようか迷いましたが、帽子だとたかが知れてるかと思いまして」
「そうだね、フードの方が慣れてるし…あのさ、風」
「なんです?」
マーモンは自分の身につけている浴衣と風の浴衣を交互に見てふと疑問に抱いたことを口にする。
どう見ても、自分と風では浴衣の構造が違うように感じてしまう。
「なんか、君と僕のとじゃ浴衣違うように見えるんだけど」
「あぁ、それは仕方ありません
マーモンに合うサイズが切れていまして…申し訳ないのですが、女性物の浴衣なんですよ」
「あぁ…なるほど…」
「あれ、怒られるかと思ったのですが」
「こんなことで怒らないよ
自分の背の小ささは自負しているからね…嫌と言うほど」
フッと遠くを見ながら言う姿に、風から"あぁ…"となんともいえない反応が返ってきた。
「…それにしても、君はなんというか…」
チラリと風に目を向けて風の浴衣姿を見つめる。
淡い青色の浴衣に黒い帯。
そして、引き締まった体型に爽やかなイケメン顔。
「普段着ている服と同じでゆったりとしているので動きやすくていいですね」
「うん…そうだね…」
「…ふふ」
ジッと風の姿を見つめていることに気付いた風は、クスリと小さく微笑みながらマーモンの顔を覗き込んできた。
「どうです?似合っていますか?」
問いかけにきょとんとした後、マーモンはふっと視線を逸らして下を向く。
「…まぁ…うん、似合うんじゃない?
君の場合は体型もいいし顔も無駄にいいから、何を着てもなんでも似合うと思う」
「…そこまで褒められると、流石の私も照れてしまいます」
恥ずかしげに言うマーモンを見た風は、少し恥ずかしそうにはにかむ。
だけど、これだけ目立つと…なんか…。
「…あのさ」
「はい?」
「…僕からもお願い、あるんだけど」
「えぇ、なんでしょう?」
マーモンは顔をそらしたまま幻術でカンカン帽を作り出すとスッと風に手渡した。
「これ、被って」
「?私は帽子はいらないですよ?
夕方ですし、日差しも眩しくありませんので」
「そういう意味じゃなくて…その…」
もごもごと言いづらそうな様子に風は不思議そうにマーモンを見つめて言葉を待った。
「…き…」
「き?」
「…君が、他の人に見られるの…困るから」
「…」
「か、勘違いするなよ
君、無駄に目立つから僕が迷惑で言っているだけだから
それ以外の深い意味は…」
「マーモン」
「なに…ッむきゅ」
何も言わない風に対して言葉を続けていると名前を呼ばれると同時に手を伸ばされてそのまま腕の中に収められてしまい、マーモンは目を見開きながら風の顔を見上げた。
風は少し頬を赤らめながら優しげな微笑みをマーモンへと向けている。
「…お出かけするの、やめましょうか」
「い、いやごめん、そういうつもりで言ったわけじゃないんだけど」
「ふふ、分かっていますよ
しかし、私も貴方と同じ事を考えていたもので…
貴方が私の想像以上にその姿が似合っているものですから、他の人の目に晒すのは耐え難いな、と」
「僕は別に…君が目立つから、それが」
「私が、他の人の目に映るのが嫌、ということでしょう?
貴方だけが、私の姿を見ていたいと…」
「だ、誰もそんな事言ってない!」
風の言い回しにカァァと頬を染め、慌てて否定をすると風はマーモンが手にしていた幻術で出来たカンカン帽を受け取ってそれを頭に被った。
「これなら、貴方も安心ですか?」
「だから、そういう意味じゃ…」
「貴方もちゃんと、フード被ってくださいね?
私以外の人の目につかないように」
「わぷ」
マーモンの袖にゆっくりと羽織を通して、風は羽織についているフードをマーモンに被せるとフード越しに頭へとキスを落とす。
「さて、行きましょうか
早く行かないと、晩ごはんの時間になってしまいますからね」
→
