STRONG WORLD 渡り鳥×ゼロ
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相手がダイヤルを使えることにわずかながらも驚きつつ、島船を率いる海賊、
“金獅子のシキ”は手元に戻って来た“音貝”から再生された娘の声に、わずかに表情をかえた。
―――すぐサイクロンが来る! 進行方向より9時にそれて!
耳に当てた“音貝”を離すと、シキはブリッジではたらく部下たちに問いただした。
「航海士チーム、この言葉の真偽は……!?」
「いえ、わたしたちの予測では、そのような兆候はありません。水銀計の数値も正常値です」
航海士チームのひとりの男が答える。
「眼下の海賊、9時方向にそれました。すごい足です」
そう観測員の男が報告した。
島船下部に備えられた映像電伝虫からの映像には、転進したサニー号の姿が映っている。
――――そのときだった。ブリッジの前方で異変が生じた。
空に、黒い影が現れて、たちまちもくもくと広がっていた。その姿はまるで……
「え? パーマ……?」
「雨雲だろ、どー見ても!」
シキはたちまち副官のDr.インディゴのツッコミを受けた。
ともかくパンチパーマみたいな雨雲の出現に、島船のブリッジは騒然となった。
「シキ様! バカでかいサイクロンです!」
嵐の予兆はないと、たかをくくっていた航海士が悲鳴を上げた。GLのサイクロンは予測不能だ。
いかなる巨艦をも巻き込まれれば海の藻屑(モクズ)になってしまう。
もちろんそれは空飛ぶ船であっても例外ではない。
―――すぐに海域は大荒れとなった。
島船は暴風雨の洗礼を浴びた。オープンエアになっていたブリッジの、前部扉があわてて閉ざされる。
避難し損なった船員は木の葉のように船から投げ出されていった。
今やサイクロンは間近に迫っていた。
島船は嵐を避けるため、まさにナミが指示した通りの方向へ進路を変えた。
結果、島船はサイクロンを回避することに成功した。
――――バキュン!!
「「「!!!」」」
安堵の空気が流れたブリッジを一発の銃声が貫いた。
前のめりで倒れたのは、天候予測をしくじったさっきの航海士。
「まともに天候の影響を受ける、この空飛ぶ船にとって、天候の予報が、どれほど重要か……!?―――二度と外すな」
銃を片手に、シキは部下たちに警告した。ものいわぬ姿となった同僚を囲んで、ほかの航海士たちは声もない。
「まぁ、それも“あいつ”が我々に協力すれば片付く話ではあるんだが」
「強情な野郎ですからね~無理だと思いますけど」
シキの呟きにDr.インディゴが答えた。シキはフンッと鼻を鳴らすと、興味を変える。
「にしても……だ。GLじゅうをかけずりまわってあつめた、こいつらをしのぐ気象のセンスを持っている女とは……!」
“音貝”を手をしたまま、シキはモニタに映った眼下の海賊船を見た。そして船長席から立ち上がった。
まもなくして、サイクロンを逃れたサニー号の甲板に、頭上の島船からひとりの男が舞い降りた。
ワイヤーで吊っている訳ではない。葉巻をくわえたはかま姿の老人は、空を飛んでいるのだ。
「おれは“金獅子のシキ”……! 海賊だ!」
「「「……!?」」」
ルフィ達は突然の男の登場に、唖然とする。そんなルフィ達を尻目にシキは話をきり出した。
「先程の“音貝”の声の主は?」
「わたしだけど」
ナミがシキを見上げるように答えると、強面のシキは目を細めた。
「ほう、ベイビィ~ちゃんが? さっきはすまなかったな。礼をいう」
「なァ、おっさん! なんであれ浮いてるんだ?」
ルフィはあいさつもなしに、頭上の島船を指さす。
「んん……? あァ、あれか。“フワフワの実”の能力だ。おれは、ふれたものを重力関係なく自在にコントロールできる」
能力者だと名乗ったシキは、サニー号の甲板を見渡した。
そしてゾロがいつも鍛錬に使っているダンベルを目にとめると、そちらに歩いて行く。
その両脚は義足で、しかも先は刃渡り数十センチの刃になっていた。
身をかがめると、シキは指先で軽くダンベルにふれた。それから腰を伸ばすと右手を上げる。
すると……ダンベルがフワフワと飛び上がったではないか。
「おおっ!」
「すげェ!」
マストのてっぺんの高さまで昇ったダンベルは、シキが手を振り払う仕草をすると、支えをうしなって落ちた。
それをゾロが片手で受け止める。その光景にウソップとチョッパーは素直に歓声をあげた。
「おっさん! おれもフワフワしてくれ!」
「ジハハハハ! 残念……おれ以外の人間や、動物、生きているものは浮かせられねェ」
このシキの返答に、不思議能力を体験したいと目をキラキラと輝かせたルフィ達は、たちまちブーイングを浴びせた。
「なんだ、つまんねェ」
「だいたい、その頭の舵輪はなんなんだ……?」
ウソップがシキの頭にささる異物を指さした。
「これは、その昔……うっかり刺さったのだ」
「どんな、うっかり屋さんだ!」
『(ひとまずは安心してもいいのでしょうか……)』
シキとルフィ達の今までのやりとりを、ジンは気付かれないように観察していた。
他の船を渡り歩くジンにとって、初めて出会う人は気を抜けない相手だった。
特に海賊と聞けば、懸賞金がかかっているのかどうかを自分に“記録された”手配書で調べるくせがある。
過去の経験から、自分が感じる感覚と手配書から得る危険度はあながち間違ってはいないということを知っているジン。
そのため、いつも検索を欠かすことはない。
これは己の身を守るために、ジンが身につけた自己防衛のひとつだともいえる。
そして今も自身のもつ“手配書”に検索をかけ続けていた。
『(“金獅子のシキ”……どこかで聞いた名前なんですが…)』
確かに聞いたことがある名だとは感じていた。だが、出てこない。
すべての手配書を持たぬジンはひとつの考察を立てる。
『(あの人の年齢からすると、もっと昔の手配書に載っているのかもしれないですね……)』
ジンがそう頭をひねらしている間に、シキはルフィ達にサイクロンの情報を伝えてくれた礼に、
もてなしたいといって、“シキ”は“麦わらの一味”の面々を己の島船に招待した。
「――――ほんの礼だ。来てくれるな?」
「いや、いーよ。急ぎの用があるんだ」
おもてなしのごちそうにはいちばん目がないはずの、食いしん坊のルフィが断りを入れた。
「…………?」
「おれたち、これから“東の海(イーストブルー)”に行かなくちゃいけねェんだ」
この船長の言葉に、一同はどよめいた。
「おまっ、おまっ……冒険はどーすんだよ!? やっと、ここまで来たってのに……!」
「そんなもん、いくらでもやりなおせばいい。
それより故郷のやつらがピンチだってときに、おまえはじっとしてられんのか、ウソップ……?」
そのルフィの言葉に、ウソップはハッとした。
「……それは」
「決まりだな」
サンジが言った。
「そうか……そうだな」
ウソップだって、町が滅ぶような大事件が起きていると聞けば、“東の海(イーストブルー)”に帰りたい。
それが素直な気持ちだった。
「本気……?」
ナミはルフィの言葉を受け、他の仲間…チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック、そしてジンを見た。
彼らにとって“東の海(イーストブルー)”は縁のない地。しかし彼らもまた微笑をかえして同意した。
もちろん、たまたま乗り合わせているジンもいつも通りの笑顔で頷く。
「そういうわけだから礼はいいよ! 舵輪のおっさん!」
「ますます気に入った!」
天晴印をつけたシキは、おおよその事情を察したようで、新たに提案をしてきた。
「そうか……“東の海(イーストブルー)”はおまえたちの故郷か。たしかにあそこは、ここのところ様子がおかしいからな。
さぞかし心配だろう……よし、わかった! おれの能力で、船ごと飛ばして“東の海(イーストブルー)”まで連れて行ってやる」
「ほんとか!? ありがとう! おっさん、いいやつだな!」
GLは両側を“凪の帯(カームベルト)”とよばれる海域にはさまれている。
“東の海(イーストブルー)”へ行くにはそれを越えなければならず、帆船である“サニー号”ではいささか時間がかかる。
そのため、シキの提案は魅力的だった。
「船ごとって……そんなこと、できるのか」
サンジは信じがたいようにいったときには、もう、彼らの船は上昇しはじめていた。
喫水線の下、船底が姿を現し、水をしたたらせながら雲を目指して行く。
空中帆船となったサニー号は、颯爽と風をきって、高度数百メートルで島船と併走をはじめた。
「うぉー、高けェ!!」
「気持ちいいな!」
ルフィとウソップは、展望台ではしゃぐ子供みたいに船べりから身を乗り出して、はるか眼下をとなった青海を眺めた。
「なにか見えてきたぞ?」
チョッパーの蹄の手が前方を指した。
皆が前方へ目をやる。その水平線の上―――雲の向こうに現れたのは、たくさんの島々だった。
いずれも、おおむね逆さまの円錐形をした、ソフトクリームのコーンみたいな岩盤の上に、緑の森がかぶさっている。
「すげェな、こりゃ……! これもみんなおっさんの能力か?」
ルフィが声を上げた。
島のいくつかは、まわりに水をともなっていた。そこには魚などもいるようだ。
「ああ……もともとは海に浮かんでいた島を、おれが“フワフワの実”で宙に浮かべた。
いったん、こうして浮かべたものは、遠く離れていても、そのまま浮き続ける。
おれが意識を失うなりして能力が途切れるまでな」
空の海峡を進めば、巨大な島船さえ、ひとちぎりの岩礁にすぎない。そこは間違いないく、“金獅子のシキ”の領空だった。
「うぉ! あの島、でけェぞ!」
ウソップが声を上げた。
最も高い位置に、群島の中核をなす、一際大きな島があった。
聞けばシキは、その島を根城にしているらしい。
「着いたか……」
『?』
彼は己の王国を一望すると、ニタリとあやしく笑った。
その笑みにジンは敵意を感じた。
そしてその敵意をむき出しにしてシキは叫ぶ。
「ここはメルヴィユ! 冒険好きのおまえらには、うってつけの場所だろう。
“東の海(イーストブルー)”に行く前にちょっと遊んでくるがいい」
「ちょっ!?」
シキはいきなりナミを抱えると、ルフィ達を睨みつけた。
「おいっ!?」
人のいい爺さんだと思っていた相手の豹変に、ルフィ達が反応する。
ゾロが刀に手をかけ、レディに乱暴を働いたジジイにサンジが蹴りかかる。
ジンも身体から“栞(ブックマーク)”を精製し、放つ。
――――しかし、シキの能力は、はるかに速く、手の一振りで即発動した。
ズンッッッ……!!!
サニー号にかけられていた“フワフワの実”の能力がキャンセルされた。
「わっ!?」
途端に、海の底が抜けたように船体はルフィ達を引きずって自由落下をはじめる。
空中に留まったのはシキとシキに捕まったナミだけだった。
「航海士はもらった! ジハハハハ!」
「うわ~~~~~~~~~!」
「ナミ!!」
とっさに伸ばしたゴムゴムの腕も届かず、ジンの“栞(ブックマーク)”も上空の風の影響でほとんどがシキにあたることなく散って行く。
しかしその破片を、目に見えないくらいのとてもちいさな破片をシキとナミ両方につけることには成功した。
落ちていく身体。そして航海士の姿は、たちまち遠ざかった。
こうして船からも投げ出されたルフィ達は散り散りになり、空中の群島“メルヴィユ”のあちこちに墜落していたったのである。
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“金獅子のシキ”は手元に戻って来た“音貝”から再生された娘の声に、わずかに表情をかえた。
―――すぐサイクロンが来る! 進行方向より9時にそれて!
耳に当てた“音貝”を離すと、シキはブリッジではたらく部下たちに問いただした。
「航海士チーム、この言葉の真偽は……!?」
「いえ、わたしたちの予測では、そのような兆候はありません。水銀計の数値も正常値です」
航海士チームのひとりの男が答える。
「眼下の海賊、9時方向にそれました。すごい足です」
そう観測員の男が報告した。
島船下部に備えられた映像電伝虫からの映像には、転進したサニー号の姿が映っている。
――――そのときだった。ブリッジの前方で異変が生じた。
空に、黒い影が現れて、たちまちもくもくと広がっていた。その姿はまるで……
「え? パーマ……?」
「雨雲だろ、どー見ても!」
シキはたちまち副官のDr.インディゴのツッコミを受けた。
ともかくパンチパーマみたいな雨雲の出現に、島船のブリッジは騒然となった。
「シキ様! バカでかいサイクロンです!」
嵐の予兆はないと、たかをくくっていた航海士が悲鳴を上げた。GLのサイクロンは予測不能だ。
いかなる巨艦をも巻き込まれれば海の藻屑(モクズ)になってしまう。
もちろんそれは空飛ぶ船であっても例外ではない。
―――すぐに海域は大荒れとなった。
島船は暴風雨の洗礼を浴びた。オープンエアになっていたブリッジの、前部扉があわてて閉ざされる。
避難し損なった船員は木の葉のように船から投げ出されていった。
今やサイクロンは間近に迫っていた。
島船は嵐を避けるため、まさにナミが指示した通りの方向へ進路を変えた。
結果、島船はサイクロンを回避することに成功した。
――――バキュン!!
「「「!!!」」」
安堵の空気が流れたブリッジを一発の銃声が貫いた。
前のめりで倒れたのは、天候予測をしくじったさっきの航海士。
「まともに天候の影響を受ける、この空飛ぶ船にとって、天候の予報が、どれほど重要か……!?―――二度と外すな」
銃を片手に、シキは部下たちに警告した。ものいわぬ姿となった同僚を囲んで、ほかの航海士たちは声もない。
「まぁ、それも“あいつ”が我々に協力すれば片付く話ではあるんだが」
「強情な野郎ですからね~無理だと思いますけど」
シキの呟きにDr.インディゴが答えた。シキはフンッと鼻を鳴らすと、興味を変える。
「にしても……だ。GLじゅうをかけずりまわってあつめた、こいつらをしのぐ気象のセンスを持っている女とは……!」
“音貝”を手をしたまま、シキはモニタに映った眼下の海賊船を見た。そして船長席から立ち上がった。
まもなくして、サイクロンを逃れたサニー号の甲板に、頭上の島船からひとりの男が舞い降りた。
ワイヤーで吊っている訳ではない。葉巻をくわえたはかま姿の老人は、空を飛んでいるのだ。
「おれは“金獅子のシキ”……! 海賊だ!」
「「「……!?」」」
ルフィ達は突然の男の登場に、唖然とする。そんなルフィ達を尻目にシキは話をきり出した。
「先程の“音貝”の声の主は?」
「わたしだけど」
ナミがシキを見上げるように答えると、強面のシキは目を細めた。
「ほう、ベイビィ~ちゃんが? さっきはすまなかったな。礼をいう」
「なァ、おっさん! なんであれ浮いてるんだ?」
ルフィはあいさつもなしに、頭上の島船を指さす。
「んん……? あァ、あれか。“フワフワの実”の能力だ。おれは、ふれたものを重力関係なく自在にコントロールできる」
能力者だと名乗ったシキは、サニー号の甲板を見渡した。
そしてゾロがいつも鍛錬に使っているダンベルを目にとめると、そちらに歩いて行く。
その両脚は義足で、しかも先は刃渡り数十センチの刃になっていた。
身をかがめると、シキは指先で軽くダンベルにふれた。それから腰を伸ばすと右手を上げる。
すると……ダンベルがフワフワと飛び上がったではないか。
「おおっ!」
「すげェ!」
マストのてっぺんの高さまで昇ったダンベルは、シキが手を振り払う仕草をすると、支えをうしなって落ちた。
それをゾロが片手で受け止める。その光景にウソップとチョッパーは素直に歓声をあげた。
「おっさん! おれもフワフワしてくれ!」
「ジハハハハ! 残念……おれ以外の人間や、動物、生きているものは浮かせられねェ」
このシキの返答に、不思議能力を体験したいと目をキラキラと輝かせたルフィ達は、たちまちブーイングを浴びせた。
「なんだ、つまんねェ」
「だいたい、その頭の舵輪はなんなんだ……?」
ウソップがシキの頭にささる異物を指さした。
「これは、その昔……うっかり刺さったのだ」
「どんな、うっかり屋さんだ!」
『(ひとまずは安心してもいいのでしょうか……)』
シキとルフィ達の今までのやりとりを、ジンは気付かれないように観察していた。
他の船を渡り歩くジンにとって、初めて出会う人は気を抜けない相手だった。
特に海賊と聞けば、懸賞金がかかっているのかどうかを自分に“記録された”手配書で調べるくせがある。
過去の経験から、自分が感じる感覚と手配書から得る危険度はあながち間違ってはいないということを知っているジン。
そのため、いつも検索を欠かすことはない。
これは己の身を守るために、ジンが身につけた自己防衛のひとつだともいえる。
そして今も自身のもつ“手配書”に検索をかけ続けていた。
『(“金獅子のシキ”……どこかで聞いた名前なんですが…)』
確かに聞いたことがある名だとは感じていた。だが、出てこない。
すべての手配書を持たぬジンはひとつの考察を立てる。
『(あの人の年齢からすると、もっと昔の手配書に載っているのかもしれないですね……)』
ジンがそう頭をひねらしている間に、シキはルフィ達にサイクロンの情報を伝えてくれた礼に、
もてなしたいといって、“シキ”は“麦わらの一味”の面々を己の島船に招待した。
「――――ほんの礼だ。来てくれるな?」
「いや、いーよ。急ぎの用があるんだ」
おもてなしのごちそうにはいちばん目がないはずの、食いしん坊のルフィが断りを入れた。
「…………?」
「おれたち、これから“東の海(イーストブルー)”に行かなくちゃいけねェんだ」
この船長の言葉に、一同はどよめいた。
「おまっ、おまっ……冒険はどーすんだよ!? やっと、ここまで来たってのに……!」
「そんなもん、いくらでもやりなおせばいい。
それより故郷のやつらがピンチだってときに、おまえはじっとしてられんのか、ウソップ……?」
そのルフィの言葉に、ウソップはハッとした。
「……それは」
「決まりだな」
サンジが言った。
「そうか……そうだな」
ウソップだって、町が滅ぶような大事件が起きていると聞けば、“東の海(イーストブルー)”に帰りたい。
それが素直な気持ちだった。
「本気……?」
ナミはルフィの言葉を受け、他の仲間…チョッパー、ロビン、フランキー、ブルック、そしてジンを見た。
彼らにとって“東の海(イーストブルー)”は縁のない地。しかし彼らもまた微笑をかえして同意した。
もちろん、たまたま乗り合わせているジンもいつも通りの笑顔で頷く。
「そういうわけだから礼はいいよ! 舵輪のおっさん!」
「ますます気に入った!」
天晴印をつけたシキは、おおよその事情を察したようで、新たに提案をしてきた。
「そうか……“東の海(イーストブルー)”はおまえたちの故郷か。たしかにあそこは、ここのところ様子がおかしいからな。
さぞかし心配だろう……よし、わかった! おれの能力で、船ごと飛ばして“東の海(イーストブルー)”まで連れて行ってやる」
「ほんとか!? ありがとう! おっさん、いいやつだな!」
GLは両側を“凪の帯(カームベルト)”とよばれる海域にはさまれている。
“東の海(イーストブルー)”へ行くにはそれを越えなければならず、帆船である“サニー号”ではいささか時間がかかる。
そのため、シキの提案は魅力的だった。
「船ごとって……そんなこと、できるのか」
サンジは信じがたいようにいったときには、もう、彼らの船は上昇しはじめていた。
喫水線の下、船底が姿を現し、水をしたたらせながら雲を目指して行く。
空中帆船となったサニー号は、颯爽と風をきって、高度数百メートルで島船と併走をはじめた。
「うぉー、高けェ!!」
「気持ちいいな!」
ルフィとウソップは、展望台ではしゃぐ子供みたいに船べりから身を乗り出して、はるか眼下をとなった青海を眺めた。
「なにか見えてきたぞ?」
チョッパーの蹄の手が前方を指した。
皆が前方へ目をやる。その水平線の上―――雲の向こうに現れたのは、たくさんの島々だった。
いずれも、おおむね逆さまの円錐形をした、ソフトクリームのコーンみたいな岩盤の上に、緑の森がかぶさっている。
「すげェな、こりゃ……! これもみんなおっさんの能力か?」
ルフィが声を上げた。
島のいくつかは、まわりに水をともなっていた。そこには魚などもいるようだ。
「ああ……もともとは海に浮かんでいた島を、おれが“フワフワの実”で宙に浮かべた。
いったん、こうして浮かべたものは、遠く離れていても、そのまま浮き続ける。
おれが意識を失うなりして能力が途切れるまでな」
空の海峡を進めば、巨大な島船さえ、ひとちぎりの岩礁にすぎない。そこは間違いないく、“金獅子のシキ”の領空だった。
「うぉ! あの島、でけェぞ!」
ウソップが声を上げた。
最も高い位置に、群島の中核をなす、一際大きな島があった。
聞けばシキは、その島を根城にしているらしい。
「着いたか……」
『?』
彼は己の王国を一望すると、ニタリとあやしく笑った。
その笑みにジンは敵意を感じた。
そしてその敵意をむき出しにしてシキは叫ぶ。
「ここはメルヴィユ! 冒険好きのおまえらには、うってつけの場所だろう。
“東の海(イーストブルー)”に行く前にちょっと遊んでくるがいい」
「ちょっ!?」
シキはいきなりナミを抱えると、ルフィ達を睨みつけた。
「おいっ!?」
人のいい爺さんだと思っていた相手の豹変に、ルフィ達が反応する。
ゾロが刀に手をかけ、レディに乱暴を働いたジジイにサンジが蹴りかかる。
ジンも身体から“栞(ブックマーク)”を精製し、放つ。
――――しかし、シキの能力は、はるかに速く、手の一振りで即発動した。
ズンッッッ……!!!
サニー号にかけられていた“フワフワの実”の能力がキャンセルされた。
「わっ!?」
途端に、海の底が抜けたように船体はルフィ達を引きずって自由落下をはじめる。
空中に留まったのはシキとシキに捕まったナミだけだった。
「航海士はもらった! ジハハハハ!」
「うわ~~~~~~~~~!」
「ナミ!!」
とっさに伸ばしたゴムゴムの腕も届かず、ジンの“栞(ブックマーク)”も上空の風の影響でほとんどがシキにあたることなく散って行く。
しかしその破片を、目に見えないくらいのとてもちいさな破片をシキとナミ両方につけることには成功した。
落ちていく身体。そして航海士の姿は、たちまち遠ざかった。
こうして船からも投げ出されたルフィ達は散り散りになり、空中の群島“メルヴィユ”のあちこちに墜落していたったのである。
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