“約束”は彼を縛る鎖となる
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「心、これの対応を頼む」
「? 携帯ですか?」
国木田から携帯と着信履歴・発信履歴のデータが書かれた資料を受け取る。
「あの娘の物だ」
「!? 彼女の…? 僕も関わって良いのですか?」
「安心しろ、“社長から許可は出ている”」
「よかった。それで…」
「大事に握り込んでいたそうだ。敦もまだ眠ってるから詳しいことはわからんが…、花袋によるとほぼ発信にのみ使われている」
「ふむ…」
「乱歩さんの手を煩わせる訳にもいかんし、異能は得意分野だろう。これが異能に関わっているか探れるか?」
「……」
携帯を開き発信履歴や受信履歴を操作する。そして花袋の資料を目に通す。その目の動きはまるで真剣なときの太宰のようだ。
仕事モードに入った心に国木田が尋ねる。
「どうだ?」
「そうですね……。見立てですが、“関わっている”と思います」
「何!?」
心の発言に国木田は目を見張る。そして心の隣にある椅子を引き寄せ座った。
「説明しろ」
「ここ、すでに戦闘が始まっているであろう時間に受信があります」
心は資料の一部に指をさす。国木田は腕を組んだ。
「それが?」
「彼女には元々、梶井基次郎と共に敦さんの捕縛命令が出されていた筈です。そしてこの時間は僕が事態を知り電車を追走しているタイミング。ここで呑気に電話とはおかしくないですか?」
「追加で指令が入ったという可能性は?」
「もちろんあります。ただ、それでこの通話時間は長すぎます」
「ふむ…、敵がいるのに流暢に電話ができる程の力があるとか」
「35人殺し…実力は確かなのでしょう。しかしそれならば、電車内で敦さんは殺されている。最後まで揉み合っていたからこそ電車から落ちたと推測されます」
「……」
「ただ、紐の長さから首に掛けていたという予測が立ちます。なので、両手を開けた状態にできる。それなら電話をしながらというのも出来なくはないでしょう」
「つまり、貴様の見立ては何なのだ?」
「はい。確たる証拠なく、残念ながら推測の域ですが、彼女の異能は“この電話”を介して動くと考えます」
「!?」
「電話の時間の長さを異能発動時間と考えてみると、ですが。ただそうなるとかなり変わった異能です。己の意思でなく、この電話を介してしまえば、誰でも彼女の異能を発動・操作できるということになりますからね」
「……そんなことがあるのか?」
つらつらと話す心の言葉にやっと頭が追いついた国木田が言葉を放つ。心は首を横に振った。
「僕も見たことはありません。そういう状況になることが珍しいからです」
「?」
「己の知らないところで異能が暴走しているということは多々あります。しかしそれは本人さえ認知できれば大半の問題は解決します。しかし今回は」
「あの娘は自分の異能をすでに認知している」
「はい、それは35人殺しのやり方を見て判断ができます」
「それなのに携帯 を通さないと動かせない、考えられる理由は?」
心は唇に指を当てる。考えるときによくやる仕草だ。灰色の瞳が動く。
「……否定」
「?」
「己の異能を否定している。自分の物であるがそれを認められない何かがあるのではないか」
「そんな精神論的な話に…」
「異能はまだまだ未解明な部分は大きいです。なので精神作用は十分に考えられます。あとは……」
「他にもあるのか?」
「んー……」
心は唸る。言うか言わないべきか迷っているようだ。
「なんだ?」
「これは最たるレアケースです。僕も風の噂で聞いたレベルで…」
「話せ。今は情報があればあるほどいい」
「はい……。知っている限りですが、異能はある一定の条件を満たせば“譲渡”が可能だと言う話があります」
「!」
「譲渡方法の詳細は秘匿らしいので詳しくは知りませんが、血縁がある方が譲渡しやすいとのこと。彼女のご家族を当たるのも一つかと」
「あの娘の素性 は花袋に探らせている」
「乱歩さんに助言を仰ぐ方が早いでしょうが、僕も外に出ますので個別に花袋さんから情報を頂いても?」
「構わん。それでお前はそれをどうするんだ?」
「ぜひ掛けて…」
「駄目だ」
ぴしゃりと国木田から一喝が入る。心はそうですよね…と肩を落とした。
「僕の仮説が正しいかはともかく。可能性を考慮して、まずこの携帯の電話番号の変更しておきます」
「壊すのは?」
「流石にお勧めしません」
「なぜだ?」
「彼女があの状況下で壊れないように握り込んでいたと言うことは、これが彼女にとって“大切なもの”であると推測します。それを壊されたら彼女が異能をどうこうするどころではなくなります」
「ふむ」
「壊すにしても、せめて彼女に聞いてからでも遅くないかと」
「わかった。社長にはおれから伝えておく」
「承知しました。さっきの話もできる限り裏取りしておきます。ちなみにこの携帯は僕から彼女に渡しても?」
「ああ、敦と一緒に対応してくれ」
「了解しました」
心は席を立つと携帯と少しの荷物をポケットに入れ、探偵社を出た。そして自身の社用携帯を取り出すと、コールをする。しばらくすると繋がった。
「あ、花袋さん、心です。ご無沙汰しています。お元気ですか? また花袋さんの異能を……っとすみません。
実は今国木田さんから依頼されている……はい、その件です。わかった内容は僕にも共有していただけますか? パソコンへ携帯に。……はい、ありがとうございます。では」
心は終話ボタンを押すと、携帯をポケットに入れた。そして国木田から預かった携帯を取り出す。
「掛けちゃいけないなんて生殺しだなぁ」
はぁ…っと大きく肩を落とす。しかし早めに処理しなければいけないことも理解しているため、歩みを止めることなく目的地である電話会社へ歩を進めた。
【“約束”は彼を縛る鎖となる】
「戻りました」
業者で手続きを行い、探偵社に戻った心。国木田やほかの探偵社員は出払っているようだった。
「そういえば、太宰さん。まだ帰ってこないなぁ」
心はそう呟きながら、医務室をノックする。
「開いてるよ」
「与謝野先生、ちょっといいですか?」
「どうしたんだい?」
心は医務室のドアを開け、顔を覗かせた。2つのベッドには敦と鏡花が眠っていた。
「お二人の容態は?」
「命に別状はないし、怪我も完治した。あとは目覚めるのを待つだけさ」
「流石、先生」
心はニコニコと笑みを浮かべる。お世辞でもない称賛に与謝野も笑みをこぼす。
「で、どうしたんだい?」
「あ、そうそう。彼女を少し見たいなと」
「……寝てる女の子を覗き見るのは感心しないね」
呆れるように与謝野が言葉を発した。心はそれに慌てて訂正を入れる。
「調査の一環ですよ。今回ロシアに行った時に学んだ異能があって、彼女の異能に役立てるんじゃないかと」
「ヘェ。まぁ、その娘が危なくないことなら好きにしな」
「ありがとうございます」
心はそういうと与謝野が見守る中、鏡花の枕元に立った。そして目を瞑り、深呼吸をひとつする。
「“夢枕”」
心はそう呟くと、目を開く。グレーの瞳から赤い瞳に変わったその目で、鏡花を見つめた。
「……」
与謝野はそんな心をじっと見つめる。鏡花の顔を凝視する心の赤い瞳に何事かと警戒していると、心の呼吸がどんどん乱れているのが見えた。
心配になり与謝野が椅子から立ち上がると、同じタイミングで心がガクンと膝を崩す。
「……っ。はぁ、はぁ…」
「心!」
与謝野は膝をついた心に駆け寄る。目を瞑り、息を荒げている姿に目を細める。
「何をしたんだい?」
「彼女の意識に干渉を……」
「! それが新しい異能?」
「はい…。【透視】のようなもので、…相手の記憶などを見るのに長けている異能です」
心は呼吸を整え、目を開ける。その瞳はいつものグレーだった。
「ただ…“対象の睡眠時”という限定的な時にしか使えないので…今ならと」
「何か見えたのかい」
「……」
「……どうした?」
「イレギュラーケース…」
心は目をそらす。その表情は与謝野が幾度となく見てきた。心が異能の分析に本気になった証拠だ。ふと、首筋の汗が目に止まる。
「何だかよくわからないが、あんたも休むかい? 汗がすごいよ」
「大丈夫です、先生。この異能は…、“対象のその時の感情を体感することになる”ので、そのせいだと…」
「彼女はそれ程までに苦慮していたということかい」
「そう、でしょうね。苦しかったのだと思います」
心はそういうと立ち上がる。与謝野は心の肩を支えようとするが、大丈夫だと手を掴まれた。
「本当にもう大丈夫です。僕資料をまとめるので、出ますね」
「無理するんじゃないよ」
与謝野の心配を他所に少しふらつきながら、心は医務室を後にした。
「? 携帯ですか?」
国木田から携帯と着信履歴・発信履歴のデータが書かれた資料を受け取る。
「あの娘の物だ」
「!? 彼女の…? 僕も関わって良いのですか?」
「安心しろ、“社長から許可は出ている”」
「よかった。それで…」
「大事に握り込んでいたそうだ。敦もまだ眠ってるから詳しいことはわからんが…、花袋によるとほぼ発信にのみ使われている」
「ふむ…」
「乱歩さんの手を煩わせる訳にもいかんし、異能は得意分野だろう。これが異能に関わっているか探れるか?」
「……」
携帯を開き発信履歴や受信履歴を操作する。そして花袋の資料を目に通す。その目の動きはまるで真剣なときの太宰のようだ。
仕事モードに入った心に国木田が尋ねる。
「どうだ?」
「そうですね……。見立てですが、“関わっている”と思います」
「何!?」
心の発言に国木田は目を見張る。そして心の隣にある椅子を引き寄せ座った。
「説明しろ」
「ここ、すでに戦闘が始まっているであろう時間に受信があります」
心は資料の一部に指をさす。国木田は腕を組んだ。
「それが?」
「彼女には元々、梶井基次郎と共に敦さんの捕縛命令が出されていた筈です。そしてこの時間は僕が事態を知り電車を追走しているタイミング。ここで呑気に電話とはおかしくないですか?」
「追加で指令が入ったという可能性は?」
「もちろんあります。ただ、それでこの通話時間は長すぎます」
「ふむ…、敵がいるのに流暢に電話ができる程の力があるとか」
「35人殺し…実力は確かなのでしょう。しかしそれならば、電車内で敦さんは殺されている。最後まで揉み合っていたからこそ電車から落ちたと推測されます」
「……」
「ただ、紐の長さから首に掛けていたという予測が立ちます。なので、両手を開けた状態にできる。それなら電話をしながらというのも出来なくはないでしょう」
「つまり、貴様の見立ては何なのだ?」
「はい。確たる証拠なく、残念ながら推測の域ですが、彼女の異能は“この電話”を介して動くと考えます」
「!?」
「電話の時間の長さを異能発動時間と考えてみると、ですが。ただそうなるとかなり変わった異能です。己の意思でなく、この電話を介してしまえば、誰でも彼女の異能を発動・操作できるということになりますからね」
「……そんなことがあるのか?」
つらつらと話す心の言葉にやっと頭が追いついた国木田が言葉を放つ。心は首を横に振った。
「僕も見たことはありません。そういう状況になることが珍しいからです」
「?」
「己の知らないところで異能が暴走しているということは多々あります。しかしそれは本人さえ認知できれば大半の問題は解決します。しかし今回は」
「あの娘は自分の異能をすでに認知している」
「はい、それは35人殺しのやり方を見て判断ができます」
「それなのに
心は唇に指を当てる。考えるときによくやる仕草だ。灰色の瞳が動く。
「……否定」
「?」
「己の異能を否定している。自分の物であるがそれを認められない何かがあるのではないか」
「そんな精神論的な話に…」
「異能はまだまだ未解明な部分は大きいです。なので精神作用は十分に考えられます。あとは……」
「他にもあるのか?」
「んー……」
心は唸る。言うか言わないべきか迷っているようだ。
「なんだ?」
「これは最たるレアケースです。僕も風の噂で聞いたレベルで…」
「話せ。今は情報があればあるほどいい」
「はい……。知っている限りですが、異能はある一定の条件を満たせば“譲渡”が可能だと言う話があります」
「!」
「譲渡方法の詳細は秘匿らしいので詳しくは知りませんが、血縁がある方が譲渡しやすいとのこと。彼女のご家族を当たるのも一つかと」
「あの娘の
「乱歩さんに助言を仰ぐ方が早いでしょうが、僕も外に出ますので個別に花袋さんから情報を頂いても?」
「構わん。それでお前はそれをどうするんだ?」
「ぜひ掛けて…」
「駄目だ」
ぴしゃりと国木田から一喝が入る。心はそうですよね…と肩を落とした。
「僕の仮説が正しいかはともかく。可能性を考慮して、まずこの携帯の電話番号の変更しておきます」
「壊すのは?」
「流石にお勧めしません」
「なぜだ?」
「彼女があの状況下で壊れないように握り込んでいたと言うことは、これが彼女にとって“大切なもの”であると推測します。それを壊されたら彼女が異能をどうこうするどころではなくなります」
「ふむ」
「壊すにしても、せめて彼女に聞いてからでも遅くないかと」
「わかった。社長にはおれから伝えておく」
「承知しました。さっきの話もできる限り裏取りしておきます。ちなみにこの携帯は僕から彼女に渡しても?」
「ああ、敦と一緒に対応してくれ」
「了解しました」
心は席を立つと携帯と少しの荷物をポケットに入れ、探偵社を出た。そして自身の社用携帯を取り出すと、コールをする。しばらくすると繋がった。
「あ、花袋さん、心です。ご無沙汰しています。お元気ですか? また花袋さんの異能を……っとすみません。
実は今国木田さんから依頼されている……はい、その件です。わかった内容は僕にも共有していただけますか? パソコンへ携帯に。……はい、ありがとうございます。では」
心は終話ボタンを押すと、携帯をポケットに入れた。そして国木田から預かった携帯を取り出す。
「掛けちゃいけないなんて生殺しだなぁ」
はぁ…っと大きく肩を落とす。しかし早めに処理しなければいけないことも理解しているため、歩みを止めることなく目的地である電話会社へ歩を進めた。
【“約束”は彼を縛る鎖となる】
「戻りました」
業者で手続きを行い、探偵社に戻った心。国木田やほかの探偵社員は出払っているようだった。
「そういえば、太宰さん。まだ帰ってこないなぁ」
心はそう呟きながら、医務室をノックする。
「開いてるよ」
「与謝野先生、ちょっといいですか?」
「どうしたんだい?」
心は医務室のドアを開け、顔を覗かせた。2つのベッドには敦と鏡花が眠っていた。
「お二人の容態は?」
「命に別状はないし、怪我も完治した。あとは目覚めるのを待つだけさ」
「流石、先生」
心はニコニコと笑みを浮かべる。お世辞でもない称賛に与謝野も笑みをこぼす。
「で、どうしたんだい?」
「あ、そうそう。彼女を少し見たいなと」
「……寝てる女の子を覗き見るのは感心しないね」
呆れるように与謝野が言葉を発した。心はそれに慌てて訂正を入れる。
「調査の一環ですよ。今回ロシアに行った時に学んだ異能があって、彼女の異能に役立てるんじゃないかと」
「ヘェ。まぁ、その娘が危なくないことなら好きにしな」
「ありがとうございます」
心はそういうと与謝野が見守る中、鏡花の枕元に立った。そして目を瞑り、深呼吸をひとつする。
「“夢枕”」
心はそう呟くと、目を開く。グレーの瞳から赤い瞳に変わったその目で、鏡花を見つめた。
「……」
与謝野はそんな心をじっと見つめる。鏡花の顔を凝視する心の赤い瞳に何事かと警戒していると、心の呼吸がどんどん乱れているのが見えた。
心配になり与謝野が椅子から立ち上がると、同じタイミングで心がガクンと膝を崩す。
「……っ。はぁ、はぁ…」
「心!」
与謝野は膝をついた心に駆け寄る。目を瞑り、息を荒げている姿に目を細める。
「何をしたんだい?」
「彼女の意識に干渉を……」
「! それが新しい異能?」
「はい…。【透視】のようなもので、…相手の記憶などを見るのに長けている異能です」
心は呼吸を整え、目を開ける。その瞳はいつものグレーだった。
「ただ…“対象の睡眠時”という限定的な時にしか使えないので…今ならと」
「何か見えたのかい」
「……」
「……どうした?」
「イレギュラーケース…」
心は目をそらす。その表情は与謝野が幾度となく見てきた。心が異能の分析に本気になった証拠だ。ふと、首筋の汗が目に止まる。
「何だかよくわからないが、あんたも休むかい? 汗がすごいよ」
「大丈夫です、先生。この異能は…、“対象のその時の感情を体感することになる”ので、そのせいだと…」
「彼女はそれ程までに苦慮していたということかい」
「そう、でしょうね。苦しかったのだと思います」
心はそういうと立ち上がる。与謝野は心の肩を支えようとするが、大丈夫だと手を掴まれた。
「本当にもう大丈夫です。僕資料をまとめるので、出ますね」
「無理するんじゃないよ」
与謝野の心配を他所に少しふらつきながら、心は医務室を後にした。