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『……ハァ…』
ジンは路地裏に駆け込み、息を整える。
そしてなかなか再生しない穴の開いた肩を押さえた。
『あのスピードに海楼石を備えた“銃”ですか……油断しましたね』
ジンは苦笑した。
【命懸けの鬼ごっこ】
少し時間は遡る。
それはある音楽の街での出来事。
~~~♪~~♪♪
煉瓦調の家が並ぶ街からは色んな所から音楽が絶えず聞こえてくる。
ジンはそれをゆっくり歩きながら聞いていた。
『街中から音楽とは面白い街です。
……しかし、音楽と言うのは思った以上に個性が出るのですね』
誰に言うでもなく、ジンは辺りにいる演奏家達を見ながら呟き、再び耳を傾けた。
~♪
ふと、ひとつの路地からバイオリンの音(ネ)が聞こえてきた。
~♪♪~~♪~
『おや……』
ジンは足をとめる。
その音(ネ)はこの街中を歩いていた中でもピカ一で、否応なしに心惹かれてしまう。
それは曲のせいなのか
はたまた弾き手の技量なのか
『素晴らしい』
ジンはこのバイオリンの弾き手に興味を持ち、音が聞こえる路地に足を踏み入れる。
路地は少し暗かったが、歩くとすぐに光が見えた。ジンは音に耳を傾けながら路地を抜ける。
『!?』
(なんだ、これは……??)
路地を抜けた先は小高い丘だった。しかしそれにジンが驚いた訳ではない。
ジンがその丘の異様な光景に驚いたのだ。
~~♪♪~~♪♪
小高い丘のてっぺんで目を瞑り、バイオリンの演奏に集中している、くせっ毛の強い黒髪の青年。
何より異様なのはその青年の周りに“海賊や山賊”らしき男達が昏倒しているのだ。その数は片手では足りない。
『………』
ジンは状況がわからず、バイオリンを弾く青年を観察した。
『?』
全身黒服の青年であるが、左足に白い文字が見えた。
その文字を理解した瞬間、ジンはつい声を発っしてしまう。
『“正義”……まさか…!?』
~~♪.
ジンの言葉に反応し、ピタッと演奏が止まった。
青年はすっと目を開ける。少し目付きの悪い緑の瞳がジンを捉えた。
「………」
『………』
青年、アルトはしばらくジンをじっと見て、静かに口を開いた。
「“渡り鳥”クロスロード・ジンか……。大物がかかったな」
『……。やはり海軍の方でしたか』
ジンは戦闘にも逃亡にもどちらでも対応出来る様に構えつつ、言った。
一方アルトはバイオリン片手に後ろのポーチからチョコレートを取り出し一口かじる。
「まぁね。…ただ、今僕は休暇中だから、キミを捕まえる気はないよ」
『えっ?』
ジンは怪訝な顔をする。アルトは気にせずチョコレートをまた一口食べる。
「それにキミは“曲”に誘われただけみたいだしね」
『??ええ、確かに演奏に誘われてやって来たのですが……“曲に”とはどう言う意味です?』
ジンが尋ねる。アルトは答えた。
「さっき弾いてたのは“インダクティブ・グラビティ(誘導の引力)”と言う曲でね。
奏者が呼びたい対象だけに聞かせることが出来、聞いた対象は惹かれる様にやってくる……とまぁ、そんな感じの逸話がある曲さ」
『そんな曲があるとは…。ちなみに“対象”はなんだったんですか?』
「“賞金首”だ。この曲の効果を試すには手っ取り早かったから」
『……つまり、僕も賞金首としてそれに惹かれたと』
ジンの言葉にアルトは首肯する。
「まさか、億超え…しかも5億の人間を引き寄せれるとは思わなかったけど」
『……そんな“獲物”を目の前にして捕まえないのですか?』
ジンのその言葉にアルトは肩をすくめる。
「言ってるだろ?僕は休暇中だ。仕事なら捕まえるさ」
『では、貴方の足元にいらっしゃる方々は……??』
「ん?」
怪訝な顔をしたジンの言葉を受け、アルトは足元を見る。
ああっと納得した様な声を出した。
「この人達は僕が海軍だからどうとか、うるさくてね。“演奏の邪魔”だったから」
『……なるほど』
ジンは呟く。
『(手を出さなければ、とりあえず安全と言うことですね)』
ジンはそう理解し、コホンッと咳払いをする。そして気を取りなおしアルトに言った。
『何はさておき…。貴方の演奏とても素晴らしかったです』
「ありがと。そう言って貰えると嬉しい」
『(先程から見事なポーカーフェイスですね……)』
アルトの変わらない表情を見ながらジンは思う。
こういう相手はなかなか侮れないと言うのがジンの経験だ。
『…失礼ですが、お名前を教えて頂けませんか?僕だけ知られているのは不公平な気がしまして…』
ジンが尋ねる。アルトは頷いた。
「そうだな、確かに不公平だ。僕はノティ・アルト。一応、海軍本部中将をしている」
『!!中将ですか…お若いですね』
「…そうかな。そう言うの気にしたことないから。それより」
アルトはジンの顔をまじまじと見る。ジンは突然のことに驚きつつ、尋ねる。
『……??な…何か??』
ジンは戸惑いながら尋ねる。アルトはジンを見ながら答えた。
「いや、キレイな顔だなって思って」
『……はぁ?』
「男にしとくのは勿体無いくらいの美人だ。クザンクンくらいなら余裕で落とせるよ」
『?クザンクンとは……?』
アルトはジンの問いにスッと顔を引き、答える。
「僕の上司で…」
ジリリリリ……
『!?』
「?」
突然アルトの子電伝虫が鳴る。
「失礼するよ」
『ええ』
アルトはガチャっとジンの前で子電伝虫を取った。
[アルト、まだ島にいるか?]
声の主はセンゴクだった。アルトは驚きつつも答える。
「センゴクサンじゃないか、珍しいね。まだ、いるけど何だい?」
[今、お前がいる島に“渡り鳥”がいると情報が入った]
「……」
『……』
その言葉にアルトとジンは目を合わす。
アルトが言った。
「今いるよ、僕の“目の前”に」
[!!?な、ばかもん!!捕まえんか!!!]
「………っ」
キーンとセンゴクの声が耳に響いた。アルトはげんなりする。
「だって任務じゃ……」
[では任務にする。捕まえて来い!!]
ガチャンっと乱暴に受話器が置かれた音を最後にアルトの子電伝虫が静かに目を閉じた。
「………」
アルトは子電伝虫をしまう。そしてはぁっとため息をついた。
ジンを見る。
「悪い、“仕事”だ」
『…その様ですね』
「大人しく捕まってくれるかい?」
『残念ながら』
「だろうね。じゃあ、仕方ない」
『………(相手の出方を伺うべきでしょうか…?)』
ジンはどんな行動にも対応出来る様に構えながら、アルトを観察する。
フッとアルトの雰囲気が変わった。
『(来る…!!)』
バン!!!
ジンがそう感じた瞬間、金色の銃がジンの首元を捉える、アルトが引き金を引いた。
「……へェ」
『……簡単には行きませんよ』
ジンはアルトの後ろにいた。アルトが引き金を引いたのはジンの作り出した“ガーブル(文字化け)”。
「本当に“紙”なんだね。面白い」
アルトは後ろへ振り向き、笑った。アルトの初めての表情の変化にジンもクスッと笑う。
『ありがとうございます。……貴方も僕の予想より遥かに早いです』
「そうかい?じゃあ、もう一段階上げて見ようか」
そう言った瞬間、ジンの視界から一瞬アルトが消える。
そしてジンの左側から現れた。
『!?…ミリアド・バイブル(無数の聖書)!!』
バン!!
アルトはジンの肩に銀色の銃を押しつけ引き金を引いた。
一方ジンは細かい紙になり、アルトの前から姿を消す。
「……。消えたか……。捉えたつもりだったけどなぁ。
まぁ、億越え相手じゃあ簡単にいかないのが普通か……?」
アルト、ん~っと背伸びをして気を取り直す。
ポーチからアメを取り出し口に入れ、街へ向かった。
そして現在に至る。
『……はぁ。やっと治りましたね』
ジンは撃たれた肩から手をおろす。
肩の銃弾はキレイになくなっていた。
『あの銃は弾ではなく衝撃を発射する…。そして銀色の銃は対能力者用と言ったところですね。
先に金色の銃で“油断”させる所が抜け目ない……』
ジンは辺りに気を配る。
『彼とは相性が悪そうですね。ここはとりあえず街から逃げましょうか』
「それは困るな」
『なっ!?』
ジンは声が聞こえ、上を見上げた。
アルトは路地の上からポンッと軽く地面に降り立つ。
「演奏を誉めてくれたキミを敵として追うのは気が引けるけど、
一回逃げられただけで諦めたら、後でセンゴクサンに大目玉をくらいそうだし」
アルトの言葉を聞きながら、流石のジンも驚いていた。
『……(気配を感じなかった…)。
まさか、見つかるとは…。隠れるのは上手い方だと思ったんですが』
ジンはアルトを見据える。
「上手いよ。僕が今まで会った誰よりもね」
『……貴方は僕が今まで会った誰よりも見つけるのが上手いのです』
「フフ。ありがとうと言うべきかな」
アルトは笑う。そして、スッとジンを見た。二人の目がかっちりと噛み合う。
「さて、“鬼ごっこ”の続きしようか」
アルトの言葉にジンは、はははと笑う。
『“鬼ごっこ”とはいい得て妙ですね』
「そんな気分なんだ。たまにはいいだろ?」
『致し方ありません。しかし、僕を見つける機会はもう2度とありませんよ』
ジンはニコッと笑う。アルトは頷いた。
「いいね、そう言うの。楽しそうだ。―――じゃあ、始めようか」
『ええ。“命懸けの鬼ごっこ”を…』
end