とある科学者と術士の話


「それじゃ、お前等気をつけろよ」

翌日、チェックアウトの時間になりホテルから出たリボーン、コロネロ、スカル、ヴェルデ、風、そしてマーモン。
リボーンはそう皆に声をかけ、コロネロとスカルが帰路に立つのを見送った後に少し体調が悪そうなマーモンへと近付いた。

「おい、大丈夫か?」

「あぁ…うん…酔いがまだ冷めてなくて…」

頭ががんがんと割れそうな程、痛い。

リボーンからの声かけにマーモンは頭を押さえながら答えると、リボーンは呆れた表情を浮かべる。

「そんなに飲んだのか?」

「まぁ…ちょっと理由があって」

「理由…」

チラリとリボーンはマーモンの隣にいる風に視線を送った。

「無理やり飲ませてませんよ?」

「だろうな、大概こいつのヤケ酒だろ
未成年が飲んでんじゃねぇよ…ったく」

「ちゃんと成人済…はぁ…もう僕帰る…」

リボーンの言葉に言い返す気力もなく、マーモンはふらりとしながら歩きだす。

「送りますよ、マーモン」

「送るって…子どもじゃないんだから」

風に声をかけられマーモンは立ち止まり振り返りながら不服そうに言う。
風は近寄りながら"まぁまぁ"と宥めながらも、なにか思い出したのかヴェルデへと顔を向ける。

「あ、でもその前に少し時間をください
ホテルのロビーで待っててもらって」

「僕頼んでないんだけど…まぁ、わかったよ
リボーン、昨日言っていた件について少し話そうか」

「お前に時間があるならそうするか
お前の事だから、俺の連絡無視しそうだし」

「お金が絡んでいるからそんな事しないよ」

「絡んでなかったらするのかよ」
 
ホテルの中へと入っていくリボーンとマーモンの背中を見送る風は、姿が無くなるとまだ残っているヴェルデへと近付いた。

「私に話とは何だ
こちらとしてはもう帰りたいのだが」

「まぁまぁ、すぐ済みますので」

「…少しだけだぞ」

風の様子からただならぬ雰囲気を感じ、ヴェルデは小さく息を漏らしながら近くにあるベンチへと腰掛けた。

「なにを聞きたい」

「…夜、マーモンとの過去についてお話を聞いたのです」

「…あいつも話していたのか」

「"あいつも"?」

「気にするな
それで、その話を聞いたのであれば私とあいつの関係はもう分かっただろう?
それならば、今後私に変な詮索をしないでもらおう」

「いえ、そういうわけにはいかないのです
マーモンから聞けなかったことがありまして…」

「あいつから聞けなかったこと?」

「えぇ、それを聞かない限り、貴方を帰すことが出来ません」

「…」

真剣な表情の風を見て、ただ事ならぬ用件だと感じたヴェルデの表情も引き締まる。
風は少し間を置いてから口を開いた。










「赤ん坊の時、マーモンと一緒に寝ていたというのはどういうことですか?」










「…は?」

風の口から発せられた言葉を理解するのに少し時間がかかってしまい、ヴェルデは間抜けな声を漏らしてしまう。

「同棲している時に添い寝していたんですよね?
なぜそういった経緯に陥ったのかを聞いているのです」

「…」

言葉とは裏腹に真剣な眼差しを向けられ、ヴェルデは呆れたようなめんどくさそうな表情を浮かべた。

「…聞いて損したな」

「え?」

「いや、いい…なんでもない…
マーモンめ、余計な事を言ってくれたな…」

額に手を当てながら深いため息をヴェルデは吐くと、風を見上げた。

「本来は同じ部屋だったが別々に寝ていた
私がベッドで、あいつがソファー
"新しくベッドでも買うか?"と問いかけたこともあったが、あいつは"金かかるから嫌だ"と言ってきかなくてな」

「あぁ、まぁそうでしょうね…マーモンらしい」

「しばらくはその状態だった
しかし、ある日…私が所用で帰りが遅くなった時があった
静かに部屋に入るとあいつは寝ており、私も早く寝ようとしたんだ
しかし、よく耳を澄ますと小さいながらも泣き声が聞こえてきた」

ヴェルデはその時を思い出すかのように瞳を細める。

「泣き声?」

「あぁ」










「あいつ、寝ながら泣いていたんだ」










「…」

「寝ながら泣いていた、と言ったが本当にそうだったんだ
声をかけても眠っているのか、涙を流した状態でなにかを小さく呟き、反応を見せなかった
どうしたものかと思い私は狼狽していた
私が人の泣き止まし方を知っている訳が無い
頭をフル稼働させて考えた結果、なにを血迷ったのか隣で横になりあいつの手を握った
自分でもなぜそうしたのかはわからん
だが、それが功を奏したのかマーモンは泣き止んだのか涙が止まり、そのまま朝までぐっすりだった
あいつ、寝る時まで顔を隠していたからわからなかったがその日顔を初めて覗いたが目元が荒れていた
と、いうことはこれが初めてではない、と察したんだ
それ以降、あいつをなんらかの理由をつけて同じベットで寝かせ、手を握って眠る
そういうルーティンになってしまったという話だ」

「…そのような事が…」

「だが、あいつは自分自身で気づいている様子はなかった
夜、眠っている時に泣いていることにな
1つ腹ただしい点といえば、共に寝るように言った時に"え、君一人で寝れないの?"と笑われたことだな」

「…やはり、そのようになってしまったのは…」

「おそらく、心身の問題だろう
理不尽に呪われて、赤ん坊にされ…それまで何者にも頼れずに独りでなにもかもをしてきた
それがあいつの精神状態を壊したのだろう」

「…はぁ…なるほど…」

風は息を吐き出すと悔しそうに唇を噛み締める。

「…私がいれば」

「お前がいても大して変わ…いや…」

ヴェルデは言いかけるもふと風を見たあとに言葉を続けるのをやめて立ち上がり風へと背中を向けた。

「話はここまでだ
私も、色々とやるべきことがあるのでな」

「そうですか、すいません引き止めてしまって」

「まったくだ
マーモンによろしく伝えておいてくれ」

「ヴェルデ」

帰路につこうと足を一歩踏み出した所で風に名前を呼ばれてヴェルデは振り向いた。










「…あの時、マーモンと共にいてくれて…ありがとうございます」

「…互いに利用する理由があっただけに過ぎん」










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