お前に捧げる俺の( )
「...ッ...むむ」
…首が、痛い…。
自身の首に走る痛みにマーモンは眉間に皺を寄せ、声を漏らしながら瞳を開けた。
見覚えのない天井、そして、体を支える柔らかな感触。
僕...そういえば...。
「ッ!!」
だんだんと意識がはっきりしていくにつれて自分がなぜ気を失っていたのか理解しバッと身体を起こし周りを見渡す。
「そうだ、僕は…背後からいきなりスタンガンで…」
頭を押さえながら一つずつ思い出していく。
それと同時に今いる部屋の中の様子に疑問を抱いて周りを見渡した。
ここはパーティーの会場...とは違うな...。
どこの部屋だ...。
よくよく見ると自分は大きめのベッドの上で眠っていたようだ。身体は特に拘束はされておらず、ますます謎が深まるばかり。
なぜ僕が捕まったんだ?
僕の正体がばれている?いや、普段は素顔隠しているからそんなことはないはず...。
"お前を一人にしておくのはあぶねーからな"
ふとリボーンの言っていた言葉が頭をよぎる。
そういえばそんなこと言ってたよな、もしかして僕は最初から狙われていたのか?
でも理由が思い付かない。
「とりあえず、この場から逃げ出すのが先か」
この非常事態だ、超能力と幻術使っても怒られないだろう。
そう思いながらマーモンはベッドから降りると部屋の扉の前へと歩いていき立ち止まる。
ガチャッ。
「!!」
誰だ。
扉へと手をかけようとすると突然開かれ、マーモンはパッと距離を取った。
「...目が覚めていましたか」
そこには先程トイレの前でマーモンに話しかけてきた若い男性が立っておりやわらかな笑みを浮かべながら扉を閉めた。
「本日の客人にご無礼な態度をとってしまい申し訳ありません」
ぺこりと頭を下げながら言う男性に対しマーモンは眉間に皺を寄せて嫌悪感を抱く。
「…私に、なんの御用でしょうか
連れが待っていますのでここから出していただきたいのですが…」
「そうはいきません」
コホンと咳払いをしてからマーモンはなるべく冷静に声を掛けると、男性は扉の前にスッと移動をした。
その様子からしても、マーモンをここから出そうとしないとしているのが容易にわかる。
「…どういうつもりかは存じ上げませんが、このような事をしてもいいのでしょうか
このような無礼を行い、こちらのファミリーのボスがどのような反応をするか…」
「安心してください、僕がここのファミリーのボスです」
「…なんだって?」
マーモンは驚きながら男性をじっと見つめる。
…ということは、こいつがリボーンが依頼された抹殺対象…ということになるね。
見た感じ20代後半といったところ。よくもまぁこの若さでファミリーのボスを勤めているものだ。
しかし…さっき気絶する前にも思ったが、にこにことしていて逆に不気味さえ感じてしまう。
「…」
…僕の、嫌いなタイプだ。
「貴方をこちらに連れてきたのは1つご相談がありましてね」
そう言いながらマーモンの元へと歩みを進め、目の前へと立ちはだかる。
その表情は変わらずに微笑んでいる…が、その瞳に移るマーモンの姿をいやらしげに見つめていた。
「相談…相談とはいったい…」
その視線に吐き気を覚えながらもマーモンはその先の言葉を待つ。
もしかして、リボーンの存在に気付いて僕を人質にしようとしている?
そうなると、話は別だ。あいつの足手まといになってしまう。
そうなった場合、僕はこの場からすぐに離れてリボーンと合流を…。
「えぇ、実は貴方は僕が求めていた女性像にぴったりでしてね...
婚約をしていただきませんか?」
「...はぁ?!」
男性はギュッとマーモンの手を取り握りしめ、その口からは予想外な発言が飛び出してきた。
何言ってるんだ、こいつ。
「貴方のように性格は大人びているのに体がそれに伴わず成熟しきっていない方が好みでしてね
今日のパーティーに来ていただいている方々はどうも僕の好みではなかったのです
しかし、貴方の姿を人目見たときに恋に落ちてしまったのです
手荒な真似をしてしまったことは謝ります
ですがいかがでしょう、私の妻となっては...」
つらつらと自分に対する好意を伝えていくその姿。
その姿が、昔の記憶を呼び起こす。
"結婚してください"
しかし、その時よりもひどい嫌悪感が身体全体を駆け巡った。
「きもっちわるな、お前」
「えっ」
マーモンの発言に男性はピシッと動きを固めてしまう。
「人の好みに文句を言いたくはないけど押し付けるのはやめてくれないかい?
そもそも、だ
こんな手荒な真似をしといて"はい、喜んで"ってなると思ってるの?脳内お花畑かい?
悪いけど僕はお前なんて興味がないんだ、失礼するよ」
固まっている男性を他所にマーモンはその横を通りすぎて扉へと向かう。
しかし、いきなりぐるりと景色が反転してしまいそのまま床に叩きつけられてしまった。
「ッぐ...」
背中に走る痛みに表情を歪ませていると男性が上へと覆い被さってマーモンの両手を頭上へと拘束し始める。
こいつ、のほほんとしてるわりに素早いな...ッ。
「あぁ...そのように僕を罵る姿も素敵ですねぇ...
本当はこのような事はしたくありませんがしかたありません」
「ッい」
残念そうな口振りで話す男性はそう言うと胸ポケットから小型のナイフを取り出してマーモンのドレスの胸元をピッと切りつけ胸を露にさせる。
微かに胸へと刃が当たったのか痛みからビクッと身体を跳ねさせてしまう。
「すいません、傷つけるつもりではなかったのですが」
依然として笑顔の男性に思わず冷や汗が出てしまう。
男性はナイフについた血をペロリと舐めながらギラギラとした瞳でマーモンを見下ろす。
「抵抗はしないでくださいね?また貴方を傷つけたくはー...」
その瞬間、いきなり部屋全体の明かりが落ちる。
廊下からもざわめき声が聞こえてきて、その様子から建物全体の電気が落ちていることが想像できた。
「なんだ、これからが楽しみだっていうのに」
「ねぇ」
マーモンから視線を外して廊下へと顔を向ける男性にマーモンが声をかける。
「あぁ、気にしないでください
すぐに停電はおさま...」
そう言いながらマーモンへと顔を向け直すと、マーモンの微かに開いた口から触手が勢いよく飛び出していき男性の首へと巻き付いていく。
「がッ...」
苦しげな声をあげる男性を他所にマーモンはゆっくりと立ち上がり、男性は宙へと浮かぶ。
「あーぁ、せっかくあいつが買ってくれたんだけどね…仕方がない」
「う…ッあ…」
自分の胸につけられた傷をそっと指でなぞった後、マーモンはギロリと男性を睨み上げる。
その表情を見て、男性は"ひっ"と顔色を恐怖で真っ青にしていく。
「このドレスを傷つけた代償は大きいよ?
そうだなぁ...悪いけど...」
マーモンは男性の手から滑り落ちたナイフを拾い上げるとそっと首筋へと当てる。
「君の命で勘弁してあげる」
「や、やめッ」
パァンッ!!
→