彼は迚も白い人だった
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「わぁ、なんてベタな展開」
銀行内にいる人間達は皆手を上に掲げさせられ、人質となった。五人組の男の内三人は銀行内の人間に目を光らせ、残り二人で銀行員に金を要求しているそんな図式だ。そんな展開を見て呟いたのが、他の客と同様に両手を頭の後ろに置いている太宰だった。
「何を呑気に……。どうするんですか?」
「どうするも何もねぇ」
「でも僕らは…」
「おい、お前ら喋るんじゃねぇ!!!」
ビクッと肩を揺らす敦。一人の男が太宰と敦に銃を向ける。
「下手なことしたら殺すぞ」
太宰はすみませぇん…と頼りなさそうに言葉を返す。男はフンッと鼻を鳴らし、他の客に目を向けた。敦はより一層声を小さく、囁くように太宰を呼んだ。
「太宰さん…!!」
「しっ…気づかれるよ」
「! 何か打開策があるんですか」
「いや、我々にはないね」
「えっ!」
「でも、今回はラッキーさ。彼がいるから」
「心さん…ですか?」
「うん。そろそろだよ、敦君。真ん中の犯人の姿が“視界から消えたら”お客さんを外に逃がすよ」
「え?」
「入口にいる一人は隙に乗じて敦君、君がおさえるんだ。中の四人くらいなら、心君がなんとかできる。入口を開けたら我々は彼が暴れられるように、お客さんを外に出すんだ」
「銀行員の人は?」
「大丈夫。もう心君が逃がしてるさ」
「え、一体どういう?」
「! 来た」
太宰は視線だけを上に向ける。その視線につられた敦も目だけを上に向ける。天井からは、はらはらと雪が舞い降りていた。
「これは……細雪!?」
敦が目を見張る。突然室内に降る雪に銀行内の強盗犯、客達はさらに呆気に取られているようだ。そして部屋の中央から、四人の強盗犯の姿が視界から消えた。
「敦君、今だ!!」
敦は太宰の声に、先程の指示を咄嗟に思い出すと同時に入り口にいる男に飛び掛かった。
「たぁ!!」
「ぐはぁ!!」
つい昨日乱歩が推理した犯人に対して行ったように、入口の強盗犯を伸した。太宰は立ち上げり客に声をかける。
「皆さん、落ち着いて。今から避難をはじめます。入口に近い方から外へ!!」
太宰の落ち着いた声に、放心していた客達が各々に立ち上がり外に出ていく。最後の一人が出たのを見届けると太宰は銀行のドアを閉める。
「心君! もう大丈夫だよ!」
*
同時刻。突然の銃声に、一番奥の貸金庫用の受付にいた心はため息をついた。
「帰国してすぐトラブルに巻き込まれるとは…」
「お客様、危険ですのでこちらへ」
機転を利かせた行員が銀行の裏側に招いてくれる。心はそれに従い、行員達がいる部屋に入ると胸元から手帳とペンを取り出した。
「ありがとうございます。災難ですね」
「裏口がございます。お客様はそちらからお逃げください」
行員の心配の声を耳の端に聞きつつ、心は“理想”と書かれた手帳をパラパラとめくり、何か書き付け始める。その行動に行員は戸惑った表情を浮かべる。
「お客様…?」
「大丈夫です。皆さんの安心のためにも彼等を捕まえます」
「え! そんな危ないことは……」
心は先程何かを書き付けた手帳のページを破ると行員に渡した。行員はその紙に視線を落とす。そこにはこう書かれていた。
【僕は武装探偵社の者です。他にも2名銀行内にいます
状況を打開のため、今しばらくは彼等の指示にしたがってください】
「!」
内容を読んだ行員が顔を上げると心はニコッとはにかむ。そしてまた別の紙を差し出した。行員は2枚目のメモを受け取り内容を読んだ。
【いま、犯人の要求を聞いている女性と入れ替わる形で、僕が犯人の前にタイミングを見て立ちます
それが特に不自然なくできたら、女性や他の行員を連れて裏口から出て、警察を呼んでください
それまでは机から顔を出さないで】
銀行員はそのメモの内容にさらに目を見張る。一方の心はさらさらとまた手帳に文字を書き込むとそれを破り、次はポケットに入れた。そして要求を受けている女性に目をやる。
怒鳴られ慌てふためく女性が、一瞬カウンターから手を離した瞬間に心は呟いた。
「"細雪"」
うっすらと行員達がいるところに雪が降った。心はそれを確認すると立ち上がる。
心の側にいた銀行員はビクッとしたが、メモをぎっと握った。それを目の端で見届けてから、心はカウンターに足音を立てずに歩き、そして強盗団の男の目の前に立った。
真っ白で異様な人物が目の前に立ったはずなのに、強盗犯は気づかない。その光景に銀行員達は、驚きの表情を浮かべる。
「女早くしろ」
「はっ、はい」
心は、慌てた女性を装った声を上げつつ、先ほどの銀行員に目配せをする。すると行員が立ち上がり、女性の手を引くと、他の行員にも指で合図を出し裏口からどんどん脱出していく。
その状況を背で感じながら、心は銀行内を見る。皆壁側に座らされているようだ。入口の側には敦と太宰が手を後頭部に添えるように座っているのを確認した。そして太宰の視線がこちらを伺っているのも見える。
「(太宰さんは意図に気づいてくれてそうだな)」
自分の思惑通りであれば、というか太宰であれば、自分のやることなど見抜くであろうという考えの方が大きかった。
「細雪…」
心は目を瞑り、細雪の範囲拡大をイメージする。銀行全体に雪が降った。
「なんだ?」
「雪?」
強盗犯の声が聞こえる。成功。と心の中で頷いた。そして、カウンターから銀行内の真ん中にいる強盗犯の四人の視界から全ての人を消す。“細雪”の外側にから見れば、四人が消える形に見えるはずだ。
「敦君、今だ!!」
「たぁ!」
「ぐはぁ!!」
敦と男の声が聞こえた。どうやら意図通り、入口の男はのしてくれたようだ。さらに客を外に出るように促す太宰の声が聞こえる。流石だと心は笑みを浮かべる。
その後、さらに太宰は最後の一人を見送り扉を閉めた。そして、見えていないはずなのに、太宰は心に目を向けて笑顔を見せた。
「心君、もう大丈夫だよ」
その言葉が聞こえた瞬間、心は胸が踊った。その感情のままカウンターに飛び乗ると立つと指を鳴らす。
瞬間、雪がキレイに晴れた。
「なっ、」
「よいしょっと」
カウンターの上に突然現れた心に驚く強盗犯。そんな彼等を他所に心はカウンター前にいる一人の顔面を思いっきり踏むと、その反動を使い、背を向けていたもう一人の男を蹴り倒す。そして着地すると、ポケットに手をいれた。
「なんだ!! あいつは!」
「くそ!」
真ん中の二人が心に銃を向ける。心は叫んだ。
「"独歩吟客"、"投げナイフ"…!!」
「!」
心がそういいながら紙を取り出すと、紙がナイフに変化した。驚いた男の一人が銃を放つが、心の頬を掠めただけ。すかさず心は銃を放った男の銃にナイフを投げる。ナイフは銃身に刺さり、それに男が慄いた瞬間に当身を入れた。
「そぃ」
そしてもはや敗戦必須となった最後の強盗犯はがむしゃらに心に襲いかかる。心はそんな男の腕を取ると男の身体が宙を舞う。その体術はまるで“国木田の体術”のようだ。その男が地面に身体を打ち付けた音を最後に銀行内は静かになる。
心がカウンターを飛び出してからおよそ約一分、制圧は完了した。
銀行内にいる人間達は皆手を上に掲げさせられ、人質となった。五人組の男の内三人は銀行内の人間に目を光らせ、残り二人で銀行員に金を要求しているそんな図式だ。そんな展開を見て呟いたのが、他の客と同様に両手を頭の後ろに置いている太宰だった。
「何を呑気に……。どうするんですか?」
「どうするも何もねぇ」
「でも僕らは…」
「おい、お前ら喋るんじゃねぇ!!!」
ビクッと肩を揺らす敦。一人の男が太宰と敦に銃を向ける。
「下手なことしたら殺すぞ」
太宰はすみませぇん…と頼りなさそうに言葉を返す。男はフンッと鼻を鳴らし、他の客に目を向けた。敦はより一層声を小さく、囁くように太宰を呼んだ。
「太宰さん…!!」
「しっ…気づかれるよ」
「! 何か打開策があるんですか」
「いや、我々にはないね」
「えっ!」
「でも、今回はラッキーさ。彼がいるから」
「心さん…ですか?」
「うん。そろそろだよ、敦君。真ん中の犯人の姿が“視界から消えたら”お客さんを外に逃がすよ」
「え?」
「入口にいる一人は隙に乗じて敦君、君がおさえるんだ。中の四人くらいなら、心君がなんとかできる。入口を開けたら我々は彼が暴れられるように、お客さんを外に出すんだ」
「銀行員の人は?」
「大丈夫。もう心君が逃がしてるさ」
「え、一体どういう?」
「! 来た」
太宰は視線だけを上に向ける。その視線につられた敦も目だけを上に向ける。天井からは、はらはらと雪が舞い降りていた。
「これは……細雪!?」
敦が目を見張る。突然室内に降る雪に銀行内の強盗犯、客達はさらに呆気に取られているようだ。そして部屋の中央から、四人の強盗犯の姿が視界から消えた。
「敦君、今だ!!」
敦は太宰の声に、先程の指示を咄嗟に思い出すと同時に入り口にいる男に飛び掛かった。
「たぁ!!」
「ぐはぁ!!」
つい昨日乱歩が推理した犯人に対して行ったように、入口の強盗犯を伸した。太宰は立ち上げり客に声をかける。
「皆さん、落ち着いて。今から避難をはじめます。入口に近い方から外へ!!」
太宰の落ち着いた声に、放心していた客達が各々に立ち上がり外に出ていく。最後の一人が出たのを見届けると太宰は銀行のドアを閉める。
「心君! もう大丈夫だよ!」
*
同時刻。突然の銃声に、一番奥の貸金庫用の受付にいた心はため息をついた。
「帰国してすぐトラブルに巻き込まれるとは…」
「お客様、危険ですのでこちらへ」
機転を利かせた行員が銀行の裏側に招いてくれる。心はそれに従い、行員達がいる部屋に入ると胸元から手帳とペンを取り出した。
「ありがとうございます。災難ですね」
「裏口がございます。お客様はそちらからお逃げください」
行員の心配の声を耳の端に聞きつつ、心は“理想”と書かれた手帳をパラパラとめくり、何か書き付け始める。その行動に行員は戸惑った表情を浮かべる。
「お客様…?」
「大丈夫です。皆さんの安心のためにも彼等を捕まえます」
「え! そんな危ないことは……」
心は先程何かを書き付けた手帳のページを破ると行員に渡した。行員はその紙に視線を落とす。そこにはこう書かれていた。
【僕は武装探偵社の者です。他にも2名銀行内にいます
状況を打開のため、今しばらくは彼等の指示にしたがってください】
「!」
内容を読んだ行員が顔を上げると心はニコッとはにかむ。そしてまた別の紙を差し出した。行員は2枚目のメモを受け取り内容を読んだ。
【いま、犯人の要求を聞いている女性と入れ替わる形で、僕が犯人の前にタイミングを見て立ちます
それが特に不自然なくできたら、女性や他の行員を連れて裏口から出て、警察を呼んでください
それまでは机から顔を出さないで】
銀行員はそのメモの内容にさらに目を見張る。一方の心はさらさらとまた手帳に文字を書き込むとそれを破り、次はポケットに入れた。そして要求を受けている女性に目をやる。
怒鳴られ慌てふためく女性が、一瞬カウンターから手を離した瞬間に心は呟いた。
「"細雪"」
うっすらと行員達がいるところに雪が降った。心はそれを確認すると立ち上がる。
心の側にいた銀行員はビクッとしたが、メモをぎっと握った。それを目の端で見届けてから、心はカウンターに足音を立てずに歩き、そして強盗団の男の目の前に立った。
真っ白で異様な人物が目の前に立ったはずなのに、強盗犯は気づかない。その光景に銀行員達は、驚きの表情を浮かべる。
「女早くしろ」
「はっ、はい」
心は、慌てた女性を装った声を上げつつ、先ほどの銀行員に目配せをする。すると行員が立ち上がり、女性の手を引くと、他の行員にも指で合図を出し裏口からどんどん脱出していく。
その状況を背で感じながら、心は銀行内を見る。皆壁側に座らされているようだ。入口の側には敦と太宰が手を後頭部に添えるように座っているのを確認した。そして太宰の視線がこちらを伺っているのも見える。
「(太宰さんは意図に気づいてくれてそうだな)」
自分の思惑通りであれば、というか太宰であれば、自分のやることなど見抜くであろうという考えの方が大きかった。
「細雪…」
心は目を瞑り、細雪の範囲拡大をイメージする。銀行全体に雪が降った。
「なんだ?」
「雪?」
強盗犯の声が聞こえる。成功。と心の中で頷いた。そして、カウンターから銀行内の真ん中にいる強盗犯の四人の視界から全ての人を消す。“細雪”の外側にから見れば、四人が消える形に見えるはずだ。
「敦君、今だ!!」
「たぁ!」
「ぐはぁ!!」
敦と男の声が聞こえた。どうやら意図通り、入口の男はのしてくれたようだ。さらに客を外に出るように促す太宰の声が聞こえる。流石だと心は笑みを浮かべる。
その後、さらに太宰は最後の一人を見送り扉を閉めた。そして、見えていないはずなのに、太宰は心に目を向けて笑顔を見せた。
「心君、もう大丈夫だよ」
その言葉が聞こえた瞬間、心は胸が踊った。その感情のままカウンターに飛び乗ると立つと指を鳴らす。
瞬間、雪がキレイに晴れた。
「なっ、」
「よいしょっと」
カウンターの上に突然現れた心に驚く強盗犯。そんな彼等を他所に心はカウンター前にいる一人の顔面を思いっきり踏むと、その反動を使い、背を向けていたもう一人の男を蹴り倒す。そして着地すると、ポケットに手をいれた。
「なんだ!! あいつは!」
「くそ!」
真ん中の二人が心に銃を向ける。心は叫んだ。
「"独歩吟客"、"投げナイフ"…!!」
「!」
心がそういいながら紙を取り出すと、紙がナイフに変化した。驚いた男の一人が銃を放つが、心の頬を掠めただけ。すかさず心は銃を放った男の銃にナイフを投げる。ナイフは銃身に刺さり、それに男が慄いた瞬間に当身を入れた。
「そぃ」
そしてもはや敗戦必須となった最後の強盗犯はがむしゃらに心に襲いかかる。心はそんな男の腕を取ると男の身体が宙を舞う。その体術はまるで“国木田の体術”のようだ。その男が地面に身体を打ち付けた音を最後に銀行内は静かになる。
心がカウンターを飛び出してからおよそ約一分、制圧は完了した。