宝の詩
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本当に昔の話のようだ。
本当のファーストコンタクトは、俺がまだ仲間もろくに揃わず、賞金首とはいえ大した輩でもなかった時だ。
足をなくしてしばらく経った頃。
今思えば足の一件でまだまだ少し荒れていた時期だった。
ウエストブルーのある一角に停泊して、食料や必要品やらを調達し、仲間達も各々自分達の気になる町並みを見学していくという。
別に俺自身、この町に大した用事もなかったので仲間には自由にさせていた。
決して口には出さなかったが、ひょこひょこみっともなく歩く姿をあまり見られたくない気持ちも塵程度だろうがあったのだろう。
こんな用事も意志もない時に限ってそんな下らない意識が表に顔を出すのだ。
まんまと自分の船の近く、言い換えれば、逃げ道の近くにある港の、低い防波堤に腰掛け次の進路と地図を確認していた。
「トキ」
「ん?ああ。仁識か」
彼もやることがなかったようだ。船を下りる時に見た手ぶらでズボンのポケットに両手を入れた状態と全く同じ格好でこちらに歩いてきた。
思わず少し笑ってしまう。
近くまでやってくると立ち止まり、所在無げに辺りを少し見回す。
あの日も、夕日が地平線を染めていた。
「他の奴らは」
「見てない」
仁識が俺に聞く。仲間の動向は特に気にしていなかった。
彼はそうかと小さく納得すると、おもむろに片方のポケットからガサガサと紙の擦れる音をさせて一枚の広告を取り出す。
手配書だろうか。
この町でも海軍に追われるのは面倒だ。
今のところバレてはいないようだから、久しぶりに仲間達には自由を味わって欲しかった。
そんなことを瞬時に感じ、仁識に口を開きかけると、俺よりも先に、いつもとは違い少し早口で仁識は言った。
「ここらの町はそんなに大きくないが、前に立ち寄った市街地でも同じ広告を見たんだ」
「・・・?」
「もしかしたら面白いかもしれないぞ」
くしゃくしゃに折りたたまれた紙をこちらに見えやすく提示する。
手配書じゃないのか・・・と安心、疑問に思いながら渡された紙を受け取った。
そこには旅の一行が夕方、町の中心地でサーカスをするというものだった。
「あー・・・サーカス・・か?」
「そうだ」
「・・・なんでこんなの急に・・」
「こういうのスキだろ?」
「面白いとは思うけどだからって今見に行かなくても」
「スキなんだろ?」
「あーいやだから好きとか嫌いというよりか気乗りの問題・・・」
「来い」
「ちょっ・・!仁識待てっ!引っ張んなっ・・!」
その時は義足をつけていたが、念のためと持ってきて脇に置いておいた松葉杖を拾う時間も与えてもらえず、俺は仁識に二の腕を掴まれ連行されていった。
町の広場に続く路地を歩く頃には仁識も、俺が諦めて着いて行く意思を持ったと思ったらしく、またポケットに両手を入れながら前方を歩いていた。
はーーーっ、面倒くさ・・・。
仁識がここまで強引に人を連れていくことも珍しいが、何も今直ぐ行こうとしなくていいだろ・・。
顔のパーツが全体的に下り、渋い顔をしているのが自分でも分かる。
子供のように、「やってなかったな!帰ろうか!」という結果まで期待して。
しかし、路地を抜けるといきなり。
ぱんっ!!
「おわッ!!!」
「こんばんは。驚かせてしまいましたね」
にこり。と音がしそうな程人好きする笑顔で女のような顔をした男が、俺の目の前でシルクハットから鳩を大量に飛ばした。
俺より先に歩いていた仁識も、俺の隣でこの男を見ていた。
「さぁ、どうぞ。こちらに」
「あ・・いや、俺は」
紳士的に手を引かれ、どうしたらよいかと困惑しながらも広場に出る。
そこで驚いた。
考えていた以上の人だかり。
サーカスのメンバーが中心で鮮やかな紙ふぶきと音楽とで、空間の中を舞うように行き来している。
ピエロが玉に乗り、猛獣使いが獣を操り何か動く度、観客から輝くような笑顔が飛び交った。
夕日の光にきらめく紙ふぶき。
重力に沿ってゆっくりと蛇行しながら舞い降りる。
と、突然風も吹かないのに意思を持った塊であるかのように、全ての紙が中心に集まった。
「!」
仁識が持っていたこのサーカス団の広告もポケットからバサバサ!と飛び立った。
歓声に合わせて中央に立ったのは先程の彼。
彼の声や動きに従うようにあちこちへ姿を変えて紙が舞う。
子供がそれを掴もうと空に手を伸ばす。
象、うさぎ、虎、魚・・・・。
次々と姿を変える紙ふぶきは、最後、彼と観客のカウントダウンに合わせて花火となって打ち上がった。
声にもならない感動の音もそこらじゅうに舞う。
すると、先程出した鳩が群れをなしてこちらに飛び、花火の光に触れると風船となって重力に従い落ちてきた。
大喜びの声。
久しぶりに、人が一体となった音を聞いた。
「感動した」
夜。
もう既に観客達はちりぢりとなっている。
最後まで帰りたがらない子供や大人に笑顔でまた今度と言うサーカスのメンバー。
やっと通行人くらいになった広場で片付けをする彼らに、いや、紙を操っていた端正な容姿の男に、俺は声を掛けたのだ。
そう。
結局誰よりも帰りたがらなかったのは他でもない俺だ。
「有難うございます」
一旦片付ける手を止めて、再びあの笑顔でにこりと笑んだ彼。
そんな彼を見て俺まで自然と笑っていた。
仁識は少し離れたところでどこで拾ったのかまた別の数枚の紙を見比べていた。
「君達は旅をしながらサーカスを見せてるみたいだな」
「ええ。あちこちを転々としながら」
「特に・・・君が凄かった」
「有難うございます」
久しぶりに思い切り感動した気がした。
自然と笑えているのも久しぶりだ。
その嬉しさやら喜びやら感謝やらを伝えたかったのだが、あまりに言いたい言葉が多すぎて出てきた一言一言は簡素なものだった。
はたから見れば、ただ笑い合っているだけに見えただろう。
と、彼の飼っている鳩が一匹ならず、集団となってこっちにやってくる。
地面をひょこひょこと歩きながらこちらへ。
彼と俺はそれに気がつき鳩の一行を一旦見た。
「?どうしたんでしょうか。すみません、うちの鳩達が・・。こら、そっちはお客様がいるだろう?下っておいで」
「ああ。いいんだ」
しゃがみこむことは出来ないが足元や何匹か肩、頭にとまってきた鳩を気にしないで俺は続けた。
「俺は悪魔の実の能力者なんだ。トリトリの実の鳥人間。あの実を食ってからよくあることなんだよ。鳥に求愛されたりとか」
「ああ。そうだったのですか」
「?あまり驚かないね。世界を旅してると悪魔の実の能力者にはよく会った?」
「いいえ。実は僕も悪魔の実の能力者なのです」
「!そうなのか!」
「カミカミの実の紙人間。自分から紙を作り出したり、操ったり、複写したり・・・ウウンっ」
軽い咳払いをして、これは内緒ですよ?というように少し首を傾げて人差し指を唇に当てる彼は、男の俺から見ても妖艶だった。
人を喜ばせるのが上手だな、なんて思いながらも見事喜んだ心で同じように内緒の合図。
またお互い笑い合った。
そこで、彼の言った言葉を反復させ、もしやと思うことを言う。
「君・・・もしかしたら本を複写したすることも出来る?」
「ええ・・何かありましたか?」
「本当に凄いな君は!!」
思わず感動して彼の両肩をがっしり掴む。一瞬ひるんだ彼の顔が伺えた。
考えていたよりも華奢ではない彼の肩に今までの苦労を読み取ったのは何故だろう。
「俺、あー、自分のことばかり話して申し訳ないんだが、書物が好きなんだ。世界中の本を集めては読んでるんだけどどうしても手に入らない本もあったりして・・・どうしても欲しいんだが、君さえよければ世界でもの珍しい本があったらどうか複写してくれないかっ」
心底都合の良いことを言った。
なんでこんな自分勝手なことを言えたのか。
理由は一つだ。
彼と再び会う口実が欲しい。
それだけだったのだ。
しかし、こんな後先考えない言葉に彼が頷くとも思えなかった。
それでも、断られた時のことさえ考えられない程、俺は興奮していた。
彼は一瞬ぽかんとした顔をした後、こちらの考えが読めていたようだった。
くすくすとおかしそうに笑い、仕方の無い人を見るかのような目で目前の人物を見た。
勿論、仕方の無い人は俺だ。
「構いませんよ。見たところ、あなた方も海賊さんのようなので、また海か陸か・・・出会える場所はあるでしょう。その時に出逢った本がありましたら差し上げましょう」
「本当か!!本当に嬉しいよ!!」
「いえいえ」
海賊であると見抜かれていたことさえ気がついていない俺。
仁識は肝を冷やしただろうか。
「俺の名前はセルバンテス・トキ。もし今後この名を聞くことがあったら是非俺に会ってくれ」
「セルバンテス・トキ。トリトリの実のセルバンテス。分かりました。風の噂で聞くことがありましたらあなたを探しましょう」
また、音のしそうな柔らかい笑みを溢した。
サーカスの仲間は既にどこへ行ったのか一人も残っていない。
この暗い広場に残っているのは、彼と俺と仁識の三人だった。
彼は手元にあるケースを身に寄せると、手品中にずっとしていた白い手袋を再びはめ直し、シルクハットをとる。
「?」
「では。またの機会を楽しみにしています。是非、この海で」
にこ。
ざああああああああああ。
シルクハットから溢れる紙。俺の身体にまとわりついていた鳩も全て紙に化した。
心底感動している内に体積としては有り得ない速さで縮小していく紙。
最後に一枚の手配書を残して彼は姿を消した。
ひらり、ひらり。
俺の手元に見事に降りる一枚。
「クロスロード・ジン。お尋ね者だったのか・・・賞金額・・・なにッ!!!??」
「船長。人の賞金額に驚いてる暇ないみたいだ」
「なにが?」
「・・・・」
先程まで黙って成り行きを見守っていた仁識が俺に数枚の紙をぴらぴらと振ってみせる。
そこには、俺と仁識、それから仲間の手配書があった。
「もうこの町にまで届いてるんだ。海軍も来てる」
「なんだってっ?」
衝撃の一言に俺はまず自分の船を見た。
海の彼方から海軍がやって来ている。
まだまだ小さな姿が数刻もしない内にここまでやって来るだろう。
同じように海に視線を向けた仁識が器用に俺が持っていたクロスロード・ジンの手配書を取り上げる。
「わざわざあんな方角から海軍が来るのは、目的は俺らじゃない。恐らくこの男だろうな」
「クロスロード・ジンか・・・」
「・・・ついでで捕まったら敵わない。逃げるぞ!」
足早に踵を返し元来た道を戻る仁識に、俺は仲間を呼ぶため鳥の姿になる。
「他の奴ら呼んでくる。先に船に戻っててくれ」
「分かった」
すっかり暗くなった夜空を滑降する。
「・・・・」
スタスタと歩きながら仁識は再びクロスロード・ジンの手配書を見た。
「・・・本当綺麗な顔だ」
―――あれから数度再会を果たして、彼から本を何冊かもらった。あんなひょっと出の奴との約束を果たすなんて律儀で良い男だよね~。な、仁識」
「ああ。あいつが仲間になるなら俺は歓迎だ」
「そうだったのですか・・・」
まさかこんな身近にジンと繋がる者、しかもこんな何度も出会うことさえしている人がいると思っていなかったイッサは、簡単な経緯を聞いて放心していた。
いつの間にか話に加わっていた仁識も、昔のことを思い出しているのか水平線よりずっと手前を、何もない虚空を見ている。
余程印象に残ったのだろう二人はしばし黙り込んだ。感慨に耽るとはこのことである。
二人の様子にイッサはううん・・・と一つ唸ると顎に手を当て、目を閉じた状態で空を仰いだ。
「船長。もし、彼にまた会うことがあれば私に連絡を入れて頂けますか?是非ともまたお会いしたい」
「ああ。分かったよ。今度は船に来てもらおう。きっと皆も気に入る」
「ええ!」
例え仲間に出来ずとも、少しでも彼の人生に関わりたい。
そんな迷惑染みた気持ちでトキは言った。
fin
――――――――――――――
ファーストコンタクト完結!
すごく楽しいお話でした!!ってかもうトキくん達のジンへの愛が溢れてて…!!
もうほんまトキメキました!!
イラストの挿絵も素敵で♪ほんま嬉しいコラボばかり(^^)誘って頂いて幸せでした!
またコラボしましょうね!!
本当のファーストコンタクトは、俺がまだ仲間もろくに揃わず、賞金首とはいえ大した輩でもなかった時だ。
足をなくしてしばらく経った頃。
今思えば足の一件でまだまだ少し荒れていた時期だった。
ウエストブルーのある一角に停泊して、食料や必要品やらを調達し、仲間達も各々自分達の気になる町並みを見学していくという。
別に俺自身、この町に大した用事もなかったので仲間には自由にさせていた。
決して口には出さなかったが、ひょこひょこみっともなく歩く姿をあまり見られたくない気持ちも塵程度だろうがあったのだろう。
こんな用事も意志もない時に限ってそんな下らない意識が表に顔を出すのだ。
まんまと自分の船の近く、言い換えれば、逃げ道の近くにある港の、低い防波堤に腰掛け次の進路と地図を確認していた。
「トキ」
「ん?ああ。仁識か」
彼もやることがなかったようだ。船を下りる時に見た手ぶらでズボンのポケットに両手を入れた状態と全く同じ格好でこちらに歩いてきた。
思わず少し笑ってしまう。
近くまでやってくると立ち止まり、所在無げに辺りを少し見回す。
あの日も、夕日が地平線を染めていた。
「他の奴らは」
「見てない」
仁識が俺に聞く。仲間の動向は特に気にしていなかった。
彼はそうかと小さく納得すると、おもむろに片方のポケットからガサガサと紙の擦れる音をさせて一枚の広告を取り出す。
手配書だろうか。
この町でも海軍に追われるのは面倒だ。
今のところバレてはいないようだから、久しぶりに仲間達には自由を味わって欲しかった。
そんなことを瞬時に感じ、仁識に口を開きかけると、俺よりも先に、いつもとは違い少し早口で仁識は言った。
「ここらの町はそんなに大きくないが、前に立ち寄った市街地でも同じ広告を見たんだ」
「・・・?」
「もしかしたら面白いかもしれないぞ」
くしゃくしゃに折りたたまれた紙をこちらに見えやすく提示する。
手配書じゃないのか・・・と安心、疑問に思いながら渡された紙を受け取った。
そこには旅の一行が夕方、町の中心地でサーカスをするというものだった。
「あー・・・サーカス・・か?」
「そうだ」
「・・・なんでこんなの急に・・」
「こういうのスキだろ?」
「面白いとは思うけどだからって今見に行かなくても」
「スキなんだろ?」
「あーいやだから好きとか嫌いというよりか気乗りの問題・・・」
「来い」
「ちょっ・・!仁識待てっ!引っ張んなっ・・!」
その時は義足をつけていたが、念のためと持ってきて脇に置いておいた松葉杖を拾う時間も与えてもらえず、俺は仁識に二の腕を掴まれ連行されていった。
町の広場に続く路地を歩く頃には仁識も、俺が諦めて着いて行く意思を持ったと思ったらしく、またポケットに両手を入れながら前方を歩いていた。
はーーーっ、面倒くさ・・・。
仁識がここまで強引に人を連れていくことも珍しいが、何も今直ぐ行こうとしなくていいだろ・・。
顔のパーツが全体的に下り、渋い顔をしているのが自分でも分かる。
子供のように、「やってなかったな!帰ろうか!」という結果まで期待して。
しかし、路地を抜けるといきなり。
ぱんっ!!
「おわッ!!!」
「こんばんは。驚かせてしまいましたね」
にこり。と音がしそうな程人好きする笑顔で女のような顔をした男が、俺の目の前でシルクハットから鳩を大量に飛ばした。
俺より先に歩いていた仁識も、俺の隣でこの男を見ていた。
「さぁ、どうぞ。こちらに」
「あ・・いや、俺は」
紳士的に手を引かれ、どうしたらよいかと困惑しながらも広場に出る。
そこで驚いた。
考えていた以上の人だかり。
サーカスのメンバーが中心で鮮やかな紙ふぶきと音楽とで、空間の中を舞うように行き来している。
ピエロが玉に乗り、猛獣使いが獣を操り何か動く度、観客から輝くような笑顔が飛び交った。
夕日の光にきらめく紙ふぶき。
重力に沿ってゆっくりと蛇行しながら舞い降りる。
と、突然風も吹かないのに意思を持った塊であるかのように、全ての紙が中心に集まった。
「!」
仁識が持っていたこのサーカス団の広告もポケットからバサバサ!と飛び立った。
歓声に合わせて中央に立ったのは先程の彼。
彼の声や動きに従うようにあちこちへ姿を変えて紙が舞う。
子供がそれを掴もうと空に手を伸ばす。
象、うさぎ、虎、魚・・・・。
次々と姿を変える紙ふぶきは、最後、彼と観客のカウントダウンに合わせて花火となって打ち上がった。
声にもならない感動の音もそこらじゅうに舞う。
すると、先程出した鳩が群れをなしてこちらに飛び、花火の光に触れると風船となって重力に従い落ちてきた。
大喜びの声。
久しぶりに、人が一体となった音を聞いた。
「感動した」
夜。
もう既に観客達はちりぢりとなっている。
最後まで帰りたがらない子供や大人に笑顔でまた今度と言うサーカスのメンバー。
やっと通行人くらいになった広場で片付けをする彼らに、いや、紙を操っていた端正な容姿の男に、俺は声を掛けたのだ。
そう。
結局誰よりも帰りたがらなかったのは他でもない俺だ。
「有難うございます」
一旦片付ける手を止めて、再びあの笑顔でにこりと笑んだ彼。
そんな彼を見て俺まで自然と笑っていた。
仁識は少し離れたところでどこで拾ったのかまた別の数枚の紙を見比べていた。
「君達は旅をしながらサーカスを見せてるみたいだな」
「ええ。あちこちを転々としながら」
「特に・・・君が凄かった」
「有難うございます」
久しぶりに思い切り感動した気がした。
自然と笑えているのも久しぶりだ。
その嬉しさやら喜びやら感謝やらを伝えたかったのだが、あまりに言いたい言葉が多すぎて出てきた一言一言は簡素なものだった。
はたから見れば、ただ笑い合っているだけに見えただろう。
と、彼の飼っている鳩が一匹ならず、集団となってこっちにやってくる。
地面をひょこひょこと歩きながらこちらへ。
彼と俺はそれに気がつき鳩の一行を一旦見た。
「?どうしたんでしょうか。すみません、うちの鳩達が・・。こら、そっちはお客様がいるだろう?下っておいで」
「ああ。いいんだ」
しゃがみこむことは出来ないが足元や何匹か肩、頭にとまってきた鳩を気にしないで俺は続けた。
「俺は悪魔の実の能力者なんだ。トリトリの実の鳥人間。あの実を食ってからよくあることなんだよ。鳥に求愛されたりとか」
「ああ。そうだったのですか」
「?あまり驚かないね。世界を旅してると悪魔の実の能力者にはよく会った?」
「いいえ。実は僕も悪魔の実の能力者なのです」
「!そうなのか!」
「カミカミの実の紙人間。自分から紙を作り出したり、操ったり、複写したり・・・ウウンっ」
軽い咳払いをして、これは内緒ですよ?というように少し首を傾げて人差し指を唇に当てる彼は、男の俺から見ても妖艶だった。
人を喜ばせるのが上手だな、なんて思いながらも見事喜んだ心で同じように内緒の合図。
またお互い笑い合った。
そこで、彼の言った言葉を反復させ、もしやと思うことを言う。
「君・・・もしかしたら本を複写したすることも出来る?」
「ええ・・何かありましたか?」
「本当に凄いな君は!!」
思わず感動して彼の両肩をがっしり掴む。一瞬ひるんだ彼の顔が伺えた。
考えていたよりも華奢ではない彼の肩に今までの苦労を読み取ったのは何故だろう。
「俺、あー、自分のことばかり話して申し訳ないんだが、書物が好きなんだ。世界中の本を集めては読んでるんだけどどうしても手に入らない本もあったりして・・・どうしても欲しいんだが、君さえよければ世界でもの珍しい本があったらどうか複写してくれないかっ」
心底都合の良いことを言った。
なんでこんな自分勝手なことを言えたのか。
理由は一つだ。
彼と再び会う口実が欲しい。
それだけだったのだ。
しかし、こんな後先考えない言葉に彼が頷くとも思えなかった。
それでも、断られた時のことさえ考えられない程、俺は興奮していた。
彼は一瞬ぽかんとした顔をした後、こちらの考えが読めていたようだった。
くすくすとおかしそうに笑い、仕方の無い人を見るかのような目で目前の人物を見た。
勿論、仕方の無い人は俺だ。
「構いませんよ。見たところ、あなた方も海賊さんのようなので、また海か陸か・・・出会える場所はあるでしょう。その時に出逢った本がありましたら差し上げましょう」
「本当か!!本当に嬉しいよ!!」
「いえいえ」
海賊であると見抜かれていたことさえ気がついていない俺。
仁識は肝を冷やしただろうか。
「俺の名前はセルバンテス・トキ。もし今後この名を聞くことがあったら是非俺に会ってくれ」
「セルバンテス・トキ。トリトリの実のセルバンテス。分かりました。風の噂で聞くことがありましたらあなたを探しましょう」
また、音のしそうな柔らかい笑みを溢した。
サーカスの仲間は既にどこへ行ったのか一人も残っていない。
この暗い広場に残っているのは、彼と俺と仁識の三人だった。
彼は手元にあるケースを身に寄せると、手品中にずっとしていた白い手袋を再びはめ直し、シルクハットをとる。
「?」
「では。またの機会を楽しみにしています。是非、この海で」
にこ。
ざああああああああああ。
シルクハットから溢れる紙。俺の身体にまとわりついていた鳩も全て紙に化した。
心底感動している内に体積としては有り得ない速さで縮小していく紙。
最後に一枚の手配書を残して彼は姿を消した。
ひらり、ひらり。
俺の手元に見事に降りる一枚。
「クロスロード・ジン。お尋ね者だったのか・・・賞金額・・・なにッ!!!??」
「船長。人の賞金額に驚いてる暇ないみたいだ」
「なにが?」
「・・・・」
先程まで黙って成り行きを見守っていた仁識が俺に数枚の紙をぴらぴらと振ってみせる。
そこには、俺と仁識、それから仲間の手配書があった。
「もうこの町にまで届いてるんだ。海軍も来てる」
「なんだってっ?」
衝撃の一言に俺はまず自分の船を見た。
海の彼方から海軍がやって来ている。
まだまだ小さな姿が数刻もしない内にここまでやって来るだろう。
同じように海に視線を向けた仁識が器用に俺が持っていたクロスロード・ジンの手配書を取り上げる。
「わざわざあんな方角から海軍が来るのは、目的は俺らじゃない。恐らくこの男だろうな」
「クロスロード・ジンか・・・」
「・・・ついでで捕まったら敵わない。逃げるぞ!」
足早に踵を返し元来た道を戻る仁識に、俺は仲間を呼ぶため鳥の姿になる。
「他の奴ら呼んでくる。先に船に戻っててくれ」
「分かった」
すっかり暗くなった夜空を滑降する。
「・・・・」
スタスタと歩きながら仁識は再びクロスロード・ジンの手配書を見た。
「・・・本当綺麗な顔だ」
―――あれから数度再会を果たして、彼から本を何冊かもらった。あんなひょっと出の奴との約束を果たすなんて律儀で良い男だよね~。な、仁識」
「ああ。あいつが仲間になるなら俺は歓迎だ」
「そうだったのですか・・・」
まさかこんな身近にジンと繋がる者、しかもこんな何度も出会うことさえしている人がいると思っていなかったイッサは、簡単な経緯を聞いて放心していた。
いつの間にか話に加わっていた仁識も、昔のことを思い出しているのか水平線よりずっと手前を、何もない虚空を見ている。
余程印象に残ったのだろう二人はしばし黙り込んだ。感慨に耽るとはこのことである。
二人の様子にイッサはううん・・・と一つ唸ると顎に手を当て、目を閉じた状態で空を仰いだ。
「船長。もし、彼にまた会うことがあれば私に連絡を入れて頂けますか?是非ともまたお会いしたい」
「ああ。分かったよ。今度は船に来てもらおう。きっと皆も気に入る」
「ええ!」
例え仲間に出来ずとも、少しでも彼の人生に関わりたい。
そんな迷惑染みた気持ちでトキは言った。
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――――――――――――――
ファーストコンタクト完結!
すごく楽しいお話でした!!ってかもうトキくん達のジンへの愛が溢れてて…!!
もうほんまトキメキました!!
イラストの挿絵も素敵で♪ほんま嬉しいコラボばかり(^^)誘って頂いて幸せでした!
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