宝の詩
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今日もいい天気。
風もいい感じだし、いい感じの海の匂いがする。
――とにかく。
いい感じ。
サニー号はそんな海を進んでいるに違いない。
ちなみに僕はというと――。
『アークロイヤルの……そうだなぁ。白を10個』
「こりゃたまげたっ!!あんた、相当のヘビースモーカーやんねぇ」
『そうですかねぇ…。まぁただの買い溜めですよ』
「いい男が勿体ない。体には気をつけるとよ」
『えぇ』
そんな了解の意を込めた微笑みと共に、差し出されたビニール袋を貰う。
そう。
何を隠そう、ただ今元気の源を補給中。
次の島までは絶対に持たないので、こうして船を抜け出して煙草を買っているのだ。
これだから自然系の能力は便利なんですよねぇ。
なんて思いながら店の外へ出て早速の一服。
『ふー……』
やっぱりアークロイヤルの白が1番。
以前、キャスターを吸ってみたけどあんまり好みじゃなくて……
「ねぇ」
マルボロ赤も美味しいけど物足りない感じがした。
僕は葉巻っぽい匂いが大好きだから仕方ないと言えば仕方ないのだが。
「ねぇ、聞いてる?」
……………………おや。
『すみません。全っ然、聞いてませんでした』
「そうだろうね。僕なんか目に入ってない感じだったし」
不意に聞こえた声に、何だろうと視線を向ければ、
そこにいたのはなかなかイケメンな黒髪の少年。
あ、いや。
少年というのは少し語弊があるかもしれない。
見た目からして20代前半だろうか。
「キミに聞きたいことがあるんだけど……。この辺に美味しいケーキ屋さんがあると聞いたんだ。知らない?」
『ケーキ屋さん……すみません。残念ながらわからないなぁ』
「………そう。悪い。邪魔したね」
すると、
そう言った彼は何の表情を浮かべないままどこかに歩き出そうとする。
本当に無表情な人。
何を考えてるかわからない、―――…けれど。
僕はその無表情さと声色が何だか気になって……
『あ~……そうだ。暇だから手伝ってあげますよ』
「え?」
『プリン屋さんを捜すの』
――と、思わず彼の肩を引き止めてしまった。
僕の言葉に、今度はほんの少しだけ驚いたような目をした彼。
僕はそんな彼の肩から手を下ろし、そして携帯灰皿へ煙草を押し付けて名残惜しくも煙草を吐き出す。
『暇人なんです、僕』
「だから一緒に探してくれるのかい?」
『えぇ、散歩がてらに。あぁ、そういえば名前……何て言うんです?』
「……アルト。ノティ・アルトだよ」
『僕の名前は……』
「バルフレッド・エイブス。鈴の音クンだろう」
『あれ。言いましたっけ?』
「いや。キミはなかなかの有名人だから。実は最初から知ってたんだ」
僕が有名人……?
………………………………。
『……サイン、いります?』
「サインなんてあるの?」
『いや、ないけど…』
「……やっぱり面白いな。どうやらキミは噂通りの人みたいだね。海賊らしくないよ」
『?』
噂通りということは僕を知っているのだろうか?
なんて思うも、やはりアルトは無表情で僕は質問する為に開いた口を閉じた。
そんな僕の隣を何の色もないまま歩くアルト。
僕はそんな彼をぼんやりと見つめる。
………ふむ。
そして、そうやって気付いたことが1つ。
何だか昔の僕みたいだ。
そういえば僕も昔はなかなか表情を出すことが出来なかったような。
そうでもなかったような。
まぁ詳しくは忘れたけど、隣の彼の姿に何となく笑みが零れた。
なんだか可愛い。
『………よし。ではこの出会いを記念して、さっそく一緒に美味しいプリン屋さんを探しましょうか』
「………エイブスクン。僕が探しているのはケーキ屋だよ」
『あぁ、ケーキ屋さん』
もしも僕に弟がいたら、こんな感情を抱いたのだろうか?
―――そんな空想に笑みを零しながら僕は少し低い位置にある彼の頭を撫でる。
「…キミは背が高いんだね」
『あ、くせっ毛仲間ですね』
「………。(本当にクザンクンが前に言ってた通りだ。この人、あんまり人の話を聞かない)……くせっ毛?」
『ほら。僕もくせっ毛でしょう?どーせなら兄貴と呼んでも構いませんよ』
「兄貴……?」
『くせっ毛兄貴』
「…いや、遠慮しておくよ。呼びにくそうだから」
『そう?』
「そう………。(面白いな。この人)」
……と、まぁ。
こんな感じでほんのちょっぴり無愛想なアルト君。
うん。
面白い人だなぁ。
本当に他愛のないこと。
そんな会話をしながら僕とアルト君はケーキ屋さんを探す。
「ねぇ、その袋に入っているのは何だい?」
『アークロイヤルという煙草です』
1本いかが? と封を切ったそれを差し出せば、「煙草は吸わない」とのこと。
『そういうアルト君が持ってるその袋は?』
「これかい?これはチョコレートだよ。ちなみにガーナチョコレートだ」
『あぁ、あの板チョコ』
「1ついるかい?」
『いや、いいです』
甘い食べ物は苦手。
そんな意を彼に示せば、「そう」とただ一言が返ってくるだけ。
そして僕たちの間には静かな静寂が広がった。
けれど。
僕としてはのんびりすることが結構好きで。
こうやって人といて生まれる"間"に落ち着いたりもする。
だから特に気にしない。
僕は普段通り。
きっと彼も普段通り。
『…………あ、鳶(トンビ)』
「あ、本当だ」
『僕、空を飛べるんです。いいでしょう?』
「……それ、何か利益でもあるの?」
『ん~…気持ちいいですよ』
「なんだかエイブスクン…。本当にキミは変な人だね」
『いやぁ、そういうアルト君も負けてませんって』
「そうかな…」
『そうですよ』
こんな打てば鳴るような会話に雰囲気が好き。
多分、彼とはいいお友達になれそうだ。
彼がどう思っているかは知らないけれど。
―――と、そのとき。
「あ…ここだ」
『え?』
「ほら。看板に"モンブラン"って書いてある」
そう言ってアルト君が指差すのはお洒落な看板。
確かに端正な文字でモンブランと書いてある。
『あぁ、モンブランっていうお店を探してたんですか』
「エイブスクン……本当に探す気あった?」
『やだなぁ、血眼になって探してたじゃないですか~』
「胡散臭いキミが言うと嘘にしか聞こえないよ、それ」
『え゙』
「さっきも上の空で鳶を見てたし……」
『鳶に聞いてたんですよ』
「まぁ、いないよりはマシだったけどね」
『じゃあいいじゃない』
「…………はぁ」
ありゃ、溜息をつかれてしまった……。
「………けど…。その……」
『?』
「せっかく"血眼"になって探してくれたんだから……」
………こんにゃろう。
今、厭味を1つさりげなくいれたな。
まぁいいけれど。
そんな事を思いながら僕はアルト君の言葉を待つ。
彼は先の飄々とした態度から打って変わり、どこか気まずそうで。
「その…一緒に」
…………なるほど。
なんとなくわかった。
「エイブスクン、キミがよかったら…――」
『僕、お腹空いたんですよねぇ』
「え?」
『だから久しぶりにケーキでも食べたい、……そんな気分です』
言って笑えば、アルト君はきょとん、としながらも次の瞬間に小さく苦笑を零して。
「やっぱりキミは変だ」
その言葉の語尾は、僅かながら嬉しそうだった。
『しふぉ~んけーき…?』
「シフォンケーキ。スポンジ質の柔らかいケーキのことだよ」
『すいーとぶる~…?』
「……スイートブール。パン生地にカステラ皮をのせて焼き上げたパンのこと」
『ふぉんだんしょこり?』
「…………キミは…片仮名が読めないのかい?それはフォンダンショコラ。……はぁ…」
聞こえよがしに吐き出されたアルト君の溜息。
かれこれ何回このやり取りを繰り返しただろうか。
僕はこの難しい横文字と早10分ほど格闘している。
……古代文字よりも難しい。
「……で?決まった?」
『あ、まだ』
「はぁ…。その調子じゃ日が暮れちゃうよ、エイブスクン」
『はいはい。そうだなぁ…じゃあ……これ!!』
「なに?」
『………シフォンケーキ』
「うん、読み方は合ってる」
―――それから。
「お待たせしました」
そんな言葉と共に運ばれてきたのはシフォンケーキと………まぁアルト君が頼んだ何か。
あと、僕の珈琲とアルト君の紅茶。
いや、だがしかし。
それにしても、ですよ…。
『砂糖』
「?」
『……入れすぎじゃないですか?』
「そう?美味しいよ」
いる? と差し出されるマグカップを僕は苦笑しながら拒否。
だって5、6杯はいれましたよ…? 砂糖。
おまけにミルクはたっぷりみたいだし。。
うわ……胸やけがしてきた。
思った僕は慌てて珈琲を口に含み、想像してしまった甘さを掻き消す。
「それはブラック?」
『えぇ』
「僕は甘い物が好きだから紅茶の方が好きだな」
『まぁ、僕も珈琲よりお酒が好きかなぁ』
「珈琲や紅茶とお酒を比較するなんて……何だか可愛いげのない回答だね」
いやぁ、そうは言っても。
29歳に可愛いげを求められても、ですよ…。
『あはは、困ったなぁ』
「本当に困ってる?」
『あ、実はあんまり』
「はぁ……」
またもや溜息なアルト君。
そんな、若いうちから溜息ばっかりついていたら癖になっちゃいますよ。
「……誰のせいだと思ってるのさ」
……あれ、僕?
「キミ以外にいないよ。僕がこんなにも溜息をつく相手なんて」
珈琲を飲みながら身振り手振りで自分かと問えば、彼は呆れながらの回答をくれた。
何だかどちらが兄貴かわかんないな、これ。
甘ったるいシフォンケーキとやらを口に含みながら僕は苦笑。
―――と、そこへ。
どがぁぁん
「『!?』」
不意に吹き飛んだお店の壁。
どうやらミサイルか何かが撃ち込まれたようだ。
多分、僕狙いで……。
しかし生憎ながら僕は無傷。
そんな結果をもたらしてくれた友人へ笑顔でお礼を述べる。
『いやぁ、危なかった。ありがとう、アルト君』
「………本当、よく言うよ。気付いてたくせに僕にさせちゃってさ…」
『まぁまぁ。その不満はこのTeaタイムをぶち壊した阿呆に向けて下さい』
「またそうやって楽をしようとする。キミは本当に人の扱いが上手だね」
おや……そんなつもりはなかったのに。
まぁ少しはあったが。
『あはは、バレちゃったら仕方ないですね…。わかりました』
あんまり騒ぎは起こしたくないし、椅子から立ち上がるのも面倒なのだけれども。
『記念のプリクラを撮らない代わりに共同戦線といきましょう』
「ぷりくら…?」
『ちまたの女性の間で流行ってる写真です』
箱型のボックスに入って記念の写真を撮るアレ。
盗み聞きしたロビンが教えてくれた。
「そんなのを撮るつもりだったの…?」
『嫌?』
「気付いているだろうけど、僕は海軍。キミは海賊だよ。それなのに写真って…」
『海軍、海賊の前に僕達は友達でしょう?だから男2人でブームに乗りたかったんですけど……。あ、…アルトく~ん』
「嫌だよ。僕は写真なんて嫌いなんだ。……"聖域(ジハード)"」
ずどぉぉん
『それ便利な能力ですねぇ』
「……ねぇ…キミさ、僕がこの能力じゃなかったらどうやって避けてたつもりなの?」
『そうだなぁ、………"旋空(エアダスト)"』
ちゅどぉぉん
『こうやって…?』
「キミのも十分に便利な能力だよ」
『いやはや。"0のアルト"に褒められるなんて光栄♪』
「………エイブスクン。茶化すようなら入れないよ?」
と、そう言って自分の周りにだけピースのような物を組み立てるアルト君。
『あーぁ、薄情ですねぇ』
「前言撤回したら入れてあげる」
―――すると、
暢気な会話している内にも無数の砲弾が近付いてきて。
『アルト君っ!!』
「?」
『―――…後は宜しく』
「なっ!?」
戦うのが面倒だった僕は、そんな言葉を残してさっさとその場をあとにした。
だってアルト君が負けるはずないですし。
僕とアルト君が一緒にいるところを海軍に見られたら、それこそ彼に迷惑がかかる。
―――という。
盛大な正当口実を胸に抱きながら。
彼が海兵だと気付いたのは歩き出してすぐ。
ズボンの下の方に小さく正義と刻まれていたし、何より、"アルト"という名前を考えてみればごく普通に気が付く。
"0のアルト"。
もう少しゴツイ感じの人かと思ったんだけどなぁ……。
カチャ……
『おや……遅かったですね』
「これでも急いだつもりだったのだけどな」
『あ~……そんなことより…その銃……退けて、くれま…せん…?』
「どの銃のこと?」
『その……ぎん、いろ…』
――海が望める崖の上にて。
恐らく海楼石の仕込まれているであろう銃を背後からアルト君に突き付けられ、
僕は情けなくも膝を付いて手までも付いてしまう。
「8億の賞金首が呆気ないものだね」
『ゔ~……』
「僕にキミの抹殺指令が出ていたらもう死んでいるよ」
『え………まっ、さつ…しれい…出てる…?』
「残念なことに出てない」
……あぁ、よかった。
流石に抵抗も出来ずに死ぬのは遠慮したい。
『じゃあ…たす、けて』
「それ…本当に思ってる?」
『けっこー、…思っ、てる』
「はぁ…まったく…。本当に仕方ない人だよ、キミって」
すると。
そんな深い溜息と同時に外されるアルト君の銃。
……おぉ…力が戻ってきた。
それを確かに感じた僕はゴロリと仰向けに横になる。
『ほら、アルト君。大の字、大の字』
「……エイブスクン」
『横になって。ほーら。天体観測でもしましょう』
「喉元過ぎて熱さ忘れるっていうことわざ、知ってるかい?それにまだ夕方だよ」
『いや、もうすぐ夜になりますって』
喉元過ぎたらなどどうでもいい。
そんな事を言ってる内に1番星を見逃したら、それこそ喉元の熱さを忘れられない。
『ほーらほら。チョコレートあげますから、横になって』
「っ!!………仕方ないな」
………チョロイですね。
「何か言った?」
『いーえ。何にも』
―――すると、そのとき。
プルプルプル……
「!!」
突然鳴り出したアルトくんの電伝虫。
しかし彼はそれを見つめるだけで取ろうとしない。
『…アルト君……?』
「……エイブスクン。もうお別れみたいだ」
『……………』
「この電話を取ったら、多分僕はキミの抹殺指令が出される」
『……………』
「だから僕が電話を取る前に別れることをおススメするよ」
『…………そう、ですか…』
………確かに。
『友達と戦うのは辛いですからねぇ』
「!!」
『じゃあ今回はお言葉に甘えて逃げようかな』
「…そうしてくれ」
そんな言葉を聞きながら僕はゆっくりと立ち上がり、
そして彼に背を向ける。
『じゃあ、これで』
「うん」
………………………………。
『―――あぁ、そうだ』
「え?」
もう半分くらい体を消してしまった辺り。
ふと伝えたいことが出来た僕は、心なしか淋しそうに見えるアルト君へと振り返って。
『僕に"クン"はいりません』
「…………」
『エイブスで結構。あ~、あとそれと…』
「?」
『次に会った時は、笑顔で戦いましょうね』
「…………ハハハ…」
『そうそう。そんな苦笑でもいいから』
あからさまの殺し合いはご遠慮被ります。
「………やれやれ。本当に…
キミって……――――」
―――…変だよ、エイブス。
『!』
―――そして。
そんな彼からの言葉を最後に僕は空間を渡った。
さてさて。
………果たして彼は気付くだろうか。
芝生の上に置いてきたガーナチョコレート、ビター味に。
それは、甘い物ばかり食べる彼への僕からのアドバイス。
“あんまりカロリー取りすぎると、戦桃丸みたいになっちゃいますよ“
―――…気付くといいな。
若い若い、海兵くん。
あとがき
“肥満注意報“
今日1日
偶然の出会いにて思ったこと
海軍もなかなか捨てたもんじゃない、のかもしれない
*********************
素敵な相互記念!ありがとうございました^^アルトにビターチョコを頂ける優しさ感服ですww
本当にアルトは糖尿病になりますね、このままじゃ;;でもならないのが漫画のいいところ(笑)
ジンとネロクンとのコラボも楽しみにしてます^^私も早めに作れるよう頑張ります!