とある科学者と術士の話


「…まぁ、そんなこんなで僕はヴェルデと生活を共にすることになったのさ」

一通り話し合え、酔いが少し冷めてきたのかマーモンは上体を起こしてソファーに寄りかかりながら言う。

「あの時は疲弊していてよく考えずにヴェルデと一緒になったけれど、選択はやはり正解していたと思う
そうじゃないと、今頃僕は死んでいたかもしれないし」

「…」

テーブルの上に置いてあるペットボトルを手にし、水分補給をしている様子を風はジッと見つめていた。

…思った以上に….。

「…またそんな顔をして」

「え?」

一口飲んだ後にふと風に顔を向けたマーモンが苦笑を浮かべているのを見て、風は声を漏らしてしまう。

「そんな顔、とは?」

自分の顔が今、どのような顔をしているのか検討がつかない。
しかし、この言葉をマーモンが言う時は、大抵私らしくない顔をしているのでしょう。

「君は、毎回毎回僕の話を聞きたがるくせにそんな顔をするから話ししづらくなってしまうよ」

「…すいません
貴方を困らせるつもりはなかったのですが」

困ったように微笑むと、マーモンはジッと風を見つめた後に小さく息を漏らす。

「思った以上に…貴方が苦労をし、孤独を感じていたのだな、と思いまして…そう考えたら…」

「…孤独…」

風のその一言をマーモンはポツリと繰り返す。

「孤独…孤独かぁ…」

「どうしました?」

"うーん"と腕を組み顔を少し傾けながらマーモンが考え込むのを見て風は問いかける。

「いや…うん…君に言われるまでわからなかった…」










「僕…孤独、だったんだなぁ…」










マーモンがしみじみと言う様子に風は軽く目を見開いた。

「いや、その時は生きる為、呪いを解く為に必死だったからそんな事考えてもいなかったけど君に言われてよくよく考えるとそうだったのかなって
元々、他人と関わる事自体苦手だったから基本的に1人でいたし…1人で何かをするっていうのが僕の中では普通だったから尚更かも」

「…マーモン」

「でも、それで君が悲しそうな顔をする必要はないよ
僕は自ら、君達の目の前から消えて協力を仰ごうとしなかった
その結果なだけなのだからね」

「…こういうのはなんですが…
どんな理由であれ、貴方が1人にならなかった
その点については、ヴェルデに感謝をすべきですね」

マーモンの手に自分の手をそっと重ねる。
少し冷たいマーモンの手が、自分の体温でだんだんと暖かくなっていくのを感じて瞳を閉じる。

「…風」

「…本当に…」

「…む?」

「…ほんっとうに悔しいですが…」

「…そこまで悔しがること?」

言葉に力が無意識に入ってしまい、マーモンはいつもの風の様子に呆れたような表情を浮かべだす。

「当たり前ですよ、私が貴方の心境に気付いていれば一時も離れることもなく、貴方を見失うことはなかったのですから…」

閉じていた瞳をゆっくりと開き、唇を噛み締めながらその日のことを風は思い出した。

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『ごめん、少し1人にさせて』










赤ん坊に姿が代わってしまい、一旦いつもの館へと戻った後にマーモンが言った言葉。
流石の私も気が動転してしまい、マーモンに気をかけることができなかった。
リボーンやヴェルデ達と情報交換をして数十分。

『あいつ、遅くねぇか?』

バリンッ!

『!』

時計を見ながらリボーンが言った途端、遠くの方からなにかが割れる音が聞こえて私達は音のする方へと向かった。
聞こえた場所はマーモンがいるであろう部屋。

嫌な予感がした。

『マーモン!』

名前を呼びながら勢いに任せて開けた扉。
部屋の中には割れて粉々になってしまっている鏡。

ただ、それだけ。
それだけしか無かった。










マーモンの姿は…痕跡は…なくなっていた。

それを悟った瞬間、サァァと私の目の前が真っ暗になった気がした。










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