口から出せないこの感情
「…せっかく、パフェ食べてたのに…邪魔しないでもらえるかな?」
喫茶店で骸と別れたマーモンはため息をつきながら悪態をつき、隣を歩いている風をジトリとした目つきで見た。
「すいません…恭弥と話をしていたら思ったんですよ
よくよく考えると、デートらしいデートは一度しかしたことないな、と」
頭が冷めたのか、風は申し訳なさそうに眉を下げながら事の経緯を説明する。
それを聞いたマーモンは首を傾げながら空を見上げた。
デート…デート…。
水族館行ったとき、風はデートって言ってたけど僕からしたらその前に体拭いてもらったりしたから貸し借り作りたくなくて行っただけだし…。
それ以外も特に2人で出かけたりーとかは…大体風が僕のところに勝手に来てただけで。
「デートって…そもそも君と一度もしたことないけど」
「?!」
「…な、なんだよその反応」
ぽつりと呟くように言った言葉を聞いてか、風はガンッとショックを受けたような表情をマーモンへと向け、その勢いにマーモンは少しおどつきながら後退りした。
「す、水族館デートしたではありませんか!お泊りも!」
「いやまぁ、したけど」
「お風呂も一緒に入って、一緒のベッドでも寝たのに!」
「ちょっと声、声が大きいから!」
あまりの風の声の大きさにすれ違う人が何事かと自分達を見ていることに気づき、マーモンは"シーッ!"と人差し指を唇に当てながら静かにするように伝える。
すると、風はキュッと口を閉じながらも不満気な表情でマーモンをジッと見つめた。
「…私はデートだと思っていましたが
事前にそうお伝えもしていましたし」
「…いや、うん…でも僕的にあれは面倒かけたからそのお礼というか…はたから見たらデートみたいなもんだろうけど…」
「なら、今度こそデートをしましょう?」
「デートって、そもそも僕達は恋人とかそういう関係じゃないしデートする必要は」
「確かに恋人同士が待ち合わせたり出かけたりする時に用いられることの多い言葉ですが、それだけではありません
恋愛的な関係に発展するための手段の一つでもありますから
つまり、私達の今、この状態をデートと言っても問題はありません!」
「暑苦しい」
どこでそんな知識を得たのか分からないがつらつらと言葉を並べていき、語尾を強めながらマーモンの両手を自分の両手で包み込む風に暑苦しさを覚え、マーモンは深い溜息をついた。
「貴方もあと2日休みがあるようですし…せっかくですから温泉もいいですねぇ
せっかくジャッポーネにいることですし」
空想しているのか、頬を緩めながらスマホを少しぎこちない指使いで調べ物をし始める風。
「僕としては、君の事見つけられたしアジトに帰ってもいいんだけど
今から帰れば他の人に代わってもらわなくても済みそうだし」
「あ、こことかどうです?
室内にも露天風呂があるところなんですが」
「話聞けよ」
「そういうマーモンも私の話聞いてください?
せっかく、ヴァリアーのアジトから遠路はるばるジャッポーネに来ているのですから
ここなら私達の邪魔をするものはなにもありませんし、堂々といちゃつくこともできます」
「ムムム、別に君といちゃつく、なんてことしたいとは…」
"嫌なら…私を全力で拒否してください"
…いやいやいや。
3日前に会ったことを思い出し、マーモンは顔を横に振る。
あの時の僕はちょっと冷静さを欠いてしまっていただけだから。
…風見つけられた安心感からみっともない姿を見せてしまっただけだ。
それにこいつにはいつも抱きつかれたりしてたわけだし、別に今更こいつにキスされたからって、そういうのを意識する必要は…。
自分の唇に触れた後、未だにスマホとにらめっこしている風の顔を見てススッとその視線を唇へと移す。
…こいつの唇、結構柔らかかっ…。
そこまで思いかけてマーモンはハッとし、更に勢いよく考えを振り払うように顔を横に振って額に手を当てた。
なにを思ってるんだ僕は。
唇なんて皆同じものだし、それとそれが触れ合っただけ。
それだけなんだから、そこまで意識する必要なんて…。
"だって、僕は…こいつの事を…"
「…むぐッ」
「マーモン?」
口からなにかが出そうになり、マーモンが口元を手で覆うと風はスマホから目を離してマーモンの顔を覗き込んだ。
「どうしました?」
「いや…なにも」
「もしかして吐きそうですか?
この前もなにか出そうになった、と言っていましたし…はッ、もしや」
「?」
「悪阻…」
「…僕、男なんだけど」
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