お前に捧げる俺の( )
「…」
ヴァリアーアジト前…。
リボーンは車から出てくると運転手にそこで待つように声をかけ、扉を閉めるとアジトを見上げた。
今日はマーモンに頼んだ任務同行の日…。
金はきっちり払ってあるから心配はねぇ。
しかし、俺の任務にちゃんとついてくるのかどうか。
本当はあいつの女装用のドレスを当日に届ける予定だったが、急遽自分で用意する、と言われた。
まぁ、あいつの服のサイズなんてわからねぇしそれはそれで助かった。
だが、あいつが自分の金で用意する、なんて考えられない。
「…それにしても遅いな」
自分の腕につけてある腕時計へと目をやる。
迎えに行くと伝えた時間は16時。今の時間。
ここから会場まで2時間近くかかるからなるべく早く出たいんだが…。
「やぁ、待たせたね」
不意に背後から聞こえてきたマーモンの声にリボーンは振り返る。
「おせぇぞ、俺を待たせるなんていい度胸…」
悪態をつくも、そこには黒色のドレスを着たマーモンが立っておりリボーンは言葉を失った。
「それは悪かったね、幾分女装なんてしたことないからドレスの着方に戸惑ってしまったし、メイクにも時間がかかってしまってね
あとこの靴?パンプス?が歩きづらいったらありゃしない」
まだ任務先にもついていないのに疲れた表情を浮かべているマーモンはリボーンがなにも言わないことに疑問を浮かべた。
「ねぇ、聞いてるのかい?」
「…あぁ、聞いてる聞いてる」
マーモンに声をかけられてハッとしたリボーンは返事をするとジロジロとマーモンを見始めた。
奴の普段のローブ姿しか見たことないが…明らかにシルエットが女性のそれに見える。
胸の膨らみに、若干のウエスト…どういうことだ?
こいつ、男のはずじゃなかったか?
「…馬子にも衣装だな
この胸とかどうなってんだ?」
膨らんでいる胸部に目がいってしまい、リボーンはそっと触れてみる。
"ふに"と柔らかな感触が指へと伝わりリボーンは首を傾げた。
「おいおいなんだよこれ、本物の胸みたいじゃねーか」
「…まぁ、本物だからね」
胸に触れたリボーンの手から逃れるようにマーモンはサッと後ろへ一歩下がった。
マーモンから放たれたその予想外の言葉にリボーンは驚いて顔をパッと上げる。
「は?本物?お前女だったのか?」
「そんなわけないだろう?
ヴェルデに頼んで性転換の薬を頼んだんだ
まぁ、頼んだと言っても君からこの任務の同行を頼まれてから作ってもらったんだけどね」
「あぁ、なるほど…そういうことか」
その言葉にリボーンは納得をして再度マーモンの姿を頭から爪先まで眺める。
そうか、それなら納得だ。
第一、俺は赤ん坊になる前…こいつと初対面の時に服を剥いで胸がないのは確認済み。
流石に付いてるかどうかの確認は出来なかったが。
(風が俺の事を抑えつけてマーモンはテレポートで逃げた)
「お前...俺がいうのもなんだがそこまでやらなくてもよかったんじゃねーか?
もともとお前は俺達みたいに男らしい体つきじゃねぇんだしよ」
「そうだけど念のためさ
それに、頼まれた依頼は完璧にこなさないとね
任務にかかる時間は?」
「ここから会場まで2時間、パーティーが始まるのが夜10時...0時までには終わるだろう」
「そう…まぁ、大丈夫かな
少し体を慣らすために数日前から薬を飲んでいてね
試作段階ということで今日明日で切れることになってるんだけど
それなら余裕で薬が切れるまでにできそうだね」
「しっかし、お前…胸もう少し盛るぐらいしろよ
ある程度はあるようだがな」
マーモンの胸を見ながら自分の愛人達を思い出す。
自分の愛人はスタイルがよく、出ている所は出ているし、締まっているところは締まっている。
だが、マーモンはある程度はあるがその凹凸が無いに等しい。
大人の色気というのもあまり感じない。
元々身長も高くねぇし、筋肉もそんなについていなかった。
それが反映されているのもしれねぇ。
「そんなもの必要ないじゃないか
なんだい?僕じゃ君の恋人に似合ってないっていうのかい?」
少しムッとした表情をした後にマーモンはリボーンの顔を覗き込んで口元に笑みを浮かべる。
その表情を見たリボーンは少し見つめた後にニッと口角を上げながら帽子を深くかぶり直した。
「まぁ...そうだな
スタイルはよくはねぇが、及第点といったところだな」
「スタイルは諦めてよ、もともと君達みたいにスタイルはよくないんだ
身長も低いしね」
「性格は可愛げがないが、見た目は可愛いからいいんじゃねーの?」
「嬉しくないなぁ、それは」
「あと、一つ疑問なんだが...」
先程からこちらに痛いほど刺さる視線。
リボーンはその視線の先にいる門の影に隠れながらこちらをジッと真顔で見ている風を一瞥した。
「あいつ、なにしてんだ?」
「さぁね、あいつが来る前にさっさと行こうとしたのに今日は朝から僕の所に来てたから今少しめんどくさいことになってる
遅れたのはそれも理由の一つだよ」
「朝からだ?お前ら同棲でもしてんのか?」
「馬鹿言うなよ
ただ、ほぼ毎日不法侵入しているだけさ」
「…」
なんつー反応していいのか分からねぇな。
そもそも、なんでこいつこんな平然と答えてんだ?
風の事は嫌っていたと思うんだが…俺の認識が間違っていたのか?
「…まぁ、あいつがお前の所に来ていることは置いておくとして
お前が女になっていることは知ってるのか?」
「知ってるよ、僕が薬を飲んだその日に来て裸見られてるし」
「あ?裸?
お前らやっぱり付き合ってんじゃねーか」
「違うよ、僕がシャワー浴びて部屋に戻ったらあいつがいて見られただけ
ちなみに、このドレス一式用意したのも風
本当は君が買ってくるって言ってたけど、それを伝えたら買ってきてね…たった一度着るだけだと言うのに」
「…」
…そのわりには、嫌そうにしてねぇじゃねぇか。
めんどくさそうにいいながらも少し満更でもなさそうなマーモン。
リボーンはそれを見て"ふぅん…"と小さく呟いた。
「仕事がお早いこったな」
「サイズもぴったりで正直引いてる」
「...リボーン」
黙ってこちらを見ていた風がやっと口を開き、二人へと歩み寄ってくる。
「貴方にマーモンを預けるのは非常に納得していないのですが、絶対に手を出さないでくださいよ?」
その表情は真剣そのもので、断わった途端にすぐに手が出そうなほど圧を出している。
「..........」
「なんですかその沈黙は、返事は"はい"か"イエス"でお願いします」
「拒否権ねぇだろ、それ
安心しろよ、女のうちは手出さないからな」
リボーンは両手を軽く上げながらクイッと顎でマーモンを指した。
風はジッとリボーンを見つめた後に安堵の息を漏らす。
「それなら安心です」
「おい、こいつ今"女のうちは"って言ってたよ?
それでなんで君は安心できるのさ」
「孕まされる心配がないからです」
「孕ま...?!」
「まぁ、孕ませちまえばこっちのもんたがそれだと面白くねぇし女は傷つけねぇ質なんでな
そこだけは信用しろよ
ほら、行くぞマーモン
いつまでもこいつに構ってたら時間なくるしな」
「そうだね…っと」
リボーンは後部座席の扉を開きマーモンに手を差し出す。
その手を取ろうとしていたマーモンだったがピタリと動きを止め、何かを思い出したかのように風へと振り向いた。
「風」
「どうしました?」
マーモンはタタッと風の元へと近寄るとソッと顔を近付ける。
その高さに合わせるように風は身を屈めた。
「約束、守ってね?」
「…ふふ、わかっていますよ
気をつけて行ってきてくださいね?」
いつもと変わらぬマーモンの様子に風は微笑みながら頭に手を伸ばして優しく撫でた。
「おら、行くぞマーモン」
「あぁ、わかった…待たせてすまないね」
リボーンの元へと戻っていくマーモンを少し心配そうに見つめる風を他所に、2人は車の中へと乗り込んだ。
2人が乗ったのを確認した運転手は車をゆっくりと前進させ、だんだんとスピードを上げていきヴァリアーアジトから離れていく。
「...お前、なんだかんだ言って風のこと信用してるよな」
先ほどの2人のやりとりを見ていたリボーンが不意に口を開くと、マーモンはきょとんとした表情をした。
「ムム、信用はしてないさ
ただ、あいつは僕が嫌がることはしないしお願いは聞いてくれるから」
「それが信用してるって意味だろうよ
なにをさっきは話してたんだ?」
「…」
リボーンの問いかけにマーモンは少し黙り込んだ後、窓へと視線を向けながら口元に笑みを浮かべた。
「…内緒だよ、僕とあいつのね」
「…ほぉん」
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