彼は迚も白い人だった

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その光景に敦は目を丸くし、太宰は手を叩いた。

「へっ……!!?」

「お見事!」

「お褒めにあずかり光栄です」

へへっと少年のように笑う。パンパンと足の塵を払う。

「えっえっ??」

一方敦は頭にたくさん疑問符を浮かべているような声を出した。

「どうしたんですか? 敦さん?」

さんって、国木田さんと同じ異能なんですか!!?」

「ん?」

「だって”独歩吟客”って…。それにいつの間に谷崎さんも合流して……」

「? おやおや?」

次に首を傾げたのはだった。そして視線を太宰に向ける。

「太宰さん。敦さんは僕の異能を知らないのですか?」

「ああ、百聞は一見にしかず、だからね。さて、あとは警察に任せて我々は帰るとしよう」







ーーーー探偵社
あれから程なくして、三人は帰路に着いた。事件に巻き込まれたことで敦はどっと疲れを感じつつ、ドアを開く。

「も、戻りました」

「連れて帰ってきたよ〜」

敦に続き太宰が探偵社の外扉から事務所に入ってくる。そして太宰の後ろから、がヘラヘラと手を振って現れた。

「皆さん只今〜」

を知る者達はあっと声を上げる。そして口々にお帰りなさいと声がかかる。

「お帰りなさい。お久しぶりですわー」

ナオミも立ち上がり、笑顔で出迎えた。は久しぶりです〜と笑顔を返す。他の事務員達も続き事務所は少しだけ賑やかになった。

、社長が呼んでるよ」

社長室から出てきた乱歩が、まだ外扉前で囲まれているに声を掛ける。は、乱歩さんただいま〜と手を振った。乱歩はその手を振り返す。

「あ、乱歩さん。これお土産です。チョコレート」

「善くやった! 早速もらうよ」

「皆さんの分もあるので、どうぞー」

どさっとカバンを開く。するとチョコレートの箱だらけだった。は一箱手に取る。

「じゃあ、ご自由に。僕は社長の処に行ってきますね」

みんなにそう声をかけ、は社長室に入って行った。皆はの言葉に応じ、チョコレートをとり席に戻り仕事を再開する。一連の歓迎ぶりを見ていた敦は、なんだか羨ましいと思えた。


「只今、帰りました」

「戻ったぞ」

数分後、外に出ていた賢治と国木田が戻ってきた。

「太宰、敦、戻っていたか。とは無事合流したのか?」

「ああ、もちろん。今社長のところだよ。しかも偶々起こった強盗事件も解決してきたし、働いたね。私達!」

「ほう、太宰にして珍しい」

「珍しいとは酷い!!」

「でも、さんがほとんど片付けちゃいましたけど…」

「む」

国木田は敦の言葉に眉をひそめた。

「おい、太宰。事件を解決したのはいいが、まさかあいつまた俺の異能を…!」

「ああ、使っていたよ。あと谷崎くんの”細雪”も」

「さすがさん。お兄様の異能のコピーも完璧ですわぁ」

ナオミが嬉しそうにいう。その言葉に敦は首を傾げた。

「コピー?」

「あ! 敦さんはまださんの異能をご存知ないのないのですね」

「一体どんな異能なんですか?」

国木田は自席の椅子を引いて、パソコンを起動しながら、敦に向けて説明する。

「彼奴の異能は……”二次創作”。端的に言うと”他人の異能を真似できる”異能だ」

「へ? 他人の異能を真似?」

「敦くんも見ただろう?」

「はい、本当に谷崎さんと国木田さんの異能そのものでした。あれが本当に真似だなんて…」

「もちろん、あれほどの完成度はひとえに君の努力による功績さ。君が真似をするためには、対象をつぶさに観察し、異能を分析する。そして想像するという過程が必要なのだよ」

「なんだか大変そうですね」

の異能に対しての観察・分析力は評価できるよ。まぁ、僕には遠く及ばないけどね」

チョコレートを食べながら、乱歩は言った。

「そしてここからが面白いのだけど、彼は自分のものにするまでの過程で”その人その物を真似る”のさ」

「どういうことですか?」

敦はうまく想像出来ないのか、首を傾げた。国木田はキーボードを叩きながら言葉を挟む。

「言葉のままだ。コピーするためにその対象の人間に成りきる」

「姿はなのに、本物みたいに見えるのが中々面白かったね」

「私はお兄様の真似をするさんを見て、お兄様の素敵さを再確認できましたわ」

チョコを食べながらケラケラ笑う乱歩と、うっとりするナオミ。一方国木田のタイピングが強くなる。

「俺は思い出したくもない。特に太宰の真似をしているときは酷かった。あの時は苦労が数倍に膨れ上がった」

「おやおや、私としては国木田くんの真似をしているときが苦行だったよ。国木田くんが二人いるかと本気で錯覚しそうになったくらいさ」

国木田、太宰が一様に疲れた顔をする。その時のことを思い出しているのだろうか。

「そんなに似てるんですか!!?」

「皆さん褒めすぎですよ〜」

敦が驚きの声をあげた処に、社長室からが出て来た。国木田は眼鏡をあげる。

、報告は終わったのか?」

「はい、今。 あっ。国木田さんお久しぶりです!」

「ああ、よく戻った。だが、お前また俺の異能を使ったらしいな」

は、あーと己の指で己の頬を軽く掻く。

「使いました! でも国木田さんの異能、とても重宝するんです。許してください」

「もう、国木田君より扱い上手いんじゃないのー?」

太宰が悪戯顔で、茶々を入れる。国木田は一瞬ムッとしたが、は首を振った。

「いやいやそれはないですよー、国木田さんだからこそ“独歩吟客”は美しいのです。また国木田さんが異能使うの見たいなぁ」

キラキラした笑顔で国木田の異能について語る。国木田はパソコンへ顔を反らす。敦からは少し耳が赤いように見えた。


さん、お帰りなさいです!」

「賢治さん! お久しぶりです。貴方の異能、今回の遠征で活用させていただきました!! とても素晴らしかったです」

「わー! よかったです」

賢治の手を握り、は大げさに握手する。二人ともいい笑顔だ。







「ふぁ〜。えらく賑やかだねぇ」

ガチャっと医務室の扉があく。その音に、はいち早く反応した。

「与謝野先生〜!!!」

は、伸びをしていた与謝野に飛びつく。与謝野は驚きの声をあげた。

「うわっ、って、かい?」

「そうだよ! 只今!」

「おかえり。今日、戻ったのかい?」

与謝野の腰に抱きつくの頭をポンポンと撫でた。その光景に敦はポカンとする。太宰はクスクスと笑う。

君は与謝野先生が大好きなのさ」

「おや、あんた怪我しているね」

与謝野はの頬に手を触れる。銀行での大立ち回りの後、彼は頬から血を流していた。拭いはしたが、救急車で手当をという救急隊員の言葉を断り戻ったきたため、血が頬で固まっている状態だった。

「そうなんだ〜。与謝野先生の異能で治して!」

ワクワクと擬音が聞こえてきそうに弾むの声。与謝野はそれにはぁっとため息をついた。

「全く…。またわざとしたんだろう。谷崎の治療中だから、普通に治療してやるよ」

「ええー…そんなぁ……」

は心底残念そうな声を上げ、床にへたりこむ。

「相変わらずですわ、さん」

「あの与謝野先生の治療を嬉々として受けるのは、世界でも彼奴だけだろうな」

そんなを見て苦笑するナオミとげんなりとした瞳でみる国木田。周りの仕方ないなぁという雰囲気に与謝野の治療方法を“具体的”に知らない敦は首を傾げつつ、の異能に対して感じたことを呟いた。


「でも、相手の異能をコピーできるなんて。無敵ですよね、そんな異能あるんだ…」

その言葉に地面にヘタリ込むの肩がピクッと揺れる。

?」

与謝野はその様子を見て声をかける。はふるふると首を横に振り、立ち上がった。少し困ったような顔をしている。

「無敵ではないですよ」

「え? どうしてですか?」

「んー……だっていうでしょ? “偽物は本物に勝てない”って」

「え!?」

「僕の異能はあくまでも物真似。“偽物”ですから」

は軽口でニコニコと笑みを浮かべるが、敦の目には少し辛そうにも見えた。

「お前達いつまで騒いでいる、いい加減に仕事に戻れ」

「……。、医務室行くよ」

「あ、はーい」

国木田は話を切った。同時に与謝野に呼ばれ、は慌てた様子で、与謝野へ着いて医務室へ入っていった。話はお開きと言わんばかりに、打ち切られてしまった。







「さて、今日は帰ろうかなー」

んーっと伸びをする。その声に太宰が反応する。

「あ、君出るのかい? じゃあ、私も帰ろっ」

「太宰! 貴様はまだ仕事があるだろう」

「いいじゃないか。久々に君が帰ってきたのに、夜誘わないのは可哀想だろう」

「! ごはんですか?」

「そう。結局、土産話を聞きそびれてしまったからね」

「わーい。行きます! 国木田さん、お願いしますー」

「……勝手にしろ」

「よーし、じゃあ行こうか」

「はーい。じゃあ、皆さんお疲れ様です」

元気よく手を振って扉を出て行ったと太宰。その様子を見ていた敦が驚いた顔をする。

「お二人とも仲がいいんですね」

「お前も近いうちに誘われるだろう」

「? 僕もですか?」

「今回は太宰が誘っていたが、いつもはが誘う。そういう時は其奴を研究したい時だ。まぁ、質問責めにされるとかじゃなく、本当に普通に食べて飲むだけだが」

「異能のため……ってことですか?」

「嫌か? だがそんな心持ちだと彼奴と付き合うのは辛いぞ」

「?」

「彼奴は徹底的に“異能が中心”の生活をしている。彼奴の側にいればそれに付き合うことになる」

「…さんはなんでそんなに異能が好きなんですか?」

「そんなこと知らん。本人に聞いてみろ」
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