とある科学者と術士の話
「…私としては…呪われた事よりも、貴方が私の目の前からいなくなった事のほうが、この世の終わりだと思いました」
またこのような弱音を吐くと、マーモンが呆れてしまうかもしれない。
以前、私に対して…マーモンは誓ってくれたというのに。
"君が悲しそうな顔をするなら、僕の意思で勝手に消えるなんて事はないから安心して"
「…はぁ…」
「…大丈夫?」
「いえ、すいません…
私も貴方と同様に、あの日の事を思い出してしまうとどうもだめなようです
貴方がいなくなってしまった時のことを思い出してしまって…」
今の自分の状態が情けなさすぎて思わず苦笑してしまう。
すると、風の頬にふわりと暖かなものが触れられ、驚きながら顔を上げるとマーモンの手が触れているのに気付いた。
「マーモン…?」
「…」
「マ」
表情1つ変えずに頬に触れているマーモン。
風が名前を呼ぶも返事がなく、再度名前を呼ぼうとするとふに、と頬を軽く摘まれてしまった。
「ちょ、あ、あの…」
むにむにと摘み続けるマーモンに驚き、理解が追いつかない。
「…ふふ」
摘み続けて数秒、マーモンの口から笑いが漏れ出た。
「変な顔」
「貴方がしたんじゃないですか、もう…」
口元に笑みを浮かべながら言う様子につられ、風も思わず頬が緩んでしまう。
それを見たマーモンは"もう大丈夫そうだね"とパッと頬から手を離した。
「先程からどうしたんです?
普段私にこのような事はしないのに…」
「君が元気ないからね、なんとなく」
「…マーモン」
「ム、なに…っと…」
風はマーモンに向けて手を伸ばすと、そのまま引き寄せて腕の中へと収めた。
いつもなら抵抗を見せるマーモンだったが、大人しく抱きしめられている。
「君こそどうしたんだい?」
「…いえ、貴方の話を聞くつもりが逆に気を使わせてしまったようで」
「別に、気なんて君に使うわけないだろう?
ただ、僕がしたかったからしてるだけさ
たまには君の変顔でも見てやろうとね」
「もう、意地悪なんですから」
"ぷくく"と先程の風の顔を思い出し笑う様子に風は唇を尖らせた後、愛おしそうにマーモンを見つめた。
その視線に気付いたのか、マーモンはふと風から顔をそらすようにポフリと風へと寄りかかる。
「もう過去の話はやめよ
君も嫌だろうし、ヴェルデとの事は話したしね」
「おや、私としてはもう少し聞きたいところですが」
「ムム、さっきまで過去の事を聞いて元気なくしていたくせに」
「確かにそうですが、聞く内容は違います」
「…?他に何か聞きたいことでもあるの?」
「えぇ、それはもちろん」
「ムッ」
風はにこーと微笑みながらマーモンへと顔を近付けると、驚きからマーモンが少し後ずさる。
「ヴェルデと共に暮らしていたのですよね?」
「あ、あぁ…そうだけど」
「1つ、屋根の下で…貴方とヴェルデ、2人きりで」
「ちょっと、圧が強い、圧が」
風の気迫に気圧されてかマーモンは自分と風の間を手で遮ると、風はその手首を掴んで覗き込むようにマーモンを見つめた。
「どのような生活をしていたのかが気になりまして」
「どのようなって…別に普通だけど」
「普通とは?」
「そりゃ、ここでの生活と変わらないよ
任務行って、研究の手伝いして、ご飯食べて、ヴェルデと一緒に寝て」
「"ヴェルデと一緒に寝て"?」
「うん、ヴェルデと一緒に寝て」
その一言を聞いて思わず風の動きが止まってしまう。
「…い、一緒の部屋という意味ですよね?」
「いや、一緒のベッド」
「…」
「…な、なんだよその顔…別に赤ん坊の姿だしいいだろ」
「…わ…」
「え、なに…って、顔近い近い」
ガシッとマーモンの両肩を掴んで微かに体を震わせながら言葉を絞り出すと、マーモンは頭に?を浮かべだす。
「私だって、赤ん坊の貴方とベッドを共にしたことないのに…!」
「そもそも、赤ん坊の君と会うつもりなかったからね」
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