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「それを見たのは、本当に偶然だったんだ」
パトロールがてらに空の散歩に出掛けたのは“トリトリの実”の能力者にしてトキ海賊団船長、セルバンテス・トキ。
美しい鳥の姿で空を優雅に飛ぶトキは数十メートル下の海上で起こっている何かに目が向いた。
海上には1隻の軍艦を取り囲むように10隻の海賊船と1隻の救護船が配置されている。
さらにそれら全てを取り囲むようになにやらドーム状の壁が出来ていた。
その異様な状況に自然と興味を持ったトキはぐるっとその上を旋回する。
(あれは、青キジ……?)
救護船の甲板いるのは海軍の最高戦力の一人、青キジだ。
青キジは何をするでもなく、ただただ厳しい目で海賊船側を見下ろしていた。
トキはその青キジの視線に沿って、自身も視線を流す。軍艦には青キジと同じく海賊船団に視線を注ぐ海兵達。
よく見ると軍艦にもドーム状の透明な壁が形成されている。トキは皆が視線を注ぐ海賊船団の上を飛んだ。
「そいつを見つけた瞬間、鳥肌が立ったのを覚えてるわ」
―――…!?
トキが捉えたのは、クセの強そうな黒髪、黒いレンズのスナイパーグラスをかけた人物。
その人物は服も真っ黒で、両手に握られた金色と銀色の銃と左脚に白文字に書かれた“正義”の文字が宙に浮かんでいるように見えた。
「その影みたいな奴がさ、舞うように、いや散歩するようにと言う方がしっくりくるかな。
とりあえず、戦場とは思えない優雅な足取りで敵を倒して行くんだ」
飛び散る鮮血も、銃弾もその人物の動きを美しくする装飾でしかない。
見惚れると言うのはこういうことを言うのかと思った。
その人物は海賊船の真ん中で、向き合う男のナイフを叩き落とす。そして銃を突き付けた次の瞬間、引き金を引いた。
「たぶん、最後に撃った男がリーダーだったんだろうな」
全ての海賊を平伏させたその人物は、スナイパーグラスを取る。暗闇に浮かぶ緑の瞳が空を見上げ何かを呟いた。
「何を言ったかわからないんだけど、その緑の瞳と目が合った気がしたんだ」
【私と演武(ワルツ)を】
「黒髪に緑の瞳……」
「そう。左脚に“正義”って書いてたから海兵だろ?ギルなら知ってんじゃないの?」
聖地マリージョアのとある一室。ここを宿としているトキは“七武海”として召集されたあの日に出会った海兵、海軍本部准将のシャンク・ギルバートを部屋に招いていた。
海軍が用意したお茶をすすりながら会話をする2人。その会話の内容はトキが“七武海”になる以前に見たという海軍と海賊の戦闘だった。
「……まぁ、あの人しかいないな」
「誰…!?」
トキはギルバートにズイッと近付き尋ねる。ギルバートはカップを持ったまま、身を引いた。
「落ち着けよ」
「おっとすまないね。つい気になって」
「はぁ……。その方はノティ・アルト、海軍本部中将だ。確かお前ら海賊は“ゼロ”のアルトと呼んでいるんじゃ」
「“ゼロ”のアルト!!?あれが噂の…!」
「噂……?」
「すっげェイカつい海兵で、敵をちぎっては投げちぎっては投げ……」
「……何だそれ」
本人を知るギルバートは肩を落とした。トキは首を傾げる。
「近接のプロなんだろ。センゴク元帥やガープ中将みたいなガタイのいい奴だと専らの噂だぜ」
「……(中将が知ったらなんて思うだろう……)」
ギルバートは視線を逸らした。
噂に尾ひれがつくのはよくある話だが、その噂はすでに別次元のものになっている。
「なぁ、ギル!」
「なんだ?」
「会わせてくれ!」
「はあ!?」
「“ゼロ”のアルトに」
「そんな急に……」
「おれ、ミアちゃんにギルの好きなとこ聞いたんだけど」
「!何だって…!?」
「会わせてくれるなら、3つ教えてやってもいい」
「ううっ……!」
トキはニヤニヤとギルバートを見る。ギルバートの心が大きく揺れた。
「後、5秒で決断しなよ。5…4…3…2……」
「……連絡してみる」
「交渉成立?」
「但し、中将が忙しかったら今日は諦めてくれ」
「仕方ないなァ。妥協してやるよ」
「…はぁ」
ギルバートはコートのポケットから子電伝虫を取り出し、アルトに連絡を取る。
「ヘェ。直で掛けれるんだ」
「……。ちょっとあってな」
ギルバートはそう言葉を濁しながら、子電伝虫を見る。しかし、反応はなかった。
「?出ないな」
「番号間違えた?」
「いや…忙しいのかも」
「隊に掛けてよ。それでダメならあきらめる」
「……」
ギルバートはため息をつきながら、アルトの隊に連絡を入れる。
―――ガチャ
[こちら、ノティ隊。准将のシュフォンです]
「シュフォン!ちょうど良かった」
[その声はギルバートか。どうしたんだ?]
電伝虫を受けたのはノティ艦隊のNO.3のシュフォン。ギルバートの同僚だ。
「アル…じゃなくて。ノティ中将は在艦してるか?」
[いや、今は訓練所1にいるが……]
「そうかそうか、ならいいんだ。ありがとう」
[……おい、ギルバー……]
ガチャ
子電伝虫が目を閉じる。ギルバートはトキを見た。
「中将は忙しいみたいだ。だから……ってトキ?」
トキはいつの間にか松葉杖を手にドアへ向かっていた。
「おい…まさか」
「訓練所1に行くぞ!案内してくれ」
目を輝かせるトキにギルバートは肩を落とす。
「さぁ!!」
「……はぁ」
ギルバートは大きなため息をつくとトキを訓練所1へ案内するため、歩きはじめた。
海軍本部、訓練所1
「ここが訓練所1だ」
「へェ。これまたでかい施設だ」
トキは高い天井を見上げる。外観から想像出来ない大きな造りをしていた。
「今はどうやら実技指南中らしい」
ギルバートは訓練所1の使用履歴帳を見ながら言う。トキは首を傾げた。
「実技指南?」
「下士官の育成を目的にした訓練で、将校が隊の垣根を越えて実際に相手をしてくれる」
「ふ~ん」
「今日の教官はガープ中将とノティ中将か……。特に人気がある面子だな。これならおれも受けたい」
ギルバートは使用履歴を見ながら感嘆の息を漏らす。
「ガープ中将か。伝説にも会いたいけど。今は“ゼロ”のアルトだな」
一方のトキは訓練所の中が覗ける大きな窓から目的の人物を探した。
「黒髪で、緑の目…左脚に“正義”のゴツい奴~」
「(たぶん、最後のがある限り見つからないな…)」
使用履歴を置いてトキの隣に並んだギルバートは苦笑する。
そしてトキより先に探し人を見つけたギルバートは、ガラス越しに指をさした。
「居たぞ。あちらに」
「どこ?」
「一番奥。ガープ中将の隣にいる……」
ギルバートが指さした先にはガープ。
そしてその隣にクセの強い黒髪に少し目つきの悪い緑の瞳。上下黒い服で左脚に“正義”―――を持つ、“青年”が立っていた。
「え……!?」
トキは目を丸くする。まばたきしてもう一度見直す。
「ええ…!!?」
「なんだよ。お前の言う黒髪に緑の瞳、“正義”の文字を持つ海兵はノティ中将しかいないぞ」
「いやいや、イメージと違い過ぎるじゃん!!ゴツいどころか、草食系じゃないか!!」
「おい、失礼だぞ!!」
「なぁ…あれ」
「まさか、セルバンテス…?」
「“七武海”の…?」
訓練所1内がざわざわとざわめく。そのざわめきがガープとアルトにも届いた。
「コラァァ!!お前らァ…何騒いどるんじゃ!!」
「「「申し訳ありません!!!」」」
『……。どうかしたのかい?』
怒鳴るガープがいる一方、アルトが静かに尋ねる。
「ガープ中将、ノティ中将…それが……」
「“王下七武海”のセルバンテス・トキが外にいるんです…!!」
「『!』」
アルトとガープはガラスの側で言い合いをしているトキとギルバートの姿を見つけた。
「ありゃ…確かにセルバンテスだな」
『隣にいるのはギルクンだね。わざわざこんなとこまで何しに来たんだろ?』
「ふぅむ……。おい」
「はっ!はい!!」
ガープは近くにいた下士官に声を掛ける。
「アイツらを呼んで来い」
「「「!」」」
「え…!?よろしいのですか?」
「構わん」
「はっ!」
下士官は敬礼すると、ドアへ走って行った。
『入れていいの?“七武海”と言えど海賊だよ』
「構わんじゃろ。見られてダメなものはねェしな!!ぶわっはっはっはっ…!!」
『……』
アルトは肩を諌める。ため息まじりに板チョコを取り出すと封を切り、カプッとかじった。
『センゴクサンに怒られても知らないからね』
「あれが“ゼロ”のアルト??まず考えて中将はおかしくないか?いい歳のギルやスモーカーは准将じゃないか」
「いい歳って…。階級は実力で決まるんだ。中将は確かに若いがそれだけ実力が……」
ガチャ
「「!?」」
2人はドアが開く音に驚き、会話を止める。そしてゆっくりとドアに顔を向けた。
「あの、“七武海”セルバンテス・トキ様、ギルバート准将」
「あ……も、申し訳ない…!訓練の邪魔をしてしまった。すぐにここを去る…」
「いえ。違うんです」
「違う?」
海兵の言葉にギルバートは怪訝な顔をした。海兵はドアを背中で押さえると中に招く仕草をとる。
「ガープ中将がお二人を中に入れるようにと」
「!」
「ガープ中将が…!?」
トキは目を見張り、ギルバートは驚きを口にする。
「どうぞ」
「「……」」
トキとギルバートは顔を見合わせる。そして促されるまま、中に入った。
「こちらです」
海兵に案内され訓練所1に入ったギルバートとトキ。訓練をしていた下士官達が人垣のように左右にそびえる。その一番先にガープとアルトが立っていた。
ギルバートは2人に敬礼する。
「訓練中失礼致します。ガープ中将、ノティ中将」
「ギル。ここは海軍本部の奥だってのはわかってるよな」
「は、はい!ガープ中将。本来ならば“七武海”だとしても入れるべきではないのは重々承知しております」
「なら、なんで連れて来たんじゃ」
「あの…それは…」
ガープの威圧に萎縮していくギルバート。
『ガープサン。冗談はそれくらいにしなよ。ギルクンが本気にするだろ』
板チョコをかじりながら、アルトはガープを諌めた。瞬間―――
「ぶわっはっはっはっ!!ギルはチビなんかよりからかいがいがあるからのォ。ついやってしまうんじゃ」
「…!?」
豪快に笑うガープ。ギルバートは目が点になった。
アルトはガープに呆れているとふと、視線を感じる。
「……」
『……』
アルトは視線に顔を向けた先にいたのはトキ。トキはじぃーっとアルトを観察していた。
アルトは首を傾げる。
『セルバンテスクン……何か用かい?』
「……アンタ」
『?』
「本当に“ゼロ”のアルトか?」
「「「!!?」」」
トキの爆弾発言に皆が目を見張った。ギルバートは慌てる。
「おい、ト……じゃなくてセルバンテス!!」
ギルバートの言葉をスルーしたトキはじぃーっとアルトを上から下まで観察する。
やはり、イメージとは違う相手に戸惑いがあった。
『…確かにそう呼ばれているのは僕だけど、何か問題あるかい?』
「問題って言うか何て言うか……イメージが…」
『イメージ??』
「もっとイカつい感じの海兵を想像してた。なのに本物は板チョコを食べる草食系…」
『……草食系??』
アルトは慣れない単語に首を傾げる。
「ぶわっはっはっはっはっ!!セルバンテスてめェおもしれェこと言うじゃねェか。そんなに怪しむならコイツと一戦交えてみたらどうだ?」
「「『!!』」」
ガープの言葉に皆が驚いた。
「“ゼロ”かどうか自分で確かめられるぞ」
『ちょっと待ってくれ、ガープサン。僕、そんなこと聞いてないよ』
「当たり前じゃ、今言うたんじゃからな。―――どうじゃ、セルバンテス?」
「……。いいね、その話に乗ろうじゃないの」
「チビもいいな」
『はぁ……構わないよ』
「よぉし。訓練は一時中止!!特別講義を始めるぞ……!!」
「立会人はわしが務める!」
ワァアアアアア……!!
訓練所の真ん中に陣取ったガープがそう言うと、海兵達は歓声を上げた。
その中心にいるトキとアルトは至って冷静に歓声を受ける。
「こういうのが好きなのは海軍も海賊も一緒なんだねェ」
『……はぁ。完全に見世物だな』
おのおのが感想を呟く。アルトは食べていた板チョコの最後の一口を口に入れる。
「ねェ、ガープ中将。ルールとかあんの?」
「本来海賊と海軍の戦いにルールなんかねェ。だが、ここは海軍本部。殺しは許さん!!」
「…それだけ?あの中将さん、怪我してもいいの?」
トキはアルトを指差す。アルトはその指一瞬目をやるだけだ。
「ぶわっはっはっはっ…!!それは出来てから言うんじゃな。こんなちんちくりんでもチビは中将じゃ」
『……ちんちくりんって。それが同僚に言うことかい?』
呆れたようにガープにいうアルト。ガープはアルトに顔を向ける。
「ちんちくりんはちんちくりんじゃ。言われとうなかったら、セルバンテスを倒してみろ!」
『……。これが終わったらフレーバー全メニューおごってもらうからね』
「おいおい。興味無さそうに見えて勝つ気満々じゃん」
アルトの言葉に嫌味を込めた笑みを溢した。アルトはそんなトキに目を向けと平然と言う。
『その気がないよりはいいだろ?』
「……。そりゃ、そうだ!!」
「「「!!!」」」
アルトは銃を抜き、トキは剣を構える。空気が戦いへと一変した。それを感じたガープはニヤと口角を上げると、怒鳴る。
「始め!!!」
ガキィィィン……!!!
「「「!!!」」」
初撃は見ている者に瞬きをする時間すら与えられなかった。
アルトの首に向けたトキの刀の切っ先、それをアルトは右手の金色の銃の側面で受け止める。トキはヒューっと感心を込めた口笛を吹いた。
「やるねェ」
『キミも…ね』
「!」
アルトは左手の銀色の銃をトキの首に突きつける。
バンバンバン…!!
『!』
「そんな簡単には無理だろ」
羽が舞うのをアルトは視界に捉え顔を上げる。手だけを翼に変えて天井近くにまで飛ぶトキ。嬉しそうに笑っていた。
「いやぁ~能力を使う気なかったけど、アンタ相手じゃ使わねェ訳いかねェよな…!!」
シュババババ……!!
トキはクナイの様に尖った羽根をアルトに飛ばす。その羽根は地面に突き刺さる程鋭い。
『“聖域(ジ・ハード)”』
「およ?」
雨のように降り注ぐトキの攻撃をアルトは透明なピース“盾”を張ることで防いだ。
『その意見には同意する。だから僕も、手は抜かない。……“無秩序(ケイオス)”』
羽根を防いだ“盾”がバラバラと組み変えられアルトの周りに漂う。空から着地したトキは目を見張った。
「その透明なピース。アンタの能力だったんだ」
ガキィン…!!とまた刃と銃を交える。
『アルトだ。アンタじゃない』
「アルトって呼んでいいの?」
『いいよ。不思議とキミをキライとは感じない…』
バンバン…!!キィンキィン…!!
「……なにそれ?」
『さぁ。ただ最初に当たった七武海が悪かったみたいだ』
「最初に当たった?誰に??」
ガキィィン……!!
『…言いたくない』
「じゃあ、おれが勝ったら教えてもらおっ!!」
ヒュン……カン!!
アルトの隙を突き振り下ろした刃。しかしアルトの盾で防がれた。
「!」
『勝てたらね』
ガキィン…カン!バンバン…!!キィンキィン…!!
「「「!!!」」」
「すごい……!」
戦いを見るギルバートや海兵達は息を飲んだ。トキとアルトの戦いはまるでダンスを踊るように軽やか。一手一手がステップを踏んでいるようだ。
これが本当に全力で戦っている者達なのか、初めて刃を交える者達の戦いなのか…。
「フン。嫌々言ってた割に楽しんでるんじゃねェか」
ガープは腕を組み、そう言うと頬を緩ませる。二人の演武(ワルツ)はそれからもう少し続いた。
「―――で、アルト。最初に会った“七武海”って誰?」
『…言わない。僕は負けてないからね』
戦いを終えた2人は海軍の食堂でお茶をしていた。
「引き分けだからいいじゃん」
『……ヤダ』
「ふーん。じゃあ、きっかけは?それはいいだろ?」
『…会議だ』
「会議?」
『クロコダイルクンの後任を決める会議』
「?」
『??キミを“七武海”にするかって会議だよ』
「ああ、それはわかる。でもちょっと待てアルト。その会議ってみんな出れるのか?」
『いや、出れないと思うよ。僕は担当将校だから』
「へっ?」
『あれ?知らなかったの?僕は七武海担当だって』
「……」
『…なるほど。ギルクンからキミが僕に会いに来たと聞いて疑問だったけど、そう言うことだったんだね』
「はは……」
トキはバツが悪そうに頬をかいた。アルトはホットチョコを飲む。
『まぁ、これからはわざわざ会いに来なくてもキミが“七武海”である限り、下手な海兵よりは会うことになると思う』
「あ~そうだな。でもまぁ、会いに来ると思う」
『?なんで??』
アルトは心底不思議そうな声を出した。トキはニコッと笑う。
「会議だとか、召集だとかで会っても面白くないだろ?」
『…面白い、面白くないが問題なのかい?』
「ああ。それってかなり重要!だから今みたいに気軽に喋ってる方が、おれの性に合うってわけ」
『ふ~ん…』
「失礼します、ノティ中将!」
「『!』」
「セルバンテス様…お時間です。マリージョアにお戻りを」
ギルバートは食堂に入ってくるなりそう言った。トキは振り返る。
「えっ?なんて言ったの?」
「!!…っ。コホン。セルバンテス…様。時間ですので…」
「ププッ……!!」
「…!!!」
口を抑え、笑いを堪えるトキ。それを見たギルバートはこめかみをピクピクさせた。
『ギルクン、無理しなくていいよ。普段通り話せばいい』
「しかし……」
『上官がいいって言ってるんだよ。それとも命令の方がいいかな?』
「……」
「ほらほらギルクン。アルトもこう言ってんだからさ!いつも通り“トキく~ん!”と呼んでご覧!」
手を広げニヤけるトキ。ギルバートは拳を握りしめた。
ゴツン!!
「痛ッた~!!」
ギルバートはトキの頭に拳骨を落とす。そして頭を抑えるトキに怒鳴った。
「中将の前でふざけすぎだぞ。お前は!」
「もー冗談きかないなぁ。ギルは」
「フン…。失礼しました、ノティ中将…」
『ギルクン、』
「!はい…!」
ギルバートはアルトに呼ばれ目を向ける。アルトはギルバートを見上げた。
『“アルト”だ。普段通りにって言っただろ』
ギルバートは肩の力を抜く。
「……。アルト」
『なんだい?』
「時間だからトキをマリージョアに連れて帰る」
『わかった』
「ありがとう。――ほら、行くぞ!トキ!!」
「はぁい。…あ~あ、なんか殴られ損だよねェ」
トキはそうため息まじりに呟くと席を立った立ち上がる。そしてアルトを見た。
「今日は楽しかったよ、アルト」
『……。僕もその言葉に同意するよ』
「ははっ。じゃあまたやろう。遊びに行くよ」
『考えておく』
「おう。じゃあ、またな」
『ああ、また』
アルトはマリージョアに帰る2人を手を振って見送った。そして2人が出て行った後、ドアを見ながらホットチョコに口をつける。
『セルバンテス・トキクン……。変わった海賊だな』
そう呟いたアルトの口元は静かに弧を描いていた。
fin
題名は鬼塚ちひろの歌「私とワルツを」から引用
パトロールがてらに空の散歩に出掛けたのは“トリトリの実”の能力者にしてトキ海賊団船長、セルバンテス・トキ。
美しい鳥の姿で空を優雅に飛ぶトキは数十メートル下の海上で起こっている何かに目が向いた。
海上には1隻の軍艦を取り囲むように10隻の海賊船と1隻の救護船が配置されている。
さらにそれら全てを取り囲むようになにやらドーム状の壁が出来ていた。
その異様な状況に自然と興味を持ったトキはぐるっとその上を旋回する。
(あれは、青キジ……?)
救護船の甲板いるのは海軍の最高戦力の一人、青キジだ。
青キジは何をするでもなく、ただただ厳しい目で海賊船側を見下ろしていた。
トキはその青キジの視線に沿って、自身も視線を流す。軍艦には青キジと同じく海賊船団に視線を注ぐ海兵達。
よく見ると軍艦にもドーム状の透明な壁が形成されている。トキは皆が視線を注ぐ海賊船団の上を飛んだ。
「そいつを見つけた瞬間、鳥肌が立ったのを覚えてるわ」
―――…!?
トキが捉えたのは、クセの強そうな黒髪、黒いレンズのスナイパーグラスをかけた人物。
その人物は服も真っ黒で、両手に握られた金色と銀色の銃と左脚に白文字に書かれた“正義”の文字が宙に浮かんでいるように見えた。
「その影みたいな奴がさ、舞うように、いや散歩するようにと言う方がしっくりくるかな。
とりあえず、戦場とは思えない優雅な足取りで敵を倒して行くんだ」
飛び散る鮮血も、銃弾もその人物の動きを美しくする装飾でしかない。
見惚れると言うのはこういうことを言うのかと思った。
その人物は海賊船の真ん中で、向き合う男のナイフを叩き落とす。そして銃を突き付けた次の瞬間、引き金を引いた。
「たぶん、最後に撃った男がリーダーだったんだろうな」
全ての海賊を平伏させたその人物は、スナイパーグラスを取る。暗闇に浮かぶ緑の瞳が空を見上げ何かを呟いた。
「何を言ったかわからないんだけど、その緑の瞳と目が合った気がしたんだ」
【私と演武(ワルツ)を】
「黒髪に緑の瞳……」
「そう。左脚に“正義”って書いてたから海兵だろ?ギルなら知ってんじゃないの?」
聖地マリージョアのとある一室。ここを宿としているトキは“七武海”として召集されたあの日に出会った海兵、海軍本部准将のシャンク・ギルバートを部屋に招いていた。
海軍が用意したお茶をすすりながら会話をする2人。その会話の内容はトキが“七武海”になる以前に見たという海軍と海賊の戦闘だった。
「……まぁ、あの人しかいないな」
「誰…!?」
トキはギルバートにズイッと近付き尋ねる。ギルバートはカップを持ったまま、身を引いた。
「落ち着けよ」
「おっとすまないね。つい気になって」
「はぁ……。その方はノティ・アルト、海軍本部中将だ。確かお前ら海賊は“ゼロ”のアルトと呼んでいるんじゃ」
「“ゼロ”のアルト!!?あれが噂の…!」
「噂……?」
「すっげェイカつい海兵で、敵をちぎっては投げちぎっては投げ……」
「……何だそれ」
本人を知るギルバートは肩を落とした。トキは首を傾げる。
「近接のプロなんだろ。センゴク元帥やガープ中将みたいなガタイのいい奴だと専らの噂だぜ」
「……(中将が知ったらなんて思うだろう……)」
ギルバートは視線を逸らした。
噂に尾ひれがつくのはよくある話だが、その噂はすでに別次元のものになっている。
「なぁ、ギル!」
「なんだ?」
「会わせてくれ!」
「はあ!?」
「“ゼロ”のアルトに」
「そんな急に……」
「おれ、ミアちゃんにギルの好きなとこ聞いたんだけど」
「!何だって…!?」
「会わせてくれるなら、3つ教えてやってもいい」
「ううっ……!」
トキはニヤニヤとギルバートを見る。ギルバートの心が大きく揺れた。
「後、5秒で決断しなよ。5…4…3…2……」
「……連絡してみる」
「交渉成立?」
「但し、中将が忙しかったら今日は諦めてくれ」
「仕方ないなァ。妥協してやるよ」
「…はぁ」
ギルバートはコートのポケットから子電伝虫を取り出し、アルトに連絡を取る。
「ヘェ。直で掛けれるんだ」
「……。ちょっとあってな」
ギルバートはそう言葉を濁しながら、子電伝虫を見る。しかし、反応はなかった。
「?出ないな」
「番号間違えた?」
「いや…忙しいのかも」
「隊に掛けてよ。それでダメならあきらめる」
「……」
ギルバートはため息をつきながら、アルトの隊に連絡を入れる。
―――ガチャ
[こちら、ノティ隊。准将のシュフォンです]
「シュフォン!ちょうど良かった」
[その声はギルバートか。どうしたんだ?]
電伝虫を受けたのはノティ艦隊のNO.3のシュフォン。ギルバートの同僚だ。
「アル…じゃなくて。ノティ中将は在艦してるか?」
[いや、今は訓練所1にいるが……]
「そうかそうか、ならいいんだ。ありがとう」
[……おい、ギルバー……]
ガチャ
子電伝虫が目を閉じる。ギルバートはトキを見た。
「中将は忙しいみたいだ。だから……ってトキ?」
トキはいつの間にか松葉杖を手にドアへ向かっていた。
「おい…まさか」
「訓練所1に行くぞ!案内してくれ」
目を輝かせるトキにギルバートは肩を落とす。
「さぁ!!」
「……はぁ」
ギルバートは大きなため息をつくとトキを訓練所1へ案内するため、歩きはじめた。
海軍本部、訓練所1
「ここが訓練所1だ」
「へェ。これまたでかい施設だ」
トキは高い天井を見上げる。外観から想像出来ない大きな造りをしていた。
「今はどうやら実技指南中らしい」
ギルバートは訓練所1の使用履歴帳を見ながら言う。トキは首を傾げた。
「実技指南?」
「下士官の育成を目的にした訓練で、将校が隊の垣根を越えて実際に相手をしてくれる」
「ふ~ん」
「今日の教官はガープ中将とノティ中将か……。特に人気がある面子だな。これならおれも受けたい」
ギルバートは使用履歴を見ながら感嘆の息を漏らす。
「ガープ中将か。伝説にも会いたいけど。今は“ゼロ”のアルトだな」
一方のトキは訓練所の中が覗ける大きな窓から目的の人物を探した。
「黒髪で、緑の目…左脚に“正義”のゴツい奴~」
「(たぶん、最後のがある限り見つからないな…)」
使用履歴を置いてトキの隣に並んだギルバートは苦笑する。
そしてトキより先に探し人を見つけたギルバートは、ガラス越しに指をさした。
「居たぞ。あちらに」
「どこ?」
「一番奥。ガープ中将の隣にいる……」
ギルバートが指さした先にはガープ。
そしてその隣にクセの強い黒髪に少し目つきの悪い緑の瞳。上下黒い服で左脚に“正義”―――を持つ、“青年”が立っていた。
「え……!?」
トキは目を丸くする。まばたきしてもう一度見直す。
「ええ…!!?」
「なんだよ。お前の言う黒髪に緑の瞳、“正義”の文字を持つ海兵はノティ中将しかいないぞ」
「いやいや、イメージと違い過ぎるじゃん!!ゴツいどころか、草食系じゃないか!!」
「おい、失礼だぞ!!」
「なぁ…あれ」
「まさか、セルバンテス…?」
「“七武海”の…?」
訓練所1内がざわざわとざわめく。そのざわめきがガープとアルトにも届いた。
「コラァァ!!お前らァ…何騒いどるんじゃ!!」
「「「申し訳ありません!!!」」」
『……。どうかしたのかい?』
怒鳴るガープがいる一方、アルトが静かに尋ねる。
「ガープ中将、ノティ中将…それが……」
「“王下七武海”のセルバンテス・トキが外にいるんです…!!」
「『!』」
アルトとガープはガラスの側で言い合いをしているトキとギルバートの姿を見つけた。
「ありゃ…確かにセルバンテスだな」
『隣にいるのはギルクンだね。わざわざこんなとこまで何しに来たんだろ?』
「ふぅむ……。おい」
「はっ!はい!!」
ガープは近くにいた下士官に声を掛ける。
「アイツらを呼んで来い」
「「「!」」」
「え…!?よろしいのですか?」
「構わん」
「はっ!」
下士官は敬礼すると、ドアへ走って行った。
『入れていいの?“七武海”と言えど海賊だよ』
「構わんじゃろ。見られてダメなものはねェしな!!ぶわっはっはっはっ…!!」
『……』
アルトは肩を諌める。ため息まじりに板チョコを取り出すと封を切り、カプッとかじった。
『センゴクサンに怒られても知らないからね』
「あれが“ゼロ”のアルト??まず考えて中将はおかしくないか?いい歳のギルやスモーカーは准将じゃないか」
「いい歳って…。階級は実力で決まるんだ。中将は確かに若いがそれだけ実力が……」
ガチャ
「「!?」」
2人はドアが開く音に驚き、会話を止める。そしてゆっくりとドアに顔を向けた。
「あの、“七武海”セルバンテス・トキ様、ギルバート准将」
「あ……も、申し訳ない…!訓練の邪魔をしてしまった。すぐにここを去る…」
「いえ。違うんです」
「違う?」
海兵の言葉にギルバートは怪訝な顔をした。海兵はドアを背中で押さえると中に招く仕草をとる。
「ガープ中将がお二人を中に入れるようにと」
「!」
「ガープ中将が…!?」
トキは目を見張り、ギルバートは驚きを口にする。
「どうぞ」
「「……」」
トキとギルバートは顔を見合わせる。そして促されるまま、中に入った。
「こちらです」
海兵に案内され訓練所1に入ったギルバートとトキ。訓練をしていた下士官達が人垣のように左右にそびえる。その一番先にガープとアルトが立っていた。
ギルバートは2人に敬礼する。
「訓練中失礼致します。ガープ中将、ノティ中将」
「ギル。ここは海軍本部の奥だってのはわかってるよな」
「は、はい!ガープ中将。本来ならば“七武海”だとしても入れるべきではないのは重々承知しております」
「なら、なんで連れて来たんじゃ」
「あの…それは…」
ガープの威圧に萎縮していくギルバート。
『ガープサン。冗談はそれくらいにしなよ。ギルクンが本気にするだろ』
板チョコをかじりながら、アルトはガープを諌めた。瞬間―――
「ぶわっはっはっはっ!!ギルはチビなんかよりからかいがいがあるからのォ。ついやってしまうんじゃ」
「…!?」
豪快に笑うガープ。ギルバートは目が点になった。
アルトはガープに呆れているとふと、視線を感じる。
「……」
『……』
アルトは視線に顔を向けた先にいたのはトキ。トキはじぃーっとアルトを観察していた。
アルトは首を傾げる。
『セルバンテスクン……何か用かい?』
「……アンタ」
『?』
「本当に“ゼロ”のアルトか?」
「「「!!?」」」
トキの爆弾発言に皆が目を見張った。ギルバートは慌てる。
「おい、ト……じゃなくてセルバンテス!!」
ギルバートの言葉をスルーしたトキはじぃーっとアルトを上から下まで観察する。
やはり、イメージとは違う相手に戸惑いがあった。
『…確かにそう呼ばれているのは僕だけど、何か問題あるかい?』
「問題って言うか何て言うか……イメージが…」
『イメージ??』
「もっとイカつい感じの海兵を想像してた。なのに本物は板チョコを食べる草食系…」
『……草食系??』
アルトは慣れない単語に首を傾げる。
「ぶわっはっはっはっはっ!!セルバンテスてめェおもしれェこと言うじゃねェか。そんなに怪しむならコイツと一戦交えてみたらどうだ?」
「「『!!』」」
ガープの言葉に皆が驚いた。
「“ゼロ”かどうか自分で確かめられるぞ」
『ちょっと待ってくれ、ガープサン。僕、そんなこと聞いてないよ』
「当たり前じゃ、今言うたんじゃからな。―――どうじゃ、セルバンテス?」
「……。いいね、その話に乗ろうじゃないの」
「チビもいいな」
『はぁ……構わないよ』
「よぉし。訓練は一時中止!!特別講義を始めるぞ……!!」
「立会人はわしが務める!」
ワァアアアアア……!!
訓練所の真ん中に陣取ったガープがそう言うと、海兵達は歓声を上げた。
その中心にいるトキとアルトは至って冷静に歓声を受ける。
「こういうのが好きなのは海軍も海賊も一緒なんだねェ」
『……はぁ。完全に見世物だな』
おのおのが感想を呟く。アルトは食べていた板チョコの最後の一口を口に入れる。
「ねェ、ガープ中将。ルールとかあんの?」
「本来海賊と海軍の戦いにルールなんかねェ。だが、ここは海軍本部。殺しは許さん!!」
「…それだけ?あの中将さん、怪我してもいいの?」
トキはアルトを指差す。アルトはその指一瞬目をやるだけだ。
「ぶわっはっはっはっ…!!それは出来てから言うんじゃな。こんなちんちくりんでもチビは中将じゃ」
『……ちんちくりんって。それが同僚に言うことかい?』
呆れたようにガープにいうアルト。ガープはアルトに顔を向ける。
「ちんちくりんはちんちくりんじゃ。言われとうなかったら、セルバンテスを倒してみろ!」
『……。これが終わったらフレーバー全メニューおごってもらうからね』
「おいおい。興味無さそうに見えて勝つ気満々じゃん」
アルトの言葉に嫌味を込めた笑みを溢した。アルトはそんなトキに目を向けと平然と言う。
『その気がないよりはいいだろ?』
「……。そりゃ、そうだ!!」
「「「!!!」」」
アルトは銃を抜き、トキは剣を構える。空気が戦いへと一変した。それを感じたガープはニヤと口角を上げると、怒鳴る。
「始め!!!」
ガキィィィン……!!!
「「「!!!」」」
初撃は見ている者に瞬きをする時間すら与えられなかった。
アルトの首に向けたトキの刀の切っ先、それをアルトは右手の金色の銃の側面で受け止める。トキはヒューっと感心を込めた口笛を吹いた。
「やるねェ」
『キミも…ね』
「!」
アルトは左手の銀色の銃をトキの首に突きつける。
バンバンバン…!!
『!』
「そんな簡単には無理だろ」
羽が舞うのをアルトは視界に捉え顔を上げる。手だけを翼に変えて天井近くにまで飛ぶトキ。嬉しそうに笑っていた。
「いやぁ~能力を使う気なかったけど、アンタ相手じゃ使わねェ訳いかねェよな…!!」
シュババババ……!!
トキはクナイの様に尖った羽根をアルトに飛ばす。その羽根は地面に突き刺さる程鋭い。
『“聖域(ジ・ハード)”』
「およ?」
雨のように降り注ぐトキの攻撃をアルトは透明なピース“盾”を張ることで防いだ。
『その意見には同意する。だから僕も、手は抜かない。……“無秩序(ケイオス)”』
羽根を防いだ“盾”がバラバラと組み変えられアルトの周りに漂う。空から着地したトキは目を見張った。
「その透明なピース。アンタの能力だったんだ」
ガキィン…!!とまた刃と銃を交える。
『アルトだ。アンタじゃない』
「アルトって呼んでいいの?」
『いいよ。不思議とキミをキライとは感じない…』
バンバン…!!キィンキィン…!!
「……なにそれ?」
『さぁ。ただ最初に当たった七武海が悪かったみたいだ』
「最初に当たった?誰に??」
ガキィィン……!!
『…言いたくない』
「じゃあ、おれが勝ったら教えてもらおっ!!」
ヒュン……カン!!
アルトの隙を突き振り下ろした刃。しかしアルトの盾で防がれた。
「!」
『勝てたらね』
ガキィン…カン!バンバン…!!キィンキィン…!!
「「「!!!」」」
「すごい……!」
戦いを見るギルバートや海兵達は息を飲んだ。トキとアルトの戦いはまるでダンスを踊るように軽やか。一手一手がステップを踏んでいるようだ。
これが本当に全力で戦っている者達なのか、初めて刃を交える者達の戦いなのか…。
「フン。嫌々言ってた割に楽しんでるんじゃねェか」
ガープは腕を組み、そう言うと頬を緩ませる。二人の演武(ワルツ)はそれからもう少し続いた。
「―――で、アルト。最初に会った“七武海”って誰?」
『…言わない。僕は負けてないからね』
戦いを終えた2人は海軍の食堂でお茶をしていた。
「引き分けだからいいじゃん」
『……ヤダ』
「ふーん。じゃあ、きっかけは?それはいいだろ?」
『…会議だ』
「会議?」
『クロコダイルクンの後任を決める会議』
「?」
『??キミを“七武海”にするかって会議だよ』
「ああ、それはわかる。でもちょっと待てアルト。その会議ってみんな出れるのか?」
『いや、出れないと思うよ。僕は担当将校だから』
「へっ?」
『あれ?知らなかったの?僕は七武海担当だって』
「……」
『…なるほど。ギルクンからキミが僕に会いに来たと聞いて疑問だったけど、そう言うことだったんだね』
「はは……」
トキはバツが悪そうに頬をかいた。アルトはホットチョコを飲む。
『まぁ、これからはわざわざ会いに来なくてもキミが“七武海”である限り、下手な海兵よりは会うことになると思う』
「あ~そうだな。でもまぁ、会いに来ると思う」
『?なんで??』
アルトは心底不思議そうな声を出した。トキはニコッと笑う。
「会議だとか、召集だとかで会っても面白くないだろ?」
『…面白い、面白くないが問題なのかい?』
「ああ。それってかなり重要!だから今みたいに気軽に喋ってる方が、おれの性に合うってわけ」
『ふ~ん…』
「失礼します、ノティ中将!」
「『!』」
「セルバンテス様…お時間です。マリージョアにお戻りを」
ギルバートは食堂に入ってくるなりそう言った。トキは振り返る。
「えっ?なんて言ったの?」
「!!…っ。コホン。セルバンテス…様。時間ですので…」
「ププッ……!!」
「…!!!」
口を抑え、笑いを堪えるトキ。それを見たギルバートはこめかみをピクピクさせた。
『ギルクン、無理しなくていいよ。普段通り話せばいい』
「しかし……」
『上官がいいって言ってるんだよ。それとも命令の方がいいかな?』
「……」
「ほらほらギルクン。アルトもこう言ってんだからさ!いつも通り“トキく~ん!”と呼んでご覧!」
手を広げニヤけるトキ。ギルバートは拳を握りしめた。
ゴツン!!
「痛ッた~!!」
ギルバートはトキの頭に拳骨を落とす。そして頭を抑えるトキに怒鳴った。
「中将の前でふざけすぎだぞ。お前は!」
「もー冗談きかないなぁ。ギルは」
「フン…。失礼しました、ノティ中将…」
『ギルクン、』
「!はい…!」
ギルバートはアルトに呼ばれ目を向ける。アルトはギルバートを見上げた。
『“アルト”だ。普段通りにって言っただろ』
ギルバートは肩の力を抜く。
「……。アルト」
『なんだい?』
「時間だからトキをマリージョアに連れて帰る」
『わかった』
「ありがとう。――ほら、行くぞ!トキ!!」
「はぁい。…あ~あ、なんか殴られ損だよねェ」
トキはそうため息まじりに呟くと席を立った立ち上がる。そしてアルトを見た。
「今日は楽しかったよ、アルト」
『……。僕もその言葉に同意するよ』
「ははっ。じゃあまたやろう。遊びに行くよ」
『考えておく』
「おう。じゃあ、またな」
『ああ、また』
アルトはマリージョアに帰る2人を手を振って見送った。そして2人が出て行った後、ドアを見ながらホットチョコに口をつける。
『セルバンテス・トキクン……。変わった海賊だな』
そう呟いたアルトの口元は静かに弧を描いていた。
fin
題名は鬼塚ちひろの歌「私とワルツを」から引用