彼は迚も白い人だった
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これは敦が乱歩の“能力”を知った事件の翌日のことである。
「はぁ?」
国木田は己の携帯の着信を目にし、声を上げた。その声は呆れでいっぱいである。太宰がまだ出社していないことから、またその事かな、と敦は漠然と思っていた。
「おはよーございます」
ガチャっと開いたドアから太宰があくびをしながら、出社してくる。遅刻な上、あくびをする太宰に普段なら怒鳴り散らす国木田が珍しく怒号もなく、太宰の下へ歩み寄った。
「おい、太宰」
「うわぁ、何だい国木田君。怒らない君も気持ち悪いなぁ」
「黙れ、馬鹿者。今来たメールで怒る気が失せているだけだ」
国木田はそういうと、太宰にメールを見せた。太宰はその内容に目を通すと両の手のひらを顔の横に広げ、驚きを表現する。
「わぁ……あれ、今日の予定だったけ…?」
「社長からは近日と聞いていた。まさか今日とはな。俺は忙しいからお前が迎えに行ってこい」
「ええー私出社して来たばかりなのだけど。お金もないし」
「金は敦に預けるから二人で行ってこい」
「え、僕もですか!?」
「この馬鹿者が行く途中に入水でもしたら敵わん。見張りだ」
「ええー今日いい日和なのになぁ。なおさら国木田君が行った方が…」
「俺はこれから賢治と仕事だ。与謝野先生は谷崎の治療中。つまりお前しかいない」
ピシャリと太宰の言葉を切って、他のメンバーの予定をつらつらと述べる国木田。太宰は顎に手を添える。
「ふーむ。仕方ないなぁ。まぁ土産話も聞きたいし。じゃあ敦君行こうか」
「え、あ…はい」
「頼んだぞ」
国木田が敦にお金を渡すと、またPCに向き直った。
*
「太宰さん、誰を迎えに行くんですか?」
「ん? ああ、そうか。敦君はまだ会ってなかったね」
「?」
「迎えに行くのは、夢見 心。我ら探偵社のメンバーさ」
「え! 社員さん、まだいたんですか?」
「ふっふっふ。そうなのさ。実はまだいるのだよ」
「どんな人なんですか?」
興味津々に敦は尋ねる。太宰は軽快に話を進める。
「どんな人か、ねぇ。そうだなー。一言で言うと“白”だ」
「“白”?」
「そう! 誰もが一度見たら二度振り返るほど、上から下まで“真っ白”なのだよ」
「…なんだか想像がつきませんね」
「ふふ。まぁ、本人を見たら一目瞭然だから。ちなみに彼は諜報を主としていて、それで最近は海外にも遠征に行くようになったんだ」
「諜報…? その人も異能力者なんですか?」
「ああ。もちろんそうだとも。中々面白い異能だよ」
「ところで、何で迎えに行くんですか? 荷物がいっぱいとかですか?」
「いいや。何でも路銀がなくなったそうだ」
「ええ!!?」
「国木田君に来たメールによると、”お土産買いすぎて、帰りの路銀が足りなくなったー”ということらしい。一応、駅員に頼んで最寄りの駅までは来たけど、改札から出れないそうなんだ」
「大丈夫なんですか、その人……」
「はは。たまにやらかすんだよね。たぶん乱歩さんに言われてお菓子でも買い漁ったんだろうけど、ここまで帰ってこれてよかったくらいだ」
「本当ですね」
「まぁ、もしかしたらいい異能を見つけてそちらの調査で思ったよりも路銀を使っていたのかもしれないけど」
太宰は顎を人差し指と親指で軽く触る様に考える姿勢でふとそう呟いた。
「いい異能…?」
「ああ。彼の今回の遠征はね、世界にいる異能力者を調べることだったのだよ」
「世界の!!? 何だかすごいことをされているんですね」
「まぁ、本人にとっては半分趣味みたいなものだから、楽しくやっているけどね」
「趣味…?」
「そう。たぶん敦君もいろいろ聞かれると思うけど、その時は教えてやってくれたまえ」
「はぁ……」
「ふふふ、まぁ、とりあえず会って見たらいいさ。百聞は一見にしかずだ」
そんな話をしていると駅に着いた。太宰が改札の方へ歩いて行く。敦はその背を追った。
*
「すみません、武装探偵社です。こちらにうちの社員がいると聞いて来たのですが」
「ああ、武装探偵社ね。話は聞いているよ。ちょっと待ってて」
改札にいた駅員は、改札から外に出て二人を駅長室と札が掲げられる部屋に案内する。
「駅長、武装探偵社の方がいらっしゃいました」
「通してくれ」
「どうぞ」
駅員はドアを開けると、二人を中へ入るよう促され、敦は太宰の後について駅長室に入った。
「あ、太宰さん!」
「ええっ!!」
「?」
つい敦は驚きの声を上げてしまった。目の前で太宰を呼ぶ青年の姿は太宰の言った通り、頭の上から靴のつま先まで白一色な人だった。瞳も灰色でどこをみても有彩色がない。本当に迚も白い人だ。まさかと思い、二度見する。
青年は不思議そうな顔をしたが、太宰の声でその思考は遮られた。
「やぁ、心君。久しぶりだね」
「ええ、お久しぶりです。こんなことでお呼び立てしてしまい申し訳ないです」
「いやいや、構わないよ。さて敦君。お金渡してもらえるかい?」
「……」
「敦君?」
「あ、はい!! えっとおいくらでしょうか?」
駅長は金額を告げる、国木田に多めに持たされたお金で無事支払いを終えることができた。
「駅長さん、ありがとうございました。もし武装探偵社に用があれば“夢見”をご指名ください」
「次からはこういうことがないようにしてくれたら考えるよ」
「あははは。そうですね」
渋い顔をされた駅長に頭を下げ、駅を後にする三人。駅を出ると、心は足を止めた。
「いやぁ、お手間をおかけしました」
「君がこういう失敗をするのは久しぶりだね」
「はは。実は調査の時に思ったよりお金を使っていたようで、お土産を買っていたら足りなくなってしまいました」
太宰の言った通りの状況だったのか、敦は改めて太宰のすごさを感じる。そしてその視線は青年へと移り、本当に白いなと敦は思った。己も白いと言われるが、それ以上に白く、何より目立つ。
さっきから行き交う人の視線(もちろんみんな二度見している)を感じるのは気のせいではないだろう。諜報員なのにこんなに目立っていいのか?と当たり前の疑問に行き着く。
「ところで太宰さん、彼は?」
「ああ、彼は中島 敦君だよ。敦君、あいさ…」
「貴方が中島敦さんですか!!!」
「「!」」
心は嬉々とした声を上げた。無彩色のグレーの瞳が目がキラキラ輝きを持つ。初めて色がついたような印象を持たせた。
「え! あ…はいぃぃ。中島 敦です」
心は敦の右手を両手に包み、握手をする。太宰ほどに背丈のある彼にブンブンと手が振られ、体格差で負けている敦は揺さぶられた。
「うわわわわっ」
「僕、夢見 心と申します! 貴方のことは国木田さんから伺っています!! 素敵な異能をお持ちだとか…!!!」
途端に大きく振られていた腕が動きを止める。揺れが収まった敦はフラフラしながら彼を見ると、真剣な表情で敦を見ていた。
「ぜひ!」
「へ?」
「ぜひ、見せていただけませんか!!」
「は……???」
「ふふふ」
太宰は目を輝かせる心と、意味がわからず戸惑う敦を見て笑みをこぼす。戸惑う敦は笑う太宰を見た。
「だ、太宰さん?」
「いやいや。心君のそれ久々に見たものだから」
「んっ! ああ、すみません!! つい…」
心は太宰の言葉にパッと敦の手を離し、頭を下げる。
「え、いえ。頭上げてください!」
「いや、僕の悪い癖なんです。自分の知らない異能を持つ方に出会うとつい気分が上がってしまって」
「へ?」
敦は本日何度目かの呆気顔を晒す。太宰はニヤニヤと笑った。
*
「彼はね、ものすごい異能オタクなのだよ。異常とも言えるほど異能が大好きなのさ」
「異能が大好き…?」
「ええ。皆さんの異能は美しいじゃないですか。僕はそれを見るのが大好きなんです」
「……」
心は笑顔を見ながら、敦の瞳に陰りが映る。異能が好きだなんて、敦には口が裂けても言えなかった。そんな敦の心境を察したのか、心は敦の手を両手で優しく包んだ。
「敦さんは自分の異能がお嫌いですか?」
「!……」
「少し残念です。でも貴方ならきっと大丈夫ですよ」
「えっ…!」
驚くほど優しい声色で心は敦にニコッと笑いかける。そしてゆっくり手を離すと、あっと声を出した。
「どうかしたのかい?」
「はい。社に戻る前に銀行に立ち寄りたいのですが、お時間はありますか?」
「? 大丈夫だよ。何か預けているのかい?」
「はい。少しのお金と物を。お金、敦さんに返さないと行けないですし」
「あ、さっきのお金は国木田さんの物です!」
「! そうなんですか。じゃあ、国木田さんに返せば良いですね」
「別にいいんじゃないの、彼なら」
「あはは。太宰さんと国木田さんの仲ならつゆ知らず。僕にはそんな大層なことはできませんよ」
「じゃあ、行きましょうか」
*
それから少し歩き、三人は銀行に入った。昼間だからだろうか人は多く、賑わっている。
「じゃあ、ちょっと行ってきます。座って待っててください」
心は二人に入り口すぐの空いてる席を指し示すと、手を振って向かって行った。
「いや〜彼は目立つよね」
「本当ですね…。あんなに目立つのに諜報員ってできるんですか?」
「あゝ勿論。何より目立つこと、それが彼が諜報員をやれる所以ともいえる」
「目立つことが? それってどういう……って太宰さん?」
「……」
太宰は敦から視線を外し、敦の後ろに目を向ける。その視線は誰かを追うように動いていた。そしてぼそっと呟く。
「不味いな」
「何が……」
敦は後ろの気配に首だけ動かして目を向けた。通り過ぎたのは五人組の黒服の男達。急いでいるのか早い足取りで銀行の窓口に歩を進めるのを目の端に掠める。えらく急いでいるなと、そんな印象を持っていると手に銃が握られているのが見えた。
「え!?」
敦は声を上げると同時に、一人の男が銀行の中央で天井に向けて一発の銃声を放つ。パァンと破裂がなると、照明に当たったのかパリンとガラス片が床に落ちた。
「全員動くんじゃねぇ!!」
男が叫んだ。その声と銃声に銀行にいる人間達は動きを止めた。
「はぁ?」
国木田は己の携帯の着信を目にし、声を上げた。その声は呆れでいっぱいである。太宰がまだ出社していないことから、またその事かな、と敦は漠然と思っていた。
「おはよーございます」
ガチャっと開いたドアから太宰があくびをしながら、出社してくる。遅刻な上、あくびをする太宰に普段なら怒鳴り散らす国木田が珍しく怒号もなく、太宰の下へ歩み寄った。
「おい、太宰」
「うわぁ、何だい国木田君。怒らない君も気持ち悪いなぁ」
「黙れ、馬鹿者。今来たメールで怒る気が失せているだけだ」
国木田はそういうと、太宰にメールを見せた。太宰はその内容に目を通すと両の手のひらを顔の横に広げ、驚きを表現する。
「わぁ……あれ、今日の予定だったけ…?」
「社長からは近日と聞いていた。まさか今日とはな。俺は忙しいからお前が迎えに行ってこい」
「ええー私出社して来たばかりなのだけど。お金もないし」
「金は敦に預けるから二人で行ってこい」
「え、僕もですか!?」
「この馬鹿者が行く途中に入水でもしたら敵わん。見張りだ」
「ええー今日いい日和なのになぁ。なおさら国木田君が行った方が…」
「俺はこれから賢治と仕事だ。与謝野先生は谷崎の治療中。つまりお前しかいない」
ピシャリと太宰の言葉を切って、他のメンバーの予定をつらつらと述べる国木田。太宰は顎に手を添える。
「ふーむ。仕方ないなぁ。まぁ土産話も聞きたいし。じゃあ敦君行こうか」
「え、あ…はい」
「頼んだぞ」
国木田が敦にお金を渡すと、またPCに向き直った。
*
「太宰さん、誰を迎えに行くんですか?」
「ん? ああ、そうか。敦君はまだ会ってなかったね」
「?」
「迎えに行くのは、夢見 心。我ら探偵社のメンバーさ」
「え! 社員さん、まだいたんですか?」
「ふっふっふ。そうなのさ。実はまだいるのだよ」
「どんな人なんですか?」
興味津々に敦は尋ねる。太宰は軽快に話を進める。
「どんな人か、ねぇ。そうだなー。一言で言うと“白”だ」
「“白”?」
「そう! 誰もが一度見たら二度振り返るほど、上から下まで“真っ白”なのだよ」
「…なんだか想像がつきませんね」
「ふふ。まぁ、本人を見たら一目瞭然だから。ちなみに彼は諜報を主としていて、それで最近は海外にも遠征に行くようになったんだ」
「諜報…? その人も異能力者なんですか?」
「ああ。もちろんそうだとも。中々面白い異能だよ」
「ところで、何で迎えに行くんですか? 荷物がいっぱいとかですか?」
「いいや。何でも路銀がなくなったそうだ」
「ええ!!?」
「国木田君に来たメールによると、”お土産買いすぎて、帰りの路銀が足りなくなったー”ということらしい。一応、駅員に頼んで最寄りの駅までは来たけど、改札から出れないそうなんだ」
「大丈夫なんですか、その人……」
「はは。たまにやらかすんだよね。たぶん乱歩さんに言われてお菓子でも買い漁ったんだろうけど、ここまで帰ってこれてよかったくらいだ」
「本当ですね」
「まぁ、もしかしたらいい異能を見つけてそちらの調査で思ったよりも路銀を使っていたのかもしれないけど」
太宰は顎を人差し指と親指で軽く触る様に考える姿勢でふとそう呟いた。
「いい異能…?」
「ああ。彼の今回の遠征はね、世界にいる異能力者を調べることだったのだよ」
「世界の!!? 何だかすごいことをされているんですね」
「まぁ、本人にとっては半分趣味みたいなものだから、楽しくやっているけどね」
「趣味…?」
「そう。たぶん敦君もいろいろ聞かれると思うけど、その時は教えてやってくれたまえ」
「はぁ……」
「ふふふ、まぁ、とりあえず会って見たらいいさ。百聞は一見にしかずだ」
そんな話をしていると駅に着いた。太宰が改札の方へ歩いて行く。敦はその背を追った。
*
「すみません、武装探偵社です。こちらにうちの社員がいると聞いて来たのですが」
「ああ、武装探偵社ね。話は聞いているよ。ちょっと待ってて」
改札にいた駅員は、改札から外に出て二人を駅長室と札が掲げられる部屋に案内する。
「駅長、武装探偵社の方がいらっしゃいました」
「通してくれ」
「どうぞ」
駅員はドアを開けると、二人を中へ入るよう促され、敦は太宰の後について駅長室に入った。
「あ、太宰さん!」
「ええっ!!」
「?」
つい敦は驚きの声を上げてしまった。目の前で太宰を呼ぶ青年の姿は太宰の言った通り、頭の上から靴のつま先まで白一色な人だった。瞳も灰色でどこをみても有彩色がない。本当に迚も白い人だ。まさかと思い、二度見する。
青年は不思議そうな顔をしたが、太宰の声でその思考は遮られた。
「やぁ、心君。久しぶりだね」
「ええ、お久しぶりです。こんなことでお呼び立てしてしまい申し訳ないです」
「いやいや、構わないよ。さて敦君。お金渡してもらえるかい?」
「……」
「敦君?」
「あ、はい!! えっとおいくらでしょうか?」
駅長は金額を告げる、国木田に多めに持たされたお金で無事支払いを終えることができた。
「駅長さん、ありがとうございました。もし武装探偵社に用があれば“夢見”をご指名ください」
「次からはこういうことがないようにしてくれたら考えるよ」
「あははは。そうですね」
渋い顔をされた駅長に頭を下げ、駅を後にする三人。駅を出ると、心は足を止めた。
「いやぁ、お手間をおかけしました」
「君がこういう失敗をするのは久しぶりだね」
「はは。実は調査の時に思ったよりお金を使っていたようで、お土産を買っていたら足りなくなってしまいました」
太宰の言った通りの状況だったのか、敦は改めて太宰のすごさを感じる。そしてその視線は青年へと移り、本当に白いなと敦は思った。己も白いと言われるが、それ以上に白く、何より目立つ。
さっきから行き交う人の視線(もちろんみんな二度見している)を感じるのは気のせいではないだろう。諜報員なのにこんなに目立っていいのか?と当たり前の疑問に行き着く。
「ところで太宰さん、彼は?」
「ああ、彼は中島 敦君だよ。敦君、あいさ…」
「貴方が中島敦さんですか!!!」
「「!」」
心は嬉々とした声を上げた。無彩色のグレーの瞳が目がキラキラ輝きを持つ。初めて色がついたような印象を持たせた。
「え! あ…はいぃぃ。中島 敦です」
心は敦の右手を両手に包み、握手をする。太宰ほどに背丈のある彼にブンブンと手が振られ、体格差で負けている敦は揺さぶられた。
「うわわわわっ」
「僕、夢見 心と申します! 貴方のことは国木田さんから伺っています!! 素敵な異能をお持ちだとか…!!!」
途端に大きく振られていた腕が動きを止める。揺れが収まった敦はフラフラしながら彼を見ると、真剣な表情で敦を見ていた。
「ぜひ!」
「へ?」
「ぜひ、見せていただけませんか!!」
「は……???」
「ふふふ」
太宰は目を輝かせる心と、意味がわからず戸惑う敦を見て笑みをこぼす。戸惑う敦は笑う太宰を見た。
「だ、太宰さん?」
「いやいや。心君のそれ久々に見たものだから」
「んっ! ああ、すみません!! つい…」
心は太宰の言葉にパッと敦の手を離し、頭を下げる。
「え、いえ。頭上げてください!」
「いや、僕の悪い癖なんです。自分の知らない異能を持つ方に出会うとつい気分が上がってしまって」
「へ?」
敦は本日何度目かの呆気顔を晒す。太宰はニヤニヤと笑った。
*
「彼はね、ものすごい異能オタクなのだよ。異常とも言えるほど異能が大好きなのさ」
「異能が大好き…?」
「ええ。皆さんの異能は美しいじゃないですか。僕はそれを見るのが大好きなんです」
「……」
心は笑顔を見ながら、敦の瞳に陰りが映る。異能が好きだなんて、敦には口が裂けても言えなかった。そんな敦の心境を察したのか、心は敦の手を両手で優しく包んだ。
「敦さんは自分の異能がお嫌いですか?」
「!……」
「少し残念です。でも貴方ならきっと大丈夫ですよ」
「えっ…!」
驚くほど優しい声色で心は敦にニコッと笑いかける。そしてゆっくり手を離すと、あっと声を出した。
「どうかしたのかい?」
「はい。社に戻る前に銀行に立ち寄りたいのですが、お時間はありますか?」
「? 大丈夫だよ。何か預けているのかい?」
「はい。少しのお金と物を。お金、敦さんに返さないと行けないですし」
「あ、さっきのお金は国木田さんの物です!」
「! そうなんですか。じゃあ、国木田さんに返せば良いですね」
「別にいいんじゃないの、彼なら」
「あはは。太宰さんと国木田さんの仲ならつゆ知らず。僕にはそんな大層なことはできませんよ」
「じゃあ、行きましょうか」
*
それから少し歩き、三人は銀行に入った。昼間だからだろうか人は多く、賑わっている。
「じゃあ、ちょっと行ってきます。座って待っててください」
心は二人に入り口すぐの空いてる席を指し示すと、手を振って向かって行った。
「いや〜彼は目立つよね」
「本当ですね…。あんなに目立つのに諜報員ってできるんですか?」
「あゝ勿論。何より目立つこと、それが彼が諜報員をやれる所以ともいえる」
「目立つことが? それってどういう……って太宰さん?」
「……」
太宰は敦から視線を外し、敦の後ろに目を向ける。その視線は誰かを追うように動いていた。そしてぼそっと呟く。
「不味いな」
「何が……」
敦は後ろの気配に首だけ動かして目を向けた。通り過ぎたのは五人組の黒服の男達。急いでいるのか早い足取りで銀行の窓口に歩を進めるのを目の端に掠める。えらく急いでいるなと、そんな印象を持っていると手に銃が握られているのが見えた。
「え!?」
敦は声を上げると同時に、一人の男が銀行の中央で天井に向けて一発の銃声を放つ。パァンと破裂がなると、照明に当たったのかパリンとガラス片が床に落ちた。
「全員動くんじゃねぇ!!」
男が叫んだ。その声と銃声に銀行にいる人間達は動きを止めた。