口から出せないこの感情
「旅館に戻りますか?」
「戻らないし、僕が泊まってたのはホテルだよ
なんでもう温泉に行くつもりなのかな君は…
行くのなら1人で行きなよ
僕はもうイタリアに帰るから」
心配そうにしながらも冗談を言う風を横目に見た後、マーモンは風に背中を向けてゆっくりと歩みを進めだす。
まったく、なんで僕がこいつとデートしないといけないんだか。
そりゃ、水族館の時は楽しかったと言えば楽しかったけど…。
だけど…あの時と違って、あいつと僕の関係は少し違ってしまっている。
なにがどう違うのか、わからないけど…そんな気がする。
これ以上、風といるのは…。
「マーモン」
「ッ!」
不意にクンッと腕を掴まれ、驚きながらも顔を向けるとそこには真剣な表情の風の顔が間近にあった。
「な、んだよ」
間近にある風の顔から逃げるように少し後ずさると、風はスッとスマホの画面をマーモンの目の前に向けてきた。
マーモンは不思議そうに画面を見ると、"ケーキバイキング"の文字が書いてある。
「ケーキ…」
「こちらの旅館、お昼限定でケーキバイキングが出来るそうなのです
本日はもう終わってしまっている時間ですので、こちらの旅館に本日泊まり、明日のケーキバイキングを狙うのはいかがでしょう?」
「ムムム…あのね…僕がそういうものに簡単に釣られると思ってるけど…そんな簡単な男じゃ…」
「マーモン」
「ティラミスもあるようですよ」
「…!」
「貴方最近、結構ティラミス食べますよね?
そんな貴方にぴったりかと」
「ムムッ…ムムムム…そんな、簡単に行くわけ…行くわけな…」
そう言いながらも目は画面いっぱいに映されている様々なケーキに釘付けになってしまう。
「…わかったよ…行けばいいんだろ、行けば…」
「ふふッ、そうと決まれば早速向かいましょう
予約はもうしてありますので」
「…うまく嵌められた感が否めない…」
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