気になり始めた今日此の頃


「どうしました?」

「いや、どうしましたじゃないから
君、前までそういう事しなかったろ?」

きょとんとする風に"とりあえず座って"と自分が座っているソファーの隣をポンポンと叩き、座るように促した。
風は手に持っていたケーキの箱を一旦キッチンへと置くと、大人しくマーモンの隣へと腰掛けた。

「君、リボーンか誰かに変な事教え込まれたわけじゃないだろうな」

「変な事って…そんなわけないじゃないですか
それに、以前もこうした事はあったでしょう?」

「…?あったっけ?」

「ありましたよ、ほら…水族館の時」

"忘れてしまったんですか?"と膨れっ面の風を横目にマーモンは思い出すように顎に手を当てて考える。











水族館…水族館…。
確か、あの時は…。











"…そこまで想ってくれているのならば、もう少し、私も攻めてみてもいいかもしれませんね"











「…あぁ…確かにそんな事あったね」

水族館の時の出来事を思い出したマーモンは恥ずかしさからかススッと風から視線を逸らした。

「でしょう?
あの時以降、貴方に迫られることはあれど、自分から迫るタイミングがありませんでしたので」

「変な濡れ衣はやめて
君に迫った事なんて一度も…」

そこまで言いかけて、マーモンはハッとして言葉を止めた。











"僕を、優先してよ"

"風、もっと、触って" 

"うん、全部…僕の体…頭も、顔も…全部"










「…マーモン?」

「…うん…そうだね…
僕が迫ってたね…」

その時の光景を思い出し、マーモンは考える人の様なポーズをしてズゥゥンと落ち込み始める。

「あれはあれで良い思い出…というか…今思い出しても…ふふ、興奮してしまいます」

「やめて、興奮しないで」

風も光景を頭に思い浮かべ、だらしのない表情で浸っている。
それをぴしゃりと咎め、マーモンは"はぁ"と疲れたようにため息をついて顔を上げた。

「…それで?」

「なので、これまで以上にスキンシップを増やそうと思いまして
マーモンにたくさん触れようと決意しました!」

なんの宣言だ、それ。

あまりにも純粋な瞳で意気込む様子に、マーモンは呆れた表情をするしか出来ない。

「いらん決意だな、それ…
君、ヴェルデに僕の扱い方云々聞いてたんじゃなかったの?」

「まぁ…扱い方と言いますか、あまり過度に触れたりしないようにとは言われましたが」

「なんでそれを聞いてもなお触れようとするかな…
僕が嫌がるって分かってるだろう?」

「え、ですが…」

風は瞳を細めながら口元に笑みを浮かべると、マーモンの両手を優しく自分の手で包み込み、顔を近付けた。
その様子をマーモンは不思議そうにしながら風を見つめた。

「なに?」

「…ふふ、やはり…」

特に反応を見せずに首を傾げるマーモンを見て、風は嬉しそうに頬を緩めた。
その言動に尚更意味が分からなくてマーモンは戸惑う。
風は次に手に触れていた手をマーモンの背中へと回して優しく抱きしめる。

「ッ?ちょっと、ねぇ、なんなのさ君は」

「先程言ったではないですか
"貴方にたくさん触れる"と
それをただ実行しているだけです」

「…あぁ、なるほど…」

それなら風の行動には納得がいく。
最近、こいつに抱き締められたりしていたから嫌に慣れちゃってるな…。

マーモンは納得したように声を漏らした後、風の背中に手を回してポンポンとリズム良くあやすかのように叩き始める。

「マーモン」

「ム?」

「貴方、気付いていませんか?」

「…気付くって、なにをさ」










「貴方、私に触れられるの…嫌ではないでしょう?」










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