“約束”は彼を縛る鎖となる
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「これで何とかなるかね」
「ああ、今からならまだね」
「よかったですね」
与謝野、乱歩、賢治が話している。光明が見えたことで焦りは少し収まったようだ。
「心」
「! は、はい」
福澤の声に心はまるで怒られた生徒のように椅子から急いで立ち上がる。その様子を静観しつつも、福澤は尋ねた。
「お前にはあの娘の異能と、そして敦に付くように申し伝えていたはずだが、なぜ共に行動していなかった?」
「……」
「「「……」」」
福澤の発言に、皆が心に視線を向ける。心は無言で視線を下にやった。福澤は視線を心に真っ直ぐと向けたまま続ける。
「仕事を放棄した理由は何だ?」
「……か…、彼女に関わらないことが、敦さんとの“約束”でした。なので、現在彼女の調査も、敦さんとも行動が出来ませんでした」
「!」
福澤の眼が少し見開いた。心は福澤に対して頭を下げる。
「すみません。仕事のことはわかっていたのですが、僕には…破ることができませんでした」
「……なぜそのような事になった?」
「ーーーー"彼女よりも異能が大切なのか"、か?」
「!!」
眼鏡を掛けた乱歩が呟いた言葉に、心は驚いて頭を上げ、乱歩を見た。全て見透かしているような乱歩の瞳に青い顔をする心。乱歩は眼鏡のフレームに触れる。
「成る程。敦君は寄りにも寄って心に一番効く言葉を言ったようだ」
「でも、真実そうです。否定も弁解もできません」
「別に悪い事ではないだろう? 気にし過ぎだ」
「……」
乱歩の言葉に心は黙り込んでしまった。重たい空気が流れる。その空気を切るように福澤が口を開く。
「その約束は今後の業務に影響する。よって敦には変更するように話をさせる、いいな?」
「……僕に権限はありません」
そう福澤の言葉に返した心は皆に背を向ける。
「すみません、失礼します」
「心!」
与謝野の声も聞かず、そのまま会議室を出て行ってしまった。
「……与謝野先生悪いが、側についてやってくれ」
「ああ、任せておくれ」
「与謝野さん、何時もの所に行くはずだ」
「わかった、ありがとう乱歩さん」
与謝野はそう言うと、心を追うように会議室を出て行く。
「“約束”って…異能を教える時のお礼の事ですよね。心さん、その約束をすごく大切にされてるんですね」
会議室に残った賢治が心と与謝野が出て行った扉に目をやりながら言った。
「……まぁ心にとって“探偵社員との約束”は、自分が探偵社にいるための保険みたいなものだからね」
眼鏡を外した乱歩は言う。
「“記憶がない”心の精神を安定させる方法として採用したけど、少し効きすぎだな」
「……」
乱歩の呟きに福澤は思案するような目を見せていた。
*
「それ程離れた訳じゃないと思うんだけどね」
心が会議室を出た後、すぐに後を追って探偵社を出た。
時間的には追いつけない筈はないのだが、心はあらゆる異能を真似することができる為、見失うことは多々ある。それでも与謝野は迷わず歩き出す。
これは初めてのことではない。心が探偵社に入った後、何回か起こっている小さな家出のようなもの。さっきみたいに乱歩や太宰に助けられつつ、先輩として面倒をみる与謝野がその度に見つけ連れ帰っている。
「昔から世話の焼ける子だよ、まったく…」
心はひどく不安定だ。いつもの飄々 としたあの姿が通常になったのは確か谷崎が探偵社に加入した辺りから。谷崎という後輩というか、歳の近い友人を得たからか、本人も安定して来た。
そのため最近ではその不安定さも鳴りを潜めつつあった。だから安心していた、いや油断していたのかもしれない。
街外れの教会へ足を進める。乱歩の言った”何時もの所"とは教会だ。
日曜日の礼拝を除きあまり人のいない無人の教会。静かなそこは心が任務に失敗した時や与謝野に怒られたり、喧嘩したりした時に訪れる所になっているのだ。
しばらく歩いていると目当ての教会に辿り着く。きっと心はもっと前に到着して、中で落ち込んでいるのだろう。与謝野はため息を一つつくと気配を消しつつ、教会の扉を開けた。
教会の長椅子にひっそりと、心が座っている。それを見付けると与謝野はコツコツとわざと足音を立て心のいる長椅子へ、そしてそのまま心の隣に座った。
「……」
「……先生は、すぐに僕の場所がわかるんだね」
「これでもアンタが行きそうな所は結構押さえてるのさ」
「そう…」
乱歩のお陰であると言う言葉はわざと省く。これも乱歩や太宰からの入れ知恵である。
「で、敦に言われた言葉が引っかかってるのかい?」
「……」
「アンタが悩むのはいつもそこだね」
「……」
心の悩みそれは己の性質だ。異能が好き…いや異能を愛していると言う表現が正しいのだろう。そして、その愛は誰が見ても異質なものだった。
異能が“人に”ついているのではなく、“異能に”人が付属している、そんな考えを平気してしまうこと。
記憶を失った悲しさは、“異能を忘れているということ”だけだということ。
異能のことを考え出すと全ての行動が“異能中心”になること。
それはこの2年程共に過ごしてきた時から変わらず、自他共に心を形成する認識となっていた。
「(妾に言わせれば、一方向タイプの天才なだけなんだけどね…。乱歩さんや太宰と違って心はまだ割り切れていない)」
異能が好き過ぎる事への不安、それが異質な性格を持つ心が見せる人間味だった。
だが与謝野はそれが嫌いではなかった。不安を取り繕って、隠してしまうよりは分かりやすく落ち込んでくれる方が慰めがいがある。与謝野は凹む心を他所に少し笑ってしまった。
「? 何かおかしいの?」
「悪い、アンタがそんな風に落ち込んだのはいつぶりだろうと思ってね。最近は大人びてきてあまり弱みを見せてくれないからさ」
「……だって、いつまでも子供じゃ駄目じゃないか。潤君やナオミちゃんもしっかりしてるし…賢治さんも敦さんも入ったし」
「いつの間にか心も先輩になったんだね」
「先輩……」
「そう言えば、谷崎に出会った時も敦と似たようなことを言われただろ?」
「……うん、すごく怒られた」
「でも、今谷崎とは仲良くやってるじゃないか」
「……それは潤君がいい人だったから。敦さんは」
「仲良くなれそうにないのかい?」
「…ううん。そんな事はない。彼もとても優しい人だと思う。殺されかけた相手のことであんなにも一生懸命になれるし…」
「なら、アンタをわかってもらいな」
「……」
「そして敦をわかってやりな。谷崎ともそれで仲良くなったんだ」
「……やれるかな、僕に」
「出来るさ。ってか誰がアンタの面倒を見てきたと思ってるんだい?」
「与謝野先生…」
「そう。で、妾が出来るって言ったことアンタが出来なかった事は?」
「ない」
「そうさ、だから頑張んな」
バンっと与謝野は心の肩を叩いた。心は顔を上げる。それを見て与謝野は立ち上がった。
「さて、帰るよ。みんな心配してるんだ」
「ごめんなさい…」
「妾に謝っても駄目だろ。社に戻ったら皆んなに声掛けな」
心は与謝野に釣られて歩き出す。そしてふと呟いた。
「国木田さんと敦さん大丈夫かな」
「死にかけでも生きてれば妾が治してやるよ」
「そっか、与謝野先生ならそれが出来るもんね」
「アンタはちゃんと出迎えてやるんだよ」
「うん」
心の瞳に光が戻る。立ち直った証拠だ。与謝野は心の表情を見てニヤッと笑い手を上に伸ばすと、頭をポンポンと撫でた。
「ああ、今からならまだね」
「よかったですね」
与謝野、乱歩、賢治が話している。光明が見えたことで焦りは少し収まったようだ。
「心」
「! は、はい」
福澤の声に心はまるで怒られた生徒のように椅子から急いで立ち上がる。その様子を静観しつつも、福澤は尋ねた。
「お前にはあの娘の異能と、そして敦に付くように申し伝えていたはずだが、なぜ共に行動していなかった?」
「……」
「「「……」」」
福澤の発言に、皆が心に視線を向ける。心は無言で視線を下にやった。福澤は視線を心に真っ直ぐと向けたまま続ける。
「仕事を放棄した理由は何だ?」
「……か…、彼女に関わらないことが、敦さんとの“約束”でした。なので、現在彼女の調査も、敦さんとも行動が出来ませんでした」
「!」
福澤の眼が少し見開いた。心は福澤に対して頭を下げる。
「すみません。仕事のことはわかっていたのですが、僕には…破ることができませんでした」
「……なぜそのような事になった?」
「ーーーー"彼女よりも異能が大切なのか"、か?」
「!!」
眼鏡を掛けた乱歩が呟いた言葉に、心は驚いて頭を上げ、乱歩を見た。全て見透かしているような乱歩の瞳に青い顔をする心。乱歩は眼鏡のフレームに触れる。
「成る程。敦君は寄りにも寄って心に一番効く言葉を言ったようだ」
「でも、真実そうです。否定も弁解もできません」
「別に悪い事ではないだろう? 気にし過ぎだ」
「……」
乱歩の言葉に心は黙り込んでしまった。重たい空気が流れる。その空気を切るように福澤が口を開く。
「その約束は今後の業務に影響する。よって敦には変更するように話をさせる、いいな?」
「……僕に権限はありません」
そう福澤の言葉に返した心は皆に背を向ける。
「すみません、失礼します」
「心!」
与謝野の声も聞かず、そのまま会議室を出て行ってしまった。
「……与謝野先生悪いが、側についてやってくれ」
「ああ、任せておくれ」
「与謝野さん、何時もの所に行くはずだ」
「わかった、ありがとう乱歩さん」
与謝野はそう言うと、心を追うように会議室を出て行く。
「“約束”って…異能を教える時のお礼の事ですよね。心さん、その約束をすごく大切にされてるんですね」
会議室に残った賢治が心と与謝野が出て行った扉に目をやりながら言った。
「……まぁ心にとって“探偵社員との約束”は、自分が探偵社にいるための保険みたいなものだからね」
眼鏡を外した乱歩は言う。
「“記憶がない”心の精神を安定させる方法として採用したけど、少し効きすぎだな」
「……」
乱歩の呟きに福澤は思案するような目を見せていた。
*
「それ程離れた訳じゃないと思うんだけどね」
心が会議室を出た後、すぐに後を追って探偵社を出た。
時間的には追いつけない筈はないのだが、心はあらゆる異能を真似することができる為、見失うことは多々ある。それでも与謝野は迷わず歩き出す。
これは初めてのことではない。心が探偵社に入った後、何回か起こっている小さな家出のようなもの。さっきみたいに乱歩や太宰に助けられつつ、先輩として面倒をみる与謝野がその度に見つけ連れ帰っている。
「昔から世話の焼ける子だよ、まったく…」
心はひどく不安定だ。いつもの
そのため最近ではその不安定さも鳴りを潜めつつあった。だから安心していた、いや油断していたのかもしれない。
街外れの教会へ足を進める。乱歩の言った”何時もの所"とは教会だ。
日曜日の礼拝を除きあまり人のいない無人の教会。静かなそこは心が任務に失敗した時や与謝野に怒られたり、喧嘩したりした時に訪れる所になっているのだ。
しばらく歩いていると目当ての教会に辿り着く。きっと心はもっと前に到着して、中で落ち込んでいるのだろう。与謝野はため息を一つつくと気配を消しつつ、教会の扉を開けた。
教会の長椅子にひっそりと、心が座っている。それを見付けると与謝野はコツコツとわざと足音を立て心のいる長椅子へ、そしてそのまま心の隣に座った。
「……」
「……先生は、すぐに僕の場所がわかるんだね」
「これでもアンタが行きそうな所は結構押さえてるのさ」
「そう…」
乱歩のお陰であると言う言葉はわざと省く。これも乱歩や太宰からの入れ知恵である。
「で、敦に言われた言葉が引っかかってるのかい?」
「……」
「アンタが悩むのはいつもそこだね」
「……」
心の悩みそれは己の性質だ。異能が好き…いや異能を愛していると言う表現が正しいのだろう。そして、その愛は誰が見ても異質なものだった。
異能が“人に”ついているのではなく、“異能に”人が付属している、そんな考えを平気してしまうこと。
記憶を失った悲しさは、“異能を忘れているということ”だけだということ。
異能のことを考え出すと全ての行動が“異能中心”になること。
それはこの2年程共に過ごしてきた時から変わらず、自他共に心を形成する認識となっていた。
「(妾に言わせれば、一方向タイプの天才なだけなんだけどね…。乱歩さんや太宰と違って心はまだ割り切れていない)」
異能が好き過ぎる事への不安、それが異質な性格を持つ心が見せる人間味だった。
だが与謝野はそれが嫌いではなかった。不安を取り繕って、隠してしまうよりは分かりやすく落ち込んでくれる方が慰めがいがある。与謝野は凹む心を他所に少し笑ってしまった。
「? 何かおかしいの?」
「悪い、アンタがそんな風に落ち込んだのはいつぶりだろうと思ってね。最近は大人びてきてあまり弱みを見せてくれないからさ」
「……だって、いつまでも子供じゃ駄目じゃないか。潤君やナオミちゃんもしっかりしてるし…賢治さんも敦さんも入ったし」
「いつの間にか心も先輩になったんだね」
「先輩……」
「そう言えば、谷崎に出会った時も敦と似たようなことを言われただろ?」
「……うん、すごく怒られた」
「でも、今谷崎とは仲良くやってるじゃないか」
「……それは潤君がいい人だったから。敦さんは」
「仲良くなれそうにないのかい?」
「…ううん。そんな事はない。彼もとても優しい人だと思う。殺されかけた相手のことであんなにも一生懸命になれるし…」
「なら、アンタをわかってもらいな」
「……」
「そして敦をわかってやりな。谷崎ともそれで仲良くなったんだ」
「……やれるかな、僕に」
「出来るさ。ってか誰がアンタの面倒を見てきたと思ってるんだい?」
「与謝野先生…」
「そう。で、妾が出来るって言ったことアンタが出来なかった事は?」
「ない」
「そうさ、だから頑張んな」
バンっと与謝野は心の肩を叩いた。心は顔を上げる。それを見て与謝野は立ち上がった。
「さて、帰るよ。みんな心配してるんだ」
「ごめんなさい…」
「妾に謝っても駄目だろ。社に戻ったら皆んなに声掛けな」
心は与謝野に釣られて歩き出す。そしてふと呟いた。
「国木田さんと敦さん大丈夫かな」
「死にかけでも生きてれば妾が治してやるよ」
「そっか、与謝野先生ならそれが出来るもんね」
「アンタはちゃんと出迎えてやるんだよ」
「うん」
心の瞳に光が戻る。立ち直った証拠だ。与謝野は心の表情を見てニヤッと笑い手を上に伸ばすと、頭をポンポンと撫でた。
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