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「おお~ぃ!」
『……?』
ここは廃船が集まる場所。ルンペンは海へ目を向ける。そこには一隻の海賊船があった。
『なんだ?』
「おお!船をこっちに停めろと言われたんだがここに止めていいか?」
ルンペンは頷く。海賊はありがとうと海賊らしくない笑顔で礼を言った。
間もなく船が岸に停まる。ルンペンは海賊船に目を配った。
『……』
しばし船を見つめていると、さっき笑った男が仲間を引き連れ降りてくる。どうやら片足がないらしく、松葉杖をついていた。
『(見た顔だと思ったが、セルバンテス・トキか)』
ルンペンは先程の男が政府が一目を置く海賊、セルバンテス・トキだと言うことに気づく。
『(報告は必要だろうか…)』
そう考えるルンペンをよそにトキは明るい笑顔で尋ねた。
「あのさ、おれ達ガレーラカンパニーっていう造船所に行きたいんだ」
『……メンテナンスか?』
「?ああ、ちょっと様子がおかしいんだが、わからなくて」
『紹介状は?』
「?」
トキは首を傾げる。
『ないのか』
「えっと…」
トキが訝しげな目でルンペンを見る。ルンペンはメガネを上げた。
『おれはルンペン。ガレーラカンパニーの社員だ』
「え!?キミ、船大工!!?」
「マジか…!!」
「お前ら、失礼だぞ」
『……』
トキとアカツキは驚きの声を上げる。そんな2人を仁識は腕を組みながら静かに諌めた。
確かにルンペンはガタイがいい方ではない。いや、男にしては細身だ。
ルンペンはため息をつく。
『…おれは資材部だ。船大工じゃない。調達を担当している』
「なるほど!そうか造船所って言っても船大工だけじゃないわな」
トキはうんうんと感心するように頷いた。
『……。客ならガレーラへ案内するが』
「ああ、頼む」
『ならついて来い。査定は後で船大工を寄越す』
ルンペンはそう言うと歩き出す。
「おいおい……あれが、客を迎える態度か?」
「まぁまぁ、アカツキ。いいじゃん、おれ達海賊だし。それに案外いい奴だと思うよ」
「はぁ?何を根拠に?」
「ん?なんとなくだよ」
【ファーストコンタクト~追加任務~】
ガレーラカンパニー一番ドック
「ヘェ~スゲェ」
「ふぅん」
「煙草吸ってもいい?」
「……やめておけ」
『……』
アカツキ・仁識に加え、本を片手に持って辺りを見渡すカールと煙草を止められ不機嫌な顔をしたイッサを加えた5人で一番ドックに訪れていた。
「変わった奴らで悪いねェ」
『別に……変わった奴らならこのドックにもいるからな』
「そうなの!そりゃ楽しみだわ」
トキはニコニコと笑いながら言う。ルンペンは目を反らした。
「1番とか2番とか何か意味はあるんですか、お兄さん」
イッサが目だけで辺りを見渡しながら尋ねる。
『ドックごとに大きな差はない。だがこの一番ドックには職長が集まってることもあってレベルが違う。ここはガレーラカンパニー内で一番の腕利きが集まるドックだ』
「ふぅん。そりゃすごい。ここで見てもらえたらラッキーなんじゃないの、船長?」
「だな。ルンペンくん、ここは紹介状ないとダメなのか?」
『…あれば優先される。なければ空いてるドックに入ってもらうことになる』
淡々と説明するルンペン。相変わらず、素っ気ない。
「ルンペンさん!こんにちは!」
「こんにちは…!」
『……ああ』
「愛想がねェ奴だな…」
「美人なのにねェ~」
周りから声がかかるのにルンペンは簡単にあしらうだけ。アカツキは呆れたと言わんばかりの言葉にイッサはクツクツと笑いながら同意する。
「フフ、そうだな。仁識とおんなじくらいだ」
「おれはもう少しあるぞ」
「もう少しなのか。謙虚だな」
「……」
ハハハハッと声を上げて笑うトキ達に仁識はため息をついた。
「ルンペン!」
『…ルッチ』
「そいつらは誰だ?」
「「……」」
ルンペンに駆け寄って来たルッチと言う男にトキ達は目を丸くした。
男はシルクハットにタンクトップ、サスペンダー付の黒いズボンと…なんとも異色の格好だったからだ。
しかしそれ以上に肩で喋る白いハトに目がいく。
『ちょうど良かった。客だ』
「客?」
ルンペンは頷く。ルッチはトキを見た。
「……お客さん、海賊か?」
「あ、ああ」
トキはハトに頷くべきか男に頷くべきか一瞬迷ったが、結論として二人を見ながら頷いた。
「えっとキミは…?」
「おれはハトのハットリ。こいつはルッチ、船大工だ。注文内容を聞くぜ」
ハトのハットリがルッチの肩の上でジェスチャーを交えながら話す。それがますますトキ達を混乱させた。
「(何がおかしくても不思議じゃないこの海。ハトが喋ることもあるかもしれないけど…)」
いくらなんでもな…。とトキはそんなことを考えながらじぃーっとルッチとハットリを見比べていた。
「どうした?」
「……あ、いや」
気を取られていたトキはハッと我に返る。慌てて答えた。
「メンテナンスを頼みたいんだ」
「メンテナンスか、わかった。今ちょうど一番ドックで空きがあるから受けよう」
「え!?本当に?」
「ああ、ルンペンが連れて来た客だしな」
「あれ、このお兄さんすごい人なの?」
「ううん?見えないな」
イッサとカールが訝しげな視線をルンペンに注ぐ。
「ルンペンは資材部のトップ。資材長だ。この一番ドックの資材、特に木材は全てルンペンが調達している」
「……なるほど」
「人は見かけによらねェな」
仁識とアカツキが納得したように頷いた。
「なにはともあれ、最上級の大工に見て貰えるなんてありがたい。ありがとう、ルンペンくん」
トキはルンペンに握手を求め手を差し出す。ルンペンは首を横に振った。
『礼の必要はない。アンタらは金を払う立場なんだからな』
「ううん……無愛想」
カールは肩をすくめる。トキは仕方なく手をひっこめた。
「ところでルンペン、船の査定はしたのか?」
ルッチの言葉にルンペンはまた首を横に振る。
『していない。おれの仕事じゃないからな』
「相変わらずな奴だ。じゃあ“木の調子”は?」
「「「木の調子?」」」
トキ達は口を揃えた。ハットリがトキ達に説明する。
「ルンペンは資材長でもあるが樹木医でもあるんだ」
「樹木医?」
「そう。木のエキスパートって所だ。こいつの木の目利きは船大工のおれ達でさえ、まったく適わなねェ」
「へェ~」
「医者だから白衣なんだねェ。なんの趣味かと思いましたよ」
樹木医と聞いてイッサはルンペンの白衣姿に目をやった。
『……どうでもいい話だ。――全体的な調子は悪くはない。だが舳先の左側面はよく見ていた方がいい』
「わかった。参考にする」
『ああ』
「……」
あの数分で左側面の指摘が出るとは…と、トキは驚いた。先日の一戦で左側面が…人間で言えばかすり傷だが、傷ついたのは確かだ。
「クルッポー!とりあえず、おれが船の査定しに行く。お客さんは査定が終わるまでルンペンとこのドックで待っててくれ」
『おれと……か?』
「客を連れて来たのはルンペンだッポ」
『……面倒だな』
「おいおい、だからそれは客に向ける態度じゃ…!!」
「アカツキ!あ~…悪いね、ルンペンくん。忙しいならおれ達ここで待ってるから」
トキはアカツキを止め、ルンペンに話しかける。そんなトキにルッチは言った。
「気にすることないぞ、お客さん。ルンペンは人間嫌いなんだ。でもそれじゃ仕事にならないから…」
『ルッチ……わかったからそれ以上言うな。船は裏の岬だ。さっさと査定に行って来い』
「……わかったッポ」
ルッチはそう言うと、トキ達の船に向かって行った。
『…こっちだ』
ルッチを見送った後、ルンペンは歩き出す。トキ達はルンペンの後を追いかけた。
「ガレーラカンパニー、なかなか面白いな」
「そうだな」
仁識とトキが言う。その後ろでカールが首を傾げていた。
「ううん…。なぁイッサ、あれはハトが喋ってるのか、それともあの男が喋ってるのか??」
「それは神のみぞ知ることですよ。ねェ~ルンペンくん」
『さぁな。神を信じてはいないから知らない』
「あれ~そりゃ残念ですね。宗教はとてもいいのに」
火をつけていない煙草を噛みながら横目でルンペンを見るイッサ。ルンペンはその視線を流した。
「ルンペン」
『……アイスバーグさん…カリファ』
「ンマーお前が客を連れてくるなんて珍しいな」
「本当に。いい傾向ですね」
『…フン』
ルンペンは不機嫌そうに目を反らす。
「ふぅん…。また何か来た」
「アイスバーク……??」
「あなた達!!アイスバークさんを呼び捨てにするなんて失礼ですよ!!」
「カリファ。落ちつけ、海賊なんてそんなもんだ」
「…なぁ、トキ。さっきから思うけど、オレらってそんなに海賊に見えるのか?」
「ンマー、女の子はもっとかわいくした方がいいぞ。おれ的に」
「なっ!うるせェ!!」
アカツキがアイスバークにつっかかる。トキはそれを見て笑った。
「すごいな、よくアカツキが女だってわかったな」
「ンマーお前らのことはもう知ってるからな。カリファ」
「はい。アイスバークさん」
カリファはそう言うと手帳を開く。
「セルバンテス・トキ海賊団。船長セルバンテス・トキは医者兼情報屋。
現在ここにいる船員アカツキ、カール、イッサ、仁識に白木繁(シラギシゲル)、御剣ゆい(ミツルギユイ)の2名を加えた計7名の海賊団です」
「「「……」」」
「ハハッ!ばっちりだな」
「さすがだカリファ」
「恐縮です」
メガネを上げながら、アイスバークに言葉を返す。
「で、アンタは?アイスバークさん」
「言葉使いにお気をつけ下さい。アイスバークさんはここW7の市長にして、ガレーラカンパニー社長をしておられる方です」
トキの問いにカリファが答えた。皆一様に目を丸くする。
「W7の市長兼、ガレーラの社長……!?」
「つまり…この島の最高権力者か」
「ンマーそんな所だ」
仁識の言葉にアイスバークは頷いた。ルンペンが尋ねる。
『アイスバークさん、今日も仕事では…?』
「ああ、全部キャンセルしてきた」
「「「!?」」」
「キャンセルって……」
「ふぅん。横暴」
「ンマー。おれは何をしても許されるからな」
一行の驚きもなんのその。アイスバークは平然と言った。
『……。なら、ここを任せていいですか?おれは往診の続きをしたいので』
「ンマーそうだったのか。なら行って来い」
『失礼します』
ルンペンはアイスバークに会釈するとドックを後にする。
「往診って?」
「ルンペンはW7に生える樹木を定期的に往診をしています」
「へェ~医者の鏡だね。――ルンペンくん!」
トキはルンペンを呼び止めた。ルンペンは振り返る。
『?』
「おれも行っていい?」
『……。ダメだ』
「ええ~いいじゃん」
「ンマー。ルンペン、連れて行ってやれ」
『……はぁ。勝手にしろ』
「やった!ありがとう、アイスバーク」
「ンマー、ルンペンの邪魔はすんなよ」
「了解」
「おい、トキ!」
「ああ、みんなは適当に過ごしといて!」
トキはそう言うとルンペンのと共に外へ出て行った。
それから数日。
ルッチの査定も終わり、船のメンテナンスが始まっていた。
メンテナンスの間、W7に留まるトキ達はすっかり知られる人物となった。
「あら市長さん」
「ンマー。お前はトキの所の」
ゆいがアイスバークに声をかける。
「今日も仕事はないのか」
「あなた、アイスバーグさんに向かってなんて口を…!セクハラです」
「ほ~う。セクハラはダメだよ、仁識」
「……どこがだ」
しげるが仁識に注意する。隣でイッサが笑った。
「そうだな。おれの宗教倫理に反する行為だ」
「ふぅん…イッサはいつもそうかと思った」
「……はぁ」
「ンマーまた面倒くさい奴らだな。カリファもあまり言ってやるな」
イッサとカールの会話に肩を竦めた仁識。アイスバークは面倒くさそうに見ていた。
「で、大所帯でどうしたんだ?」
「うちの船長を探しているのだけど」
「そろそろ航海の準備をしないとなって言った本人がいないなんて、まったくバカげた話だよねェ」
「ううん……。まぁ、いつも通りだけどな」
「ンマー。トキは今日見てないが…」
「トキならルンペンと出て行ったぞ」
「カク!」
空からカクが降って来た。軽い着地で地面に降り立ち、帽子をなおしながら言う。
「カク!アイスバーグにもしもがあったらどうするんです!!」
「わしが誤って落ちることはないぞ」
「すごい跳躍力ですね。一度検査でも」
「お主の検査は怖そうじゃな……」
しげるの言葉にカクが冷や汗を流した。
「ンマー。またルンペンか。カリファ、ルンペンの今日の予定は」
「はい。ルンペンは本日、午後から休暇ですので樹の往診に出ています」
「ンマー。あいつも相変わらずマメな奴だなァ」
「それにうちの船長(キャプテン)がついて行ったのですね。長鼻の職長さん」
「そうじゃ。まぁ、ルンペンは無視しとったが…西の方へ歩いて行ったぞ」
W7、西
「暇があれば借金取りとファンに追われるパウリー 、屋根と屋根を風のように跳ぶ、通称“山嵐”のカク
常に寝癖をつけているルル、声も図体もでかいタイルストン、
初日に出会ったルッチと相棒のハトのハットリ、 市長のアイスバーグに秘書のカリファ。
そして植物と話せるルンペン。
――お前らの会社は見てて飽きないな」
トキはニコニコと笑う。ルンペンは木に触れながら話を聞き流していた。
「聞いてる?」
『少し黙ってくれ』
「……はぁい」
トキは石に腰掛けながら、ルンペンと樹に目を向ける。
(………)
『どこだ?』
(……)
『――そうか、大丈夫だ。今取るから』
そう言うとルンペンは膝を折り、幹に目を凝らす。
「?」
『……。あった』
ルンペンはピンセットで幹に埋まる弾を取り出した。そして樹を撫でる。
『安心していい。これなら支障はない』
「何かあったのか?」
処置を終えたルンペンにトキは尋ねた。
『――2日前、子供のパチンコの弾が幹にめり込んだらしい』
ルンペンはそう言うとパチンコの弾をトキに見せる。
「へェ~こんな小さいものまで。やっぱり声が聞こえるってのはすごいな!」
『……』
ルンペンはトキに背を向けた。弾はポケットにしまう。
「……。なぁ、ルンペン。お前なんで人間が嫌いなんだ?」
『……それを聞いてどうする?アンタらが何を言ってもおれはアンタらの仲間にはならない』
「あ~……。まぁ、仲間の件は置いといてくれ。個人的に興味があるんだ」
『……』
ルンペンはメガネをなおし、ため息をついた。
『人間は自分勝手だ』
「?」
『自分達の欲求を満たすために他者を排する。邪魔ならば木々を切り倒し、野を焼き払う』
「……なるほど。それは樹木医らしい考え方というべきかな。だが、人間はそれで自然と共存していると取れないか?人間だって生きないといけないだろ」
『一方的な破壊は共存とは呼ばない』
「!」
『彼らはおれ達よりも永く生き、世界を見守る存在。敬うことが共存だ』
「難しい話だな」
『だろうな。おれは樹から沢山の知識をもらったからこそ行き着いた』
「知識?」
『数十年前のこと…果ては数千年前のこと。様々な場所で様々な樹と』
「へェ」
『いつの時代でも人間は愚かだ……』
「―――おい兄ちゃん、てめェあのクソガレーラの社員だよな」
「『……』」
トキとルンペンは後ろに目を向ける。そこには大人数の海賊がニタニタと笑っていた。
『……だったらなんだ?』
「おいおい、忘れた訳じゃねェよな」
「?」
「この前てめェのところで船を修理に出した客だ……!!」
『ああ、“あの木”の船か…』
「余計なことしやがって!!」
『アンタらは船を手荒に扱いすぎた。木が悲鳴を上げていたから、大幅な修理になったまでだ』
「(雲行きが怪しいな……)」
トキはルンペンと海賊の会話を静かに静観しながら、松葉杖ですぐにでも立ち上がれる体勢を取る。
「木が悲鳴!?何言ってんだ!!あの船はおれ達の船、好きに乗って何が悪い!!難癖つけて多額の金請求しやがって」
『……忙しいんだ。用件は端的に言え』
「!船大工が舐めやがって。まぁいい、あの修理代をサービスにしてもらおうと思ってな」
『話にならないな』
「おいおい、そんなこと言ってていいのか?」
ガチャリと海賊がトキの頭に銃口を向ける。
「……」
「兄ちゃん死にたくなかったら大人しくしときな、ヘヘヘ」
『……』
ルンペンはトキに目をやる。トキは口角を上げニヤリと笑う。
「ルンペン。おれのことは気にしなくていいよ」
「あん?なんだ兄ちゃん、強がりはやめときな」
「まったく……こういうクズがいるから、ルンペンが人間嫌いになるんだな」
「何言ってんだァ??」
海賊達はトキに訝しげな視線を投げかける。
「ルンペンは動かなくていい。おれも動かないし」
『……』
「おい、てめェいい加減に……!!」
「いい加減にすんのはアンタ達だ。――みんな、好きにやっちゃっていいよ」
「「「??」」」
海賊達は怪訝な顔をした。ガサッガサッと森から4つの影が飛び出す。
「ふぅん。じゃあ、お言葉に甘えて」
「こんな奴ら、神の下へお送るのもはばかれるねェ」
「……。アカツキ連れて来なくて良かったな」
「やることなくなるからな」
飛び出してきたカール、イッサ、仁識そしてしげるはそのまま海賊達に襲いかかった。
ギャアアアアアア………!!
「あれ~手ごたえないねェ」
「はぁ……つまらん」
「能力使う必要すらなかったな」
「よくこれでグランドラインにいるな」
「はいはい。みんなご苦労さん」
海賊を瞬殺したクルー達に労いの言葉をかけるトキ。
「ルンペン、大丈夫かい?」
『……最初から心配はしていない』
「ハハッ。そうか、ならよかった」
「――クソッ!!」
『!』
バンバンバン!!
意識を取り戻した海賊の一人が銃を適当に乱射する。トキは身体から羽根を出し、海賊の腕に投げつけた。
「!」
「ぐはっ!」
「往生際が悪いのは、モテないよ」
「トキ!」
しげるが驚いた声を出す。トキは振り返った。
「?――ルンペン!?」
『……っ』
ルンペンの身体から血が流れる。メガネがカラッと地面に落ちた。
「ううん??なんで自分から、弾に当たりに行ったんだ??」
「樹か…!」
トキはルンペンの後ろにある樹を見て、それを庇ったのだと気付いた。
「ルンペン……!!」
『樹は一度傷つくと治らない』
「……ルンペン?」
『樹についた傷が人間のように癒えることはない。一生傷つき続けるんだ。アンタらは…人間は…それを知らない……!!』
「「「!!」」」
ルンペンから覇気が溢れる。その気配にトキ達は目を見張った。ルンペンの赤い瞳がさらに赤く光ったように見えたのだ。
『殺してヤル…』
「……!!」
「「ルンペン!!」」
声と共にトキ達の前に二つの影が駆け抜ける。その影はガシッとルンペンを抑えた。
「落ちつくんじゃ、ルンペン!」
「ルンペン、わかるか?ルッチとカクだ」
ルッチはルンペンの目を隠すように手を置く。何度かカクとハットリがルンペンの名を呼ぶと徐々に覇気は沈静化して行った。
『ハァ……ハァ……』
「ルンペン、落ちついたか?」
『……すまない。二人共』
「気にするな。メガネをかけろ」
ルッチは地面に落ちていたルンペンのメガネを渡す。ルンペンはそれをかけた。
「トキ、すまんが先に仲間を連れて1番ドックに帰ってくれんか?船の修理金の件でアイスバークさんが呼んでおったからのォ」
「わかった。でも先にルンペンの傷を見よう」
手を差し出したトキの手を、ルッチは掴み。首を横に振った。
「かすり傷じゃ。わしらが見る。だから先に行ってくれ」
「……でも」
「トキ、行こう」
「……。ああ、そうだな」
次の日
「トキ、荷物積み終わったぜ」
「ああ」
「ンマー。お前らには感謝してる。大事な社員を守ってくれたんだからな」
「いや。こっちも世話になった」
握手を交わすアイスバークとトキ。まもなく船を出す時間となった。
「はぁ…」
「ため息をついても何も始まらないぞ」
「う~……」
「仲間に出来なくてしょげてるのか?」
「違う……」
「ふぅん…。機嫌悪ッ」
トキは船からW7を見る。ふと空を見上げた。
「――――~い」
「?」
「お~い」
「カク??」
ダンッと船の縁にカクが降り立つ。目の前に降りて来られたトキは驚いた。
「「「!!」」」
「ふ~ギリギリ間に合ったわい」
「どうしたんだ、カク?」
「お主らにこれを渡すようにルンペンから頼まれたんじゃ」
「!ルンペンから?」
そう言うとカクはトキに紐が通された木片を渡す。
「木?」
「“柊(ヒイラギ)”の木片じゃ」
「ヒイラギ?」
「樹言葉で“歓迎”っという意味らしいぞ」
「……それって」
ポカンとするトキにカクはニヤッと口角を上げた。
「“また来い”っと言う意味じゃろ」
「!」
「確かに渡したぞ」
「ああ。ルンペンにまた来ると伝えてくれ!」
「わかった。元気での」
「おう」
ダンッと船の縁を蹴り、カクは陸に戻る。船はW7を出発した。
『……』
白衣を来たルンペンは大きな樹の上で港を見下ろす。
今まさに出発した船がW7から完全に見えなくなるまで、ルンペンはその場で静かに見送っていた。
fin
『……?』
ここは廃船が集まる場所。ルンペンは海へ目を向ける。そこには一隻の海賊船があった。
『なんだ?』
「おお!船をこっちに停めろと言われたんだがここに止めていいか?」
ルンペンは頷く。海賊はありがとうと海賊らしくない笑顔で礼を言った。
間もなく船が岸に停まる。ルンペンは海賊船に目を配った。
『……』
しばし船を見つめていると、さっき笑った男が仲間を引き連れ降りてくる。どうやら片足がないらしく、松葉杖をついていた。
『(見た顔だと思ったが、セルバンテス・トキか)』
ルンペンは先程の男が政府が一目を置く海賊、セルバンテス・トキだと言うことに気づく。
『(報告は必要だろうか…)』
そう考えるルンペンをよそにトキは明るい笑顔で尋ねた。
「あのさ、おれ達ガレーラカンパニーっていう造船所に行きたいんだ」
『……メンテナンスか?』
「?ああ、ちょっと様子がおかしいんだが、わからなくて」
『紹介状は?』
「?」
トキは首を傾げる。
『ないのか』
「えっと…」
トキが訝しげな目でルンペンを見る。ルンペンはメガネを上げた。
『おれはルンペン。ガレーラカンパニーの社員だ』
「え!?キミ、船大工!!?」
「マジか…!!」
「お前ら、失礼だぞ」
『……』
トキとアカツキは驚きの声を上げる。そんな2人を仁識は腕を組みながら静かに諌めた。
確かにルンペンはガタイがいい方ではない。いや、男にしては細身だ。
ルンペンはため息をつく。
『…おれは資材部だ。船大工じゃない。調達を担当している』
「なるほど!そうか造船所って言っても船大工だけじゃないわな」
トキはうんうんと感心するように頷いた。
『……。客ならガレーラへ案内するが』
「ああ、頼む」
『ならついて来い。査定は後で船大工を寄越す』
ルンペンはそう言うと歩き出す。
「おいおい……あれが、客を迎える態度か?」
「まぁまぁ、アカツキ。いいじゃん、おれ達海賊だし。それに案外いい奴だと思うよ」
「はぁ?何を根拠に?」
「ん?なんとなくだよ」
【ファーストコンタクト~追加任務~】
ガレーラカンパニー一番ドック
「ヘェ~スゲェ」
「ふぅん」
「煙草吸ってもいい?」
「……やめておけ」
『……』
アカツキ・仁識に加え、本を片手に持って辺りを見渡すカールと煙草を止められ不機嫌な顔をしたイッサを加えた5人で一番ドックに訪れていた。
「変わった奴らで悪いねェ」
『別に……変わった奴らならこのドックにもいるからな』
「そうなの!そりゃ楽しみだわ」
トキはニコニコと笑いながら言う。ルンペンは目を反らした。
「1番とか2番とか何か意味はあるんですか、お兄さん」
イッサが目だけで辺りを見渡しながら尋ねる。
『ドックごとに大きな差はない。だがこの一番ドックには職長が集まってることもあってレベルが違う。ここはガレーラカンパニー内で一番の腕利きが集まるドックだ』
「ふぅん。そりゃすごい。ここで見てもらえたらラッキーなんじゃないの、船長?」
「だな。ルンペンくん、ここは紹介状ないとダメなのか?」
『…あれば優先される。なければ空いてるドックに入ってもらうことになる』
淡々と説明するルンペン。相変わらず、素っ気ない。
「ルンペンさん!こんにちは!」
「こんにちは…!」
『……ああ』
「愛想がねェ奴だな…」
「美人なのにねェ~」
周りから声がかかるのにルンペンは簡単にあしらうだけ。アカツキは呆れたと言わんばかりの言葉にイッサはクツクツと笑いながら同意する。
「フフ、そうだな。仁識とおんなじくらいだ」
「おれはもう少しあるぞ」
「もう少しなのか。謙虚だな」
「……」
ハハハハッと声を上げて笑うトキ達に仁識はため息をついた。
「ルンペン!」
『…ルッチ』
「そいつらは誰だ?」
「「……」」
ルンペンに駆け寄って来たルッチと言う男にトキ達は目を丸くした。
男はシルクハットにタンクトップ、サスペンダー付の黒いズボンと…なんとも異色の格好だったからだ。
しかしそれ以上に肩で喋る白いハトに目がいく。
『ちょうど良かった。客だ』
「客?」
ルンペンは頷く。ルッチはトキを見た。
「……お客さん、海賊か?」
「あ、ああ」
トキはハトに頷くべきか男に頷くべきか一瞬迷ったが、結論として二人を見ながら頷いた。
「えっとキミは…?」
「おれはハトのハットリ。こいつはルッチ、船大工だ。注文内容を聞くぜ」
ハトのハットリがルッチの肩の上でジェスチャーを交えながら話す。それがますますトキ達を混乱させた。
「(何がおかしくても不思議じゃないこの海。ハトが喋ることもあるかもしれないけど…)」
いくらなんでもな…。とトキはそんなことを考えながらじぃーっとルッチとハットリを見比べていた。
「どうした?」
「……あ、いや」
気を取られていたトキはハッと我に返る。慌てて答えた。
「メンテナンスを頼みたいんだ」
「メンテナンスか、わかった。今ちょうど一番ドックで空きがあるから受けよう」
「え!?本当に?」
「ああ、ルンペンが連れて来た客だしな」
「あれ、このお兄さんすごい人なの?」
「ううん?見えないな」
イッサとカールが訝しげな視線をルンペンに注ぐ。
「ルンペンは資材部のトップ。資材長だ。この一番ドックの資材、特に木材は全てルンペンが調達している」
「……なるほど」
「人は見かけによらねェな」
仁識とアカツキが納得したように頷いた。
「なにはともあれ、最上級の大工に見て貰えるなんてありがたい。ありがとう、ルンペンくん」
トキはルンペンに握手を求め手を差し出す。ルンペンは首を横に振った。
『礼の必要はない。アンタらは金を払う立場なんだからな』
「ううん……無愛想」
カールは肩をすくめる。トキは仕方なく手をひっこめた。
「ところでルンペン、船の査定はしたのか?」
ルッチの言葉にルンペンはまた首を横に振る。
『していない。おれの仕事じゃないからな』
「相変わらずな奴だ。じゃあ“木の調子”は?」
「「「木の調子?」」」
トキ達は口を揃えた。ハットリがトキ達に説明する。
「ルンペンは資材長でもあるが樹木医でもあるんだ」
「樹木医?」
「そう。木のエキスパートって所だ。こいつの木の目利きは船大工のおれ達でさえ、まったく適わなねェ」
「へェ~」
「医者だから白衣なんだねェ。なんの趣味かと思いましたよ」
樹木医と聞いてイッサはルンペンの白衣姿に目をやった。
『……どうでもいい話だ。――全体的な調子は悪くはない。だが舳先の左側面はよく見ていた方がいい』
「わかった。参考にする」
『ああ』
「……」
あの数分で左側面の指摘が出るとは…と、トキは驚いた。先日の一戦で左側面が…人間で言えばかすり傷だが、傷ついたのは確かだ。
「クルッポー!とりあえず、おれが船の査定しに行く。お客さんは査定が終わるまでルンペンとこのドックで待っててくれ」
『おれと……か?』
「客を連れて来たのはルンペンだッポ」
『……面倒だな』
「おいおい、だからそれは客に向ける態度じゃ…!!」
「アカツキ!あ~…悪いね、ルンペンくん。忙しいならおれ達ここで待ってるから」
トキはアカツキを止め、ルンペンに話しかける。そんなトキにルッチは言った。
「気にすることないぞ、お客さん。ルンペンは人間嫌いなんだ。でもそれじゃ仕事にならないから…」
『ルッチ……わかったからそれ以上言うな。船は裏の岬だ。さっさと査定に行って来い』
「……わかったッポ」
ルッチはそう言うと、トキ達の船に向かって行った。
『…こっちだ』
ルッチを見送った後、ルンペンは歩き出す。トキ達はルンペンの後を追いかけた。
「ガレーラカンパニー、なかなか面白いな」
「そうだな」
仁識とトキが言う。その後ろでカールが首を傾げていた。
「ううん…。なぁイッサ、あれはハトが喋ってるのか、それともあの男が喋ってるのか??」
「それは神のみぞ知ることですよ。ねェ~ルンペンくん」
『さぁな。神を信じてはいないから知らない』
「あれ~そりゃ残念ですね。宗教はとてもいいのに」
火をつけていない煙草を噛みながら横目でルンペンを見るイッサ。ルンペンはその視線を流した。
「ルンペン」
『……アイスバーグさん…カリファ』
「ンマーお前が客を連れてくるなんて珍しいな」
「本当に。いい傾向ですね」
『…フン』
ルンペンは不機嫌そうに目を反らす。
「ふぅん…。また何か来た」
「アイスバーク……??」
「あなた達!!アイスバークさんを呼び捨てにするなんて失礼ですよ!!」
「カリファ。落ちつけ、海賊なんてそんなもんだ」
「…なぁ、トキ。さっきから思うけど、オレらってそんなに海賊に見えるのか?」
「ンマー、女の子はもっとかわいくした方がいいぞ。おれ的に」
「なっ!うるせェ!!」
アカツキがアイスバークにつっかかる。トキはそれを見て笑った。
「すごいな、よくアカツキが女だってわかったな」
「ンマーお前らのことはもう知ってるからな。カリファ」
「はい。アイスバークさん」
カリファはそう言うと手帳を開く。
「セルバンテス・トキ海賊団。船長セルバンテス・トキは医者兼情報屋。
現在ここにいる船員アカツキ、カール、イッサ、仁識に白木繁(シラギシゲル)、御剣ゆい(ミツルギユイ)の2名を加えた計7名の海賊団です」
「「「……」」」
「ハハッ!ばっちりだな」
「さすがだカリファ」
「恐縮です」
メガネを上げながら、アイスバークに言葉を返す。
「で、アンタは?アイスバークさん」
「言葉使いにお気をつけ下さい。アイスバークさんはここW7の市長にして、ガレーラカンパニー社長をしておられる方です」
トキの問いにカリファが答えた。皆一様に目を丸くする。
「W7の市長兼、ガレーラの社長……!?」
「つまり…この島の最高権力者か」
「ンマーそんな所だ」
仁識の言葉にアイスバークは頷いた。ルンペンが尋ねる。
『アイスバークさん、今日も仕事では…?』
「ああ、全部キャンセルしてきた」
「「「!?」」」
「キャンセルって……」
「ふぅん。横暴」
「ンマー。おれは何をしても許されるからな」
一行の驚きもなんのその。アイスバークは平然と言った。
『……。なら、ここを任せていいですか?おれは往診の続きをしたいので』
「ンマーそうだったのか。なら行って来い」
『失礼します』
ルンペンはアイスバークに会釈するとドックを後にする。
「往診って?」
「ルンペンはW7に生える樹木を定期的に往診をしています」
「へェ~医者の鏡だね。――ルンペンくん!」
トキはルンペンを呼び止めた。ルンペンは振り返る。
『?』
「おれも行っていい?」
『……。ダメだ』
「ええ~いいじゃん」
「ンマー。ルンペン、連れて行ってやれ」
『……はぁ。勝手にしろ』
「やった!ありがとう、アイスバーク」
「ンマー、ルンペンの邪魔はすんなよ」
「了解」
「おい、トキ!」
「ああ、みんなは適当に過ごしといて!」
トキはそう言うとルンペンのと共に外へ出て行った。
それから数日。
ルッチの査定も終わり、船のメンテナンスが始まっていた。
メンテナンスの間、W7に留まるトキ達はすっかり知られる人物となった。
「あら市長さん」
「ンマー。お前はトキの所の」
ゆいがアイスバークに声をかける。
「今日も仕事はないのか」
「あなた、アイスバーグさんに向かってなんて口を…!セクハラです」
「ほ~う。セクハラはダメだよ、仁識」
「……どこがだ」
しげるが仁識に注意する。隣でイッサが笑った。
「そうだな。おれの宗教倫理に反する行為だ」
「ふぅん…イッサはいつもそうかと思った」
「……はぁ」
「ンマーまた面倒くさい奴らだな。カリファもあまり言ってやるな」
イッサとカールの会話に肩を竦めた仁識。アイスバークは面倒くさそうに見ていた。
「で、大所帯でどうしたんだ?」
「うちの船長を探しているのだけど」
「そろそろ航海の準備をしないとなって言った本人がいないなんて、まったくバカげた話だよねェ」
「ううん……。まぁ、いつも通りだけどな」
「ンマー。トキは今日見てないが…」
「トキならルンペンと出て行ったぞ」
「カク!」
空からカクが降って来た。軽い着地で地面に降り立ち、帽子をなおしながら言う。
「カク!アイスバーグにもしもがあったらどうするんです!!」
「わしが誤って落ちることはないぞ」
「すごい跳躍力ですね。一度検査でも」
「お主の検査は怖そうじゃな……」
しげるの言葉にカクが冷や汗を流した。
「ンマー。またルンペンか。カリファ、ルンペンの今日の予定は」
「はい。ルンペンは本日、午後から休暇ですので樹の往診に出ています」
「ンマー。あいつも相変わらずマメな奴だなァ」
「それにうちの船長(キャプテン)がついて行ったのですね。長鼻の職長さん」
「そうじゃ。まぁ、ルンペンは無視しとったが…西の方へ歩いて行ったぞ」
W7、西
「暇があれば借金取りとファンに追われるパウリー 、屋根と屋根を風のように跳ぶ、通称“山嵐”のカク
常に寝癖をつけているルル、声も図体もでかいタイルストン、
初日に出会ったルッチと相棒のハトのハットリ、 市長のアイスバーグに秘書のカリファ。
そして植物と話せるルンペン。
――お前らの会社は見てて飽きないな」
トキはニコニコと笑う。ルンペンは木に触れながら話を聞き流していた。
「聞いてる?」
『少し黙ってくれ』
「……はぁい」
トキは石に腰掛けながら、ルンペンと樹に目を向ける。
(………)
『どこだ?』
(……)
『――そうか、大丈夫だ。今取るから』
そう言うとルンペンは膝を折り、幹に目を凝らす。
「?」
『……。あった』
ルンペンはピンセットで幹に埋まる弾を取り出した。そして樹を撫でる。
『安心していい。これなら支障はない』
「何かあったのか?」
処置を終えたルンペンにトキは尋ねた。
『――2日前、子供のパチンコの弾が幹にめり込んだらしい』
ルンペンはそう言うとパチンコの弾をトキに見せる。
「へェ~こんな小さいものまで。やっぱり声が聞こえるってのはすごいな!」
『……』
ルンペンはトキに背を向けた。弾はポケットにしまう。
「……。なぁ、ルンペン。お前なんで人間が嫌いなんだ?」
『……それを聞いてどうする?アンタらが何を言ってもおれはアンタらの仲間にはならない』
「あ~……。まぁ、仲間の件は置いといてくれ。個人的に興味があるんだ」
『……』
ルンペンはメガネをなおし、ため息をついた。
『人間は自分勝手だ』
「?」
『自分達の欲求を満たすために他者を排する。邪魔ならば木々を切り倒し、野を焼き払う』
「……なるほど。それは樹木医らしい考え方というべきかな。だが、人間はそれで自然と共存していると取れないか?人間だって生きないといけないだろ」
『一方的な破壊は共存とは呼ばない』
「!」
『彼らはおれ達よりも永く生き、世界を見守る存在。敬うことが共存だ』
「難しい話だな」
『だろうな。おれは樹から沢山の知識をもらったからこそ行き着いた』
「知識?」
『数十年前のこと…果ては数千年前のこと。様々な場所で様々な樹と』
「へェ」
『いつの時代でも人間は愚かだ……』
「―――おい兄ちゃん、てめェあのクソガレーラの社員だよな」
「『……』」
トキとルンペンは後ろに目を向ける。そこには大人数の海賊がニタニタと笑っていた。
『……だったらなんだ?』
「おいおい、忘れた訳じゃねェよな」
「?」
「この前てめェのところで船を修理に出した客だ……!!」
『ああ、“あの木”の船か…』
「余計なことしやがって!!」
『アンタらは船を手荒に扱いすぎた。木が悲鳴を上げていたから、大幅な修理になったまでだ』
「(雲行きが怪しいな……)」
トキはルンペンと海賊の会話を静かに静観しながら、松葉杖ですぐにでも立ち上がれる体勢を取る。
「木が悲鳴!?何言ってんだ!!あの船はおれ達の船、好きに乗って何が悪い!!難癖つけて多額の金請求しやがって」
『……忙しいんだ。用件は端的に言え』
「!船大工が舐めやがって。まぁいい、あの修理代をサービスにしてもらおうと思ってな」
『話にならないな』
「おいおい、そんなこと言ってていいのか?」
ガチャリと海賊がトキの頭に銃口を向ける。
「……」
「兄ちゃん死にたくなかったら大人しくしときな、ヘヘヘ」
『……』
ルンペンはトキに目をやる。トキは口角を上げニヤリと笑う。
「ルンペン。おれのことは気にしなくていいよ」
「あん?なんだ兄ちゃん、強がりはやめときな」
「まったく……こういうクズがいるから、ルンペンが人間嫌いになるんだな」
「何言ってんだァ??」
海賊達はトキに訝しげな視線を投げかける。
「ルンペンは動かなくていい。おれも動かないし」
『……』
「おい、てめェいい加減に……!!」
「いい加減にすんのはアンタ達だ。――みんな、好きにやっちゃっていいよ」
「「「??」」」
海賊達は怪訝な顔をした。ガサッガサッと森から4つの影が飛び出す。
「ふぅん。じゃあ、お言葉に甘えて」
「こんな奴ら、神の下へお送るのもはばかれるねェ」
「……。アカツキ連れて来なくて良かったな」
「やることなくなるからな」
飛び出してきたカール、イッサ、仁識そしてしげるはそのまま海賊達に襲いかかった。
ギャアアアアアア………!!
「あれ~手ごたえないねェ」
「はぁ……つまらん」
「能力使う必要すらなかったな」
「よくこれでグランドラインにいるな」
「はいはい。みんなご苦労さん」
海賊を瞬殺したクルー達に労いの言葉をかけるトキ。
「ルンペン、大丈夫かい?」
『……最初から心配はしていない』
「ハハッ。そうか、ならよかった」
「――クソッ!!」
『!』
バンバンバン!!
意識を取り戻した海賊の一人が銃を適当に乱射する。トキは身体から羽根を出し、海賊の腕に投げつけた。
「!」
「ぐはっ!」
「往生際が悪いのは、モテないよ」
「トキ!」
しげるが驚いた声を出す。トキは振り返った。
「?――ルンペン!?」
『……っ』
ルンペンの身体から血が流れる。メガネがカラッと地面に落ちた。
「ううん??なんで自分から、弾に当たりに行ったんだ??」
「樹か…!」
トキはルンペンの後ろにある樹を見て、それを庇ったのだと気付いた。
「ルンペン……!!」
『樹は一度傷つくと治らない』
「……ルンペン?」
『樹についた傷が人間のように癒えることはない。一生傷つき続けるんだ。アンタらは…人間は…それを知らない……!!』
「「「!!」」」
ルンペンから覇気が溢れる。その気配にトキ達は目を見張った。ルンペンの赤い瞳がさらに赤く光ったように見えたのだ。
『殺してヤル…』
「……!!」
「「ルンペン!!」」
声と共にトキ達の前に二つの影が駆け抜ける。その影はガシッとルンペンを抑えた。
「落ちつくんじゃ、ルンペン!」
「ルンペン、わかるか?ルッチとカクだ」
ルッチはルンペンの目を隠すように手を置く。何度かカクとハットリがルンペンの名を呼ぶと徐々に覇気は沈静化して行った。
『ハァ……ハァ……』
「ルンペン、落ちついたか?」
『……すまない。二人共』
「気にするな。メガネをかけろ」
ルッチは地面に落ちていたルンペンのメガネを渡す。ルンペンはそれをかけた。
「トキ、すまんが先に仲間を連れて1番ドックに帰ってくれんか?船の修理金の件でアイスバークさんが呼んでおったからのォ」
「わかった。でも先にルンペンの傷を見よう」
手を差し出したトキの手を、ルッチは掴み。首を横に振った。
「かすり傷じゃ。わしらが見る。だから先に行ってくれ」
「……でも」
「トキ、行こう」
「……。ああ、そうだな」
次の日
「トキ、荷物積み終わったぜ」
「ああ」
「ンマー。お前らには感謝してる。大事な社員を守ってくれたんだからな」
「いや。こっちも世話になった」
握手を交わすアイスバークとトキ。まもなく船を出す時間となった。
「はぁ…」
「ため息をついても何も始まらないぞ」
「う~……」
「仲間に出来なくてしょげてるのか?」
「違う……」
「ふぅん…。機嫌悪ッ」
トキは船からW7を見る。ふと空を見上げた。
「――――~い」
「?」
「お~い」
「カク??」
ダンッと船の縁にカクが降り立つ。目の前に降りて来られたトキは驚いた。
「「「!!」」」
「ふ~ギリギリ間に合ったわい」
「どうしたんだ、カク?」
「お主らにこれを渡すようにルンペンから頼まれたんじゃ」
「!ルンペンから?」
そう言うとカクはトキに紐が通された木片を渡す。
「木?」
「“柊(ヒイラギ)”の木片じゃ」
「ヒイラギ?」
「樹言葉で“歓迎”っという意味らしいぞ」
「……それって」
ポカンとするトキにカクはニヤッと口角を上げた。
「“また来い”っと言う意味じゃろ」
「!」
「確かに渡したぞ」
「ああ。ルンペンにまた来ると伝えてくれ!」
「わかった。元気での」
「おう」
ダンッと船の縁を蹴り、カクは陸に戻る。船はW7を出発した。
『……』
白衣を来たルンペンは大きな樹の上で港を見下ろす。
今まさに出発した船がW7から完全に見えなくなるまで、ルンペンはその場で静かに見送っていた。
fin