悪い顔ね、っと笑って
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
陽が昇りはじめたばかりの時間。頭に優しい温もりを感じ、ふと目が覚めた。
瞼をあげて見えた世界の先には優しく自分を見る紫色の瞳。その優しい瞳に魅入られそうになった瞬間、私はレニーがここにいる事実に意識が覚醒した。
そんな私の反応を見たのか、レニーは私の頭をより優しく撫でる。
『加減はどうじゃ? ルージュ』
「レニー! どこに行っていたの!?」
私は一人分重くなった身体を急いで起こす。それに驚いたのか、彼は私の背に手を添えた。
『こら、身重がそんなに心を乱すでない』
そう言いつつ、レニーは私の背にクッションを差し込む。
『白湯を入れて来る。大人しく待っておるんじゃよ』
そう言ってレニーは腰を上げた。背を向ける彼の銀色の長く美しい髪が、窓から入る昇りはじめたばかりの朝日の光を受け輝く。私はそれを無意識に目に追っていた。
レニーは1000年を生きる“吸血鬼”。ここ何百年と同族を見ていないから己が最後の“吸血鬼”だろうとも言っていた。見かけは20代前半の青年でその姿は出会って10年経った今も変わらない。
だから私が歳を重ねたことで、歳の離れた兄妹から、歳の近い兄妹のようになった。多分レニーは親代わりと思っているのだろうけど。
『どうした? まだ眠いか?』
レニーがマグカップを手に戻ってきた。そして気をつけるじゃぞ、っと私に差し出す。
私はそれを受け取り、一口飲んだ。ちょうど良い温かさの白湯に心が緩む。
「急に出て来るって言ってから、なかなか帰ってこないから」
『心配をかけたか、すまぬ』
「ううん。少し不安になっちゃっただけ。どこに行っていたの?」
『ああ……実はな、あの馬鹿に会って来た』
「!! あの人に…?」
私は思わず声が大きくなった。あの人…ロジャーさんは私がこの人生で一番好きになった人。この身体にも彼の子が宿っている。しかし彼は己の意思で海軍へ自首し、今や裁きの時を待つ身となっていた。
「元気、だった……?」
『ああ、いつものように馬鹿な事ばかり言うておった』
レニーは呆れたような声音でいう。しかしその口角は少し上がっており、それは本当に呆れているのではない、優しさを感じさせた。それはそうだ。レニーとロジャーさんは共に旅をしていた。ワンピースを見つけ、ロジャーさんが海賊王として名を馳せる事となったその旅に。
レニーがロジャー海賊団に入ったのを知ったのは、レニーの手配書が出た時だった。不敵に笑うその顔は楽しい時の彼の顔で、私は手配書を見て一目で楽しんでいるのだろうと感じた。その後海賊王と囃し立てる新聞などを目にしていたが、一番驚いたのはレニーがロジャーさんとレイリーさんをこの南の島バテリアへ連れて来た事だった。
彼ら2人がいた時はそれはそれは賑やかな毎日だった。4人で食事を取ったり、海辺でのんびりしたり…とても充実した日々だった。そしてその時、ロジャーさんと恋に落ちた。病気の事も聞いていたが、それでも彼を愛さずにはいられなかった。そんな私達をレニーもレイリーさんも穏やかに見守ってくれていた。幸せな日々だった。
けれどある時、彼は海軍への自首を選んだ。出発の準備を整え終えた後に、私にそれを告げ、抱きしめて「行ってくる」と言った。私は「いってらっしゃい」と彼の背に手を回した。
私は知っている、ロジャーさんが強いばかりの人ではないと言う事も。だから彼はこの道を選択したのだと。
「……そう、でも」
『言うてやるな、大方我が主に伝える事を考慮しておる。馬鹿騒ぎをしているなんてあやつらしいじゃろう』
そう言ってレニーは私の頭を撫でた。不思議だ。クッションを置いてくれたり、朝一に白湯を出してくれたり、不安にさせないようにしてくれたり…それはロジャーさんが私にしてくれたこと。でもロジャーさんは「レニーの前でやるとニヤニヤしやがるからな」っとレニーの前ではしていなかった。なのにレニーはまるで、私達を見てきたかのようにあの人がしてくれたことをしてくれるのだ。
「レニー」
『何じゃ?』
「何で彼と同じ事ができるの?」
『あやつと同じ?』
「うん…レニーの前ではしていなかった事ばかりなのに」
『……ほう、あやつは心得ておったのだな』
「?」
『心配せずとも主らを見守りはしても監視はしておらぬ。同じ事をしているのは、シャッキーがレイリーに教えた事を、ロジャーがレイリーから教わり実践しておっただけの事。我もシャッキーらがその話をしていた時に側におったからの、同じ事をするのはわけない』
「! そうだったんだ」
『クク…あやつも努力はしておったようだ』
レニーの口角が上がる。それはニヤニヤと彼を嘲るような、それでいて感心しているような笑み。
私はそれを見て自然に笑ってしまった。
『何じゃ?』
「じゃあ、レニーも努力してくれているの?」
『!……フン、我は努力せずともこれくらいはできる』
「ふふ。そうだね、レニーは何でもできるもんね」
『……』
レニーは黙り込んでしまった。私は首を傾げる。
「? どうしたの」
『…何でも…は出来ぬよ』
「?」
そう呟くように言うと、レニーはベットの脇に座り、私を抱きしめた。細く体温を感じない冷たい身体。人との違いが明確になるその瞬間。昔も今も彼はそれを気にして自分から私を抱きしめる事はほとんどなかった。
そんな彼が私を自分から抱きしめる時は、2つの理由がある。ひとつは私が悲しくて悲しくて誰かにすがりたい時、
「……レニー?」
でも今はそんな悲しい時ではない。
私は息を詰めたようグッと何かに耐えているレニーに小さく声をかけた。私の声に反応したのか、レニーは詰めていた息をふっと吐き出し、絞り出すように言葉を紡ぐ。
『ーーーすまぬ。我は主らに幸せとやらをあげてやれん』
「!」
『本来なら主ら3人をどこぞへ匿ってでも、生かすべきだと思っていた。だが、我には出来なかった』
「……それは、彼が自首を決めたから?」
『……主ら二人が決めたからじゃ』
「!」
『出立の時、我は主が望むならあやつを意地でも外には出さんつもりだった。しかし、あやつが決めた事を主が認めた。そしてルージュ、お主自身もあの時、己の決意を固めたであろう?』
「……」
『だから、我には出来なかった。愛する主らが決めた事を我は覆せんかった』
弱々しい声。こんなレニーは初めてだった。本当に悔やんで悲しんでいるのが声色から伝わる。あの人と私の決意が、一人の家族を苦しめていたことを初めて知った。
私は何も言えず、レニーの背に手を回す。彼は言葉を続けた。
『我からすれば主らの人生は、まるで焚き火のようじゃ。最初は小さな火であるのに、一瞬で大きな炎に変わり赤々とその存在を示す。そして己の全てを焼き尽くしてその一生を終える。あっという間じゃ』
「……」
『じゃから…いやならばこそ我は……その“種火”が望む事を叶えてやりたいと思うのじゃ』
「……レニーは優しいね」
『違う、ただの驕りじゃよ。主らを救えぬ理由をつけているだけじゃ』
彼はとてもとても長い時を生きて来た。きっと私達のような出会いも別れも何回も経験して来たはずだ。そして彼はいつの時もこんな風に苦しみ悲しんでいたに違いない。彼は本当に人が好きなのだ。私はこんな彼の優しさにずっと支えられて来た。
「私は救われたよ。レニーが一緒にいてくれた日々が私の救いだった。それにね、レニーが連れて来てくれたんだよ、私がこの世で最も愛せる人を」
『……ルージュ、主は幸せだったか?』
「“今も”ずっと幸せだよ」
『“今も”……。そうか、優しい子になったなルージュ』
「ふふ。レニーが居てくれたからだよ」
『主らの子もルージュに似ると良いな。父親はロクな奴ではないから』
「それでも、レニーは大好きなんだよね」
『あんな若僧を好きになるか。面倒ばかりかけられて……。だが、』
「?」
『なかなか楽しめた、あやつらとの旅は。まぁ、主との暮らしには負けるがな』
「ふふっ……」
徐々にいつものトーンに戻るレニーの声色を聞きながら、私は理解した。彼が私を抱きしめたのはもうひとつの理由、レニー自身が何かを決意した時だ。
それは、手放したかった己の命を幼い私と暮らすために手放さないと決めた時、そして私の中に彼の子がいると知って、この子の行く末を見守ると私に約束した時……。
彼の決意はいつも人と共にある。
『ルージュ』
「……なぁに?」
『我はまたしばし外に出る』
「何をしにいくの?」
『ほう、さすがに察しがいいな』
レニーは抱きしめていた手をゆるめ、私を見た。優しい笑み。これはきっと私にだけ向けてくれる顔。
『実はな、あやつが壮大な悪戯をやるらしい』
「え?」
『散るならば盛大に世界を驚かせて逝きたいようじゃ。それを我に手伝えと言うて来た。元船長 命令だと言うてな』
「いたずら?」
『あゝ。馬鹿げておろう? だが、興が乗ったからのォ、手伝いに行ってやろうと思う。だから主は今しばらくここで静養するんじゃよ。皆には良くしてもらえるに言うておく故』
「もう行くの?」
『ああ』
「……ねぇ、レニー」
『どうした?』
「いたずらって、何をするの?」
『ん? そうじゃな…“世界を新しく塗り替えるくらいの事”じゃ。主にもすぐ届く、あやつらしいとわかる方法でな』
ニヤッと笑うレニー。その笑顔は楽しんでいる時の顔、手配書と同じその顔がきっとレニーの海賊としての顔なのだ。
「ふふふ。悪い顔ね」
『そうか。まぁ、致し方あるまい。なんせ、我は海賊王のクルーじゃからな』
そう言うとレニーはベッドから腰をあげる。その目は全てを決意している目。あの時のロジャーさんと同じ目。
『ルージュ。行ってくる』
「うん、行ってらっしゃい。気をつけて」
だから、私はあの時のロジャーさんを見送るのと同じ様に、彼を笑顔で見送る。
【悪い顔ね、っと笑って】
ーーーおれの財宝か? 欲しけりゃくれてやるぜ… 探してみろ、この世の全てをそこに置いてきたーーーー
そして数日後。レニーの言う通り、“彼 の最期の言葉”が世界を一変させたのだった。
瞼をあげて見えた世界の先には優しく自分を見る紫色の瞳。その優しい瞳に魅入られそうになった瞬間、私はレニーがここにいる事実に意識が覚醒した。
そんな私の反応を見たのか、レニーは私の頭をより優しく撫でる。
『加減はどうじゃ? ルージュ』
「レニー! どこに行っていたの!?」
私は一人分重くなった身体を急いで起こす。それに驚いたのか、彼は私の背に手を添えた。
『こら、身重がそんなに心を乱すでない』
そう言いつつ、レニーは私の背にクッションを差し込む。
『白湯を入れて来る。大人しく待っておるんじゃよ』
そう言ってレニーは腰を上げた。背を向ける彼の銀色の長く美しい髪が、窓から入る昇りはじめたばかりの朝日の光を受け輝く。私はそれを無意識に目に追っていた。
レニーは1000年を生きる“吸血鬼”。ここ何百年と同族を見ていないから己が最後の“吸血鬼”だろうとも言っていた。見かけは20代前半の青年でその姿は出会って10年経った今も変わらない。
だから私が歳を重ねたことで、歳の離れた兄妹から、歳の近い兄妹のようになった。多分レニーは親代わりと思っているのだろうけど。
『どうした? まだ眠いか?』
レニーがマグカップを手に戻ってきた。そして気をつけるじゃぞ、っと私に差し出す。
私はそれを受け取り、一口飲んだ。ちょうど良い温かさの白湯に心が緩む。
「急に出て来るって言ってから、なかなか帰ってこないから」
『心配をかけたか、すまぬ』
「ううん。少し不安になっちゃっただけ。どこに行っていたの?」
『ああ……実はな、あの馬鹿に会って来た』
「!! あの人に…?」
私は思わず声が大きくなった。あの人…ロジャーさんは私がこの人生で一番好きになった人。この身体にも彼の子が宿っている。しかし彼は己の意思で海軍へ自首し、今や裁きの時を待つ身となっていた。
「元気、だった……?」
『ああ、いつものように馬鹿な事ばかり言うておった』
レニーは呆れたような声音でいう。しかしその口角は少し上がっており、それは本当に呆れているのではない、優しさを感じさせた。それはそうだ。レニーとロジャーさんは共に旅をしていた。ワンピースを見つけ、ロジャーさんが海賊王として名を馳せる事となったその旅に。
レニーがロジャー海賊団に入ったのを知ったのは、レニーの手配書が出た時だった。不敵に笑うその顔は楽しい時の彼の顔で、私は手配書を見て一目で楽しんでいるのだろうと感じた。その後海賊王と囃し立てる新聞などを目にしていたが、一番驚いたのはレニーがロジャーさんとレイリーさんをこの南の島バテリアへ連れて来た事だった。
彼ら2人がいた時はそれはそれは賑やかな毎日だった。4人で食事を取ったり、海辺でのんびりしたり…とても充実した日々だった。そしてその時、ロジャーさんと恋に落ちた。病気の事も聞いていたが、それでも彼を愛さずにはいられなかった。そんな私達をレニーもレイリーさんも穏やかに見守ってくれていた。幸せな日々だった。
けれどある時、彼は海軍への自首を選んだ。出発の準備を整え終えた後に、私にそれを告げ、抱きしめて「行ってくる」と言った。私は「いってらっしゃい」と彼の背に手を回した。
私は知っている、ロジャーさんが強いばかりの人ではないと言う事も。だから彼はこの道を選択したのだと。
「……そう、でも」
『言うてやるな、大方我が主に伝える事を考慮しておる。馬鹿騒ぎをしているなんてあやつらしいじゃろう』
そう言ってレニーは私の頭を撫でた。不思議だ。クッションを置いてくれたり、朝一に白湯を出してくれたり、不安にさせないようにしてくれたり…それはロジャーさんが私にしてくれたこと。でもロジャーさんは「レニーの前でやるとニヤニヤしやがるからな」っとレニーの前ではしていなかった。なのにレニーはまるで、私達を見てきたかのようにあの人がしてくれたことをしてくれるのだ。
「レニー」
『何じゃ?』
「何で彼と同じ事ができるの?」
『あやつと同じ?』
「うん…レニーの前ではしていなかった事ばかりなのに」
『……ほう、あやつは心得ておったのだな』
「?」
『心配せずとも主らを見守りはしても監視はしておらぬ。同じ事をしているのは、シャッキーがレイリーに教えた事を、ロジャーがレイリーから教わり実践しておっただけの事。我もシャッキーらがその話をしていた時に側におったからの、同じ事をするのはわけない』
「! そうだったんだ」
『クク…あやつも努力はしておったようだ』
レニーの口角が上がる。それはニヤニヤと彼を嘲るような、それでいて感心しているような笑み。
私はそれを見て自然に笑ってしまった。
『何じゃ?』
「じゃあ、レニーも努力してくれているの?」
『!……フン、我は努力せずともこれくらいはできる』
「ふふ。そうだね、レニーは何でもできるもんね」
『……』
レニーは黙り込んでしまった。私は首を傾げる。
「? どうしたの」
『…何でも…は出来ぬよ』
「?」
そう呟くように言うと、レニーはベットの脇に座り、私を抱きしめた。細く体温を感じない冷たい身体。人との違いが明確になるその瞬間。昔も今も彼はそれを気にして自分から私を抱きしめる事はほとんどなかった。
そんな彼が私を自分から抱きしめる時は、2つの理由がある。ひとつは私が悲しくて悲しくて誰かにすがりたい時、
「……レニー?」
でも今はそんな悲しい時ではない。
私は息を詰めたようグッと何かに耐えているレニーに小さく声をかけた。私の声に反応したのか、レニーは詰めていた息をふっと吐き出し、絞り出すように言葉を紡ぐ。
『ーーーすまぬ。我は主らに幸せとやらをあげてやれん』
「!」
『本来なら主ら3人をどこぞへ匿ってでも、生かすべきだと思っていた。だが、我には出来なかった』
「……それは、彼が自首を決めたから?」
『……主ら二人が決めたからじゃ』
「!」
『出立の時、我は主が望むならあやつを意地でも外には出さんつもりだった。しかし、あやつが決めた事を主が認めた。そしてルージュ、お主自身もあの時、己の決意を固めたであろう?』
「……」
『だから、我には出来なかった。愛する主らが決めた事を我は覆せんかった』
弱々しい声。こんなレニーは初めてだった。本当に悔やんで悲しんでいるのが声色から伝わる。あの人と私の決意が、一人の家族を苦しめていたことを初めて知った。
私は何も言えず、レニーの背に手を回す。彼は言葉を続けた。
『我からすれば主らの人生は、まるで焚き火のようじゃ。最初は小さな火であるのに、一瞬で大きな炎に変わり赤々とその存在を示す。そして己の全てを焼き尽くしてその一生を終える。あっという間じゃ』
「……」
『じゃから…いやならばこそ我は……その“種火”が望む事を叶えてやりたいと思うのじゃ』
「……レニーは優しいね」
『違う、ただの驕りじゃよ。主らを救えぬ理由をつけているだけじゃ』
彼はとてもとても長い時を生きて来た。きっと私達のような出会いも別れも何回も経験して来たはずだ。そして彼はいつの時もこんな風に苦しみ悲しんでいたに違いない。彼は本当に人が好きなのだ。私はこんな彼の優しさにずっと支えられて来た。
「私は救われたよ。レニーが一緒にいてくれた日々が私の救いだった。それにね、レニーが連れて来てくれたんだよ、私がこの世で最も愛せる人を」
『……ルージュ、主は幸せだったか?』
「“今も”ずっと幸せだよ」
『“今も”……。そうか、優しい子になったなルージュ』
「ふふ。レニーが居てくれたからだよ」
『主らの子もルージュに似ると良いな。父親はロクな奴ではないから』
「それでも、レニーは大好きなんだよね」
『あんな若僧を好きになるか。面倒ばかりかけられて……。だが、』
「?」
『なかなか楽しめた、あやつらとの旅は。まぁ、主との暮らしには負けるがな』
「ふふっ……」
徐々にいつものトーンに戻るレニーの声色を聞きながら、私は理解した。彼が私を抱きしめたのはもうひとつの理由、レニー自身が何かを決意した時だ。
それは、手放したかった己の命を幼い私と暮らすために手放さないと決めた時、そして私の中に彼の子がいると知って、この子の行く末を見守ると私に約束した時……。
彼の決意はいつも人と共にある。
『ルージュ』
「……なぁに?」
『我はまたしばし外に出る』
「何をしにいくの?」
『ほう、さすがに察しがいいな』
レニーは抱きしめていた手をゆるめ、私を見た。優しい笑み。これはきっと私にだけ向けてくれる顔。
『実はな、あやつが壮大な悪戯をやるらしい』
「え?」
『散るならば盛大に世界を驚かせて逝きたいようじゃ。それを我に手伝えと言うて来た。
「いたずら?」
『あゝ。馬鹿げておろう? だが、興が乗ったからのォ、手伝いに行ってやろうと思う。だから主は今しばらくここで静養するんじゃよ。皆には良くしてもらえるに言うておく故』
「もう行くの?」
『ああ』
「……ねぇ、レニー」
『どうした?』
「いたずらって、何をするの?」
『ん? そうじゃな…“世界を新しく塗り替えるくらいの事”じゃ。主にもすぐ届く、あやつらしいとわかる方法でな』
ニヤッと笑うレニー。その笑顔は楽しんでいる時の顔、手配書と同じその顔がきっとレニーの海賊としての顔なのだ。
「ふふふ。悪い顔ね」
『そうか。まぁ、致し方あるまい。なんせ、我は海賊王のクルーじゃからな』
そう言うとレニーはベッドから腰をあげる。その目は全てを決意している目。あの時のロジャーさんと同じ目。
『ルージュ。行ってくる』
「うん、行ってらっしゃい。気をつけて」
だから、私はあの時のロジャーさんを見送るのと同じ様に、彼を笑顔で見送る。
【悪い顔ね、っと笑って】
ーーーおれの財宝か? 欲しけりゃくれてやるぜ… 探してみろ、この世の全てをそこに置いてきたーーーー
そして数日後。レニーの言う通り、“