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「どうだ?」
「問題ありません」
「よし。今日も平和だな」
ホッと安堵の息をついたのは海軍本部“付”准将シャンク・ギルバート。
彼は本部があるマリンフォードから少し離れた島の警備を主な仕事としている准将で、召集がかかれば本部に赴く。
そんなギルバートは本日、本部からの指令で島を起点にした巡回を行っていた。
「何だ?……ビローアバイク?」
排気音と遠くに見えるシルエットから監視をしていた海兵が言う。
「スモーカーか?」
「いえ…別の人物のようです」
「?」
ギルバートは縁から乗り出すと、じぃーっとビローアバイクに乗る人物を見た。
確かに上から下まで真っ黒な姿は友人、スモーカーとは似ても似つかない。
「ギルバート准将、ビローアバイクから入艦許可が要請されています」
「軍の関係者か。わかった、要請に応える。甲板に上がってもらえ」
「はっ!」
「さて、どんな奴かな……」
【ファーストコンタクト~海軍の異端児~】
『ありがとう、要請を受けてくれて』
「……」
ギルバートの前に現れたのは、クセの強い黒髪に目つきの悪い緑の瞳をもつ若い士官。服は髪と同じように黒く、まるで影のようだ。
他に色があるとすれば左足にある“正義”が白で書かれていること。
暗闇にいたらさぞかし溶け込むであろうその姿はこの昼間の艦では少々浮いていた。
ギルバートは手を差し出す。
「おれはこの艦の艦長、海軍本部付准将シャンク・ギルバートだ」
『僕はノティ・アルト。早速で悪いんだけど、今上司を探してるんだ』
「上司?」
ギルバートは首を傾げる。
『ああ。クザンクンなんだけど、見なかった?』
「クザン?……って青キジさんか!!」
ギルバートは驚き、目を丸くした。目の前の士官、アルトは頷く。
『そうそれ。今日会議なんだけど、いなくなってね』
「……それって、仮にも君の上司だろ」
『いいんだ』
「……」
表情は変わらないがとても不機嫌そうな声を出す。
『自転車がこっちに来た形跡があったんだけど…』
「自転車……」
このグランドラインをそれで渡るのは確かに大将、青キジしかいない。昔一度だけその姿を目にしたが何とも信じがたい光景だったと記憶している。
ギルバートは首を横に振った。
「残念だが、今日の巡回では見ていないな」
『そうか…』
アルトは肩を落とす。ギルバートはそれに苦笑した。
『じゃあさ』
アルトは顔を上げ、変わらぬ表情でギルバートに尋ねる。
『この近くにお菓子が売ってる島とか知らない?』
「は?」
『急いで出て来たから、ストックが無くなってね。困ってるんだ』
後ろのポーチをトントンと叩くアルトに、ギルバートは怪訝な顔をした。
「カシってチョコレートとかアメの菓子か?」
『うん、それ!僕それがないと仕事にならなくてね。でも、今本部に帰る訳にも行かないし……』
「……チョコレートなら艦に少し積んでいる。後、おれが警備をしている島に行けば店はあるが…」
『!本当かい!?』
「あ…ああ」
アルトは歓喜の声を上げる。アルトの初めての表情の変化にギルバートは少し驚いた。
『チョコレートもらっていい?後、その島にぜひ立ち寄りたい。いいかな?』
矢継ぎ早に言うアルト。その自分を見上げる瞳にギルバートは妙な親心が芽生えた。
「ああ、いいぞ。そうだ今から島に戻るから乗って行くか?」
『いいのかい?』
「ああ」
『ありがとう!』
「…フッ」
ギルバートは喜ぶアルトがなんだか小さな子供のように見えて、また苦笑する。
もしかしたら島に置いて来たミアよりも精神年齢は幼いのかもしれない。
ギルバートは部下が持って来たチョコレートをアルトに手渡すと、声を上げた。
「よし、みんな。ビローアを格納庫に収納次第、島に戻るぞ」
「「「はっ!」」」
艦が島に停泊する。
『へェ~。本部に近い島がシャボンティ以外にあるなんて知らなかったな』
「そうか」
興味津々に甲板から島を見るアルト。隣にいたギルバートは笑う。
その姿はまるで兄弟のようで、ギルバート自身もいつの間にかアルトを呼び捨てにしていた。
「まぁ、おれにしたらアルトが休まずチョコレートを食べ続けてることに驚くがな」
『そう?』
アルトはそう言いながらもカプッとチョコレートをかじる。ミア用に乗せていたチョコレートはすっかりなくなっていた。
完全に停泊した艦から降りたギルバートは街を見下ろす。
「先に店に案内しよう」
『ありがと』
ギルバートはアルトを街のお菓子屋に案内する。店に入ったアルトはカゴを取ると品定めを始めた。
「何を買うんだ?」
『とりあえず、板チョコとアメ。後はマシュマロも欲しいな』
バサバサとカゴに入れて行くアルト。その量にギルバートは胸焼けがした。
「……まだそんなに食べるのか?」
『うん。長期戦に備えてね。支払いはクザンクンだし…』
そういいながらまたひとつお菓子を入れ、会計をする。
「ありがとうございました!」
「ああ、また来る」
『ありがとう!』
商人の言葉に、手を振って応えるギルバートとアルト。アルトはお店の人からさらにオマケのお菓子をもらっていた。
「ミアがいればまけてくれることはあるが……アルトお前、何かしたのか?」
『ん?いや別に。教わったことをしただけだよ』
「教わったこと?」
『うん。お店の人が女の人ならお金を渡す時に相手の手を優しく握って、目を見て礼を言う。その時は上目遣いだっけ?それで相手を見るといい……って教わった。紳士の嗜みなんだって』
「……。それは誰に聞いたんだ?」
『ああ、ガープサンだ。そう言うのには詳しいらしい』
「……(ガープ中将……何教えてんだ)」
ギルバートは肩を落とす。アルトは首を傾げた。
『どうかした?』
「いや……」
『……あ、そうそう。これギルクンの艦の分』
そう言うとアルトはギルバートにお菓子が山盛り入った袋をひとつ差し出す。
「!?こんな気を遣わなくていいぞ」
『ダメだよ。ちゃんと受けた恩は返しなさいって言われてるんだ。キミに感謝してるしね』
「……そうか。なら受け取ろう」
ギルバートは差し出されたお菓子の袋を受け取る。
「その教えもガープ中将から?」
『いや。これはクザンクンだよ』
「青キジさんが…」
『ああ。こう言うところは常識人だよね。そう考えるとありがたい存在だ』
「……うらやましいな」
ギルバートはポツリと呟いた。アルトは首を傾げる。
『何が?』
「あ、いや。おれはそう思ってもらえる立場の人間になりたいなと思ってな」
『……ああ。さっき言ってたミアって子?』
「そう。アルトが青キジさんを思うように、ミアにもそう思ってもらえる存在になりたいんだ」
『ふむ……』
アルトは腕を組み、納得したような声を上げた。
「ギル!」
「『!』」
ギルバートとアルトは振り返った。ギルバートの下に少女が走ってくる。
「ミア、どうしたんだ?」
ギルバートは胸に飛び込んでくる少女、ミアを受け止めると尋ねた。
「あのね、ギル……!?」
『?』
ミアはギルの隣にいるアルトに驚き、口を閉ざしてしまった。
「ミア、大丈夫。アルトは友達だ」
『……』
アルトは一瞬ギルバートに目を向けたかと思えば、膝を折りミアと目線を合わせた。
『初めましてミアクン。僕はノティ・アルト。アルトって呼んで』
ニコッと笑うと言うことはなかったが、アルトはお近づきの印としてさっき買ったキャンディーをミアに差し出す。
「あ、ありがとう……」
ミアはキャンディーを受け取った。心なしか頬が赤い。
「……いいな」
ギルバートは二人に流れる空気にほんのり和んだ。キャンディーを受け取ったミアはハッと思い出す。
「そうだ、ギル!!あのね、お家に変な人がいるの」
「変な人…!?」
「みんな、大丈夫って言うんだけど私こわくて」
ギルバートは怖がるミアの頭を撫で宥める。
「ミア、落ち着いて。どんな人なんだ?」
ミアは頷くと、ゆっくり事情を話した。
「ギルが帰ってくるのお外で待ってたの。そしたらすごく大きな人が自転車で海を渡ってきて…!!」
「『……』」
ギルバートとアルトは顔を見合わせる。
「その人みんなが驚いてる間に島に入って来て、ギルのお部屋に入っちゃったの!」
「……おれの部屋に?」
ミアは頷く。心配そうな顔にギルバートは困った顔をした。
『大丈夫だよ、ミアクン』
「え…?」
ミアはアルトに目を向ける。ギルバートも目を向けた。
『そんな困った大人は今から僕が懲らしめてくる。キミやギルクンに危害は加えさせないよ』
「……アルトは強いの?」
『ん?まぁまぁかな。でも今は負けないから、安心して』
アルトはそう言うと、立ち上がりギルバートに言った。
『ギルバートクン、キミの部屋はどこだい?』
「あ…あの建物だ。ちょうど窓が開いてるあそこが部屋だ」
ギルバートはある建物を指差しながら説明する。アルトはうんうんと頷いた。
『わかった。これ持ってて』
アルトは板チョコを一枚取り出すと、残りが入った袋をギルバートに渡した。
「!…待て、アルト。ちゃんと部屋に案内す……」
『いや、いい。逃げられたら困るし』
「……」
『少し部屋が汚れるかもしれないけど、物は壊さないようにやるから』
「ああ……」
板チョコの封を切ったアルトはカプリとかじりつく。その微かに口角が上がっていた。ギルバートはなぜか冷や汗をかく。
『さて行くか。あ、二人はお茶でも飲んでゆっくりしといてね』
そう言い終わった瞬間、アルトは二人の前から姿を消す。
「!!…今のは」
「消えた……!?」
「月歩(ゲッポウ)か……」
ギルは空を見上げる。ミアもそれに倣った。
「ギル、あれ!!」
「ああ……」
「お空を飛んでるの?」
「ん~…まぁ、それに近いかな」
アルトは月歩でギルの部屋の窓へたどり着く。一度こっちを見てから部屋に入って行った。
「……」
ギルバートはミアの耳を塞ぐ。ミアは首を傾げた。
「?ギル?」
「一応。聞かない方がいい気がするから」
「?」
ギルバートはそう言うと部屋を見上げる。まもなく予想通り、大将の悲鳴が聞こえて来た。
ギャアアアアア…!!!!
悲鳴が聞えてから30分。二人はまだ部屋にいた。どうやらアルトが説教をしているらしい。
「まさかCPの技は使えるとは……」
ギルは緑茶に口をつける。ギルバートとミアは隣の客間で言われた通り、お茶をしていた。
「おい、ギル!」
「!スモーカー!?」
ガチャッと乱暴に開いたドアから部屋にやって来たのはスモーカーとたしぎだ。
「失礼します、ギルバート准将」
「たしぎ少尉まで。どうしたんだ?」
「ミアちゃんからこの島に不審者が入ったと連絡が来たので参りました」
「ミアから?」
「ごめんなさい。怖かったから…」
「……そうだったのか。すまない、ミア」
ギルバートはミアの頭を撫でる。そこまで不安にしていたとは…と申し訳なく思った。
「で、その様子だと」
「ああ、解決したよ」
スモーカーはため息をつく。ギルバートは苦笑しつつも二人を席へ招いた。
「解決したのならよかったです。それにしてもすごいお菓子の量ですね。ミアちゃんこんなに食べるんですか??」
たしぎは机いっぱいに広がる菓子とさらに袋に山盛入ったお菓子を見て驚嘆する。ギルバートは手を振った。
「あ、いや、これはアルトの分だ」
「「アルト…!?」」
「?」
スモーカーは呆れたように煙を吐いた。
「おい、そのアルトってのはまさかノティのことじゃねェよな?」
「?ああ、ノティ・アルトと言っていたな。知ってるのか?」
「……なんでここにいる?」
「ああ、それなんだが、侵入者ってのが青キジさんだったんだ」
「「は?」」
スモーカーとたしぎの訝しげな目で言う。もっともな話だが、その疑問への言及はしなかった。
「それで、迎えに来たアルトが今部屋で説教をしている」
「……」
「なんだ?」
黙ってしまったスモーカーに首を傾げる。
「お前、いつから知り合いなんだ?」
「??さっきだ。驚いたよ、まだ若いのにCPの技が使える士官がいるなんて」
「「……」」
スモーカーはさっき以上に煙を吐く。たしぎは目を見張った。
「なんだ??ふたりとも??」
「……お前、あいつの階級を確認したか?」
「ん?…そう言えば、階級は聞いてなかったな。顔を知らないから下士官だと踏んでたし……」
「……。判断が甘ェな、相変わらず」
「??おい、どう言う……」
『ギルクン、ミアクン。待たせてすまないね』
ガチャッと開いたドアからアルトが出てくる。スモーカー、たしぎと目が合った。
『あれ?スモーカークンにたしぎクン』
二人を見たアルトは驚きながらも大きな人間、青キジを引きづり客間に入って来た。
「あららら、みなさんお揃いで」
「「「……」」」
引きづられながらもみんなに声をかける青キジ。その光景はシュールすぎてなんとも言えない。
「……」
「えっと、こんにちわ。青キジさん、ノティ中将」
「!―――え」
ギルバートはたしぎの言葉に反応する。
『どうしたの?ギルクン??』
「アルト、おっお前…中将なのか?」
『え?ああ、言ってなかったけ?』
「!!!!」
―――――――間
「海軍本部中将、兼七武海担当……」
『そう、それが僕の肩書』
「アルトここから出して~のど乾いた」
青キジは、コンコンと透明なピースを叩く。現在青キジはアルトの能力で閉じ込められていた。
『ダメ。今日は帰ったらセンゴクサンとおつるサンから説教してもうからね』
「ええ~!!」
「……」
「ギル、大丈夫??」
「ああ……。大丈夫。驚いただけだから」
目の前で大将と中将の漫才を見ているギルバートは、肩から力が抜けていた。
「だから甘ェって言ったんだ」
「スモーカーさん!!」
客間の椅子に腰かけたスモーカーが煙を吹かしながら言う。たしぎはそんな上司へ苦言を呈した。
「いや少尉、気にしないで。スモーカーの言う通りだから。――ノティ中将、とんだ御無礼を…」
『いや、別に無礼じゃないよ。名乗らなかったのは僕だし』
「「「……」」」
『キミ達はなんでここに?』
「てめェの上司が不法侵入したって連絡が入ってな」
「あららら~おれって人気者?」
『…“盾”小さくするよ』
アルトは青キジに手を伸ばす。青キジは首を横に振った。
「そりゃ勘弁…」
『すまない、キミ達の手まで煩わせて』
「いえ、そんな…」
「フン。済んだことだ。どうでもいい」
『ありがとう』
「……」
『……』
アルトはギルバートに目を向け、何かを考えると立ち上がった。
『じゃあ、僕達行くね』
「え!?」
「「!」」
ギルバートは驚いた声をあげる。
「もう出られるのですか??」
『うん。クザンクンを探す任務は完了したからね。本部に戻るよ』
「「……」」
「アルト」
『?』
「おれちょっとギルと話したいことがあるからさ。外で待ってて」
『……。わかった』
アルトは素直に青キジへ向けていた盾を消す。そしてギルバートを見た。
『……。迷惑をかけた。その…ごめんね、ギルバート准将』
「!」
それだけ言うとアルトは部屋を後にした。
「……中将、何かあったんでしょうか。なんだか元気がないような…」
「……」
たしぎの言葉に静かに葉巻を吹かすスモーカー。
「あの…青キジさん」
「ああ、ギル。悪いね、急に押しかけちゃって」
「いえ、構いませんが…。おれに用とは?」
「いんやまぁ、大それたもんじゃないよ。お前が預かってるミアちゃんを一度見たかったのと……」
青キジはミアに手を振る。しかしミアがギルバートの後ろに隠れてしまったので、頭をかいた。
「あいつとギルを会わせたかった…ってか」
青キジの言葉の先を理解したスモーカーが言った。
「おお~よくわかったな。さすがスモーカー」
「フン……誉めてもねェ誉め言葉はいらねェよ」
「会わせたかった??おれとノティ中将をですか?」
「ん、そう。後、ミアちゃんにもね」
「えっ?」
「?」
「あいつもあいつでいろいろあるんだけど、立場的にはちょっとだけミアちゃんと似てるんだ」
「??私と似てる?」
ヒョコッとギルバートから顔を出す。青キジは頷いた。
「うん。アルトも海軍の下で育ったからね」
「!」
「同じような境遇だから、ミアちゃんと仲良くできるかなって思って連れて来たんだ」
「そうなんだ」
「そうなの。アルトはミアちゃんの先輩なんだ」
「……」
青キジがミアの頭を撫でる。ミアは青キジの話に興味を示したようだ。
ギルバートは浮かない顔をする。
―――…ごめんね、ギルバート准将
「……。あの、青キジさん。おれ嫌われたんでしょうか?」
「あ~…あいつは好き嫌いは激しい奴だけど、ギルのことは好きだと思うよ」
「?」
「嫌いな奴には真正面から嫌いって言うから。全然気も使わないし。まったく誰に似たんだろうねェ~」
「「(アンタじゃないのか……)」」
スモーカーとたしぎが心の中で突っ込んだ。
「まぁ、とりあえず仲良くしてやって。さっきの友達みたいな感じで」
「友達……」
「そ。今のあいつには部下より友達の方が必要だからね」
じゃあっと上着を持って出て行く青キジ。たしぎは慌てて失礼します!!と立ちあがった。
「……」
「……。情けねェ顔だな」
「わからないんだ。今のは上司にため口を利けと言われたようなもんだ」
ギルバートは頭を抱える。スモーカーは新しい葉巻に火をつけた。
「上から許可が出てるんだ利けばいいじゃねェか」
「お前じゃないんだ。そう簡単に出来るか」
「じじくせェ奴だ。お前が融通を利かせればいいだけの話だろ」
「……」
「ねェ、ギル」
「なんだ?」
「アルト、お菓子置いてちゃったよ」
ミアの指差す先にお菓子の袋がある。
「ああ……。本当だな」
「あ、私持って行きましょうか?」
「たしぎ。余計なマネをすんな」
「え…!」
「……そうだな。おれが届けてくる」
「私も行く!」
ギルバートはお菓子の袋を持つ。隣にミアが来るのを確認して外に出た。
外ではアルトと青キジがビローアバイクと自転車をくくりつけていた。
「ノティ……」
「アルト!!」
『……!』
ミアの声がギルバートの声をかき消す。アルトは振り返った。
『ん、どうしたの?見送りの必要はないんだけど……』
「忘れ物だよ」
『?』
「あ、これ…」
ギルバートはアルトにお菓子の入った袋を差し出す。
『ああ、ありがとう』
アルトは受け取った。
「あのね、アルト。私とアルトは少しだけ似てるんだって」
『?』
「アルトはあのおじさんのこと好き?」
『え…!』
アルトは驚いたようだ。ミアに向けていた目をギルバートに向ける。
「先程、青キジさんに聞いたんです。あなたも海軍で育ったと」
『なるほど……』
「嫌い?」
ミアが尋ねる。アルトは首を横に振った。
『スキだよ。クザンクンが僕を拾ってくれたから、今があるしね』
「おじさんは、怒ったりするの?」
『うん、たくさん怒られた。氷漬けにもされたしね』
「私も怒られるよ!いっぱいいっぱい」
『……。ミアクンはギルクンをスキかい?』
「うん!アルトと一緒だよ」
『ああ、そうだね』
「……!」
ミアとアルトの会話にギルバートは目を見張る。アルトはギルバートへ目を向けた。
『ギルクン。さっきみたいに普通に話してくれないか?
クザンクンがキミに何を言ったかは知らないが、キミとはさっきみたいに話が出来る間柄で居たい』
「私は?」
『ああ。ミアクンもいいかな?』
「いいよ!」
『ありがとう』
「うん!」
ミアの頭を撫でるアルト。
『僕はキミ達がスキだ。だから仲良くなれたら嬉しい』
「……はぁ。大人だな、お前は」
『?』
「いや、なんでもない。おれもその友達の輪に入れてくれ」
そう言うとギルバートはアルトに握手を求める。アルトはギルバートの手をじっと見た。
『…―――』
「?」
アルトは小さく何かを呟いたかと思えば手を差し出し、ギルバートと握手する。
『改めてよろしく、ギルクン』
「ああ、よろしくアルト」
「私もする!」
『うん』
ギルバートと握手した後、アルトはミアとも握手をする。
「良かったねェ~アルト。いい子いい子~」
『!』
わしわしとアルトの頭を撫でる青キジ。アルトは嫌そうな目で見上げた。
『クザンクン…。いい加減、子供扱いしないでくれる?』
「え~。だっておれからしたら子供だもん♪」
『僕もう大人だ』
「辛口カレーを食べれたら大人と認めてやるよ」
『ムゥ……』
「プッ…ハハハハ!!」
「『?』」
会話を聞いていたギルバートは我慢しきれず声を上げて笑う。みんなポカンとした。
「あららら~?」
『ギルクン、どうしたの??』
「失礼…。なんだかアルトがミアみたいで」
「ミアはカレー食べれるよ」
「辛口は無理だろ」
「!食べれるよ!!」
「よかったですね~ギルバート准将も、ノティ中将も」
「……フン。回りくどいことしやがる」
ドアの隙間からギルバート達の様子を窺っていたたしぎは安堵の表情を浮かべる。
「でも、青キジさんの言う通り、似てますね~ノティ中将とミアちゃん」
「……さぁな」
「ええ!そこは同意してくださいよ。スモーカーさん!!」
文句を言うたしぎを余所にスモーカーはただ口角を上げ、煙を吹かすのであった。
fin
「問題ありません」
「よし。今日も平和だな」
ホッと安堵の息をついたのは海軍本部“付”准将シャンク・ギルバート。
彼は本部があるマリンフォードから少し離れた島の警備を主な仕事としている准将で、召集がかかれば本部に赴く。
そんなギルバートは本日、本部からの指令で島を起点にした巡回を行っていた。
「何だ?……ビローアバイク?」
排気音と遠くに見えるシルエットから監視をしていた海兵が言う。
「スモーカーか?」
「いえ…別の人物のようです」
「?」
ギルバートは縁から乗り出すと、じぃーっとビローアバイクに乗る人物を見た。
確かに上から下まで真っ黒な姿は友人、スモーカーとは似ても似つかない。
「ギルバート准将、ビローアバイクから入艦許可が要請されています」
「軍の関係者か。わかった、要請に応える。甲板に上がってもらえ」
「はっ!」
「さて、どんな奴かな……」
【ファーストコンタクト~海軍の異端児~】
『ありがとう、要請を受けてくれて』
「……」
ギルバートの前に現れたのは、クセの強い黒髪に目つきの悪い緑の瞳をもつ若い士官。服は髪と同じように黒く、まるで影のようだ。
他に色があるとすれば左足にある“正義”が白で書かれていること。
暗闇にいたらさぞかし溶け込むであろうその姿はこの昼間の艦では少々浮いていた。
ギルバートは手を差し出す。
「おれはこの艦の艦長、海軍本部付准将シャンク・ギルバートだ」
『僕はノティ・アルト。早速で悪いんだけど、今上司を探してるんだ』
「上司?」
ギルバートは首を傾げる。
『ああ。クザンクンなんだけど、見なかった?』
「クザン?……って青キジさんか!!」
ギルバートは驚き、目を丸くした。目の前の士官、アルトは頷く。
『そうそれ。今日会議なんだけど、いなくなってね』
「……それって、仮にも君の上司だろ」
『いいんだ』
「……」
表情は変わらないがとても不機嫌そうな声を出す。
『自転車がこっちに来た形跡があったんだけど…』
「自転車……」
このグランドラインをそれで渡るのは確かに大将、青キジしかいない。昔一度だけその姿を目にしたが何とも信じがたい光景だったと記憶している。
ギルバートは首を横に振った。
「残念だが、今日の巡回では見ていないな」
『そうか…』
アルトは肩を落とす。ギルバートはそれに苦笑した。
『じゃあさ』
アルトは顔を上げ、変わらぬ表情でギルバートに尋ねる。
『この近くにお菓子が売ってる島とか知らない?』
「は?」
『急いで出て来たから、ストックが無くなってね。困ってるんだ』
後ろのポーチをトントンと叩くアルトに、ギルバートは怪訝な顔をした。
「カシってチョコレートとかアメの菓子か?」
『うん、それ!僕それがないと仕事にならなくてね。でも、今本部に帰る訳にも行かないし……』
「……チョコレートなら艦に少し積んでいる。後、おれが警備をしている島に行けば店はあるが…」
『!本当かい!?』
「あ…ああ」
アルトは歓喜の声を上げる。アルトの初めての表情の変化にギルバートは少し驚いた。
『チョコレートもらっていい?後、その島にぜひ立ち寄りたい。いいかな?』
矢継ぎ早に言うアルト。その自分を見上げる瞳にギルバートは妙な親心が芽生えた。
「ああ、いいぞ。そうだ今から島に戻るから乗って行くか?」
『いいのかい?』
「ああ」
『ありがとう!』
「…フッ」
ギルバートは喜ぶアルトがなんだか小さな子供のように見えて、また苦笑する。
もしかしたら島に置いて来たミアよりも精神年齢は幼いのかもしれない。
ギルバートは部下が持って来たチョコレートをアルトに手渡すと、声を上げた。
「よし、みんな。ビローアを格納庫に収納次第、島に戻るぞ」
「「「はっ!」」」
艦が島に停泊する。
『へェ~。本部に近い島がシャボンティ以外にあるなんて知らなかったな』
「そうか」
興味津々に甲板から島を見るアルト。隣にいたギルバートは笑う。
その姿はまるで兄弟のようで、ギルバート自身もいつの間にかアルトを呼び捨てにしていた。
「まぁ、おれにしたらアルトが休まずチョコレートを食べ続けてることに驚くがな」
『そう?』
アルトはそう言いながらもカプッとチョコレートをかじる。ミア用に乗せていたチョコレートはすっかりなくなっていた。
完全に停泊した艦から降りたギルバートは街を見下ろす。
「先に店に案内しよう」
『ありがと』
ギルバートはアルトを街のお菓子屋に案内する。店に入ったアルトはカゴを取ると品定めを始めた。
「何を買うんだ?」
『とりあえず、板チョコとアメ。後はマシュマロも欲しいな』
バサバサとカゴに入れて行くアルト。その量にギルバートは胸焼けがした。
「……まだそんなに食べるのか?」
『うん。長期戦に備えてね。支払いはクザンクンだし…』
そういいながらまたひとつお菓子を入れ、会計をする。
「ありがとうございました!」
「ああ、また来る」
『ありがとう!』
商人の言葉に、手を振って応えるギルバートとアルト。アルトはお店の人からさらにオマケのお菓子をもらっていた。
「ミアがいればまけてくれることはあるが……アルトお前、何かしたのか?」
『ん?いや別に。教わったことをしただけだよ』
「教わったこと?」
『うん。お店の人が女の人ならお金を渡す時に相手の手を優しく握って、目を見て礼を言う。その時は上目遣いだっけ?それで相手を見るといい……って教わった。紳士の嗜みなんだって』
「……。それは誰に聞いたんだ?」
『ああ、ガープサンだ。そう言うのには詳しいらしい』
「……(ガープ中将……何教えてんだ)」
ギルバートは肩を落とす。アルトは首を傾げた。
『どうかした?』
「いや……」
『……あ、そうそう。これギルクンの艦の分』
そう言うとアルトはギルバートにお菓子が山盛り入った袋をひとつ差し出す。
「!?こんな気を遣わなくていいぞ」
『ダメだよ。ちゃんと受けた恩は返しなさいって言われてるんだ。キミに感謝してるしね』
「……そうか。なら受け取ろう」
ギルバートは差し出されたお菓子の袋を受け取る。
「その教えもガープ中将から?」
『いや。これはクザンクンだよ』
「青キジさんが…」
『ああ。こう言うところは常識人だよね。そう考えるとありがたい存在だ』
「……うらやましいな」
ギルバートはポツリと呟いた。アルトは首を傾げる。
『何が?』
「あ、いや。おれはそう思ってもらえる立場の人間になりたいなと思ってな」
『……ああ。さっき言ってたミアって子?』
「そう。アルトが青キジさんを思うように、ミアにもそう思ってもらえる存在になりたいんだ」
『ふむ……』
アルトは腕を組み、納得したような声を上げた。
「ギル!」
「『!』」
ギルバートとアルトは振り返った。ギルバートの下に少女が走ってくる。
「ミア、どうしたんだ?」
ギルバートは胸に飛び込んでくる少女、ミアを受け止めると尋ねた。
「あのね、ギル……!?」
『?』
ミアはギルの隣にいるアルトに驚き、口を閉ざしてしまった。
「ミア、大丈夫。アルトは友達だ」
『……』
アルトは一瞬ギルバートに目を向けたかと思えば、膝を折りミアと目線を合わせた。
『初めましてミアクン。僕はノティ・アルト。アルトって呼んで』
ニコッと笑うと言うことはなかったが、アルトはお近づきの印としてさっき買ったキャンディーをミアに差し出す。
「あ、ありがとう……」
ミアはキャンディーを受け取った。心なしか頬が赤い。
「……いいな」
ギルバートは二人に流れる空気にほんのり和んだ。キャンディーを受け取ったミアはハッと思い出す。
「そうだ、ギル!!あのね、お家に変な人がいるの」
「変な人…!?」
「みんな、大丈夫って言うんだけど私こわくて」
ギルバートは怖がるミアの頭を撫で宥める。
「ミア、落ち着いて。どんな人なんだ?」
ミアは頷くと、ゆっくり事情を話した。
「ギルが帰ってくるのお外で待ってたの。そしたらすごく大きな人が自転車で海を渡ってきて…!!」
「『……』」
ギルバートとアルトは顔を見合わせる。
「その人みんなが驚いてる間に島に入って来て、ギルのお部屋に入っちゃったの!」
「……おれの部屋に?」
ミアは頷く。心配そうな顔にギルバートは困った顔をした。
『大丈夫だよ、ミアクン』
「え…?」
ミアはアルトに目を向ける。ギルバートも目を向けた。
『そんな困った大人は今から僕が懲らしめてくる。キミやギルクンに危害は加えさせないよ』
「……アルトは強いの?」
『ん?まぁまぁかな。でも今は負けないから、安心して』
アルトはそう言うと、立ち上がりギルバートに言った。
『ギルバートクン、キミの部屋はどこだい?』
「あ…あの建物だ。ちょうど窓が開いてるあそこが部屋だ」
ギルバートはある建物を指差しながら説明する。アルトはうんうんと頷いた。
『わかった。これ持ってて』
アルトは板チョコを一枚取り出すと、残りが入った袋をギルバートに渡した。
「!…待て、アルト。ちゃんと部屋に案内す……」
『いや、いい。逃げられたら困るし』
「……」
『少し部屋が汚れるかもしれないけど、物は壊さないようにやるから』
「ああ……」
板チョコの封を切ったアルトはカプリとかじりつく。その微かに口角が上がっていた。ギルバートはなぜか冷や汗をかく。
『さて行くか。あ、二人はお茶でも飲んでゆっくりしといてね』
そう言い終わった瞬間、アルトは二人の前から姿を消す。
「!!…今のは」
「消えた……!?」
「月歩(ゲッポウ)か……」
ギルは空を見上げる。ミアもそれに倣った。
「ギル、あれ!!」
「ああ……」
「お空を飛んでるの?」
「ん~…まぁ、それに近いかな」
アルトは月歩でギルの部屋の窓へたどり着く。一度こっちを見てから部屋に入って行った。
「……」
ギルバートはミアの耳を塞ぐ。ミアは首を傾げた。
「?ギル?」
「一応。聞かない方がいい気がするから」
「?」
ギルバートはそう言うと部屋を見上げる。まもなく予想通り、大将の悲鳴が聞こえて来た。
ギャアアアアア…!!!!
悲鳴が聞えてから30分。二人はまだ部屋にいた。どうやらアルトが説教をしているらしい。
「まさかCPの技は使えるとは……」
ギルは緑茶に口をつける。ギルバートとミアは隣の客間で言われた通り、お茶をしていた。
「おい、ギル!」
「!スモーカー!?」
ガチャッと乱暴に開いたドアから部屋にやって来たのはスモーカーとたしぎだ。
「失礼します、ギルバート准将」
「たしぎ少尉まで。どうしたんだ?」
「ミアちゃんからこの島に不審者が入ったと連絡が来たので参りました」
「ミアから?」
「ごめんなさい。怖かったから…」
「……そうだったのか。すまない、ミア」
ギルバートはミアの頭を撫でる。そこまで不安にしていたとは…と申し訳なく思った。
「で、その様子だと」
「ああ、解決したよ」
スモーカーはため息をつく。ギルバートは苦笑しつつも二人を席へ招いた。
「解決したのならよかったです。それにしてもすごいお菓子の量ですね。ミアちゃんこんなに食べるんですか??」
たしぎは机いっぱいに広がる菓子とさらに袋に山盛入ったお菓子を見て驚嘆する。ギルバートは手を振った。
「あ、いや、これはアルトの分だ」
「「アルト…!?」」
「?」
スモーカーは呆れたように煙を吐いた。
「おい、そのアルトってのはまさかノティのことじゃねェよな?」
「?ああ、ノティ・アルトと言っていたな。知ってるのか?」
「……なんでここにいる?」
「ああ、それなんだが、侵入者ってのが青キジさんだったんだ」
「「は?」」
スモーカーとたしぎの訝しげな目で言う。もっともな話だが、その疑問への言及はしなかった。
「それで、迎えに来たアルトが今部屋で説教をしている」
「……」
「なんだ?」
黙ってしまったスモーカーに首を傾げる。
「お前、いつから知り合いなんだ?」
「??さっきだ。驚いたよ、まだ若いのにCPの技が使える士官がいるなんて」
「「……」」
スモーカーはさっき以上に煙を吐く。たしぎは目を見張った。
「なんだ??ふたりとも??」
「……お前、あいつの階級を確認したか?」
「ん?…そう言えば、階級は聞いてなかったな。顔を知らないから下士官だと踏んでたし……」
「……。判断が甘ェな、相変わらず」
「??おい、どう言う……」
『ギルクン、ミアクン。待たせてすまないね』
ガチャッと開いたドアからアルトが出てくる。スモーカー、たしぎと目が合った。
『あれ?スモーカークンにたしぎクン』
二人を見たアルトは驚きながらも大きな人間、青キジを引きづり客間に入って来た。
「あららら、みなさんお揃いで」
「「「……」」」
引きづられながらもみんなに声をかける青キジ。その光景はシュールすぎてなんとも言えない。
「……」
「えっと、こんにちわ。青キジさん、ノティ中将」
「!―――え」
ギルバートはたしぎの言葉に反応する。
『どうしたの?ギルクン??』
「アルト、おっお前…中将なのか?」
『え?ああ、言ってなかったけ?』
「!!!!」
―――――――間
「海軍本部中将、兼七武海担当……」
『そう、それが僕の肩書』
「アルトここから出して~のど乾いた」
青キジは、コンコンと透明なピースを叩く。現在青キジはアルトの能力で閉じ込められていた。
『ダメ。今日は帰ったらセンゴクサンとおつるサンから説教してもうからね』
「ええ~!!」
「……」
「ギル、大丈夫??」
「ああ……。大丈夫。驚いただけだから」
目の前で大将と中将の漫才を見ているギルバートは、肩から力が抜けていた。
「だから甘ェって言ったんだ」
「スモーカーさん!!」
客間の椅子に腰かけたスモーカーが煙を吹かしながら言う。たしぎはそんな上司へ苦言を呈した。
「いや少尉、気にしないで。スモーカーの言う通りだから。――ノティ中将、とんだ御無礼を…」
『いや、別に無礼じゃないよ。名乗らなかったのは僕だし』
「「「……」」」
『キミ達はなんでここに?』
「てめェの上司が不法侵入したって連絡が入ってな」
「あららら~おれって人気者?」
『…“盾”小さくするよ』
アルトは青キジに手を伸ばす。青キジは首を横に振った。
「そりゃ勘弁…」
『すまない、キミ達の手まで煩わせて』
「いえ、そんな…」
「フン。済んだことだ。どうでもいい」
『ありがとう』
「……」
『……』
アルトはギルバートに目を向け、何かを考えると立ち上がった。
『じゃあ、僕達行くね』
「え!?」
「「!」」
ギルバートは驚いた声をあげる。
「もう出られるのですか??」
『うん。クザンクンを探す任務は完了したからね。本部に戻るよ』
「「……」」
「アルト」
『?』
「おれちょっとギルと話したいことがあるからさ。外で待ってて」
『……。わかった』
アルトは素直に青キジへ向けていた盾を消す。そしてギルバートを見た。
『……。迷惑をかけた。その…ごめんね、ギルバート准将』
「!」
それだけ言うとアルトは部屋を後にした。
「……中将、何かあったんでしょうか。なんだか元気がないような…」
「……」
たしぎの言葉に静かに葉巻を吹かすスモーカー。
「あの…青キジさん」
「ああ、ギル。悪いね、急に押しかけちゃって」
「いえ、構いませんが…。おれに用とは?」
「いんやまぁ、大それたもんじゃないよ。お前が預かってるミアちゃんを一度見たかったのと……」
青キジはミアに手を振る。しかしミアがギルバートの後ろに隠れてしまったので、頭をかいた。
「あいつとギルを会わせたかった…ってか」
青キジの言葉の先を理解したスモーカーが言った。
「おお~よくわかったな。さすがスモーカー」
「フン……誉めてもねェ誉め言葉はいらねェよ」
「会わせたかった??おれとノティ中将をですか?」
「ん、そう。後、ミアちゃんにもね」
「えっ?」
「?」
「あいつもあいつでいろいろあるんだけど、立場的にはちょっとだけミアちゃんと似てるんだ」
「??私と似てる?」
ヒョコッとギルバートから顔を出す。青キジは頷いた。
「うん。アルトも海軍の下で育ったからね」
「!」
「同じような境遇だから、ミアちゃんと仲良くできるかなって思って連れて来たんだ」
「そうなんだ」
「そうなの。アルトはミアちゃんの先輩なんだ」
「……」
青キジがミアの頭を撫でる。ミアは青キジの話に興味を示したようだ。
ギルバートは浮かない顔をする。
―――…ごめんね、ギルバート准将
「……。あの、青キジさん。おれ嫌われたんでしょうか?」
「あ~…あいつは好き嫌いは激しい奴だけど、ギルのことは好きだと思うよ」
「?」
「嫌いな奴には真正面から嫌いって言うから。全然気も使わないし。まったく誰に似たんだろうねェ~」
「「(アンタじゃないのか……)」」
スモーカーとたしぎが心の中で突っ込んだ。
「まぁ、とりあえず仲良くしてやって。さっきの友達みたいな感じで」
「友達……」
「そ。今のあいつには部下より友達の方が必要だからね」
じゃあっと上着を持って出て行く青キジ。たしぎは慌てて失礼します!!と立ちあがった。
「……」
「……。情けねェ顔だな」
「わからないんだ。今のは上司にため口を利けと言われたようなもんだ」
ギルバートは頭を抱える。スモーカーは新しい葉巻に火をつけた。
「上から許可が出てるんだ利けばいいじゃねェか」
「お前じゃないんだ。そう簡単に出来るか」
「じじくせェ奴だ。お前が融通を利かせればいいだけの話だろ」
「……」
「ねェ、ギル」
「なんだ?」
「アルト、お菓子置いてちゃったよ」
ミアの指差す先にお菓子の袋がある。
「ああ……。本当だな」
「あ、私持って行きましょうか?」
「たしぎ。余計なマネをすんな」
「え…!」
「……そうだな。おれが届けてくる」
「私も行く!」
ギルバートはお菓子の袋を持つ。隣にミアが来るのを確認して外に出た。
外ではアルトと青キジがビローアバイクと自転車をくくりつけていた。
「ノティ……」
「アルト!!」
『……!』
ミアの声がギルバートの声をかき消す。アルトは振り返った。
『ん、どうしたの?見送りの必要はないんだけど……』
「忘れ物だよ」
『?』
「あ、これ…」
ギルバートはアルトにお菓子の入った袋を差し出す。
『ああ、ありがとう』
アルトは受け取った。
「あのね、アルト。私とアルトは少しだけ似てるんだって」
『?』
「アルトはあのおじさんのこと好き?」
『え…!』
アルトは驚いたようだ。ミアに向けていた目をギルバートに向ける。
「先程、青キジさんに聞いたんです。あなたも海軍で育ったと」
『なるほど……』
「嫌い?」
ミアが尋ねる。アルトは首を横に振った。
『スキだよ。クザンクンが僕を拾ってくれたから、今があるしね』
「おじさんは、怒ったりするの?」
『うん、たくさん怒られた。氷漬けにもされたしね』
「私も怒られるよ!いっぱいいっぱい」
『……。ミアクンはギルクンをスキかい?』
「うん!アルトと一緒だよ」
『ああ、そうだね』
「……!」
ミアとアルトの会話にギルバートは目を見張る。アルトはギルバートへ目を向けた。
『ギルクン。さっきみたいに普通に話してくれないか?
クザンクンがキミに何を言ったかは知らないが、キミとはさっきみたいに話が出来る間柄で居たい』
「私は?」
『ああ。ミアクンもいいかな?』
「いいよ!」
『ありがとう』
「うん!」
ミアの頭を撫でるアルト。
『僕はキミ達がスキだ。だから仲良くなれたら嬉しい』
「……はぁ。大人だな、お前は」
『?』
「いや、なんでもない。おれもその友達の輪に入れてくれ」
そう言うとギルバートはアルトに握手を求める。アルトはギルバートの手をじっと見た。
『…―――』
「?」
アルトは小さく何かを呟いたかと思えば手を差し出し、ギルバートと握手する。
『改めてよろしく、ギルクン』
「ああ、よろしくアルト」
「私もする!」
『うん』
ギルバートと握手した後、アルトはミアとも握手をする。
「良かったねェ~アルト。いい子いい子~」
『!』
わしわしとアルトの頭を撫でる青キジ。アルトは嫌そうな目で見上げた。
『クザンクン…。いい加減、子供扱いしないでくれる?』
「え~。だっておれからしたら子供だもん♪」
『僕もう大人だ』
「辛口カレーを食べれたら大人と認めてやるよ」
『ムゥ……』
「プッ…ハハハハ!!」
「『?』」
会話を聞いていたギルバートは我慢しきれず声を上げて笑う。みんなポカンとした。
「あららら~?」
『ギルクン、どうしたの??』
「失礼…。なんだかアルトがミアみたいで」
「ミアはカレー食べれるよ」
「辛口は無理だろ」
「!食べれるよ!!」
「よかったですね~ギルバート准将も、ノティ中将も」
「……フン。回りくどいことしやがる」
ドアの隙間からギルバート達の様子を窺っていたたしぎは安堵の表情を浮かべる。
「でも、青キジさんの言う通り、似てますね~ノティ中将とミアちゃん」
「……さぁな」
「ええ!そこは同意してくださいよ。スモーカーさん!!」
文句を言うたしぎを余所にスモーカーはただ口角を上げ、煙を吹かすのであった。
fin