気になり始めた今日此の頃
「ちょっと待ってくださいね?」
「あ、あぁ…」
自分の袖を捲り上げる風をマーモンは少し気まずそうに視線を逸らした。
…僕は、一体なにを言ってるんだ…。
いきなり"腕を見せてほしい"だなんて…。
自分の先程の発言を振り返り、あまりに唐突な発言に内心ため息をついてしまう。
別にこいつの筋肉に憧れとか、そういうのはない。断じてない。
こいつが運動しろだの筋肉つけろだの言うから"ならお前の筋肉見せてみろ"とかそういう意味しか無くて…。
「…」
腕を捲る様子をチラリと見てみると、自分の細い腕とは違い、普段は隠されているため分からないが、筋肉のついた太い腕が視界に入り、バッと勢いよく顔をそらしてしまう。
本当に、筋肉が羨ましいとか、そういうのはないけど…ないんだけど…。
…こいつの、この腕に抱きしめられるのは…嫌いじゃないんだよな…。
初めて抱き締められてから妙な安心感、というかなんというか分からない感情が湧き上がってきて、ベルやルッスーリア、スクアーロにも腕を見せてもらって抱きしめてもらったりしたけどなんか違うってなって…。
そもそも、今見てみてもやっぱり武闘家なだけあって鍛え方が段違い。
かといって、ルッスーリアみたいにムキムキってわけじゃない。
抱きしめられ心地も全く違うし…。
筋肉フェチにでもなってしまったのかと思ったけど、筋肉だったらなんでもいいというわけではないらしい。
「あの、マーモン」
「ッ、え、な、なに?」
悶々と考え込んでいると風に名前を呼ばれハッとしながら返事をして顔を向ける。
すると、なぜか風は上半身裸になっており、突然の事に思考が停止し、その後にボンッと顔に熱が集まった。
「な、なんで裸になってるんだよ!」
マーモンは風の筋肉が気になりながらも両腕で自分の顔を隠してなるべく見ないように努めだす。
「いえ…袖が少し長めなので捲ってもずり落ちてきてしまうのでこの方が楽かなと」
「いいから服着て!」
「貴方が腕を見ましたらちゃんと着ますよ?」
「うむむむ…」
"どうぞ"と差し出された右腕をマーモンは唸りながら顔を隠していた腕を少しだけ退かして顔を覗かせる。
「…」
「そんなに私の腕に興味がおありですか?」
「腕…うん、まぁ…そうだね…腕…」
風の声かけもろくに聞かず、マーモンは風の腕を見た後につられて上半身へと視線を移す。
え、待って。
僕、あいつのあの身体に抱きしめられてたの?
今までなにも気にせずに触れられてたけど…。
なんか…。
"マーモン"
「あの、マーモン?」
「?!」
ぐるぐると頭の中で色々な感情や思考が巡り、いつの間にか自分の顔を覗き込んでいた風に気付いてびくっと大きく身体を跳ねさせてしまう。
それに風もつられて驚いたのか瞳を丸くしていた。
「大丈夫ですか?顔、赤いですが」
いつの間にか顔が真っ赤になっていたのか、風は心配そうに顔へと手を伸ばしてジッと見つめだす。
身体、近い…ッ!
「まッ…ちょ、今、ッ!」
「体調悪いのであればベッドへとお運びしますよ?
モンブランはまた調子が良くなった時にでも」
「運…ッ?!い、いやいい!自分で行ける!」
「なにを言いますか、やけに顔が赤いですし呼吸も乱れていますよ?」
「それは君が…」
「…?私がどうしました?」
言葉がうまくまとまらず、自分でもなにが言いたいのかわからなくなってしまう。
風はマーモンの言葉を促すように問いかける。
それにマーモンは"うぅ"と言葉を詰まらせながら顔を逸らした。
「き…」
「き…?」
「…君の裸…見るの…なんか、恥ずかしくて…」
「…え?」
「き、君の裸何回か見てるけど…君の、裸見て、それに抱き締められてるって思ったら…その…恥ずかしさが急にこみ上げてきて…君の顔、今、直視できない…」
「…」
シュウウウと顔から煙が出てしまうほど、顔が熱い。
自分の今の発言が、どれだけ恥ずかしい事なのか分かっているからなおさら。
こんな言葉、言うつもりはなかったのに口から勝手に出てしまった…。
どうしよう、変態だと思われ…。
自分の両頬を手で押さえながら黙り込んでいる風に視線を向けてみる。
すると、ぽかんとした表情を浮かべており、マーモンの視線に気付いた風は口元に笑みを浮かべたと思ったら意地悪気な表情になった。
あ、この顔は…やばい。
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