宝の詩
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「本当に真面目な奴だった。仕事だって真面目にこなしていたんだ!それを・・・なんの恨みか知らないが上の階から突き落としたんだぞ・・!!あんなこと許される訳がない!それを所長の前では平然とした顔で自分から落ちたんだとぬかしやがった・・・っ!!あの・・・・っあのくそったれ・・ッ!!地面に叩きつけられたあいつは頭がパックリ割れちまって・・・左腕は有り得ない方向に曲がっちまうし・・・しばらくまともに口を利くことも出来なかった。それで終わったわけじゃない。あのくそ野郎はあちこちでも似たような事件を起こしてたんだ・・・っそれなのに無罪が確定して今やシャバで平気な顔して息吸ってやがる・・・!!!」
「それで・・・?おれにどうしろって言うんだ」
「殺してくれ・・・!あいつを殺してくれよルンペンさん・・・!!おれは・・・っおれは悔しくてあの野郎が海軍にやって来てからまともに寝ちゃいられないんだ・・!!」
「・・・・」
「頼む・・・っ!!頼むよ・・!!あんた暗殺のプロだろ・・!?いくらだって払う!!」
「金で解決出来る話だと思ってるのか」
「違う・・!金は・・・っ金はどうだっていいんだ・・!!ただっ・・ただあいつさえこの世からいなくなってくれりゃぁおれはどんな手段だって取る・・!!」
「他を当たれ。もしくは自分で機を見計らって殺したらどうだ。その方がお前にとってもいいだろう」
「あの野郎は大佐だぞッ!?おれみたいな一端の二等兵が将校みたいな化けもんに敵う訳ないだろッ!!」
「・・・・」
「おれの・・・っおれの大切な、大切な家族だったんだ・・・っ!唯一無二の家族を・・・っ口も利けない状態にしやがって・・・っ!!何も出来ない無力な人間の気持ちも・・・っ少しは汲んでくれよ・・っ!!」
何故あの時、首が縦に動いたのか。
かなりの時間を要した気はしているが、何故、承諾してしまったのか。
恐らく『家族』の単語と、『大切』にしている者へのこの男の気持ちに揺らいでしまったのではないかと思う。
あの記憶の行くところ
「なんじゃルンペン。少し機嫌の悪い顔しとるのぉ」
「・・・いや。大丈夫だ」
会議室のソファに腰掛けて熱い湯気をくゆらすコーヒーに口付けながら時折窓の外を窺うルンペンにカクが聞いた。
表情の乏しいルンペンの変化に気がつくことが出来るのはこのカクと、CPのメンバーだけである。
ルンペンの意識は8割コーヒーにいっているようだったが考えるような深い目を時々する。
その瞬間、カクは「恐らく面倒事を任されたな」と悟った。
だが、本人が大丈夫だと言うのだ。
あまり干渉はしないようにしようと、わざとなんとなく気を遣って用もないのに給湯器の前に立ち紅茶を選別するような動きをする。
すると、ルンペンは定期的に見ていた窓の外をもう一度、一度視線を外してから、まさかというように二度見した。
「・・・・」
「・・・・」
その一瞬を目撃したカクはルンペンにしてはなんだか珍しい行動を取ると思いながらも、アールグレイのパックを取り出しカップの中に入れた。
「・・・・・・カク」
「ん?なんじゃ」
「あの将校を見たことあるか」
「ん・・・?どれじゃ」
まだ湯の入ってないカップを持ったまま、腰に手を当てルンペンの目線の先を追う。
そこにはまだ20代半ば程の男が居た。
背中には将校が着ることを許された正義の字の刺繍があるコートを羽織っている。
目つきは決して良いと言えない。やや人を睨み殺しそうな雰囲気すら漂わせている。
「見たことないのぉ・・・。最近将校になったばかりの奴じゃないか?」
「ああ。そうだろうな」
「・・・・あいつが何か気になるのか?」
「・・・・・・子連れかと思っただけだ」
「子連れ・・?」
カクは再度ルンペンの視線の先に居る将校をよく見た。
その目つきの鋭い、少しくたびれたような印象を与える将校の影には小さな女の子が寄り添っていた。
あまりに隠れるようにして存在しているため一瞬では居るのか居ないのかさえも気がつかない。
その女の子にルンペンは一瞬見ただけで気がついたのだ。
しかも、
「・・・ずっとこっち見とる」
「・・・・」
将校の体に隠れるようにはしているが先程からずっとルンペン達を見続けていた。
吸い込まれるような黒目でじっとこっちを見つめるその姿に、カクは少しひるんだが、ルンペンは変わらずその女の子を見続けた。
時の止まるような思いであった。
そんな中で先に視線を反らしたの小さな少女の方であった。
将校に呼ばれたのか顔を天を仰がんばかりに上げ笑う。
将校もそれに答えて笑っていた。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・カク。もし飲みたかったら飲んでいいぞ」
「ん、あ、あぁ」
そう一言言うとルンペンは今まで飲んでいたコーヒーを机の上に置いて会議室を出て行った。
残されたカクはルンペンの残していったコーヒーカップを見る。
よく湯気の上がったブラックコーヒーであったが妙に違和感を覚えて、手持ちのカップをそのままにルンペンのカップに触れる。
「・・ッだ!つ・・・ッ!!なに・・・ッこんな熱いもん飲んでおったのか・・・ッ!?」
その温度はあまりにおかしい。
人が飲むには熱すぎる温度であった。
それを平然と持っていたルンペンにも信じられない気持ちが募る。
恐らく湯を沸かして直ぐ飲んだのだろう。
「・・・・」
最近よくこういうことが起こる。
まるで五感が働いていないとでも言うようなルンペンの行動が多い。
カクは冷や汗を流しながらも熱すぎるそのカップを見つめた。
夜遅くの海軍本部。
いくつも連なる部屋の一室に目当ての将校は居た。
殺してくれと依頼して来た二等兵の情報では、この将校は刀を扱うプロだそうだ。
つまり近接戦は相手にとって有利になってしまうので、もし戦うことになったら危険だと言う。
なに。ルンペンがするのは暗殺だ。
戦いにはもっていかないつもりだった。
将校の居る部屋の開いた窓ガラスを外からすっと窺う。
部屋は二階の一番端。
ルンペンは外の壁に出っ張っている排気口の上に立ち、既に部屋の中に居る将校が窓に近寄るタイミングを見計らっていた。
近寄れば指銃で一瞬。
きっと静かな夜のまま終わるだろう。
「―――・・あまり暗がりで本を読まないようにしなさい、ミア」
将校が何か言いながら窓を閉めようと外の風に触れた。
ルンペンはすっと窓に近寄り将校に姿を現す。
「!!」
「指銃」
確実に心臓を狙った完璧な死線だった。
しかし、将校の体が不自然に傾き、ルンペンの指から放たれた指銃は将校の脇をかすめ、少量の血しぶきを上げる。
(失敗したか・・・っ?)
少し焦りにも似た感覚を覚えながらもう一度指を構えるルンペン。
「ミア!!しゃがんでろッ!!!」
「指銃・・・」
もう一発目の指銃は確実に将校を捕らえた。
だが、同時に将校はルンペンに襲い掛かり、両手でルンペンの胸倉を掴むと窓の外に飛び出た。
「ッ!」
ぐらりと体が傾き大きく飛躍しながら落下する。
落下する途中で窓枠に慌てたように姿を現した少女が居た。
それを見て落下に伴いながらルンペンは、一回目の指銃が避けられたのはこの少女が将校に飛びついた反動であると冷静に把握した。
考えながらも相手の将校の体を肘で叩き下ろし、反転させ、喉元に肘を当てたまま地面に叩きつける。
二階から落ちたこともありそんな大きな衝撃はなかったが、喉を圧迫された将校は動物にも似た呻き声を挙げ顔を大きく歪めた。
それを確認しながらルンペンは将校から飛び退こうとする。
「剃・・・ッ」
「・・ッざせ、る゛かッ・・・!!!」
咄嗟に潰れた声で叫びながら体を離すまいとルンペンに掴みかかる将校。
離れ損なったルンペンは空いた片手で応戦する。
殴られた勢いで顔の反れた将校の隙をつき、再度指銃を撃つも肩や横腹を撃つばかりで決定的な一発が当たらない。
何度もお互いの体重を利用しながら相手を組み敷こうと反転を繰り返す。
「指銃!」
「・・・ぐッ」
何度目かの指銃が将校の首を大きく抉った。
将校の首から血しぶきが飛び散る。
慌てた将校が自らの首をルンペンの肩を掴んでいた手を離し押さえる。
その一瞬を突き、ルンペンは剃を発動し、その場を離れようとするが、それに反応した将校がルンペンの足をぎりぎりで掴み切った。
「おあああああああッ!!!」
雄叫びを上げながら転がり近づいた池にルンペンを叩き入れる。
ダバンッ!!!と盛大な水柱を上げた池。
将校も息を荒げながら首の血を止めようと首を押さえる手に力を込め、池に向かって構える。
(こんな面倒な将校だったとは・・・っ)
思いの外水深のある池に一回沈み切り、浮上しながらルンペンは思う。
すると、急激に目の前が真っ白になる感覚がルンペンを襲った。
(まさか・・・ここに来て・・・っ!)
実はCPのメンバーにも言っていない、誰にも言っていない秘密があった。
彼、ルンペンは最近五感が上手く働かないどころか記憶すら飛ぶことが頻発していた。
しかも近頃では『狂ってしまう』以外にも貧血のように急に意識が薄くなることもよくあった。
大概が踏み止まれるくらいのものだったから誰にも悟られないよう上手くやってきていたのだが、ここに来てまさかその兆候が表れてしまったのだ。
「・・・・・なんだ・・・っ?」
一向に池から上がってくる気配を見せないルンペンに将校は離れた距離から眉間を寄せ不審に思った。
すると、ルンペンの体が仰向けの状態でふっと浮かんでくる。
暗がりでいまいち見えないがその様子からまるで死んでいるかのようだ。
「・・・・し、死んだのか・・・?」
まさかとにじり寄り、ルンペンを窺う将校。
顔を覗き込める距離まで近づくも全く反応はなかった。
一体この男は誰で何故自分を狙ったのか、事の真相を聞き出すまでは死なす訳にはいかないと、将校は池からルンペンを引きずり出し地面に寝かす。
息を確認するがどうやらしていないようだ。
「・・・ッおいおい・・・ちょっと待ってくれ・・・ッ!」
暗闇の中で大分長い間寝ていた気がする。
脳が目を覚ましたのに気がつき、まぶたを重いながらも開ける。
一番初めに目に映ってきたのはカクだった。
「ルンペンッ!!目を覚ましたかっ!!」
「・・・・」
「どうしたんじゃしっかりせぇ!」
「・・・・・カク・・・お前・・なんでここに・・・」
「ゆっくり休めっ。話はその後じゃ」
「・・・ここはどこだ・・・教えろ、カク」
「・・・ギルバート大佐の部屋じゃ」
「!?」
全てを思い出した。
途端に張り詰めた空気を出し、むくりと上体を起こしたルンペンにカクは驚いた。
「ル、ルンペン・・・っ!?」
「・・・大佐はどこに居る」
「今は外で任務中じゃ・・当たり前じゃろう。ルンペン、丸二日も眠っておったんじゃぞっ?」
「二日・・・・何故おれは医務室にいない。この二日間に一体何があった」
「・・・話が終わるまで休んではくれなさそうじゃの・・」
諦めたようにため息をつくとカクはこの二日間にあった出来事を話し出した。
「お主がCPの仕事でギルバートに何か依頼を頼みに来たそうじゃが、突然具合を悪くしてここで倒れた。医務室に運ばれておらんのは依頼内容に医務室の人間が関わっているからだと大佐から聞いておる。わしはルンペンの体調のことで何か知ることはないか呼ばれたんじゃ」
「・・・・」
(嘘が下手だな)
カクの話を聞いてルンペンは瞬時に今回の任務の失敗を悟った。
もし、カクの話す内容が本当だとしたら、ギルバートは恐らくCPの一人であるカクに探りを入れたことになる。
そうなれば、カクがのこのこギルバートの言うことを信じてここまで出てくるはずがない。
(全部バレたな)
全てが露見してしまった。
少し諦めたように首を反らし、ため息を吐くルンペン。
そんなルンペンの心中をいまいち把握していないカクは少し冷や汗をかきながら首を傾げた。
何故全てがバレてしまって自分が生きているのか、何か罰せられるでもなくここに寝ていられるのか分からない。
一番の大本であるその事を考えながらルンペンはとにかく、ギルバートに面会しなければ事は進まない気がしていた。
とにかく体が重い。
だるそうに周囲を窺う。
そういえば、あの将校と窓から墜落する最中、少女を見かけたが彼女も今は将校と共に居るのだろうか。
この部屋の中にはルンペンとカク以外誰もいない。
外ではわずかに海兵達の声が聞こえる。
「・・・戻るぞ」
「!?ルンペン!そんな体で動いたら・・・」
「行かなきゃならない所がある。とにかくこの部屋を出たい」
「・・・・ルンペン・・」
「・・・・・(依頼主までバレているのだろうか・・・)」
「・・・ルンペン」
「・・・・何だ」
「依頼主ならもうここにはおらん」
「・・・・・カク、お前、どこまで知ってるんだ」
「全部じゃ。ルンペンが倒れとった時のことも含めれば全部以上のことを知っとる」
「・・・・初めからそっちを話せ」
「・・・すまん」
「それで」
「・・・ルンペンに個人的に依頼してきた二等兵は医務室係りきりの二等兵じゃった。じゃから医務室には運ばずここで療養することをギルバートが決めたんじゃ」
「認可したのか」
「ほとんど自分の手の内に置いておきたいという理由じゃろうて。目が覚めたら真っ先に出所を聞きだすつもりじゃったようだしのぉ・・・。じゃがその前に怪しい動きをしたのが依頼主の二等兵じゃった。本当にギルバートが死んだか確認しに来たみたいだったがこの部屋までのこのこ現れおった。そこで全て吐かせた後に自ら異動届けを提出するよう圧力をかけたというところかの」
「・・・・そうか」
「・・・・・二等兵の家族をギルバートが不随にしたという話も聞いた。事故か故意かは当人が片方しかおらんから正直言って分からんが、契約を結んだ」
「・・契約・・?」
「二等兵とギルバートの間の契約じゃ。『いつでも俺を殺しに来い。ただし、誰かを介さずお前一人で』とな」
「・・・・」
「代わりに二等兵は異動届けを書くと。ちなみに異動先は訓練隊。医務室で怪我人の手当てをするんじゃなく武器を持って戦う前身じゃ」
「・・・・」
「じゃから、」
コンコン。
カクの言葉を遮るようにドアをノックする音が聞こえた。
ここにわざわざ来るような輩は一人だろう。
ルンペンもカクも返事はしなかったが、扉がゆっくりと開いた。
「カク。ルンペンは起きたか?」
「おお。じゃが、まだ体は万全ではない。あまり無理させるなよ」
「分かってる」
当たり前のように部屋に入り、ルンペンの目前までやって来たギルバート。
いや、この部屋はギルバートの部屋なのだから当然として入ってくるのだろうが、それにしてはルンペンに対して敵対心が全くない。
カクとギルバートとのやり取りを見ていたルンペンは、本当に自分が寝ていたのは二日間だけだったのだろうか、もっと長期の間寝ていてカクとギルバートが互いを言葉で信用させるだけの中を作ったのではないだろうかと思った。
ルンペンの前、性格にはベットの横に立つギルバートはしばらく黙っていたが、ルンペンの冷たい視線を十分に受けたところで口を開いた。
「・・・上体を起こしていて大丈夫なのか」
「・・・アンタは体に問題ないのか。指銃を全部で5回受けたはずだ」
「おかげ様で包帯とガーゼの暮らしが続いてるよ」
「・・そうか」
「・・・・まだ俺を殺そうとするのか?」
「・・・・」
最後の一言を言った時のギルバートの表情は今までに見たことのない人間の顔だった。
そのためそこにどんな感情が隠されていたのか読み難い。
しかし、唯一言えるとしたら切ないに似たような人間の奥深い悲劇を表しているような感覚だった。
(・・・なんで依頼主もいないおれがアンタを殺す)
心の中ではそう思いながらもルンペンの口から出たのは呆れたようなため息だった。
この年下の男をどうしようもなく感じている自分がいるのだ。
れっきとした将校が人に縋るような視線を送るなと。
ただ無駄に傷ついた自分達を自嘲するようなため息でもあった。
「それは質問じゃないな・・・」
「・・・そうか」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・ギルバート」
「・・?」
「お前に叩きつけられた背中が痛い。しばらくここに居るぞ」
「・・・・・ああ」
ふと笑ってギルバートは答えた。
結局、どちらにもなんの利益もなかったし、むしろ今後の任務に支障をきたすような怪我を負うという結果になってしまったが、不思議な歯車が音を合わせたのはこの瞬間だった。
海兵などそこらじゅうに居たが将校とこのように会話することのなかったルンペンに、暗殺部隊に声を掛けることなど一度もなかったギルバートが初めて接点をもった瞬間である。
しかし、ここから数ヶ月後、ルンペンの過去の記憶が消えようとはギルバートは思いもしなかった。
消えると分かっていたら何かしただろうか。
だが、それを予想させる前兆があった。
「カク、カク、ちょっと」
「?・・なんじゃ?」
「ルンペンの口の中べろべろだったぞ。これ。痛み止めだ。渡してやってくれ」
「おお・・・・なんでお主がルンペンの口の事情を知っておるんじゃ」
「池から出した時、息してなかったんだ。人工呼吸するのに口開けるだろ。暗闇でも分かるくらいだったからよっぽど栄養採ってないか噛んだりしてるかだと思うが」
「・・・(熱いコーヒー)・・きっちり本人には渡しておく」
************
30万HITのお祝いに素敵なお話ありがとうございました!
読み切りの【狂人】の設定を使って頂けて、ルンペンが改めてなんとめんどくさい設定なのかwと思いましたww
このお話の続き(記憶が消えた後の)をもくもくと妄想しちゃいます♪
ルンペンを書いた当初からhisaさんには好いて頂いてて、今回このような機会を頂けましたw感謝しかありません^^
ギルクンとミアちゃんのコンビ大好きですwwまたルンペンと絡んでやって下さいね!
「それで・・・?おれにどうしろって言うんだ」
「殺してくれ・・・!あいつを殺してくれよルンペンさん・・・!!おれは・・・っおれは悔しくてあの野郎が海軍にやって来てからまともに寝ちゃいられないんだ・・!!」
「・・・・」
「頼む・・・っ!!頼むよ・・!!あんた暗殺のプロだろ・・!?いくらだって払う!!」
「金で解決出来る話だと思ってるのか」
「違う・・!金は・・・っ金はどうだっていいんだ・・!!ただっ・・ただあいつさえこの世からいなくなってくれりゃぁおれはどんな手段だって取る・・!!」
「他を当たれ。もしくは自分で機を見計らって殺したらどうだ。その方がお前にとってもいいだろう」
「あの野郎は大佐だぞッ!?おれみたいな一端の二等兵が将校みたいな化けもんに敵う訳ないだろッ!!」
「・・・・」
「おれの・・・っおれの大切な、大切な家族だったんだ・・・っ!唯一無二の家族を・・・っ口も利けない状態にしやがって・・・っ!!何も出来ない無力な人間の気持ちも・・・っ少しは汲んでくれよ・・っ!!」
何故あの時、首が縦に動いたのか。
かなりの時間を要した気はしているが、何故、承諾してしまったのか。
恐らく『家族』の単語と、『大切』にしている者へのこの男の気持ちに揺らいでしまったのではないかと思う。
あの記憶の行くところ
「なんじゃルンペン。少し機嫌の悪い顔しとるのぉ」
「・・・いや。大丈夫だ」
会議室のソファに腰掛けて熱い湯気をくゆらすコーヒーに口付けながら時折窓の外を窺うルンペンにカクが聞いた。
表情の乏しいルンペンの変化に気がつくことが出来るのはこのカクと、CPのメンバーだけである。
ルンペンの意識は8割コーヒーにいっているようだったが考えるような深い目を時々する。
その瞬間、カクは「恐らく面倒事を任されたな」と悟った。
だが、本人が大丈夫だと言うのだ。
あまり干渉はしないようにしようと、わざとなんとなく気を遣って用もないのに給湯器の前に立ち紅茶を選別するような動きをする。
すると、ルンペンは定期的に見ていた窓の外をもう一度、一度視線を外してから、まさかというように二度見した。
「・・・・」
「・・・・」
その一瞬を目撃したカクはルンペンにしてはなんだか珍しい行動を取ると思いながらも、アールグレイのパックを取り出しカップの中に入れた。
「・・・・・・カク」
「ん?なんじゃ」
「あの将校を見たことあるか」
「ん・・・?どれじゃ」
まだ湯の入ってないカップを持ったまま、腰に手を当てルンペンの目線の先を追う。
そこにはまだ20代半ば程の男が居た。
背中には将校が着ることを許された正義の字の刺繍があるコートを羽織っている。
目つきは決して良いと言えない。やや人を睨み殺しそうな雰囲気すら漂わせている。
「見たことないのぉ・・・。最近将校になったばかりの奴じゃないか?」
「ああ。そうだろうな」
「・・・・あいつが何か気になるのか?」
「・・・・・・子連れかと思っただけだ」
「子連れ・・?」
カクは再度ルンペンの視線の先に居る将校をよく見た。
その目つきの鋭い、少しくたびれたような印象を与える将校の影には小さな女の子が寄り添っていた。
あまりに隠れるようにして存在しているため一瞬では居るのか居ないのかさえも気がつかない。
その女の子にルンペンは一瞬見ただけで気がついたのだ。
しかも、
「・・・ずっとこっち見とる」
「・・・・」
将校の体に隠れるようにはしているが先程からずっとルンペン達を見続けていた。
吸い込まれるような黒目でじっとこっちを見つめるその姿に、カクは少しひるんだが、ルンペンは変わらずその女の子を見続けた。
時の止まるような思いであった。
そんな中で先に視線を反らしたの小さな少女の方であった。
将校に呼ばれたのか顔を天を仰がんばかりに上げ笑う。
将校もそれに答えて笑っていた。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・カク。もし飲みたかったら飲んでいいぞ」
「ん、あ、あぁ」
そう一言言うとルンペンは今まで飲んでいたコーヒーを机の上に置いて会議室を出て行った。
残されたカクはルンペンの残していったコーヒーカップを見る。
よく湯気の上がったブラックコーヒーであったが妙に違和感を覚えて、手持ちのカップをそのままにルンペンのカップに触れる。
「・・ッだ!つ・・・ッ!!なに・・・ッこんな熱いもん飲んでおったのか・・・ッ!?」
その温度はあまりにおかしい。
人が飲むには熱すぎる温度であった。
それを平然と持っていたルンペンにも信じられない気持ちが募る。
恐らく湯を沸かして直ぐ飲んだのだろう。
「・・・・」
最近よくこういうことが起こる。
まるで五感が働いていないとでも言うようなルンペンの行動が多い。
カクは冷や汗を流しながらも熱すぎるそのカップを見つめた。
夜遅くの海軍本部。
いくつも連なる部屋の一室に目当ての将校は居た。
殺してくれと依頼して来た二等兵の情報では、この将校は刀を扱うプロだそうだ。
つまり近接戦は相手にとって有利になってしまうので、もし戦うことになったら危険だと言う。
なに。ルンペンがするのは暗殺だ。
戦いにはもっていかないつもりだった。
将校の居る部屋の開いた窓ガラスを外からすっと窺う。
部屋は二階の一番端。
ルンペンは外の壁に出っ張っている排気口の上に立ち、既に部屋の中に居る将校が窓に近寄るタイミングを見計らっていた。
近寄れば指銃で一瞬。
きっと静かな夜のまま終わるだろう。
「―――・・あまり暗がりで本を読まないようにしなさい、ミア」
将校が何か言いながら窓を閉めようと外の風に触れた。
ルンペンはすっと窓に近寄り将校に姿を現す。
「!!」
「指銃」
確実に心臓を狙った完璧な死線だった。
しかし、将校の体が不自然に傾き、ルンペンの指から放たれた指銃は将校の脇をかすめ、少量の血しぶきを上げる。
(失敗したか・・・っ?)
少し焦りにも似た感覚を覚えながらもう一度指を構えるルンペン。
「ミア!!しゃがんでろッ!!!」
「指銃・・・」
もう一発目の指銃は確実に将校を捕らえた。
だが、同時に将校はルンペンに襲い掛かり、両手でルンペンの胸倉を掴むと窓の外に飛び出た。
「ッ!」
ぐらりと体が傾き大きく飛躍しながら落下する。
落下する途中で窓枠に慌てたように姿を現した少女が居た。
それを見て落下に伴いながらルンペンは、一回目の指銃が避けられたのはこの少女が将校に飛びついた反動であると冷静に把握した。
考えながらも相手の将校の体を肘で叩き下ろし、反転させ、喉元に肘を当てたまま地面に叩きつける。
二階から落ちたこともありそんな大きな衝撃はなかったが、喉を圧迫された将校は動物にも似た呻き声を挙げ顔を大きく歪めた。
それを確認しながらルンペンは将校から飛び退こうとする。
「剃・・・ッ」
「・・ッざせ、る゛かッ・・・!!!」
咄嗟に潰れた声で叫びながら体を離すまいとルンペンに掴みかかる将校。
離れ損なったルンペンは空いた片手で応戦する。
殴られた勢いで顔の反れた将校の隙をつき、再度指銃を撃つも肩や横腹を撃つばかりで決定的な一発が当たらない。
何度もお互いの体重を利用しながら相手を組み敷こうと反転を繰り返す。
「指銃!」
「・・・ぐッ」
何度目かの指銃が将校の首を大きく抉った。
将校の首から血しぶきが飛び散る。
慌てた将校が自らの首をルンペンの肩を掴んでいた手を離し押さえる。
その一瞬を突き、ルンペンは剃を発動し、その場を離れようとするが、それに反応した将校がルンペンの足をぎりぎりで掴み切った。
「おあああああああッ!!!」
雄叫びを上げながら転がり近づいた池にルンペンを叩き入れる。
ダバンッ!!!と盛大な水柱を上げた池。
将校も息を荒げながら首の血を止めようと首を押さえる手に力を込め、池に向かって構える。
(こんな面倒な将校だったとは・・・っ)
思いの外水深のある池に一回沈み切り、浮上しながらルンペンは思う。
すると、急激に目の前が真っ白になる感覚がルンペンを襲った。
(まさか・・・ここに来て・・・っ!)
実はCPのメンバーにも言っていない、誰にも言っていない秘密があった。
彼、ルンペンは最近五感が上手く働かないどころか記憶すら飛ぶことが頻発していた。
しかも近頃では『狂ってしまう』以外にも貧血のように急に意識が薄くなることもよくあった。
大概が踏み止まれるくらいのものだったから誰にも悟られないよう上手くやってきていたのだが、ここに来てまさかその兆候が表れてしまったのだ。
「・・・・・なんだ・・・っ?」
一向に池から上がってくる気配を見せないルンペンに将校は離れた距離から眉間を寄せ不審に思った。
すると、ルンペンの体が仰向けの状態でふっと浮かんでくる。
暗がりでいまいち見えないがその様子からまるで死んでいるかのようだ。
「・・・・し、死んだのか・・・?」
まさかとにじり寄り、ルンペンを窺う将校。
顔を覗き込める距離まで近づくも全く反応はなかった。
一体この男は誰で何故自分を狙ったのか、事の真相を聞き出すまでは死なす訳にはいかないと、将校は池からルンペンを引きずり出し地面に寝かす。
息を確認するがどうやらしていないようだ。
「・・・ッおいおい・・・ちょっと待ってくれ・・・ッ!」
暗闇の中で大分長い間寝ていた気がする。
脳が目を覚ましたのに気がつき、まぶたを重いながらも開ける。
一番初めに目に映ってきたのはカクだった。
「ルンペンッ!!目を覚ましたかっ!!」
「・・・・」
「どうしたんじゃしっかりせぇ!」
「・・・・・カク・・・お前・・なんでここに・・・」
「ゆっくり休めっ。話はその後じゃ」
「・・・ここはどこだ・・・教えろ、カク」
「・・・ギルバート大佐の部屋じゃ」
「!?」
全てを思い出した。
途端に張り詰めた空気を出し、むくりと上体を起こしたルンペンにカクは驚いた。
「ル、ルンペン・・・っ!?」
「・・・大佐はどこに居る」
「今は外で任務中じゃ・・当たり前じゃろう。ルンペン、丸二日も眠っておったんじゃぞっ?」
「二日・・・・何故おれは医務室にいない。この二日間に一体何があった」
「・・・話が終わるまで休んではくれなさそうじゃの・・」
諦めたようにため息をつくとカクはこの二日間にあった出来事を話し出した。
「お主がCPの仕事でギルバートに何か依頼を頼みに来たそうじゃが、突然具合を悪くしてここで倒れた。医務室に運ばれておらんのは依頼内容に医務室の人間が関わっているからだと大佐から聞いておる。わしはルンペンの体調のことで何か知ることはないか呼ばれたんじゃ」
「・・・・」
(嘘が下手だな)
カクの話を聞いてルンペンは瞬時に今回の任務の失敗を悟った。
もし、カクの話す内容が本当だとしたら、ギルバートは恐らくCPの一人であるカクに探りを入れたことになる。
そうなれば、カクがのこのこギルバートの言うことを信じてここまで出てくるはずがない。
(全部バレたな)
全てが露見してしまった。
少し諦めたように首を反らし、ため息を吐くルンペン。
そんなルンペンの心中をいまいち把握していないカクは少し冷や汗をかきながら首を傾げた。
何故全てがバレてしまって自分が生きているのか、何か罰せられるでもなくここに寝ていられるのか分からない。
一番の大本であるその事を考えながらルンペンはとにかく、ギルバートに面会しなければ事は進まない気がしていた。
とにかく体が重い。
だるそうに周囲を窺う。
そういえば、あの将校と窓から墜落する最中、少女を見かけたが彼女も今は将校と共に居るのだろうか。
この部屋の中にはルンペンとカク以外誰もいない。
外ではわずかに海兵達の声が聞こえる。
「・・・戻るぞ」
「!?ルンペン!そんな体で動いたら・・・」
「行かなきゃならない所がある。とにかくこの部屋を出たい」
「・・・・ルンペン・・」
「・・・・・(依頼主までバレているのだろうか・・・)」
「・・・ルンペン」
「・・・・何だ」
「依頼主ならもうここにはおらん」
「・・・・・カク、お前、どこまで知ってるんだ」
「全部じゃ。ルンペンが倒れとった時のことも含めれば全部以上のことを知っとる」
「・・・・初めからそっちを話せ」
「・・・すまん」
「それで」
「・・・ルンペンに個人的に依頼してきた二等兵は医務室係りきりの二等兵じゃった。じゃから医務室には運ばずここで療養することをギルバートが決めたんじゃ」
「認可したのか」
「ほとんど自分の手の内に置いておきたいという理由じゃろうて。目が覚めたら真っ先に出所を聞きだすつもりじゃったようだしのぉ・・・。じゃがその前に怪しい動きをしたのが依頼主の二等兵じゃった。本当にギルバートが死んだか確認しに来たみたいだったがこの部屋までのこのこ現れおった。そこで全て吐かせた後に自ら異動届けを提出するよう圧力をかけたというところかの」
「・・・・そうか」
「・・・・・二等兵の家族をギルバートが不随にしたという話も聞いた。事故か故意かは当人が片方しかおらんから正直言って分からんが、契約を結んだ」
「・・契約・・?」
「二等兵とギルバートの間の契約じゃ。『いつでも俺を殺しに来い。ただし、誰かを介さずお前一人で』とな」
「・・・・」
「代わりに二等兵は異動届けを書くと。ちなみに異動先は訓練隊。医務室で怪我人の手当てをするんじゃなく武器を持って戦う前身じゃ」
「・・・・」
「じゃから、」
コンコン。
カクの言葉を遮るようにドアをノックする音が聞こえた。
ここにわざわざ来るような輩は一人だろう。
ルンペンもカクも返事はしなかったが、扉がゆっくりと開いた。
「カク。ルンペンは起きたか?」
「おお。じゃが、まだ体は万全ではない。あまり無理させるなよ」
「分かってる」
当たり前のように部屋に入り、ルンペンの目前までやって来たギルバート。
いや、この部屋はギルバートの部屋なのだから当然として入ってくるのだろうが、それにしてはルンペンに対して敵対心が全くない。
カクとギルバートとのやり取りを見ていたルンペンは、本当に自分が寝ていたのは二日間だけだったのだろうか、もっと長期の間寝ていてカクとギルバートが互いを言葉で信用させるだけの中を作ったのではないだろうかと思った。
ルンペンの前、性格にはベットの横に立つギルバートはしばらく黙っていたが、ルンペンの冷たい視線を十分に受けたところで口を開いた。
「・・・上体を起こしていて大丈夫なのか」
「・・・アンタは体に問題ないのか。指銃を全部で5回受けたはずだ」
「おかげ様で包帯とガーゼの暮らしが続いてるよ」
「・・そうか」
「・・・・まだ俺を殺そうとするのか?」
「・・・・」
最後の一言を言った時のギルバートの表情は今までに見たことのない人間の顔だった。
そのためそこにどんな感情が隠されていたのか読み難い。
しかし、唯一言えるとしたら切ないに似たような人間の奥深い悲劇を表しているような感覚だった。
(・・・なんで依頼主もいないおれがアンタを殺す)
心の中ではそう思いながらもルンペンの口から出たのは呆れたようなため息だった。
この年下の男をどうしようもなく感じている自分がいるのだ。
れっきとした将校が人に縋るような視線を送るなと。
ただ無駄に傷ついた自分達を自嘲するようなため息でもあった。
「それは質問じゃないな・・・」
「・・・そうか」
「・・・・」
「・・・・」
「・・・ギルバート」
「・・?」
「お前に叩きつけられた背中が痛い。しばらくここに居るぞ」
「・・・・・ああ」
ふと笑ってギルバートは答えた。
結局、どちらにもなんの利益もなかったし、むしろ今後の任務に支障をきたすような怪我を負うという結果になってしまったが、不思議な歯車が音を合わせたのはこの瞬間だった。
海兵などそこらじゅうに居たが将校とこのように会話することのなかったルンペンに、暗殺部隊に声を掛けることなど一度もなかったギルバートが初めて接点をもった瞬間である。
しかし、ここから数ヶ月後、ルンペンの過去の記憶が消えようとはギルバートは思いもしなかった。
消えると分かっていたら何かしただろうか。
だが、それを予想させる前兆があった。
「カク、カク、ちょっと」
「?・・なんじゃ?」
「ルンペンの口の中べろべろだったぞ。これ。痛み止めだ。渡してやってくれ」
「おお・・・・なんでお主がルンペンの口の事情を知っておるんじゃ」
「池から出した時、息してなかったんだ。人工呼吸するのに口開けるだろ。暗闇でも分かるくらいだったからよっぽど栄養採ってないか噛んだりしてるかだと思うが」
「・・・(熱いコーヒー)・・きっちり本人には渡しておく」
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30万HITのお祝いに素敵なお話ありがとうございました!
読み切りの【狂人】の設定を使って頂けて、ルンペンが改めてなんとめんどくさい設定なのかwと思いましたww
このお話の続き(記憶が消えた後の)をもくもくと妄想しちゃいます♪
ルンペンを書いた当初からhisaさんには好いて頂いてて、今回このような機会を頂けましたw感謝しかありません^^
ギルクンとミアちゃんのコンビ大好きですwwまたルンペンと絡んでやって下さいね!