とある科学者と術士の話
「…まったく、くだらん事に巻き込まれたものだ」
ヴェルデは帰路につきながらため息を吐き、先程の風との会話を思い出す。
「…」
"涙を流した状態でなにかを小さく呟き、反応を見せなかった"
確かに風にはそう言った。嘘偽りはない。
その"呟き"については、なにも伝えなかったがな…。
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『う…ッ…ひ…く…』
『…』
これはどういうことだろうか。
寝室へと入り、目に飛び込んできたのはマーモンが泣きながら眠っている姿。
ヴェルデは今の状況が理解できず、マーモンのそばへと近寄り顔を覗き込んだ。
瞳は閉ざされており、涙だけが流れている。
よくよく観察をしてみると、目元が荒れているのがわかった。
いつも私の方が先に眠っていて気付かなかったが…。
『おい、起きろマーモン』
起きているのかと思いながら声を掛けるも起きる気配はない。
泣きながら眠っている。それがわかった。
…別にこのまま放っておいてもいいのだが、今後の研究資金を集められないとなった時が困るな。
なにか、いい案は…睡眠薬…今から作るとなると時間がかかるな。
泣いている、ということは悪夢を見ている可能性もある。
ならば、なにかリラックスできる状態に…。
『ふ…ぉ…』
『?』
ふとなにかを呟いていることに気付き、耳を口元まで近付けて聞いてみる。
『…ッ…ふぉ…ん…』
『…』
呟きが聞こえ、ヴェルデは軽く目を見開いた後にふと瞳を伏せる。
あぁ、こいつは…。
伏せていた瞳をゆっくりと開き、ヴェルデはマーモンの手に自分の手を優しく重ねた。
『…安心しろ…そのうち、会えるだろう』
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「…まったく…」
過去の事を思い出し、ヴェルデは再度ため息をついた。
「本当に、めんどうなことだ」
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