送る詩
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ガラッ……
ルンペンは崩壊した瓦礫の下から現れる。
『……静かだな』
黒衣の埃を払い、割れたメガネをかけ直す。
作戦は終了したのだろう、やけに見晴らしがよくなったエニエスロビーは静かだった。
『……』
ルンペンはバスターコールでも無事だった1本の樹に手を置く。
『状況を教えてほしい』
そう言うとルンペンは目を瞑って耳を傾けた。
『そうか……完敗か』
目を開けたルンペンはため息をつく。改めて辺り見渡した。
『!?』
ルンペンはハッと樹へ振り返る。
『ルッチがこの近くにいる!?』
ルンペンは驚きの声を上げた。そして樹にどこに?っと尋ねる。
『………第一支柱だな。ありがとう!』
【戦外報告書】
ルンペンは破壊された第一支柱へ歩を進めた。気配を感じない。
『ルッチ、いないのか?』
「ポッポー!!」
『ハットリ…!!』
ハットリが飛んで来た。ルンペンは手を差し出す。ハットリはその手に乗った。
「ポッポー」
『ケガはないか?』
ハットリの羽根を広げ怪我がないかチェックする。
「ポッポー!」
『大丈夫だな。ルッチは一緒か?』
「ポッポ!」
『よし案内してくれ』
ルンペンはハットリの案内で、無防備な姿で倒れるルッチを見つけた。
『おいルッチ、しっかりしろ』
「……」
『ルッチ!』
ペチンと頬を軽く叩く。反応は認められない。
バタバタバタ…!!
『!』
足音が聞こえた。しかし仲間の足音ではない。ルンペンは耳を顰めると声が聞こえた。
「ロブ・ルッチはここにいるハズだ!!」
「作戦失敗の容疑が掛かっている」
「探せ!!!」
『……。ハットリ、こっちに来い』
ルンペンは小声でハットリを呼んだ。飛んで来たハットリが肩に乗ったのを確認すると、ルンペンはルッチを抱え目を瞑る。
『静かにしてろよ。“黒の羽根(シュヴァルツ・ペルデ)”…』
バサッとルンペンの背中から黒い羽根を模したカーテンが現れた。
そのカーテンでルッチを自分ごと包む。包まれた瞬間、2人は姿を消した。
少し遅れて海兵達が到着する。
「少将、ロブ・ルッチがいません!!」
「何!?逃げたのかもしれん。辺りを探せ!!!」
「「「はっ!!!」」」
『……』
海兵達に見つからないように息を潜めていたルンペンは、抱えたルッチの様子に深刻な表情になった。
『(殺気を出した奴が近くにいるのにピクリともしない…まずいな)』
「あっちを探すぞ!」
「「「はっ!!」」」
『……』
海兵達が離れて行く。ルンペンは海兵達の気配が完全に消えたのを確認してからルッチの頭をポンポンとあやすように叩いた。
『おい、ルッチ。悪いが今回はおれもボロボロだ』
「……」
『それにあの追っ手から、お前を守らないといけないしな』
ルンペンはまた目を瞑る。
『とりあえず、3分の1は請け負ってやる。だから、死ぬなよ。―――“慈悲の羽根(メルシフル・ペルデ)”』
ピカッーとルンペンとルッチの身体が光る。その光が消える時にはルッチの顔の血色がほんの少し良くなった。
『……がはっ!!』
光が消えた後、ルンペンは血を吐く。
「ポッポー!」
『大丈夫だ、ハットリ』
「ポッポ…」
『それより3分の1でこのダメージ…。ルッチが危険だ』
頭を抑えながらも、ルッチを支えるルンペン。
『どうにかして、ここから出ないと…』
パカッ…
『!』
音がした。まるで空気がドアになって開くような……。
「ルッチ…?どこだ?」
『ブルーノか……?』
仲間の声が聞こえた。ルンペンはカーテン越しに声を掛ける。
「ルンペン!無事だったのか!!どこにいる?」
『ここだ』
バサッとカーテンを開く。ブルーノの目の前に荒く息を吐くルンペンと、ルンペンに抱えられたルッチが現れた。
「ルンペン、ルッチ!」
ブルーノが駆け寄る。
『ハァ……ブルーノ。無事か?』
「ああ。なんとかな」
『なんとか?辛いんなら…ハァ…“もらって”やるぜ』
「死にそうな顔した奴に言われたくねェな」
ブルーノはそう言いながらルンペンに手を差し伸べた。
『ハッ。おれは簡単には死なねェよ。それよりブルーノ、ルッチを頼む。かなり危険だ』
「!わかった」
ルンペンはブルーノにルッチを渡す。ブルーノはルッチを抱えた。
『他は…どうした?』
「合流している。お前らで全員だ」
『そうか』
ルンペンは安堵の表情を浮かべる。ブルーノは嬉しそうだなと言おうと思ったが、後が不機嫌になるので言うのをやめた。
「ルンペン、お前は歩けるか?」
『大丈夫だ。それよりさっさと“空気開扉(エアドア)”で連れてけ』
『本当に全員か。しぶとい奴らだ』
「はは。お前も人のことは言えんじゃろ」
ブルーノの空気開扉(エアドア)から出て来たルンペンは悪態をつく。カクは笑った。
『……まぁな。?おい…カリファ、なんだその格好は?』
布に身を包んだカリファにルンペンは尋ねる。
「フフ…秘密」
『?そうか、まぁなんでもいいが』
ルンペンはそう言うと黒衣を脱ぎ、カリファに渡す。
「?」
『それじゃ動きにくいだろ』
「ありがとうルンペン」
「おい、ルンペン!ルッチはどうなんだ?」
ジャブラが尋ねた。ルンペンは怪訝な顔をする。
『おれがわかる訳ないだろう』
「なんでだ?お前、医者じゃねェか」
『はぁ…ジャブラ、何度言ったらわかる。おれは樹木医だ。人間の医者じゃない』
「あん?木も人もおんなじだろ」
『樹と人を一緒にすんなっていつも……っ!!』
ルンペンは肋骨を抑えた。
「ルンペン!?」
黒衣を着たカリファが驚き駆け寄る。ルンペンはそれを手で断った。
『大丈夫だ、カリファ』
「どうしたんじゃ?」
地面に座ったままのカクが心配そうに尋ねる。#ルンペンは呼吸を整えてから言った。
『……さっきルッチのをもらったんだが、思ったより重くてな』
「もらったって!ルンペン、あなたはバカなの!!!」
『え…』
カリファの怒鳴り声にルンペンはキョトンとする。
「自分も酷いケガなのに、なんでルッチの分まで請け負うの!!」
『いや、ルッチ…死にそうだったし』
「チャパパパ。ルンペン、バカだチャパ」
「あいやそれがルンペンらしィイ!!!」
『……うるせェぞ。フクロウ、クマドリ!』
フクロウとクマドリが笑ったのを見てルンペンはイラッとした声をあげた。
「これからどうする?」
ルッチに上着をかぶせたブルーノが尋ねる。皆は視線をルンペンに向けた。
『……。とりあえず、ここを離れよう。――おれ達は追われる身になったようだからな』
「おれ達ァ、お払い箱ォオ…!!!」
「「「……」」」
『そんなとこだろう。まぁ、アイツらのことはどうでもいい』
ルンペンはブルーノを見た。
『ブルーノ、今お前のドアはどれくらいの距離まで伸ばせる?』
「…町の端までなら」
『よし』
「町の端まで行ってどうすんだ?船はねェぞ」
『いや、ここを出れる。海を歩く元気があるなら…だが』
「!海列車の線路ね」
カリファの答えにレニーは頷く。
「なるほどの…。ならさっさと行くぞ。ルッチが心配じゃ」
立ち上がろうとしたカクはガクンと腰を落とす。
「チャパパパ、カクは歩けないの忘れてたぞ」
「おお、忘れておったわ」
「カクはおれが担ごう。クマドリはルッチを」
「あぃあ。了解したァ~!!」
ブルーノがカクを背負い、クマドリがルッチを抱えた。
『よし、行くぞ………!』
「……おい」
号令をかけたルンペンの腕をジャブラがガシッと掴んだ。ルンペンは首を傾げる。
『?なんだ、ジャブラ?』
「肩貸してやるよ」
『お前……気持ち悪いぞ』
「なにおう!お前まで倒れたら面倒だから言ってんだ狼牙!!」
「はははは」
「カク、笑うんじゃねェ!!」
ルンペン達は線路を渡り、エニエスロビーから脱出する。雨の降る中、春の女王の町セント・ポプラに着いた。
「稼ぐしかないわね」
皆、頷く。病院に着いたものの金がないため治療を頼めなかった。
『金は持って来る。だからこいつを寝かせといてくれ』
「わかりました」
『よし、じゃあ…』
「ルンペン」
『?なんだ、ブルーノ?』
「お前もここで休んどけ」
『はぁ?何でだ?』
ブルーノの言葉にルンペンは顔をしかめる。肩を貸していたジャブラがルンペンの頭をはたいた。
『痛っ…!!何すんだジャブラ!!』
「立ってんのも辛いんだ狼牙」
『……』
「わしらが稼いでくる」
『カク、お前立てないじゃないのか』
「休んだからの。もう大丈夫じゃ」
『だが…』
「てい」
『……っ!?』
カリファに肋骨を突かれたルンペンは痛みでのけぞる。カリファはメガネを上げた。
「そんな身体じゃ何も出来ないわ」
『カリファ……お前…』
「チャパパパ!!」
「大人しくしとけ」
『……』
「じゃあ、おれは場所を探しに行って来る」
『……。待て』
「「「?」」」
ブルーノが病院から出ようとするのをルンペンは止める。
「なんじゃ?連れてかんぞ」
『わかってる。お前らの意見を覆す気はねェよ。だから…』
「「「!」」」
ルンペンは背中からカーテンを出すと全員を包んだ。周りの人間の目の前からCP9が消える。
「「「ルンペン!!!」」」
カーテンに包まれたメンバーは驚きの声をあげた。ルンペンは顔をしかめる。
『うるさい。働くなら少し楽になった方がいいだろ』
「でも!!」
『安心しろ。倒れるまでは請け負わない』
ピカッーとルンペンの身体が光る。メンバーの身体も光った。 しばらくするとカーテンが開く。皆、身体が軽くなった。
『……よし。じゃあ行って来い』
「##NAME3##、お前身体は…!!」
『早く行け。今はおれよりルッチだ』
「「「……」」」
「ポッポー!!」
『ハットリ、お前も行くんだな。頼んだぞ』
稼ぎに行ったメンバーの帰還を借りた病室で待つ。
『はぁ……ちょっとやりすぎたな』
ルッチの眠る姿を壁にもたれながら眺めていたルンペンはそう呟いた。
『……んっ』
ルンペンは目を開ける。天井が見えた。
『…?』
「ルンペン、目が覚めた?」
「カリファ…??」
ルンペンはベッドから身体を起こす。
『なんでおれがベッドに?』
「私達が帰って来たら、あなた倒れていたのよ」
『え……』
「やせ我慢はほどほどにするのね」
『……ああ』
ルンペンはバツが悪そうに頬をかいた。
『ルッチは?』
「まだ。でももうすぐ目を覚ますと思うわ」
はいっとカリファはルンペンに着替えを渡す。
『稼いだのか?』
「ええ。当分は食べていけるくらいにね」
『ほぉ』
ルンペンは受け取った服に手を伸ばす。カリファはドアのノブに手をかけながら言った。
「着替えたら買い出しに行くわよ」
『?』
カリファは自分のメガネをポンポンと軽く叩く。
「メガネ。ないと困るでしょ」
『!!……ああ、そうだな』
「ついでにみんなの服も揃えるから」
そう言うとカリファは部屋を出た。
カリファとクマドリと買い出しに出る。その後、カフェで待っている残りのメンバーと合流した。
「おう!お前ら労働ご苦労!!」
「ルンペンはもう大丈夫そうだな」
『ああ、もう何ともねェよ』
「結局倒れておって。強がりじゃなァ」
「チャパパパ」
『……うるせェな』
ジャブラとカク、そしてフクロウが笑う。ルンペンは目を背けた。
「ポッポー!」
『?』
ハットリが飛んでくる。そしてルンペンの肩に乗ると、パタパタと羽根をバタつかせた。
「ハットリ、どうしたんじゃ?」
「慌てているわね」
『もしかしてルッチが目を覚ましたのか?』
「ポッポー!!」
ハットリがルンペンの言葉に大きく頷く。
『そうか。じゃあルッチに今の状況を説明してくる』
そう言うルンペンはハットリと共に病院へ向かった。
ガチャとドアをひねり、中に入る。ハットリは肩から離れルッチの側へ飛んで行った。
「ハットリ……」
「ポッポ!」
ハットリの頭を撫でるルッチ。そして視線をドアの側にいるルンペンに向けた。
「……」
『……怪我は痛むか?』
「……。状況は?」
『はは。お前らしい』
ルンペンは少し笑うと今までの経緯を説明した。
「……なるほどな」
『皆ももうすぐ帰って来る。今後のことはこれから……』
「ルンペン」
『?なんだ』
「お前、おれのケガを請け負ったのか?」
『……』
ルンペンは黙った。ルッチはルンペンの慈悲の行使を嫌う。しかし隠せるようなことではない。
『よくわかったな』
「折れたはずの肋骨が無事だったからな」
『なるほど。道理で肋骨が痛い訳だ』
「……」
軽く言うルンペンにルッチは咎めるような視線を向けた。ルンペンが尋ねる。
『出過ぎた真似だったか?』
「……いや」
ルッチは短く答えた。ルンペンはメガネをなおす。
『そうか。ならいい』
「おー!!!ルッチ、やっと起きたかァ!!」
「よよぃ、ルッチ復活ぅ…!!」
「これで全員無事ね」
遅れて部屋現れたメンバーがわいわいと喜びの声をあげる。ルッチとルンペンはそれを見て苦笑した。
無事ルッチの退院の日を迎えた。医者と握手し、病院を後にする。
「これからどうする?とりあえずホテルは取ってあるけど…」
「退院祝いだ!パーッと遊ぼうぜ!!」
『……』
「そう言えばあっちの道にボーリング屋があったのう。久々にみんなでやらぬか?」
「よよい!!それは名案んんー!!」
「久々にいいわね」
『……』
「ルッチもいいじゃろ」
「ああ」
「よし決まりじゃ!!行くぞ!ってルンペン……??」
ルンペンは輪の中から外れていた。足を止めたルンペンは一点の方向を凝視する。
「ルンペンが止まってるぞ、チャパパパ」
「お~い、ルンペン!何ボーッとしてんだ??」
ルンペンはハッと振り返る。
『!!…ああ、すまない』
「どうしたの??」
『いや……その』
「樹か…」
ルッチはルンペンの見ていた先を見る。少し先に大樹が見えた。ルンペンはバツが悪そうに頬をかく。
『悪ィ。少し見て来ていいか?』
「……見て来い」
『!!』
「どうせうずうずしてボーリングに集中出来ないでしょうし」
「その代わり1時間したらボーリング場に来るんじゃぞ!!1ゲームくらいみんなでせんとつまらんからな」
『ああ!!必ず帰る』
ルンペンは嬉々とした様子で大樹に向かって走って行った。
「ガハハハ。ほんとマニアックな野郎だ」
「チャパパパ!!」
「それが、あいつらしい所だ」
『ハァ…ハァ…』
急いで走って来たルンペンは呼吸を整え、顔を上げた。
『……!!』
ルンペンは地面からそびえた大樹の姿に息をのむ。そしてゆっくり手を触れた。
ボーリング場
「カリファ、ナイスストライク!」
ドカーンとボーリングでは鳴らないであろう爆発音が場内に響いた。カクはカリカリとスコア表にストライクのマークを書く。
クマドリがボールを磨きながら次に備えていた。その隣でジャブラが言う。
「遅ェなァ。あいつ」
「もうすぐ1時間経つぞぉい!」
「もう来るでしょ。でも本当に不思議な力よね。樹と話せるなんて」
投げ終わったカリファが椅子に座った。
「最初は嘘かと思ったぞ、チャパパパ」
「でも、樹が不本意に扱われると相手を殺しかねんくらいにボッコボコにしておったからのう」
「そう考えると、W7はあいつにとってはいい場所だったかもしれないな」
ブルーノが呟く。その言葉にルッチはため息をついた。
「何を言ってる。……あいつの居場所はここだ。それ以外はない」
「大した自信じゃのう、ルッチ」
「フン。当たり前だ」
ドカーン!!っと再び爆発音が場内に響く。ブルーノがスコア表にクマドリのストライクを書き込んだ。
『お~やってるな!』
珍しく笑顔で合流したルンペン。カクは笑う。
「ご機嫌じゃのう、ルンペン」
『ん?そうか。まぁ、なかなか話せる奴だったからな。面白かったよ』
樹との会話がとても楽しかったようで、機嫌良く答えた。
「楽しんだのなら良かったわ」
『ああ、ありがとな!みんな』
「「「!!」」」
「お、おう」
「フッ……」
ルッチはニヤッと笑う。嬉しそうな顔だった。
「ほら、来たんだからてめェも投げろよ」
『ああ』
ジャブラはボーリングの球をルンペンに投げた。ルンペンはそれを軽く受け取る。
『じゃあ、軽く行くか』
ルンペンはレーンに立つと、ボールを投げた。
ドカーン!!
「あいあ、ルンペンもストライィィク!!」
「こりゃあ、勝負にならねェな」
ブルーノのがスコア表に新たな欄にルンペンの名とストライクを書き込む。
『なんだ、ジャブラ。お前今日はガーター出してねェの?』
「出すか!!何年前も前の話を持ちだすんじゃねェ!」
「ジャブラはお前らが任務に出てから暇があればボーリングをしてたのだ」
「コラッ!フクロウ!!喋んじゃねェよ!!」
「チャパパパ」
『へェ。案外努力家だな』
「何おう!!」
『誉めてんだよ。ジャブラ、その成果見せてみろよ』
ルンペンは球を投げる。ジャブラはニヤッとした。
「いいだろ、見せてやる。ビビんじゃねェぞ!」
『フフ…』
「?」
ブルーノが後ろを見る。その視線につられてルンペンも後ろにある入口へ目を向けた。
ドカーン!!
「見たか!ルンペン!!ストライクだぜ!」
『……え?あ、見てなかった』
ジャブラの声で振り返ったルンペンが平然と言う。
「なっ!!見せろって言ったのてめェだ狼牙!!」
「チャパパパ」
「ルンペン、どうしたんじゃ?」
ルンペンは首を振った。
『ブルーノ、聞こえたか?』
「正確には聞えなったが、町に何かが来たらしい」
「何かって?」
「……見に行くぞ」
ルッチはそう言うと立ち上がる。皆は頷いた。
「オラオラ!!キャンディー海賊団のお成りだぜ!!」
「海賊だー――!!!」
「金目のモン出しやがれ!!」
「お願いします、この子だけは!!」
「お母さん!!恐いよ!!」
「助けてくれー!!」
セント・ポプラの港にキャンディー海賊団が上陸していた。力のない一般市民が襲われいる。キャンディー海賊団の船長が酒を飲みながら市民に言った。
「ウィ~ヒック。ようし、テメェらこのセントポプラは今おれ達が包囲した!!金目のもん全てよこ……べぶしっ!!」
「「「!!」」」
キャンディー海賊団の船長の顔がゆがむ。その顔にはポケットに手を突っ込んだままのルッチが無表情で蹴りを入れていた。
血を吹く船長、その両隣ではカクとクマドリが手下の海賊を倒していた。
突然のルッチ達の登場に海賊も市民も視線が注ぐ。
「船長!!」
「何者だ!てめェら!!」
「正義の使者だ」
『――“元”だがな』
「「「うわァアアア!!!」」」
「「「!!?」」」
船から海賊が落ちてくる。ルッチの言葉に続くように答えたルンペンはいつの間にか甲板の縁に立っていた。
「なんだ、アイツ!!?」
「いつの間に!!?」
『こういう潜入はおれの十八番(オハコ)なんでね』
ダンッと甲板にいる海賊をまた港に落としながらニヤリと笑う。ルッチは手を上げる。それを合図に残りのメンバーも戦闘を始めた。
わー――――!!
見た事のない強者(ツワモノ)の登場に市民は沸く。
バキッ!!バコッ!!ドガン!!
「「「……!!」」」
ルッチ達の非情なまでの正義の行使に市民達の目は徐々に恐怖の色に染まった。
「うわっ…」
「ひぃ…!!」
市民達は口ぐちに小さな悲鳴を上げる。そして次々に逃げ出して行ってしまった。
海賊団を完全崩壊させたルッチ達は静かになった町に目をやる。
「やっちまったな」
「そうじゃな」
「……もうここには居れないな」
『人間なんてそんなもんだ。いいじゃねェか、船は手に入った』
「荷物を積んで海軍が来る前に出るぞ」
「ではすぐにチェックアウトしてくるわ」
カリファがホテルへ向かおうと一歩踏み出した。
「あ、あの……!!」
「「「!」」」
カリファの前に、一人の少女がいた。
「これ…町をたすけてくれたお礼……」
少女は一輪の花をカリファに差し出した。みんなは驚き、言葉を失う。少女は戸惑った。
「あ、ごめんなさい。わたし……」
「いいえ、嬉しいわ」
カリファは耳に髪を掛けると、膝を折り少女に目線を合わせる。
「とても綺麗な花ね。ありがとう」
ニコッと笑うカリファ。少女はその顔を見て笑顔になった。
「助けてくれてありがとう、おねいちゃん。おにいちゃん!!」
少女は手を振ってその場を後にする。皆、呆然としていた。
「おれ、感動した」
「胸にしみるゥゥゥ~~!!」
「花ってこんなに嬉しいんだな、知らなかったぞ」
ジャブラやクマドリ、フクロウが感嘆の声を上げる。
「いいもんじゃな、お礼を言われると言うのも」
「……ああ」
「本当にとても綺麗ね」
『……カンパニュラか』
「?カンパニュラ?」
ルンペンは花を愛おしそうに見ながら言った。
『“感謝”の意味を持つ花だ。主に晩春から初夏にかけて咲くと言われている。このセント・ポプラでも一部の場所で咲いているらしい』
「「「感謝……」」」
周りのメンバーもその花に視線を注ぐ。ルンペンはニコッと微笑むと、手を叩いた。
『さぁ、出発するぞ。ジャブラ、クマドリ荷物取ってこい』
「な!!ルンペン、おれに命令すんなって言ってんだ狼牙!」
『お前の泣き顔なんて見たくねェんだよ』
「!!」
「なんじゃ、ジャブラ泣くのか?」
「チャパパパ。ジャブラは泣き虫なのだ」
「うるせェ!!」
「早く行け」
「ルッチてめェまで!!」
「イォ~いおいおい。ジャブラ行くぞィ~!!」
「ああ、うっせェな!!今行くってんだ狼牙!!」
ジャブラは悪態をつきながらクマドリとホテルへ向かった。
荷物を積み終わると、ブルーノが錨を引き上げる。
「どこに行くんじゃ?」
「一度、戻る」
「故郷にか!?」
「久々に帰るのね」
皆に笑顔が浮かんだ。
『おい、出すぞ!!』
「「「おう!!」」」
ルンペンの操縦でキャンディー海賊団の船はセント・ポプラの港を出発する。
なつかしい故郷を目指して――――
fin
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!!
意外な程長くなった扉絵連載w、そのため故郷の話は今回割愛させて頂きました。
CP9!最近私の中でHOTな団体の一つです!!W7のメンバーなんていいんだ!!(笑)
と、そんなことはさておき!!
曲利さん、1周年おめでとうございます!!プレゼントなのにこんなに長くてグダグダ気味ですいません;;
でも挑戦させて下さりありがとうございました!!
曲利さんにはいつもお世話になっているので少しでもお祝いになれば嬉しいです(^^)
更新頻度には本当に感服します!
これからもお互い頑張ってサイト盛り上げて行きましょう♪
改めて1周年おめでとうございます!!
神有
ルンペンは崩壊した瓦礫の下から現れる。
『……静かだな』
黒衣の埃を払い、割れたメガネをかけ直す。
作戦は終了したのだろう、やけに見晴らしがよくなったエニエスロビーは静かだった。
『……』
ルンペンはバスターコールでも無事だった1本の樹に手を置く。
『状況を教えてほしい』
そう言うとルンペンは目を瞑って耳を傾けた。
『そうか……完敗か』
目を開けたルンペンはため息をつく。改めて辺り見渡した。
『!?』
ルンペンはハッと樹へ振り返る。
『ルッチがこの近くにいる!?』
ルンペンは驚きの声を上げた。そして樹にどこに?っと尋ねる。
『………第一支柱だな。ありがとう!』
【戦外報告書】
ルンペンは破壊された第一支柱へ歩を進めた。気配を感じない。
『ルッチ、いないのか?』
「ポッポー!!」
『ハットリ…!!』
ハットリが飛んで来た。ルンペンは手を差し出す。ハットリはその手に乗った。
「ポッポー」
『ケガはないか?』
ハットリの羽根を広げ怪我がないかチェックする。
「ポッポー!」
『大丈夫だな。ルッチは一緒か?』
「ポッポ!」
『よし案内してくれ』
ルンペンはハットリの案内で、無防備な姿で倒れるルッチを見つけた。
『おいルッチ、しっかりしろ』
「……」
『ルッチ!』
ペチンと頬を軽く叩く。反応は認められない。
バタバタバタ…!!
『!』
足音が聞こえた。しかし仲間の足音ではない。ルンペンは耳を顰めると声が聞こえた。
「ロブ・ルッチはここにいるハズだ!!」
「作戦失敗の容疑が掛かっている」
「探せ!!!」
『……。ハットリ、こっちに来い』
ルンペンは小声でハットリを呼んだ。飛んで来たハットリが肩に乗ったのを確認すると、ルンペンはルッチを抱え目を瞑る。
『静かにしてろよ。“黒の羽根(シュヴァルツ・ペルデ)”…』
バサッとルンペンの背中から黒い羽根を模したカーテンが現れた。
そのカーテンでルッチを自分ごと包む。包まれた瞬間、2人は姿を消した。
少し遅れて海兵達が到着する。
「少将、ロブ・ルッチがいません!!」
「何!?逃げたのかもしれん。辺りを探せ!!!」
「「「はっ!!!」」」
『……』
海兵達に見つからないように息を潜めていたルンペンは、抱えたルッチの様子に深刻な表情になった。
『(殺気を出した奴が近くにいるのにピクリともしない…まずいな)』
「あっちを探すぞ!」
「「「はっ!!」」」
『……』
海兵達が離れて行く。ルンペンは海兵達の気配が完全に消えたのを確認してからルッチの頭をポンポンとあやすように叩いた。
『おい、ルッチ。悪いが今回はおれもボロボロだ』
「……」
『それにあの追っ手から、お前を守らないといけないしな』
ルンペンはまた目を瞑る。
『とりあえず、3分の1は請け負ってやる。だから、死ぬなよ。―――“慈悲の羽根(メルシフル・ペルデ)”』
ピカッーとルンペンとルッチの身体が光る。その光が消える時にはルッチの顔の血色がほんの少し良くなった。
『……がはっ!!』
光が消えた後、ルンペンは血を吐く。
「ポッポー!」
『大丈夫だ、ハットリ』
「ポッポ…」
『それより3分の1でこのダメージ…。ルッチが危険だ』
頭を抑えながらも、ルッチを支えるルンペン。
『どうにかして、ここから出ないと…』
パカッ…
『!』
音がした。まるで空気がドアになって開くような……。
「ルッチ…?どこだ?」
『ブルーノか……?』
仲間の声が聞こえた。ルンペンはカーテン越しに声を掛ける。
「ルンペン!無事だったのか!!どこにいる?」
『ここだ』
バサッとカーテンを開く。ブルーノの目の前に荒く息を吐くルンペンと、ルンペンに抱えられたルッチが現れた。
「ルンペン、ルッチ!」
ブルーノが駆け寄る。
『ハァ……ブルーノ。無事か?』
「ああ。なんとかな」
『なんとか?辛いんなら…ハァ…“もらって”やるぜ』
「死にそうな顔した奴に言われたくねェな」
ブルーノはそう言いながらルンペンに手を差し伸べた。
『ハッ。おれは簡単には死なねェよ。それよりブルーノ、ルッチを頼む。かなり危険だ』
「!わかった」
ルンペンはブルーノにルッチを渡す。ブルーノはルッチを抱えた。
『他は…どうした?』
「合流している。お前らで全員だ」
『そうか』
ルンペンは安堵の表情を浮かべる。ブルーノは嬉しそうだなと言おうと思ったが、後が不機嫌になるので言うのをやめた。
「ルンペン、お前は歩けるか?」
『大丈夫だ。それよりさっさと“空気開扉(エアドア)”で連れてけ』
『本当に全員か。しぶとい奴らだ』
「はは。お前も人のことは言えんじゃろ」
ブルーノの空気開扉(エアドア)から出て来たルンペンは悪態をつく。カクは笑った。
『……まぁな。?おい…カリファ、なんだその格好は?』
布に身を包んだカリファにルンペンは尋ねる。
「フフ…秘密」
『?そうか、まぁなんでもいいが』
ルンペンはそう言うと黒衣を脱ぎ、カリファに渡す。
「?」
『それじゃ動きにくいだろ』
「ありがとうルンペン」
「おい、ルンペン!ルッチはどうなんだ?」
ジャブラが尋ねた。ルンペンは怪訝な顔をする。
『おれがわかる訳ないだろう』
「なんでだ?お前、医者じゃねェか」
『はぁ…ジャブラ、何度言ったらわかる。おれは樹木医だ。人間の医者じゃない』
「あん?木も人もおんなじだろ」
『樹と人を一緒にすんなっていつも……っ!!』
ルンペンは肋骨を抑えた。
「ルンペン!?」
黒衣を着たカリファが驚き駆け寄る。ルンペンはそれを手で断った。
『大丈夫だ、カリファ』
「どうしたんじゃ?」
地面に座ったままのカクが心配そうに尋ねる。#ルンペンは呼吸を整えてから言った。
『……さっきルッチのをもらったんだが、思ったより重くてな』
「もらったって!ルンペン、あなたはバカなの!!!」
『え…』
カリファの怒鳴り声にルンペンはキョトンとする。
「自分も酷いケガなのに、なんでルッチの分まで請け負うの!!」
『いや、ルッチ…死にそうだったし』
「チャパパパ。ルンペン、バカだチャパ」
「あいやそれがルンペンらしィイ!!!」
『……うるせェぞ。フクロウ、クマドリ!』
フクロウとクマドリが笑ったのを見てルンペンはイラッとした声をあげた。
「これからどうする?」
ルッチに上着をかぶせたブルーノが尋ねる。皆は視線をルンペンに向けた。
『……。とりあえず、ここを離れよう。――おれ達は追われる身になったようだからな』
「おれ達ァ、お払い箱ォオ…!!!」
「「「……」」」
『そんなとこだろう。まぁ、アイツらのことはどうでもいい』
ルンペンはブルーノを見た。
『ブルーノ、今お前のドアはどれくらいの距離まで伸ばせる?』
「…町の端までなら」
『よし』
「町の端まで行ってどうすんだ?船はねェぞ」
『いや、ここを出れる。海を歩く元気があるなら…だが』
「!海列車の線路ね」
カリファの答えにレニーは頷く。
「なるほどの…。ならさっさと行くぞ。ルッチが心配じゃ」
立ち上がろうとしたカクはガクンと腰を落とす。
「チャパパパ、カクは歩けないの忘れてたぞ」
「おお、忘れておったわ」
「カクはおれが担ごう。クマドリはルッチを」
「あぃあ。了解したァ~!!」
ブルーノがカクを背負い、クマドリがルッチを抱えた。
『よし、行くぞ………!』
「……おい」
号令をかけたルンペンの腕をジャブラがガシッと掴んだ。ルンペンは首を傾げる。
『?なんだ、ジャブラ?』
「肩貸してやるよ」
『お前……気持ち悪いぞ』
「なにおう!お前まで倒れたら面倒だから言ってんだ狼牙!!」
「はははは」
「カク、笑うんじゃねェ!!」
ルンペン達は線路を渡り、エニエスロビーから脱出する。雨の降る中、春の女王の町セント・ポプラに着いた。
「稼ぐしかないわね」
皆、頷く。病院に着いたものの金がないため治療を頼めなかった。
『金は持って来る。だからこいつを寝かせといてくれ』
「わかりました」
『よし、じゃあ…』
「ルンペン」
『?なんだ、ブルーノ?』
「お前もここで休んどけ」
『はぁ?何でだ?』
ブルーノの言葉にルンペンは顔をしかめる。肩を貸していたジャブラがルンペンの頭をはたいた。
『痛っ…!!何すんだジャブラ!!』
「立ってんのも辛いんだ狼牙」
『……』
「わしらが稼いでくる」
『カク、お前立てないじゃないのか』
「休んだからの。もう大丈夫じゃ」
『だが…』
「てい」
『……っ!?』
カリファに肋骨を突かれたルンペンは痛みでのけぞる。カリファはメガネを上げた。
「そんな身体じゃ何も出来ないわ」
『カリファ……お前…』
「チャパパパ!!」
「大人しくしとけ」
『……』
「じゃあ、おれは場所を探しに行って来る」
『……。待て』
「「「?」」」
ブルーノが病院から出ようとするのをルンペンは止める。
「なんじゃ?連れてかんぞ」
『わかってる。お前らの意見を覆す気はねェよ。だから…』
「「「!」」」
ルンペンは背中からカーテンを出すと全員を包んだ。周りの人間の目の前からCP9が消える。
「「「ルンペン!!!」」」
カーテンに包まれたメンバーは驚きの声をあげた。ルンペンは顔をしかめる。
『うるさい。働くなら少し楽になった方がいいだろ』
「でも!!」
『安心しろ。倒れるまでは請け負わない』
ピカッーとルンペンの身体が光る。メンバーの身体も光った。 しばらくするとカーテンが開く。皆、身体が軽くなった。
『……よし。じゃあ行って来い』
「##NAME3##、お前身体は…!!」
『早く行け。今はおれよりルッチだ』
「「「……」」」
「ポッポー!!」
『ハットリ、お前も行くんだな。頼んだぞ』
稼ぎに行ったメンバーの帰還を借りた病室で待つ。
『はぁ……ちょっとやりすぎたな』
ルッチの眠る姿を壁にもたれながら眺めていたルンペンはそう呟いた。
『……んっ』
ルンペンは目を開ける。天井が見えた。
『…?』
「ルンペン、目が覚めた?」
「カリファ…??」
ルンペンはベッドから身体を起こす。
『なんでおれがベッドに?』
「私達が帰って来たら、あなた倒れていたのよ」
『え……』
「やせ我慢はほどほどにするのね」
『……ああ』
ルンペンはバツが悪そうに頬をかいた。
『ルッチは?』
「まだ。でももうすぐ目を覚ますと思うわ」
はいっとカリファはルンペンに着替えを渡す。
『稼いだのか?』
「ええ。当分は食べていけるくらいにね」
『ほぉ』
ルンペンは受け取った服に手を伸ばす。カリファはドアのノブに手をかけながら言った。
「着替えたら買い出しに行くわよ」
『?』
カリファは自分のメガネをポンポンと軽く叩く。
「メガネ。ないと困るでしょ」
『!!……ああ、そうだな』
「ついでにみんなの服も揃えるから」
そう言うとカリファは部屋を出た。
カリファとクマドリと買い出しに出る。その後、カフェで待っている残りのメンバーと合流した。
「おう!お前ら労働ご苦労!!」
「ルンペンはもう大丈夫そうだな」
『ああ、もう何ともねェよ』
「結局倒れておって。強がりじゃなァ」
「チャパパパ」
『……うるせェな』
ジャブラとカク、そしてフクロウが笑う。ルンペンは目を背けた。
「ポッポー!」
『?』
ハットリが飛んでくる。そしてルンペンの肩に乗ると、パタパタと羽根をバタつかせた。
「ハットリ、どうしたんじゃ?」
「慌てているわね」
『もしかしてルッチが目を覚ましたのか?』
「ポッポー!!」
ハットリがルンペンの言葉に大きく頷く。
『そうか。じゃあルッチに今の状況を説明してくる』
そう言うルンペンはハットリと共に病院へ向かった。
ガチャとドアをひねり、中に入る。ハットリは肩から離れルッチの側へ飛んで行った。
「ハットリ……」
「ポッポ!」
ハットリの頭を撫でるルッチ。そして視線をドアの側にいるルンペンに向けた。
「……」
『……怪我は痛むか?』
「……。状況は?」
『はは。お前らしい』
ルンペンは少し笑うと今までの経緯を説明した。
「……なるほどな」
『皆ももうすぐ帰って来る。今後のことはこれから……』
「ルンペン」
『?なんだ』
「お前、おれのケガを請け負ったのか?」
『……』
ルンペンは黙った。ルッチはルンペンの慈悲の行使を嫌う。しかし隠せるようなことではない。
『よくわかったな』
「折れたはずの肋骨が無事だったからな」
『なるほど。道理で肋骨が痛い訳だ』
「……」
軽く言うルンペンにルッチは咎めるような視線を向けた。ルンペンが尋ねる。
『出過ぎた真似だったか?』
「……いや」
ルッチは短く答えた。ルンペンはメガネをなおす。
『そうか。ならいい』
「おー!!!ルッチ、やっと起きたかァ!!」
「よよぃ、ルッチ復活ぅ…!!」
「これで全員無事ね」
遅れて部屋現れたメンバーがわいわいと喜びの声をあげる。ルッチとルンペンはそれを見て苦笑した。
無事ルッチの退院の日を迎えた。医者と握手し、病院を後にする。
「これからどうする?とりあえずホテルは取ってあるけど…」
「退院祝いだ!パーッと遊ぼうぜ!!」
『……』
「そう言えばあっちの道にボーリング屋があったのう。久々にみんなでやらぬか?」
「よよい!!それは名案んんー!!」
「久々にいいわね」
『……』
「ルッチもいいじゃろ」
「ああ」
「よし決まりじゃ!!行くぞ!ってルンペン……??」
ルンペンは輪の中から外れていた。足を止めたルンペンは一点の方向を凝視する。
「ルンペンが止まってるぞ、チャパパパ」
「お~い、ルンペン!何ボーッとしてんだ??」
ルンペンはハッと振り返る。
『!!…ああ、すまない』
「どうしたの??」
『いや……その』
「樹か…」
ルッチはルンペンの見ていた先を見る。少し先に大樹が見えた。ルンペンはバツが悪そうに頬をかく。
『悪ィ。少し見て来ていいか?』
「……見て来い」
『!!』
「どうせうずうずしてボーリングに集中出来ないでしょうし」
「その代わり1時間したらボーリング場に来るんじゃぞ!!1ゲームくらいみんなでせんとつまらんからな」
『ああ!!必ず帰る』
ルンペンは嬉々とした様子で大樹に向かって走って行った。
「ガハハハ。ほんとマニアックな野郎だ」
「チャパパパ!!」
「それが、あいつらしい所だ」
『ハァ…ハァ…』
急いで走って来たルンペンは呼吸を整え、顔を上げた。
『……!!』
ルンペンは地面からそびえた大樹の姿に息をのむ。そしてゆっくり手を触れた。
ボーリング場
「カリファ、ナイスストライク!」
ドカーンとボーリングでは鳴らないであろう爆発音が場内に響いた。カクはカリカリとスコア表にストライクのマークを書く。
クマドリがボールを磨きながら次に備えていた。その隣でジャブラが言う。
「遅ェなァ。あいつ」
「もうすぐ1時間経つぞぉい!」
「もう来るでしょ。でも本当に不思議な力よね。樹と話せるなんて」
投げ終わったカリファが椅子に座った。
「最初は嘘かと思ったぞ、チャパパパ」
「でも、樹が不本意に扱われると相手を殺しかねんくらいにボッコボコにしておったからのう」
「そう考えると、W7はあいつにとってはいい場所だったかもしれないな」
ブルーノが呟く。その言葉にルッチはため息をついた。
「何を言ってる。……あいつの居場所はここだ。それ以外はない」
「大した自信じゃのう、ルッチ」
「フン。当たり前だ」
ドカーン!!っと再び爆発音が場内に響く。ブルーノがスコア表にクマドリのストライクを書き込んだ。
『お~やってるな!』
珍しく笑顔で合流したルンペン。カクは笑う。
「ご機嫌じゃのう、ルンペン」
『ん?そうか。まぁ、なかなか話せる奴だったからな。面白かったよ』
樹との会話がとても楽しかったようで、機嫌良く答えた。
「楽しんだのなら良かったわ」
『ああ、ありがとな!みんな』
「「「!!」」」
「お、おう」
「フッ……」
ルッチはニヤッと笑う。嬉しそうな顔だった。
「ほら、来たんだからてめェも投げろよ」
『ああ』
ジャブラはボーリングの球をルンペンに投げた。ルンペンはそれを軽く受け取る。
『じゃあ、軽く行くか』
ルンペンはレーンに立つと、ボールを投げた。
ドカーン!!
「あいあ、ルンペンもストライィィク!!」
「こりゃあ、勝負にならねェな」
ブルーノのがスコア表に新たな欄にルンペンの名とストライクを書き込む。
『なんだ、ジャブラ。お前今日はガーター出してねェの?』
「出すか!!何年前も前の話を持ちだすんじゃねェ!」
「ジャブラはお前らが任務に出てから暇があればボーリングをしてたのだ」
「コラッ!フクロウ!!喋んじゃねェよ!!」
「チャパパパ」
『へェ。案外努力家だな』
「何おう!!」
『誉めてんだよ。ジャブラ、その成果見せてみろよ』
ルンペンは球を投げる。ジャブラはニヤッとした。
「いいだろ、見せてやる。ビビんじゃねェぞ!」
『フフ…』
「?」
ブルーノが後ろを見る。その視線につられてルンペンも後ろにある入口へ目を向けた。
ドカーン!!
「見たか!ルンペン!!ストライクだぜ!」
『……え?あ、見てなかった』
ジャブラの声で振り返ったルンペンが平然と言う。
「なっ!!見せろって言ったのてめェだ狼牙!!」
「チャパパパ」
「ルンペン、どうしたんじゃ?」
ルンペンは首を振った。
『ブルーノ、聞こえたか?』
「正確には聞えなったが、町に何かが来たらしい」
「何かって?」
「……見に行くぞ」
ルッチはそう言うと立ち上がる。皆は頷いた。
「オラオラ!!キャンディー海賊団のお成りだぜ!!」
「海賊だー――!!!」
「金目のモン出しやがれ!!」
「お願いします、この子だけは!!」
「お母さん!!恐いよ!!」
「助けてくれー!!」
セント・ポプラの港にキャンディー海賊団が上陸していた。力のない一般市民が襲われいる。キャンディー海賊団の船長が酒を飲みながら市民に言った。
「ウィ~ヒック。ようし、テメェらこのセントポプラは今おれ達が包囲した!!金目のもん全てよこ……べぶしっ!!」
「「「!!」」」
キャンディー海賊団の船長の顔がゆがむ。その顔にはポケットに手を突っ込んだままのルッチが無表情で蹴りを入れていた。
血を吹く船長、その両隣ではカクとクマドリが手下の海賊を倒していた。
突然のルッチ達の登場に海賊も市民も視線が注ぐ。
「船長!!」
「何者だ!てめェら!!」
「正義の使者だ」
『――“元”だがな』
「「「うわァアアア!!!」」」
「「「!!?」」」
船から海賊が落ちてくる。ルッチの言葉に続くように答えたルンペンはいつの間にか甲板の縁に立っていた。
「なんだ、アイツ!!?」
「いつの間に!!?」
『こういう潜入はおれの十八番(オハコ)なんでね』
ダンッと甲板にいる海賊をまた港に落としながらニヤリと笑う。ルッチは手を上げる。それを合図に残りのメンバーも戦闘を始めた。
わー――――!!
見た事のない強者(ツワモノ)の登場に市民は沸く。
バキッ!!バコッ!!ドガン!!
「「「……!!」」」
ルッチ達の非情なまでの正義の行使に市民達の目は徐々に恐怖の色に染まった。
「うわっ…」
「ひぃ…!!」
市民達は口ぐちに小さな悲鳴を上げる。そして次々に逃げ出して行ってしまった。
海賊団を完全崩壊させたルッチ達は静かになった町に目をやる。
「やっちまったな」
「そうじゃな」
「……もうここには居れないな」
『人間なんてそんなもんだ。いいじゃねェか、船は手に入った』
「荷物を積んで海軍が来る前に出るぞ」
「ではすぐにチェックアウトしてくるわ」
カリファがホテルへ向かおうと一歩踏み出した。
「あ、あの……!!」
「「「!」」」
カリファの前に、一人の少女がいた。
「これ…町をたすけてくれたお礼……」
少女は一輪の花をカリファに差し出した。みんなは驚き、言葉を失う。少女は戸惑った。
「あ、ごめんなさい。わたし……」
「いいえ、嬉しいわ」
カリファは耳に髪を掛けると、膝を折り少女に目線を合わせる。
「とても綺麗な花ね。ありがとう」
ニコッと笑うカリファ。少女はその顔を見て笑顔になった。
「助けてくれてありがとう、おねいちゃん。おにいちゃん!!」
少女は手を振ってその場を後にする。皆、呆然としていた。
「おれ、感動した」
「胸にしみるゥゥゥ~~!!」
「花ってこんなに嬉しいんだな、知らなかったぞ」
ジャブラやクマドリ、フクロウが感嘆の声を上げる。
「いいもんじゃな、お礼を言われると言うのも」
「……ああ」
「本当にとても綺麗ね」
『……カンパニュラか』
「?カンパニュラ?」
ルンペンは花を愛おしそうに見ながら言った。
『“感謝”の意味を持つ花だ。主に晩春から初夏にかけて咲くと言われている。このセント・ポプラでも一部の場所で咲いているらしい』
「「「感謝……」」」
周りのメンバーもその花に視線を注ぐ。ルンペンはニコッと微笑むと、手を叩いた。
『さぁ、出発するぞ。ジャブラ、クマドリ荷物取ってこい』
「な!!ルンペン、おれに命令すんなって言ってんだ狼牙!」
『お前の泣き顔なんて見たくねェんだよ』
「!!」
「なんじゃ、ジャブラ泣くのか?」
「チャパパパ。ジャブラは泣き虫なのだ」
「うるせェ!!」
「早く行け」
「ルッチてめェまで!!」
「イォ~いおいおい。ジャブラ行くぞィ~!!」
「ああ、うっせェな!!今行くってんだ狼牙!!」
ジャブラは悪態をつきながらクマドリとホテルへ向かった。
荷物を積み終わると、ブルーノが錨を引き上げる。
「どこに行くんじゃ?」
「一度、戻る」
「故郷にか!?」
「久々に帰るのね」
皆に笑顔が浮かんだ。
『おい、出すぞ!!』
「「「おう!!」」」
ルンペンの操縦でキャンディー海賊団の船はセント・ポプラの港を出発する。
なつかしい故郷を目指して――――
fin
あとがき
ここまで読んで下さり、ありがとうございました!!
意外な程長くなった扉絵連載w、そのため故郷の話は今回割愛させて頂きました。
CP9!最近私の中でHOTな団体の一つです!!W7のメンバーなんていいんだ!!(笑)
と、そんなことはさておき!!
曲利さん、1周年おめでとうございます!!プレゼントなのにこんなに長くてグダグダ気味ですいません;;
でも挑戦させて下さりありがとうございました!!
曲利さんにはいつもお世話になっているので少しでもお祝いになれば嬉しいです(^^)
更新頻度には本当に感服します!
これからもお互い頑張ってサイト盛り上げて行きましょう♪
改めて1周年おめでとうございます!!
神有